第五話 オークで金策
リスタから大聖堂の情報を得たユーマ達は、商店街へ向けて王都の街並みを歩いていた。
教会の件が大事になる前にこれからの旅路で必要なものを揃えておこうという算段であった。
「そう言えばリスタは『火炎』を出しておったが、あれはお主の『振動』で消したのか?」
魔王が興味深そうな顔をしながらこちらを見つめてくる。
「ああ。あれは俺の『振動』で消したものだ。これはある人に教えてもらった技術なのだが、あの時俺は『振動』を使ってリスタの炎から酸素を切り離した」
「ん? 酸素? 切り離す??」
「まあ俺も厳密に理解出来ている訳ではないが、まず炎が燃えるためには酸素と可燃物が必要だ。これはわかるか?」
「…………」
魔王からの返答はなかった。そしてその頭からは湯気が出るんじゃないかと思うほど、考え込んでいる様子であった。
「──もしかしてお前、バカなのか??」
ユーマは単刀直入に言葉をぶつけた。
「ば、バカだと! 仮にも私は魔王であるぞ! 言葉を慎め!!」
「ふん。まあいい。──とにかく、だ。炎が燃えるための酸素を『振動』を使って炎から引き剥がしたということだ」
「…………そ、そうかそうか! 始めからそうではないかと思っていたぞ! 我にわからぬことなどないからな!!」
魔王のその言葉が虚勢であるのは明らかであったが、ユーマは呆れて言葉を失っていた。
(こいつ、本当に魔王なのか……)
ユーマがそう思うほどに、魔王のメッキは剥がれつつあった。
「それでリスタが突然老けたのは、あれはお前の能力なのか?」
「ああ、そうだ! すごいであろう? あれが魔王の能力、『時間進行』だ。お主のように細かな芸当は出来ないが、対象の時間を任意に進めることが出来る」
「ほう。中々に面白い能力ではないか。と言うか、魔王であっても俺達と同じ能力を持っているとは意外だな」
「ああ、魔王とて人と変わらんよ」
──そうこうしているうちに、二人は目当ての商店街へと辿り着いた。
「さて、まずは食事をしようではないか。ユーマ、よいな?」
「ああ構わんが、金はお前が出すんだろうな? お前の居城から王都までの旅路で俺の持ち金は既に尽きたと言ってあるはずだが?」
「む……そう言えばそんなことを言っておったな……。金か……魔王がそんなものを持っていると思うか?」
「魔王とて人と変わらんのではないのか?」
「むむむ……それとこれとは別でだな……」
「つまり、金はない。と?」
「ああ、つまりはそう言うことだな!」
そう話す魔王の顔はなにやら誇らしげな表情であった。
(こいつ、ダメだ……)
この瞬間、魔王のメッキは完全に剥がれたのであった。
☆
ユーマ達は王都の郊外にある森の中を進んでいた。
お金がないのなら稼ぐしかない、それはどの世界であっても共通の理だ。
「もうすぐだな」
「ああ、そろそろオークの根城に辿り着くはずじゃ」
ユーマ達は魔物を狩ってお金を得ようと考えたのだ。
魔物の素材は様々な用途に利用されているため、物によっては中々の金額で売れることもある。
そして魔物達はその根城に人から奪ったお宝などを隠し持っていることもあり、運が良ければ大金を得ることも夢ではない。
今回ターゲットにしたオークは、くすんだ緑色の体色に、人の三倍はあろう体躯に筋肉質な体をした人型の魔物だ。オーク自体は大した材料にならず、ほとんど値は付かない。
しかし、このオークは行商人を襲ったり、人里を襲うなど害悪な魔物としてこの世界では名が知られている。
逆説的に言えば、それだけお宝を隠し持っている可能性もあるということだ。
「しかし本当にいいのか? 仮にもお前は魔王だろう? 魔物狩りは同族狩りになるのではないのか?」
「うーむ、魔王と言っても全ての魔物を統べているわけではない。魔物の中にも派閥があってな、人に対して好戦的なやつもおれば、友好的なやつもおる。我は友好的な魔物の派閥であるから、好戦的な派閥のやつらは我の言うことなど聞かないし、我を魔王だとも認めておらんようじゃ。──まあそもそも魔物達の間でも同士討ちは日常茶飯事だからのう。あまり気にすることでもあるまい」
「そうか。それならば良い」
(……なんだか魔王ってのも大変なんだな)
そう思いながらも決して口には出さないユーマであった。
そうして森の奥へ奥へと進んでいく。
すると二人の視界に、ユーマよりも二回り以上大きい洞穴の入り口が飛び込んできた。
「あれか?」
「ああ、あれじゃ。おそらく二十体は中にいるであろうな」
「──よし。お前はここで待っていろ」
ユーマはそう言うと、腰に携えた剣を抜き、剣に『振動』を加えた。
そして松明も持たずに洞穴へとズカズカと立ち入っていく。
陽の光すら届かないほどに洞穴の先へと進んだころ、ユーマの後ろで何やら騒がしい声がする。
「いてっ。──いたっ!」
「……何をしている? なぜついて来た?」
「──面白そうであったからな。しかし、松明もなしとは聞いておらんぞ」
「俺は『振動』で周囲を把握できるからな。むしろ松明は匂いや灯りでこちらの存在に気付かれる。俺にとっては邪魔なものだ」
『振動』を周囲に展開することで、コウモリの超音波のように周囲の状況を感知することが出来るユーマにとって、松明など不要なのであった。
「そうは言ってもな、我には必要なんじゃ。頭にタンコブが出来てしもうたわ……」
「──だから待っていろと言っただろう」
ユーマはため息を吐きながら魔王をたしなめた。
その瞬間、洞穴の先に何かが動く気配を感じた。
「これは……大きいな。そして、三体。いや、四体か。魔王、お前は外で待っていろ」
ユーマはそう言うとさらに奥へと向け、駆け出した。
洞穴の中は足元の段差や、天井の高低など障害物に溢れたものであったが、ユーマはその全てを把握しているかのごとく、最善のルートで駆け抜ける。
直後、ユーマの視界には焚き火のものであろう火の揺らぎと、洞穴の壁面へ映る四つの大きな影が飛び込んできた。
オークが近いと察知したユーマはそこから更に加速し、その影の元へと飛び込んでいく。
瞬間、ユーマの斬撃音が洞穴内に響き渡った。
飛び込みながらの一閃で、まずは一体を仕留める。
「──ウガ?」
オーク達は何が起こったのか理解出来ていないようであった。
そしてオーク達の戦闘態勢が整う前に、二撃三撃と斬撃をお見舞いしていく。
ユーマの所持している剣はいわゆるロングソードで、狭い洞穴内では不利になるはずであった。
しかし、ユーマの『振動』により剣に高速振動を付与することで、その切れ味は劇的に向上し、周囲一体に広がる岩石ごと獲物を切り刻んでいった。
それはまるで豆腐でも切るかのように。
そして、三体のオーク達はけたたましい重低音を洞穴内に響かせながら地面へと倒れ込んでいった。
結果、ユーマは一瞬にして四体のオークを仕留めてしまったのであった。
「「「「ウガアアァァアアァアァアァアアア!!!」」」」
どうやら他のオーク達も異変に気付いたようだ。洞穴の先から何やら大量の怒声が聞こえてくる。
声の数から判断するに、その数は十体はくだらないであろうと推測された。
「よし、次」
そしてユーマはそう呟くと、洞穴のさらに先へと向けて再び駆け出した。
その赤く光る瞳が閃光の如く速さで奥へ奥へと駆け抜けていったのであった。
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