第六話 オークキング
ユーマは暗闇の中を風を切るように駆け抜けていく。
この時既にユーマは、洞穴の奥に広い空間があることを感知していた。
(ドーム状の広場か。オークは……十三体。そのほか二体が洞穴をウロウロしているようだな。──ん? 広場の中央に一際大きい個体がいるな……あれがここのボスか)
漆黒の暗闇であってもユーマにとっては手に取るように全てがお見通しであった。
目視で確認するしかないオークに比べ、圧倒的に優位な立場である。
そして眼前にオーク二体が迫っていることも当然のごとく把握していた。
しかしユーマはそのスピードを緩めることなくオークへ突っ込んでいく。
そしてオーク二体とすれ違う瞬間、ユーマは空中を駆けながらもその体を捻り一回転させた。
剣が空を切る音だけが響く。
一閃で二体のオークを仕留め、ユーマは足を止めることなく奥の広間へ向けて駆け抜けていった。
そしてオーク達がユーマの存在に気付いた時には、オークの視界は既に床を向き、その体を動かすことは出来なくなっていた。
ついに広間が視界でも確認できる距離まで近付いていた。
広間からは焚火の光がゆらゆらと漏れてきている。
ユーマは広間の中へ飛び込もうとした瞬間、広場の入り口で急停止した。
瞬間、広場側に大きな斧が轟音を立てながら飛来し、ユーマの足元へと突き刺さる。
どうやらオークのボスが投擲したもののようである。
「ホウ。ヨクカワシタナ」
広間中央の玉座に座るオークのボスはユーマを褒めあげた。
オークのボスは通常のオークの倍近い巨体であり、その頭には高価そうな王冠が金色に輝いていた。
「ふん。この程度当たり前だ。そんなことよりお前、言葉が話せるのか? 面白いな」
ユーマは言葉が話せるオークがいることに驚いていた。
言葉の話せる魔物なんて今まで出会ったことがなかったからだ。
「オレハ、オークノナカデモ、トクニツヨイ。オークキングダ」
「オークキング? ああ、昔何かの本で読んだことがあったな。お前がそうなのか」
「……アアソウダ。オマエハ、ボウケンシャカ?」
「いいや、違う。ただの金欠の追放者だ」
ユーマはそう言うとオークキングへと飛び掛かる。
瞬間、オークキングもユーマの動きに反応し、すぐさま立ち上がる。
そして手元にあった人の背丈ほどもあろう大斧を手に取り、ユーマ目掛けて振り下ろした。
オークキングの渾身の力が込められた大斧は、けたたましいほどの風切り音を轟かせながらユーマの眼前へと近付く。
直後、ユーマは右手に構えていた剣を下段から切り上げる。
するとユーマに直撃するかと思われた大斧はユーマの左右をすり抜けていき、操り手から離れた片割れは凄まじい音を立てながら後方に控えていたオークへと直撃した。
そして玉座の手前に着地したユーマはオークキング目掛けて再び跳躍する。
オークキングの目線の高さまで到達するや否や、剣を横一文字に一閃。
「ナ、ナゼダ!」
オークキングがその言葉を発した時には既にその頭はオークキングの体を離れていた。
「ズドン」という重い音を響かせながらオークキングの頭は地面へと落ち、少し遅れるように操者を失ったオークキングの体が床へ倒れ込んだ。
まるで地鳴りのような重く大きい音が一帯を支配し、直後突風のような風が押し寄せた。
そしてその光景を目の当たりにしたオーク達は突如、鬨の声を上げ始める。
「「「ウオォオ!!!」」」
群れの長が倒れたことで、まるで次の長は自分であると主張するかのように。
そしてユーマを討ち取ってそれを証明しようとしているかのごとくユーマへと狙いを定める。
その直後、残りのオーク達が一斉にユーマ目掛けて突撃を開始した。
(この数は面倒だな……。あれを使うか)
ユーマは地面に手を当て、力を超める。
すると地面が感知出来ないほどの微小な振動を起こし、そこから発生する超音波によりオーク達の体躯が浮かび上がった。
「ウガ?」「ウガ??」
オーク達は何が起きているのか理解出来ていない様子で、ただただ空中を浮遊することしか出来ない。
そしてユーマはその手に携えた剣を両手で持ち地面に突き刺した。
瞬間、地面から大きな衝撃波が発生し、オーク達をとてつもない速さで吹き飛ばした。
オーク達の中には地面や壁、天井の突起に突き刺さる個体もおり、それは発生した衝撃波がいかに凄まじかったかを物語っていた。
「──よし、それじゃあ魔王にもこいつらの持ち物を運ばせるか」
ユーマはそう呟くと、足元に転がるオークキングの王冠を手に取り、洞穴の入り口へと戻って行ったのであった。
洞穴の外へと戻ったユーマは入り口に背を向けて座り込んでいる魔王へ声をかけた。
「おい、魔王。ちょっとこっちへ来い」
──しかし、魔王の反応はない。
それどころか嗚咽する声も聞こえてくる。
魔王の前へと回り込み、その顔を覗き込む。
「ひぐっ、ひぐっっ……」
魔王の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「…………」
ユーマはあまりの事に言葉を失った。
女性の涙を見るのはこれが二度目であったユーマはどうしたらよいかわからなかった。
(……一度目はエレナだったな)
「置いていってしまってすまなかったな……」
ユーマは素直に謝罪するも、その反応はなかった。
そして少しの沈黙ののち、魔王がその口を開いた。
「……お腹減った……」
「は??」
「お腹減った!! 速やかに我に食事を用意せよ!!」
その言葉を聞いたユーマは少しでも魔王を心配をしてしまった自分を悔やんだ。
「──おい。洞穴に入ってオークの装備品やお宝を漁ってこい。俺は疲れたから少し休む」
ユーマはそう言うと、傍に植わった木の根元に座り目を瞑った。
「は?? 何を言っておるのだ? 我一人で行ってこいと??」
しかしユーマからの返事はない。
「おい、ユーマ??」
しかしユーマからの返事はない。
「……ユーマさん??」
しかしユーマからの返事はない。
「…………」
結局、魔王は一人で洞穴へと入っていき、お宝を漁ってくることとなった。
そして洞穴からは「いてっ。いてっっ」という声が聞こえてくるも、その声は次第に嗚咽の混じった声へと変化していったのであった……。
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