クラスのアイドルと勝利の女神
「お前、高西家に行ってるってホントか?」
「誰から聞いた?」
今日も話し相手は暁人だ。
「いや、噂になってるぞ」
「え……?」
クラスの、いや学年のアイドル高西愛沙の家に同級生の男が出入りしているとなればまぁ、噂になるのもわかる気はする。そうか、でも噂になってるのか……。
「まずいな……」
「やっぱ行ってるのか」
ここまでバレているなら言ったほうが良いだろう。
「実はさ、妹のほうに家庭教師をしてる」
「なんだと……。お前、高西妹にまで手を……」
だるそうにしていた暁人がガバっと身を乗り出してくる。
「いや待て、どっちにも手出した覚えはない」
「でもなぁ……」
幼馴染だとか親同士が仲がいいとか、今の俺と愛沙の関係しか知らない同級生たちには言っても無駄だろうからなぁ。でもまぁ、噂を沈静化するためには家庭教師の話も同時に広めたほうが良い気はする。
「ま、俺もお前らの関係とかわからんけど、もうちと話してみてもいいと思うんだけどなぁ」
「いや、あの様子を見て、声かけられるか?」
今も俺が視線を向けるとすぐさま避けるように顔を背けられたくらいだ。
「顔を背けるってことはさ、それまで見てたってことなんだけどなぁ」
「教室も狭いんだし、見えるのは見えるだろ」
「ま、お前がそういうんならいいんだけどなぁ……」
仮に見られていたとしても、「お前のせいで変な噂が立ってるんだぞ」という非難の視線に違いない。
「ところで高西妹ってさ、あの高西だよな?」
「あのってのがなにかわからんけど、まぁ話によく上がることは間違いない」
学年をまたいで噂になる美少女というのが話題に上がる一因だ。もちろん、姉の存在も大きな要因ではあるが、それ以外にもう一つ、妹のまなみが有名な理由は他にもあった。
「勝利の女神だよな? すげえな。勝利の女神とアイドルの家に合法的に通ってるのか、お前」
「合法ってなんだ……」
──勝利の女神
まなみに付けられたあだ名だ。
文字通り勝利や幸運をもたらす存在だが、まなみの場合は応援ではなく自力で勝利を手繰り寄せる。
運動部の助っ人に入るとどんな部活でもレギュラーを押しのけて大活躍を見せる。まなみが助っ人に入った試合はほぼ負けなし、というと誇張があるが、かなり高い勝率をキープしているようだ。結果、いつの間にか勝利の女神としてうちの学年でも名前を聞くようになっていた。
さすがに小さい頃から男に混ざって暴れてただけある。
「勝利の女神の方はともかく、あっちには歓迎されてるわけじゃないからなあ」
愛沙に憧れを抱く男子に昨日の顔を見せてやりたい。一部のマニア以外は恐怖で震えること必至だ。
「ま、女に関しては俺の方が先輩だから言わせてもらうとだな」
「ハラタツなそれ」
暁人の憎たらしいボサボサ髪をこづく。
「良いから聞けって。きっと高西も話したいとは思ってるって」
「そうか?」
「じゃなきゃ興味がないように振る舞うはずだ。他の奴らと同じようにな」
話半分にしか聞くつもりはないが、こと女絡みに関しては暁人の言うことはある程度信憑性がある。
校内で愛沙のように目立ったモテ方をする人間ではないが、それでも暁人は俺より経験が豊富なことは確かだ。悔しいことに。
「その話したいことが良いことか悪いことかはわからねぇけどな。でもなんかしら、話したいことがあるからああいう態度なんだと、俺は思うね」
「なるほど」
一応覚えておくか。
「ま、見てる感じじゃ近いうちに話すことになんだろ」
「ん?」
「ほれ、移動教室だぞ。次」
「あぁ」
暁人の予言じみた言葉がなぜか、その日は頭にずっと残っていた。




