短編小説 旧道
私が住む島に南港という漁港があり、新道を通っていけば、歩道や電灯があるから昼夜を通して安心して通ることができる。
しかし、旧道は新道ができてから未整備で、危険とまではいかないが、人通りが少なく不気味である。
大熊と私は、ネコバー旅館で、夕ご飯を食べていて、すっかり話がはずんでしまい夜遅くなってしまった。
「二人とも気をつけてね」
ネコバーは心配そうにいい、お土産のコロッケを渡す。
「ええ、ネコバーさんも泥棒には気をつけて! 」
私はそういい、大熊と共に、歩き始める。
「新しいものは、その時代を何に導くのであろうか」
「誰の名言ですか? 」
私は大熊の発言が気になり聞いた。
「いや、つい旧道をみていると、そんな言葉が出てしまってね」
大熊は、悲しげな顔をしながら、旧道をみる。
旧道は、化け物でも出そうなほど真っ暗であり、明かりなしに行くのは危険に感じられた。
「旧道ですか・・・・・・ 」
私は言葉に詰まってしまった。
なぜならば、最近になってこの島に移住したから旧道に対する思い出がないからだ。
「昔は、この旧道はただの道として使っていたわけではないのだよ。かつては、戦時中の軍の通信司令部まで続く道でな、私が村長であったとき空襲の時も命がけで司令部まで走ったものだったよ」
大熊は、昔を懐かしむような話を言い始めた。
「つまり、大熊さんは昔からこの島にいらっしゃったのですね」
「ああ、この島が開拓する前からな」
そして、大熊は話を続ける。
「戦後は、国の方針で開拓することになると、この旧道は資材の運搬のために使われた。しかし、今はそんな昔の面影もないな」
「議会では旧道に対して何か案は出ていないのですか? 」
「残念ながら、そんな話題は一つもでないな。そもそも、いつまでも一つのことを懐かしんでいる私が間違っているのかもしれないな」
私たちは、安全面を考慮して新道で返ることにするのであった。