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中編


ゲルスオッド・ウェンブリー侯爵。

私とカインを引き離した男。

貴族の階級に疎い私はこの男が帝国貴族の中でも偉いらしい事を後に知らされる。


ウェンブリー邸に到着してすぐに帝国の皇都へ向かうこととなった。

元々が体力が無い上に、馬車での長旅と毎晩ウェンブリーに呼ばれ私は高熱で何度も倒れた。

しかし皇都への呼び出しは帝国の第一皇子からという事で私は無理矢理に皇都へと連行された。




皇都の第一皇子の宮殿に着いて私は意識を失った。

夢の中で私はまた未来を視た。



未来はいつも一つではなく分岐点がある。

私はそれを選ぶ事が出来るらしい。

間もなく私は目を覚ます。


その時に私に処女性が無い事が第一皇子には分かってしまう。

その時こそ大きな分岐がある。


私に未来を見る事が出来るという事を伝えるか否か。


伝えなかった時、私は皇子の慰み者として帝国の滅びまで生き延びる。

伝えた時、私は貴重な聖女として帝国の中枢で権力を得る。


私は後者を選んだ。

権力なんて微塵も魅力は感じなかった。

しかし私が権力を得る事で帝国を内部から崩壊に導く事が出来るから。

それはカインが帝国を亡ぼす手助けになるから。


最初に第一皇子に未来を告げた。

それは継承権争いをする第二皇子が近い将来突然死するという未来。


帝国の皇族はみな豪華な食事を摂り過ぎて、まるで猪豚のように太っている。

運動もせずただ自堕落に権力を振りかざすのは帝国貴族の習わしだろうか。

それでいて体臭を気にしているのか、臭いのキツい香水を振り撒いて更に悪臭を振り撒いている。

私には臭くて醜い肉の塊にしか見えない。


そんな帝国貴族の見本の様な第二皇子は奴隷に拷問をするのが趣味というサディストでもあった。

第二皇子は奴隷への拷問の最中に興奮のあまり床の血で足を滑らし頭を強打して亡くなる。


何とも間抜けな最後を告げると第一皇子は高笑いして喜んだ。


「気に入った!お前は私専属の聖女にしてやろう!」

第一皇子イルシュタイン・ジオ・グルヴァリエ殿下は醜い顔を私に近付けて力任せに胸を掴んだ。


「で、殿下!聖女というのは処女性を重んじるもの!そやつはすでに……っ!」

ウェンブリーの発言にイルシュタイン殿下はみるみる顔色を真っ赤にして癇癪を起こした。


「貴様っ!聖女を穢したのかっ!!」

イルシュタインとは逆にウェンブリーの顔色は真っ青に変わる。

私は何も言わずその様子を他人事の様に眺めていた。

この国では聖女の処女性にやけに拘りすぎている。

私はそうでなくても未来が視えるのだ。

恐らく貴族達の偏った言い伝えなのだろう。

もしくは女癖の悪い貴族達がすぐに聖女に手を出さぬ様にする為のものだったのか。


「いえっ!殿下のご命令通りに辺境の村へ向かったところこの女は既に下賎な男と結婚していたために……っ!すでに聖女の資格は無いかと……っ!」

脂汗をだらだらと流しながら迫り来る醜悪皇子に言い訳するウェンブリー。

カインを下賎な男と蔑んだウェンブリーに私は仄暗い怒りを覚えた。

ここで一つ復讐を遂げると同時に身を守る一計を仕掛ける。


「殿下、私は確かに男性を知っています。そのウェンブリー様によって。

その為に私の神聖なる力は弱まってしまいました。

でもこれ以上そのような行為を行わなければ、殿下の為にまだこの力は発揮出来るかと思います」

「ななななっ!き、貴様ぁ!」

ウェンブリーが私を睨み付ける。

私は表情を変えずにウェンブリーを見つめ返す。

ああ、醜い。

息が臭い。

吐気がする。

その様子を見てイルシュタインは何かを思い付いたのか、にやにやと嗤う。


「ふむ。そうだな。名はなんと言ったか聖女よ」

「ティアナと申します」

「第二皇子の予言の日までウェンブリーの処分は待つとするか。

それはいつ頃か?」

「明後日の午前中です」

「ぐふふっ。もうすぐだな」

イルシュタインが面白そうに嗤っている。

醜い笑顔だ。

今まで人の顔をそんな風に思った事は無かった。

私は心も穢れたのだろう。

私は意識して笑みを浮かべる。


「では明後日の午後までウェンブリーは牢獄へ監禁せよ。

ティアナはそれまで私の世話係とする。もちろん抱いたりはせぬから安心しろ」

「殿下っ!!」

青ざめたウェンブリーが兵隊に囲まれて何処かへ連れていかれた。



そして数日後、第二皇子は私の予言(・・)通りになった。

イルシュタインはそれは嬉しそうに高笑いをして私の肩を抱き寄せた。


その日から私は完全にイルシュタインの庇護下となった。

しかしイルシュタインは約束など守ること無く私を寝所に呼んだ。


