第八話 ドワーフのアルフ
店内はランプの灯りでぼんやりと灯された、薄暗い空間が広がっていた。
そこには様々な商品が陳列され、武器や防具のほか、回復薬などの雑貨も取りそろえられているようだ。
個人商店であるにも関わらず、これだけの商品を扱えるということは店主に相当な商才があるのであろう。
「ほう。これはすごいのう。──おっ、この防具なんてユーマに似合うのではないか??」
魔王は入店早々、店内の商品に興味を示した。その様はまるで子どものようである。
「おい、行くぞ」
ユーマは道を逸れようとする魔王の首根っこをつかんで、店主の元へと連れ戻した。
「はっはっは。仲がよろしいのですな!」
「どこがだ」「ん? そうかの??」
ユーマと魔王の意見が食い違う。
魔王はまんざらでもない顔をしている。
「はっはっは。さあさあ、こちらへどうぞ」
店主はユーマの突っ込みを笑ってかわしつつ、ユーマ達を応接室へと案内し、着席を促した。
そこは決して広いとは言えない部屋で、質素なテーブルに質素な椅子が置かれた極々一般的な部屋であった。
そしてユーマ達が着席したのを見計らい、店主はこう話を切り出した。
「さて、お支払いの前に一点確認させていただきたいことがございます」
「──なんだ?」
「今回お持ちいただいた宝飾品ですが、これらは高級貴族向けのもののようにお見受けしました。こちらはどのように入手なされたのですか?」
店主はその瞳を赤く光らせながらそう言った。
店主のその行動により、応接間に緊張が走る。
ユーマ達であれば例え店主がどんな能力を持っていたとしても、それを無力化することは容易であろう。
しかし、店主を返り討ちにし騒ぎを起こしてしまえば、もう二度と王都には近づけないかもしれない。そしてそれは収入源を絶たれてしまうことを意味する。懐具合が悪いユーマ達にとって、それが今後の旅に大きな影響を及ぼしていまうことは明白であった。
「王都から少し東へ行ったところにある洞穴に住まうオーク達を撃退した際の戦利品だ」
ユーマは嘘偽りなく答えた。
店主はユーマ達の顔をまじまじとみつめる。
「──やはりそうでしたか!!」
そう話す店主の瞳は琥珀色へと戻っていた。
「「??」」
ユーマも魔王も店主の言葉の意図を理解出来なかった。
「あ、いやいや。急に取り乱してしまい申し訳ありません。実はあの王冠がですね、この辺りに出没するオークのかぶっているものと特徴が一緒でして、もしやと思いまして」
「ほう。この辺りでは有名なのか?」
「ええ! 有名なんてものじゃないですよ! あいつらが洞穴に居座ってからというもの、街道を往来するキャラバンばかり狙われてまして、他国との交易が捗らずはたはた困っていたところなんですよ!!」
「ほう? 冒険者ギルドには依頼しなかったのかのう??」
「もちろん依頼しました。ですが、中々討伐隊を結成していただけなくて……。噂では教会が圧力を掛けているとか……あ、いやいや余計なことまで話過ぎましたね。どうか今のは聞かなかったことに──」
(教会と冒険者ギルドの間に何が……)
冒険者ギルドは市民や国からの依頼を仲介し、冒険者達へ紹介する組織だ。誰に対しても開かれた組織を標榜する冒険者ギルドは、本来であれば中立でなければいけない。
それが教会からの圧力を受けてオーク討伐を先延ばしにしていたとなると、何か裏の事情があるとしかユーマには考えられなかった。
ユーマはそんなことに考えを巡らせていたが、魔王の無邪気な声で現実に引き戻された。
「おい、ユーマ! 大金だぞ!!」
ユーマは魔王の方へ振り向く。するとそこには金貨と銀貨を盆に乗せた徒弟の姿があった。
「では、こちらお約束のお代金となります。ご確認くださいませ」
徒弟が差し出した盆には、金貨一枚に銀貨が三枚乗せられていた。
「確かに頂戴した」
