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 自分の姿を鏡に映す。


 変わらない顔が、こちらを見ている。


 遠い記憶とは違う姿。



 前髪を手で押し上げて、鏡に顔を晒す。

 そこにあるのは、間違いなく“アーノエル・カーソン”の顔であった。



 前世よりもずっとずっと、整った顔で。



 所謂、イケメン。



 そんなこと、考えたこと無かったけど、前世の知識を得たことで、自分を少しだけ客観的に見ることが出来るようになったと思う。


 前世の自分なら、間違いなく飛び上がって喜んだくらいには、よく出来た顔である。……たぶん。


 だけど、現状考えると、前世で思っていたところのイケメンで人生イージーモードとは、ほど遠いなと、ため息が出る。



 その場を離れ、ソファに倒れ込むように、寝転がる。


 自分の手の平を見つめ、握って開く。


 その感覚を、確かに感じる。

 自分の顔もきちんと感触があるし、髪の毛も前世と変わらない質感がある。


 確かに、生きている。



 俺は、俺として。



 前世を思い出しても、俺は“俺”だ。



 紫がかった黒い髪に、紫の瞳。

 間違いなく“アーノエル・カーソン”である。



 けれども、やっぱり架空のことだなんて、思えない。

 どちらかと言えば、前世の方が、今確かめようがないから怪しいとさえ思うくらいだ。


 だから、やっぱり似た世界なのだろう。

 そう、思うことにする。



 ロマンスは無いが、漫画みたいなことは起こったなと、ぼんやりと思った。





 *****



 “俺”のこのゲームでの役割は、攻略対象では無い。


 攻略対象の友人として登場し、時に相談に乗ってくれたり、“ヒロイン”に気のある素振りを見せたり……当て馬っぽいところのあるキャラだった気がする。まぁ、良い友人みたいな扱いだったけど。


 そんな“アーノエル”だが、攻略したいと言う声が多く上がるほどには、人気だったらしい。ファンディスクあるかも♡なんて、期待もされていたみたいだ。……この辺は、妹の話なので詳しくは知らない。


 けれども、公式から【“アーノエル”が攻略対象になることは無い】と発表?発言?証言?があったらしい。


 妹が項垂れつつも、『いや、でもこれは……』なんて、逆に目を輝かせていたのを覚えている。

 ……その情報に対し、ガッカリするどころが裏読みし始めるのもオタクのサガと言うものだろう。少し分かる気もする。あれこれ考察するのは、楽しい。

 まぁ、つまりは、それをエサに、様々な妄想が盛り上がったみたいなのだ。……この辺りも妹の話なので、よくは分からない。

 ただ、思うのは、それが作戦なんだとしたら、公式は強いと言うことだ。どっちにしろ、話題作りとしては成功してる。


 ……妹も、それはもう妄想に妄想を重ねていた。


 俺も大概オタクだったので、考察するのが楽しいというのは、分かる。けれども、ちょっと残念な妹が嬉嬉としてする妄想の方向は、“分かる”とは、頷けないものであった。


『ヴィヴィアンが好きだったんじゃないか説もありだけどね。王女説も良いけどね。やっぱり、私のイチオシは、ルドウィンよ!』


 っと、いった具合である。

 ちなみに、当時の俺は普通に王女説で良いと思うけどねとは、もちろん言わなかった。


『大体、ルドウィンも何と言うか、デロデロに甘やかして、自分ナシじゃ生きられないようにしそうな、重い溺愛しそうな顔なのに、あっさりライトなのは、そう言うことなのよ!』


 どんな顔だ、とも言えなかった。

 言えないことが多すぎた。


 その言い分は、何とも、完全に妹の好みでしか無かった。溺愛が好きなのだ。溺愛されたい、とかではもちろんなく、溺愛させたいのだ。そう言うカップルが見たいのだ。

 それまでの傾向から、それくらいは分かってしまうくらいには、俺も毒されていた。


 何か言うだけムダである。


 ……何なんだ溺愛って。

 そんなやつ、見たことねぇぞ。

 なんて、言ってはいけない。


 二次元だから許されるやつである。

 ……ツンデレみたいな。

 それならちょっと分かるかもなーなんて、勝手に納得して飲み込んで、妹の熱弁を聞き流していた。それが、一番の平和である。たまに“質問”をすると喜ぶ。それで、十分だった。


 俺としては、こんな風に妄想するのは各自の自由だし、好きにすれば良い話だと思う。それくらい、俺の順応性は上がっていた。

 けれども、それを兄貴に言うのはどうなのかなと、常々疑問ではあった。いくらバレたからと言って、そんなにオープンで良いのか。と言うか、ほぼほぼ聞いてない俺で良いのか……なんて。

 だけど、妹曰く、解釈違いとcp戦争で友人を無くしたくない……だ、そうだ。

 なので、適度に聞き流してくれる俺が、丁度良いらしい。

 なるほど。

 好きだからこそってやつか。面倒だな。

 ちゃんと共感して欲しい時は、それように考えて話すから、それで良いらしい。

 妹がそれで良いなら、特に“意見”とか“きちんと聞くこと”を求めていないなら、良いかなと納得していた。やっぱり、俺は妹には甘かった。

 もちろん、このゲーム以外の話も俺は同じように聞き流し、たまに何故か漫画を読まされ、うん、普通に面白いんだけどね。面白いから困るよね。


 ……ただ、俺も好きな漫画でそれは辛いからね、それだけはお願いした。妹は、話の分かる子なので、それについては守ってくれた。何より。


 っと、そんなワケで俺は順調に、価値観をガンガンと破壊されていったのだ。



 だからと言って、さすがに男と恋に落ちる程のことは無かったけど。女の子と恋に落ちることも無かったんだけどね!哀しい。





 ────しかしながら、この妹の価値観の破壊が、今世の『俺』にまで影響したのだから、恐ろしいとしか言いようがない。




 全面的に、妹の勝利って感じである。




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