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第四話 【何回言えば気が済む?】

目の前の熊の大きな瞳に、自分の姿がしっかりと写っているのがわかる。


__【恐怖】


そんな顔の自分との、しばらくのにらめっこを終え、顔__自分ではない目の前の化物とのにらめっこにシフトする。

逃げるべきではない、と本能が告げている。だからこそ今にも崩れ落ちそうな体を、自分の全筋力を持ってして奮い立たせる。ファンやコラーも同じような状況に陥っていることは見なくたってわかる。あんな風にギルドの壁ぶっ壊してものんきに騒ぎ立ててたコラーでさえ、今の状況をしっかりと理解出来ているようだ。

ファンに至っては、位置的にあの化け物熊の横に立ってしまっており、緊張や恐怖なんて遠の昔に置いてきたようにフリーズしてしまっている。


さて、これからどうするか。今の最悪な状況を変える役目はきっと俺__カイリの役目だ。ファンは既に頭から魂が抜けかかってるし、コラーはあんな性格であってもまだまだ子供だ。詳しいことは知らないが、あの貧相な格好からして普通の生活は出来ていなかったはずで、あの性格もその過去によるものなのかも知れない。色々事が片付いたら、新しい服とか買ってやらなければせっかくの綺麗に伸びた髪がもったいない。


よし、腹は決まった。

俺に出来ることなんて、極わずかで、限られてる。

使えるものは全部使って、出来ることは全部やる。

俺はこの残念な異世界で変わ………ってもなくても良いか。どうせ、俺にはこの能力がお似合いだ。











行くぞ。


「神かッ__」

「お帰りなさいませ、ご主人様ァ」

「_く、しぃィィ?」

「は?」

「あ、あのぉーォ?」


俺達三人は、デカ熊の発した突然のこの状況に似合わない発言に対して、それぞれの反応を示したのだった。


そして俺の異世界初めてである、自分の意思での能力の発動はまたしても見送られたのだった。







時は少し戻り、時間は同日の昼間。

真っ昼間だと言うのに、やけに薄暗いその部屋の奥にある壁際の中央に置かれた玉座に居座る男に、どこから出てきたのかもう一人の男が隣に立っている。

しばらくして、一時の静寂が玉座の隣に立つ男によって、終了を告げる。


「ハァ、おい、スピリ。例の件、ちゃんと見つかッ__」

「馬鹿か、貴様。俺の事を名で呼んでいいなどと許可した覚えはないぞ」

「__ハァ、ふぅ、じゃあなんと?ハァ、まさか『魔王』なんて呼べとか言い出さないよな」

「ハッ! まさか____『魔王様』だろ?

なぁ?ポチーン」


ポチーンと呼ばれたその男は、そのスピリと呼ばれた男の発言に対し眉をひそめる。


「ハァ、君も気をつけろ、魔王様。ハァ、俺にはもう「ノッキーン」という名があるんだ。

ハァ、それより例の__」

「『君』と言った後に、魔王様って言っても意味が無いんだがな。それはさて置き、一つ、話を聞こうか」


いちいちめんどくさい話し方に不快感を覚えながらも、自分も言えたものでは無いとポチーン__否、ノッキーンは話を進める。


「ハァ、あぁ、それなんだが探してた『巫女』が見つかった。」

「__巫女が?それは楽しみだ、もう『この』巫女も消耗が激しくてな。新しいのが欲しかったんだ。

それにしても、探してたってことは………まさか」

「ハァ、あぁ、こいつが探し求めた、巫女の『完全同体』型の可能性が高い。ハァ、まだ実物見てない分、決定は出来ないが…」


ステータスが表示されるように、スピリの目の前に少女の顔が映し出される。その映し出された顔に、スピリは多少の驚きを覚えた。


「まだ、子供だな。どういうことか説明しろ、ポチーン」

「ハァ、その名で呼ぶな、それに君も子供だろ。

ハァ、これだから言いたくなかったんだ。クリアーの奴め」


ノッキーンの頭の中に一人の緑髪の青年の姿が映し出されていた。それに不快感を覚えたノッキーンは頭をぶんぶんと横に振る。


「まぁ、いいか、さして問題は無い。それよりも場所は?」

「ハァ、君と話をしていると疲れるよ。ハァ、場所は

表面を偽りの平和に守られた街、

『駆け出しの街』さ」

「__なるほど。ならば、早急に奴を向かわせろ。

急げよ、俺はそう待ちきれんからな」

「__ハァ、分かったよ」

「クッッ、ハッハッハ、ハッハッハッハァー! 」


いつの間にか、ノッキーンは消えており、男の笑い声だけが部屋に響き渡った。







「お帰りなさいませ、ご主人様ァ」


「って、何回その台詞セリフ繰り返すんだよッ!

お前さっきからそれしか言ってねぇじゃねぇか!!」

「ちょっとカイリさん!? さっきまで緊張するいい場面だったのに、なんてこと言うんですかッ!」

「お前も言ってんだろうが! 何回この世界観壊せば気が済むんだテメェは!?」


そんな状況であっても未だファンの魂は頭の上をグルグルと回って、帰還する気配が感じとれない。

そうこうしていると、またも恐怖の口が開かれた。


「中へお入りください、ご主人様御一行」


恐ろしくドスの効いた声で、今すぐ殺されそうなんだが……顔と言ってることのギャップが計り知れない。


「っつても、お前のせいでは・い・れ・な・い・ん・だ!」

「あらあら、それはすみません。ではお入りください」


そう言って目の前に現れた巨大な煙とともに、さっきまでの熊は俺たちの前から姿を消した。

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