もうどうでもよかった。

ウェンブリーがどうなったかも、私がどうなるかも。


私の願いはカインがこの腐った帝国を亡ぼす手伝いをする事。

その為にはどんな事であろうと耐えてみせる。


カインが王になった時こそ私はーーーー






sideカイン



数ヶ月前、結婚式当日にティアナを帝国貴族に奪われた。

連れ去られるティアナの手を取る事も出来ず守ることも出来なかった。

悔しさと情けなさで、何度も死を考えた。

しかしティアナはもっと苦しんでいる。

俺が助けなければならないのだ。

毎日剣を振るった。

強くなる。

力を付けなければ。

ティアナを救うために。

帝国貴族に負けないように。

いや、帝国そのものに負けないように。

帝国は腐っている。

親父や殺された村長は言っていた。

民は重い税金で苦しんでいるのに、帝国貴族は甘い物や肉を喰っている。

ふざけるな!

ふざけるな!

ふざけるな!

俺たちは一生懸命生きている!

貧しくても愛する人、家族、隣人たちと力を合わせて小さな幸せを噛み締めて!

それを彼奴らは簡単に壊す!

だったら俺も壊してやる!

《壊せ!》

帝国を壊してやる!

《怒れ!》

俺は怒りに支配された。

《力を!》

力が湧いてくる。

《倒せ!》

今なら誰でも倒せる。

その声は俺の奥底から聴こえる気がした。

《復讐だ…》

怒りは俺の心を真っ黒に塗り潰していった。


そして村を出た。



俺は隣町へ着いた。

領主一家の噂をあちこちで訊いた。

いい噂は一つも訊かない。

敵だ。

領主の館へ向かった。

武器は刃が欠けたボロボロの片手剣。

屋敷へ近付くと欠伸をして気が抜けた見張りが二人。

俺に気付いた時には遅い。


「何だ!きさま……っ」

俺は真横に剣を振り抜いた。

胴体と別々になった見張りが倒れる。

もう一人を睨むと腰を抜かしている。

そいつの真上から剣を振り下ろす。


《復讐のはじまりだ!》


俺の中の黒いナニカが叫んだ。

俺はその欲求に従い前へ歩き出す。


屋敷の中を進む。

腰を抜かす召使いに領主の居場所を訊いて進む。

俺の心は怒りの炎に包まれながら冷静だった。

敵を殺す。

ただそれだけだ。


領主がいる部屋の扉を蹴破る。

そこには丸々と太った豚が三匹ぶるぶると震えていた。

よく見るとそれは人のようだ。

大きな豚は領主だろう。

女の豚は領主の妻か。

小さな豚は領主の息子、俺と変わらない年齢だろう。

コイツらは明日食う物に困った事などないのだろう。

この領主はティアナが攫われる事を知っててあの貴族を俺達の村へ招いたんだろう。


「お、お前は何者だっ!」

「誰か!誰か!」

「………母上…父上…」

俺は無言で見下ろす。

こんな豚に贅沢をさせる為に俺達は苦しい生活を虐げられたのか。


「今日、お前らはどんな食事をした?」

豚共は目を丸くしている。

頭も悪いのだろうか。

質問の意味が分からないのか。


「答えろっ!」

「ひっ!」

「や、野菜スープですっ!」

「あ、あとステーキと卵と分厚いベーコンと……」

「……ば、ばか!正直に言う必要……」

領主の息子は馬鹿みたいに応える。


「最後の晩餐としては十分だな」

俺は領主とその妻に剣を振り下ろした。


領主の息子は動かぬ両親の横で下半身を濡らしガタガタと震えている。

俺は膝をついて目線を合わせる。


「お前は領主の息子としてこの町の人々に許しを乞うがいい。

今まで父親の権力を笠に着てやりたい放題やってきたな。

酒場で飲食代も払わず、人の女を奪い、力無きもの達を虐げた。

町の誰もが知っているらしいな」


俺は片手で息子を持ち上げ窓から投げ捨てた。

ここは二階だが死にはしない。

窓から覗くと何事か、と人が集まっている。


窓から飛び降りる。

領主の息子は足があらぬ方向へ曲がっているがまだピクピクしている。

意識もあるようだ。

助けて、助けてと言っているようだが無視する。


「領主は殺した!

知っているだろうがこいつはその息子だ!

今までを悔い改めるそうだ!

懺悔を訊いて許すも許さないも自由だ!

俺はこの帝国を殺す!

復讐したい奴は俺と共に来い!

自由を勝ち取りたいなら戦え!」


俺は剣を振り上げた。


「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」


歓声が沸き起こる。


町の警備兵が集まる。

民衆が警戒する中、警備兵がみな跪いた。


「帝国に復讐を!我らの自由を!」

警備兵達が声を上げた。



反乱軍はこの瞬間結成された。








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