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102 戦闘


「あらあら、カブールも捨てたものではありませんわね。まさか、ベランダから突撃してくるとは」


 剣を構えニヤリと笑う髭を生やした男の後ろからは聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。


「......読まれていたという訳か」


 アデルが舌打ちをする。

 カブール、フェルモ・アハト・カブール。三勇帝国の三勇者の一人であり、直接的な戦闘能力は持たないものの、軍師としての能力や政治の能力が極端に高い勇者だ。

 どんな手を使ったのかは知らないが、彼が俺達の計画を予測し、壱と参の勇者に伝えていたらしい。そして、当の本人の姿は何処にもない。やはり、其処は軍師。奥に隠れているのだろう。

 

「オメエ、八つ首だなァ? 尖った耳から察するに、『弍』か。何百年にも渡って姿眩ましてた、引きこもり種族の勇者が今更、何のつもりだぁ?」


「ヤバイ。俺、コイツ、知ってるかも」


「奇遇ですね。ソフィアも既視感を覚えます」


 俺とソフィアの脳裏に映った人物は恐らく、共通の人物だろう。


「え何、私、知らないんだけど」


「当然だ。アイツ、俺とフランが出会った頃には既に牢屋に入れられてた筈だから」


「色々あったのですよ」


「へえ......」


「おい、オメエら、何騒いでやがんだ。俺は壱の勇者、アウグスト・アハト・ライモンドだぞ!」


 剣で空気を薙ぎ払い、苛立ちを露わにする壱の勇者。彼に相対する俺達はとても落ち着いていた。


「サイズよりはマシだが、貴様もそれほど鍛錬をしていないだろう。後ろの参、貴様もだ。はっきり言って、我々は貴様らを敵と思っていないのだよ。奇襲が成功すれば楽だったが、この際、仕方ない。早く終わらせよう」


 アデルはそう言うと、腰に付けていた拳銃で壱の勇者に数発の弾丸を放った。

 それが両者の戦闘開始の合図。壱はその弾を全て大剣で防ぐと、剣に青色のオーラを纏わせ、目にも止まらぬ速さでアデルに切り掛かった。


「フランチェスカ! 止めてくれ!」


 アデルがそう叫ぶと、フランはただ頷いて壱の勇者の剣を斧で受け止める。そして、戦いは両者の武器の打ち合いへと移行した。


「ケッ......近距離武器で俺に敵う筈ネエだろ。八つ首でもあるまいし」


「あら、それはどうかしら」


 フランは斧を光らせ、斧から大量の炎の弾を壱に放った。流石に予想外だったのか、壱はその炎の弾をモロに浴びてしまう。


「ッ!? おい、ルフェーブル! 早く回復しろ!」


「い、いえ、それが何故か......回復魔法が使えないのです。一度、クリストピアの王都の戦いでも同じことがありましたが......」


 狼狽する参の勇者を見て俺はしめしめと笑った。やはり、フランの斧___『不死なる五芒星』だっけか___による魔力の吸収は効果が有ったか。


「あれ、てかこれ、もうフランだけで勝てるんじゃね?」


「ええ。三勇者、とは言っても攻撃能力を持つのは一人だけ。厄介な回復魔法を使う勇者は完封されていますし、彼女が勝つのは時間の問題でしょう」


 ボーッとフランと壱の撃ち合いを眺めるだけの俺とソフィア。フラン相手に五分五分に見えるような戦いを出来るところは流石、八つ首勇者、といったところか。

 ......フランが斧魔法を連打するせいでかなり追い詰められているが。


「アンタ達も手伝いなさいよっ! アデルも! ボォーッとしてないで援護射撃とか......! って、何それっ!?」


 フランの声に釣られてアデルの方を見ると彼は彼の身長と同じくらいの長さのある巨大な銃を何処からともなく取り出し、設置していた。

 ......マジで何処から取り出したんだそれ。


「アンネリーにこの数日間で作ってもらった銃だ。『重機関銃』という」


 と、言うと同時にアデルはその銃の引き金を引いた。重機関銃という名のそれは爆竹のような連続的な爆発音と共に無数の弾丸を参の勇者目掛けて飛ばす。


「守れ......!」


 どうやら、フランの斧でも参の勇者が自身に使う回復魔法を封じることまでは出来ないらしい。壱に盾代わりにされた彼女は弾丸が当たった瞬間に皮膚を回復させることでどうにか、弾丸を防いでいる。

 血や肉片が飛び散っててかなりグロい。


「仕方ねえ。場所変えるぞ」


 参のことを気にかけながらフランと戦うのは流石に厳しいと悟ったか、壱はそう言って退避をしようとする。


「させません」


 しかし、彼の退路はソフィアが塞いだ。前にフラン、後ろにソフィア、遠方からはアデルの銃弾が無数に飛んでくる中で壱の勇者は苛立った様子で剣を振り回す。

 腐っても勇者の血筋。一見、無茶苦茶に振り回しているように見えるが、彼はフランと打ち合いながら後ろのソフィアを牽制し、アデルの銃弾を弾き返すということをやってのけていた。

