第七話 商店
「ユーマ、起きろ」
どこからかユーマを呼ぶ声がする。
「……ん? なんだ、魔王か」
「なんだではない! それよりもこれを見よ!」
魔王はそう言いながら、自身が集めてきたオークの装備品やお宝を誇らしげにアピールした。
そこにあったのはオークの武具が中心で、鉄製の斧のほか、槍や剣、こん棒といったものまであり、小さな武器屋が開けるのではないかと思うほどであった。
そして肝心のお宝だが、ユーマが回収した王冠のほか、宝飾品がいくつか発見された。
おそらく王都の高級貴族向けの行商人が襲われたのであろう。そのどれもに煌めく宝石がいくつも散りばめられていた。
「ほう。やればできるじゃないか。よくやった」
「当り前じゃ。我は魔王であるぞ? もっと褒めてくれてもよいのだぞ? 一人で何往復したことか──」
何やら魔王が話しているようであったが、ユーマは気にせず魔王に告げた。
「さて、それじゃあ早速売りにいくか」
そしてユーマは地面に手をつき、その瞳を赤く光らせる。
すると、オーク達を浮かせたように魔王の集めた戦利品を浮かせてみせた。
「な……なんだそれは!!」
魔王が怒気を込めた声でユーマに突っ込む。
「これか? 地面に特殊な振動を起こさせて、それから出る超音波というもので浮かせているのだ」
「チョウオンパ?? なんだそれは? 全くわからぬ。──しかし!! それであれば戦利品を一度で運び出せたのではないのか?」
「ああ、出来ただろうな」
「なっ!!! なぜ我を使った!!」
「お前にも仕事を与えなくてはと思ってな」
「…………」
それからというもの、魔王の機嫌がすこぶる悪くなった。
ずいずいと一人先頭に立ち、森の中の街道を進む魔王。その様はユーマの存在を敢えて無視しているのがありありとわかるほどであった。
そして道中、何度か野生の魔物に絡まれたりしたが、魔王は無言で『時間進行』を使い即座に無力化させていった。
(……この魔王、意外と便利だな。──しかし、さっきはやりすぎたか? あとで弁解しておこう)
ユーマはそんなことを考えながら、魔王の後ろを進んでいた。ぷかぷかと戦利品を浮かせて。
そうしてユーマ達は王都へと到着した。
「おい、魔王。何やら機嫌が悪いようだが?」
「ふん、気のせいではないのか??」
「一人で戦利品を集めさせたことを怒っているのだろう? あれは洞穴の中で能力を使いすぎて少し疲れてしまってな。仕方がなかったんだ」
「……そうなのか? 嫌がらせとか、我の事が嫌になったわけではないのだな?」
「ああ、そうだ」
「そうかそうか! まあ当然、我はわかっておったぞ! なにせ我は魔王だからな!!」
(……こいつ、ちょろいな……)
だが、ユーマの言っていることは本当であった。オーク達を倒した際に使った衝撃波は体力を非常に消耗するものであった。動けないほどではないが、動きたくない。その程度まで消耗してしまう。
そんなことを話ながら石畳を歩いていたが、ユーマ達はふと周囲の視線が自分達に寄せられていることに気付く。
「おかーさん、何あれ?」「武器が……浮いてる!?」「ひっ!!」
周囲からは驚きの声も上がっている。
それもそのはず、ユーマの能力によって大量の武器達がふわふわと浮遊しているのだから。
「おい、少し急ぐぞ」
ユーマはそう言うと、魔王の手を引っ張り走り出した。
仮にもユーマ達は教会を襲撃したお尋ね者だ。もう既に手配書が出回っていてもおかしくはない。ここで目立つのは得策ではないとユーマは判断したのだ。
しかし、その時の魔王はなにやら顔を赤らめている様子であった。ユーマは真っ直ぐ先を見つめていたため、そのことに気付くことはなかったのではあるが。
そしてユーマ達は目当ての商店へとたどり着く。
そこはお世辞にも大きいとは言い難い、個人商店のような店構えであった。
「戦利品は一度ここに置いておく。魔王は見張りを頼む」
「うむ」
そしてユーマは一人、店内へと入っていった。
──魔王がしばらく呆けていると、ユーマと店主らしき男が外へと出てきた。
その男は見た限りでは人族ではないようだ。背が人族に比べて三割ほど低く、立派な髭を携えたその様は、ドワーフ族の特徴そのものであった。
「ほほー、これですか! ──ふむふむ。なるほど」
店主らしき男はなにやらぶつぶつと呟きながら戦利品を値定めしていく。
「お待たせいたしました。こちらの品は全部で金貨一枚に銀貨三枚と言ったところでしょうか」
「ほう。それは助かるのだが、少々高額すぎやしないか?」
「いやぁ、お持ちいただいた宝飾品。特に王冠が非常に価値のあるものでして」
「……そうか。なら良いのだが。疑うような発言をしてすまんな」
「いえいえ。それでは契約成立。ということでよろしいですか??」
「ああ、よろしく頼む」
この国で二人が一ヶ月生活していくのに必要な金額は、概ね銀貨一枚。そして金貨一枚は銀貨十枚に相当するので、およそ一年は暮らしていける額ということであった。
ユーマの想定では金貨一枚に届くかどうかであったため、想定を大幅に超える店主から提示額にユーマは幾ばくかの猜疑心を抱いていたのだ。
「では、一度お店の中にお入りください。外でのお金の受け渡しは危険ですから」
店主はそう言うと、店内から徒弟を呼び戦利品を店内へと運ぶように指示を出した。
「どうぞこちらへ」
(……面倒ごとが起きなければいいが)
そしてユーマ達は意を決して、店内へと進んで行ったのであった。
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