断章 故郷防衛中
これから読み始めて大丈夫ですよ~。
「おい!こっちに武器をまわせ!」
「怪我人だ!治療班頼む!」
「あそこに新たな敵兵!鐘を鳴らせ!」
「くっ防壁が破れそうだ!誰か援助を!」
ここは戦場。あちらこちらで怒号が飛び人々が忙しく動き回る。
「くそっ魔物どもめ!この村に何があるって言うんだ!」
敵は魔物。特に何もないこの村を大軍で襲っていた。
「はっどうせ魔王のせいだろっ!おりゃああああああ!」
魔王。平和だったこの世界に突如現れた人外。人々に宣戦布告を行い、魔人や魔物を連れて世界に攻め入ってきた。
「勇者様御一行はまだ魔王を倒せねぇのかよ!」
勇者。魔王が現れた時と同じくして突如現れた5人の世界の救世主。世界各地の神殿に神託があり、彼ら5人を勇者と認定した。彼らは魔王を倒すべく世界を周り旅を続けており、各国も最大限の援助を彼らにしている。
「へっそういうならお前が魔王を倒してきやがれ!魔王は3人もいるんだ時間が掛るに決まっているだろ!」
魔王は3人同時に現れた。大陸の北東に、南東に、南西に。ただ仲間ではないみたいでそれぞれがぞれぞれで行動している。
「ぐうう!結構倒したとはいえここはもうそろそろ破られる!」
「確かにな!リーダーに知らせるぞ!…伝令隊の誰かいるか!」
「いるぞ!何を伝える?」
「リーダー陣にここはもう持たねえと伝えろ!」
「了解!」
伝令は走り去った。
「お前ら!リーダーからの指示が来るまで死ぬ気で持ちこたえるぞ!」
「「「「おお!!!」」」」
故 郷 防 衛 中
「伝令!元備蓄庫地区よりもう持たないとのことです!」
村の中心にある広場に作られた作戦室に伝令が走り込んで伝える。
「承知した!指示を出すまでお前はここで待機!」
大柄な男が伝令を受ける。
「はい!」
伝令は室内脇で待機する。
「で、どうする総リーダー?」
「くっ…想定よりも落ちるのが大分早いな。」
大柄な男に総リーダーと呼ばれた漢はそういって歯噛みする。
「後退させるべきでは?」
髪がもじゃもじゃの小柄な男が提案する。
「それは早すぎる!他の魔物がそこに集まってくる可能性がある!」
背の高い男が否定する。
「他の地区の戦況は?」
総リーダーが大柄の男に聞く。
「他の地区は思ったよりも消耗はない。逆に元備蓄庫に魔物が集まっているのだろう。」
どうやらこちらの予想に反して魔物の攻める場所に偏りが生じていた。
「…治療班の消耗はどうだ?」
総リーダーが治療班のリーダーに聞く。
「みんなの善戦のおかげで想定よりも消耗はしておりませんわ。」
髪を伸ばした女性が言う。
「…よし、次の作戦をP作戦に変更し、準備完了次第元備蓄庫隊は後退。人手を元備蓄庫地区に集めろ!」
「はっ!」
伝令は走り去った。
「それじゃあ総リーダー俺も行ってくるぜ。」
「ああ、頼んだ。」
「任せておけ。絶対に成功させてくる。」
大柄の男はそう言って去っていった。
「まさかP作戦をやることになるとは痛いな。」
「戦いが終わった後が大変ですなぁ。」
背の高い男ともじゃもじゃが言う。
「下手にためらって負けるよりましだわ。」
治療班リーダーがいう。
P作戦・・・もともと元備蓄庫地区が破れた際に、毒の餌を魔物に食べさせて足止めをさせる副作戦の1つであったものを、主作戦に置き換える作戦だ。毒餌の量を増やし、わざと元備蓄庫地区に魔物を攻め入らせることで他の地区の魔物もおびき寄せ、毒餌で弱らせたところを一網打尽にする作戦だ。戦況によっては毒そのものを大量にまいたりする。
故にこちらにも被害がおよぶ。餌を増すための食糧の消費。毒まきによる大地の汚染。風が吹き毒が舞うことによる戦士への毒汚染。熱に強い毒の為、魔物の食糧化不可などが考えられた。
出来ればやりたくなかった作戦だ。
「こちらにも甚大な損害がでるが元備蓄庫地区をただ破られるよりましだ!」
総リーダーがそう言い立ち上がる。他のリーダーらが彼の方を見る。
彼は大きく息を吸い込み叫ぶ。
「俺らの宝も勇者として戦っているんだ!勇者の為にも、俺らの為にも、そして未来のためにも!例え非道だと言われる作戦をしてでも!あの手この手で俺らの故郷を防衛するぞ!」
「「「おおーー!!」」」