 どっかのチンピラ兵士とはやはり実力の部分で大きな差がある。


「......其処の弐は分かるが、テメエらは何者だよ。テメエら、クリストピアの差金だろ」


 壱は歯痒そうにフランとソフィアを睨みながらそう聞いた。アデルは勇者としての能力でフランの正体を見破ったらしいが、この二人にはそれが出来ないらしい。


「名乗るつもりはありません。大人しく投降することを薦めます。何も、我々は貴方がたの殺害までを依頼されている訳ではありませんので」


「......やはり、あの時に殺しておけば良かったわ」


 俺達と因縁のある参の勇者は忌々しそうにそう言う。


「勘違いなさらないで下さい。どのタイミングであろうと、ソフィアを殺すことは不可能です。少なくとも、貴方には」


「......ふうん。そう。でも、私達、八つ首の首を切ることも、そう簡単にはいかなくてよ?」


 参の勇者がほくそ笑んだその瞬間、突如、城の奥から黒い塊が恐ろしい速度で飛んできた。ソフィアはそれを瞬時に感じ取り、飛んできたそれに剣を向ける。


「うぉっと、流石、首切り魔王様。反応早いねえ」


 そう言う彼は槍をソフィアの剣に押し付けていた。


「ディ、ディーノ......!?」


 壱と切り合っていたフランが思わず、手を止めて驚愕の声を漏らした。


「やっ、姫様、ほら、何してんの。今こそ憎き悪魔の兵器に止め刺すときだよ」


「......貴方、何者ですか」


 ソフィアはディーノを睨みながら低い声で聞く。負けてはいないが、彼女とディーノの押し合いは膠着していた。


「ほらほら、姫様、早くこの悪魔にとどめを刺してくださいよ。姫様さえ此方に回れば、参の勇者サマは回復魔法をボコボコ使えるようになる。圧倒的優位でこの悪魔を叩けますよ!」


「......貴方、まさか、そのために」


「ええ! オルム君の人質作戦が失敗して、あ、これダメだなと思いましてね。この悪魔が三勇帝国に乗り込んでくることは分かっていたので伍の勇者様と交渉して、共同戦線組んだんですよ! 僕、どっかの老害と違って優秀でしょう?」


 唇を噛みながら忌々しそうにフランはディーノを睨む。確かに此処でフランまでもが相手側に回ったら幾らソフィアでも厳しいかもしれない。


「ふ、フラン......!」


 俺は何とかフランを引き留めようと彼女の名前を強く呼ぶ。すると、彼女はふてぶてしい笑顔を此方に見せ、掴んだ斧をグッと後ろに引いてソフィアの方へと投げ付けた。


「貴方っ......!」


 ソフィアが焦りながら背後から飛んでくる斧を防ごう魔法で壁を作る。しかし、そんな壁の魔力すら斧の力で吸収されてしまった。


「グッ、姫様......コントロール、悪くね?」


 しかし、その斧はソフィアには当たらず、代わりにディーノの槍へと直撃した。その衝撃でディーノは体勢を崩す。その隙にソフィアは強烈な蹴りをディーノに入れた。

 彼の体は暫し宙を舞って、地面に落ちる。


「悪いけど、今はコイツと組んでるのよ。約束を破るようなことは不死族の、私の道義に反するわ」


「......ああそうか。なら僕だけでもやってやるさ」


 ディーノはそう呟くとソフィアに奇襲を仕掛けた時に見せたあの弾丸のようなスピードでソフィアにぶつかり、ソフィアはそのまま彼に覆いかぶさられる形で彼と共にベランダから地上へと落ちていってしまった。


「ソフィア!?」


 俺は慌ててベランダの下を見る。依然としてソフィアはディーノに覆いかぶさられていたが、直ぐに彼女は魔法でディーノを吹っ飛ばし、戦闘を始めた。


「心配しなくても大丈夫よ。ディーノがあんなに強いのは確かにビビったけど、一対一なら確実にあの悪魔の方が上だわ。私達はこの勇者達をどうにかしましょ」


「あ、ああ......そうだな」


 そうして俺達が勇者達の方に目を向けると、其処には誰も居なかった。


「すまん」


 気まずそうに俺達から目を逸らしながらアデルが頭を下げる。


「......へ? いや、すまんじゃなくて。アイツら、どこよ?」


「ソフィアとディーノが団子になって落ちていったドサクサに紛れて逃げられた......。私も、オルムも、フランもソフィア達の方に視線を向けていたからな......」


「何それヤバいやつじゃん」


「追うにしても、奴らの波動が感じられんのだ」


「......ソフィア! 勇者達は逃げた! そっちは大丈夫か!?」


 俺は力の限り、地上のソフィアにそう叫んだ。彼女はもうディーノとは戦っていない。というか、ディーノが居ない。


『此方も逃げられました』


 俺のネックレスからそんな声が聞こえてきた。


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[一言] 重機関銃食らって胴体泣き別れにならないとか流石勇者頑丈だな
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