「ちなみにですが、お代金のうち銀貨三枚はオークを討伐いただいたことへの気持ちとなります」
「ほう。仮に俺達がオークを討伐していなかったとしたらどうしたのだ?」
「あの王冠は間違いなく、オークのもの。オークを討伐せずしてそれを手にすることは叶わないでしょう。それに私の能力は人の嘘を見抜くもの。勝手ながら能力で真偽を確かめさせていただきました」
「──そうか。つまらぬことを聞いてすまなかった」
「いえいえ。あ、それと。──申し遅れましたが、私この店の店主を務めるアルフと申します。見ての通りドワーフ族で、この国の出身ではありませんが縁あって、ここで商売をさせていただいております。以後お見知り置きを」
☆
アルフの店で旅に必要な道具を揃えたユーマ達はアルフの店を離れ、食事を取るために大衆的な料理店を目指し歩いていた。
すると突然、魔王がその足を止める。
「おい、ユーマ。これをみてみよ」
魔王が見つめる先には、石造りの建物の外壁があるとともに、手配書のようなものが二枚貼り出されていた。
「……これは俺達か??」
手配書に文章で書かれた身体的な特徴は正しくユーマ達を指したものであった。しかし、それを具現化したはずの絵は全くと言っていいほどの別人になっている。
「おそらくそうであろうな。それにしてもお主、中々面白い顔をしているではないか」
魔王はユーマの手配書をまじまじとみつめながら、ケタケタと声をあげ笑っている。
「お前こそまるでオークのような顔になっているだろう。まだ人の顔として認識できる方がマシだと思うがな」
ユーマはすかさず魔王に反撃する。
「ぐぬぬ……。ま、まあよい。こんな所で油を売っていないでさっさと食事にいこうではないか」
「はいはい」
そうして二人は料理店へと辿り着いた。
そこはこの王都でも人気の料理店らしく、沢山の客席が設けられた大型店舗であった。
店員により案内された座席に腰を掛け、ユーマは早速料理を注文する。
「日替わりランチを一つ」
「むっ! 我はまだ決まっておらぬぞ!?」
「早く決めろ。時間が惜しい」
「むぅ……」
ユーマに急かされながらもじっくりと悩む魔王。
「日替わりランチを二つ」
「──かしこまりました」
痺れを切らしたユーマは魔王の分も勝手に注文した。
しかし魔王はメニューに首ったけであったため、反応が一足遅れた。
「──なっ!! ちょっと待て! まだ決まっておらぬ!! まだなんじゃあ!!」
魔王が気付いた時にはもう遅かった。店員に魔王の言葉が届くことはなかったのであった。
「──おい、ユーマ。食べ物の恨みはおそろしいぞ?」
涙目の魔王がユーマに脅しをかける。
「安心しろ。今日の日替わりランチは間違いなく美味しい」
「……その言葉、偽りであった場合には覚悟せよ?」
そしてしばらくするとユーマ達の机へ日替わりランチが運ばれてきた。
そのランチの正体は、バイソンのステーキであった。
鉄板から発せられる肉の焼ける音とともに、肉からは湯気が立ち昇る。
肉汁が溢れんほどに滲み出たその肉は、絶妙な焼き加減であることがうかがえた。
「どうだ? 間違いなかっただろう?」
「ぐぬぬ……まだだ、まだ食べておらぬ!」
そして魔王がステーキをその口に運ぼうとしたその瞬間、ユーマ達から少し離れた座席から不穏な会話が聞こえてきた。
それはユーマ達の手配書の内容を語っているもので、会話の内容から推測するに衛兵達が会話をしているもののようであった。
「おい、魔王。面倒ごとになる前にいくぞ」
ユーマは机へ代金を置くと、魔王の手を取り店の入り口へと向かった。
「おい、ステーキがまだ!!」
魔王の言葉もむなしく、結局ユーマ達はステーキをまともに食すことなく店を退出したのであった。
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