第三話 【油断大敵!!】
長らくお待たせして申し訳ありません!!
少し短目に感じるかもしれませんが、
本編をどうぞ。
「い、いや〜あのホント……すんません」
そう言ってカイリ達の目の前__ギルドの机の椅子に腰かける、さっきまで『まっ赤な悪魔』なんて表現していた貧相な格好の少女。コラーという名の駆け出し冒険者であった。
「いや、あれはモヒカンさんが全面的に悪くないっすか!?あんなん殺されると思って当然です!!そうっすよね!カイリさ__」
「だぁッーー!!もう、うるさいわ!声がでけぇんだよいちいち。言い訳するんじゃねぇ、言いたいことはよく分かるが今はそれどころじゃない!お前のせいで何時間ギルマスから怒られたと思ってんだ、もう夕方じゃねぇか!」
「まぁ、カイ君落ち着いて。この子も悪気が…悪気………少なくとも悪い子じゃ…ないの?」
「フォローするならちゃんとしてくださいよ!さらになんで最後疑問系になってるんすか、良い子ですよ!」
「良・い・子がギルドのドアの周りぶち壊せるわけねぇだろ!どんな教育受けたらそんな奴になんだ!親の顔さえ見たくないわ!」
「あぁ!母様とパパを侮辱しましたね、ちょっと顔が良いからって調子に乗らないでくだい!!」
「急な告白ありがとう!?あと、パパならママって呼んでやれよ、可哀想に」
夕方近いギルドの端の席、カイリ達は__否、カイリとコラーの二人は口論をはじめていた。あれだけかっこいいセリフを言ったカイリだったがまさかの
「え、えーと……てへぺろ?」
なんていう今どきのJKですら使わないような単語で、コラーは許しを得ようとしてきたのだ。
さらに何故かギルマスからカイリ、ファン、コラーそして満身創痍のモヒカンこと『モヒカン』。……実名なので許してやって欲しい。そんなこんなで四人は3時間近くのご説教を経て、ギルド兼喫茶店であるこの店__『ギル喫茶駆け出し店』でこれから働くことでギルマス兼マスター__結局マスターに変わりはないが、許しを貰うことが出来たのであった。期限はドア周りの弁償という名の借金を返済しきるまでで、家まで提供してもらうことが出来た。なんだかんだ優しいマスターなのである。
「ふぅ……まぁ、働くのは明日からなんだし今日のところは新居にでも行ってゆっくり休みたいところなんだが……」
「まさか同じ家に住むことになるとは思いませんでしたねぇ」
「そうっすね!楽しみですよーー、なんか修学旅行みたいで〜」
「ッ…!そ、そ、そうで…すよね…〜」
まだファンはコラーに慣れているようではなく、カイリと最初に接触した時の__いや、それより酷い人見知りが発生していた。ファン的にあまり好ましいタイプではないらしく、慣れるのには少し時間がかかりそうだ。
それよりも、っとカイリは即座にツッコみを入れる。
「お前今……修学旅行とか言わなかったか?」
「____言ってないっす…」
「言ったな」
「言ってない」
「ついに作者がボロを出したな」
「作者とか知らないっす」
「…………」
これ以上ツッコミを入れると作者(?)とこの世界の闇を暴くことになりそうで、カイリはそれ以上の追求を止める。
「それよりもどうするんすかぁ?カイリさんが言ったように、今日は一旦家に行きましょうよぅー」
──コメディ系でよく見る、作者の事に触れた直後の何も無かったかのような切り返しだ…。
などと思ったことを口に出すのを諦め、カイリはコラーの言うことに賛成しこの店を後にした。理由は普通に新居が気になったのと、マスターの視線も気になったからである。
「カイ君、そういえばあの……モヒカン?さんはどこへ行ったんですか?先程からお姿をお見かけしていないような……」
「オッサンなら病院__じゃなかった、【回復院】?だったか。アバラが何本か逝っちまってるみたいでな。さらに不幸なことに今この街にはちょうど回復術士が出張かなんかで居ないらしく、治るのにあと何週間かかかるみたいだぞ」
「そうだったのですか、初対面の方と話せるいい機会だと思ったんですけど」
ファンは人見知りを何とかしようと、今頑張っている途中のようで積極的にコラーにも話そうとしているのだが、コラーもコラーで目を見張るほどのお喋りのようでいつもファンの頭がオーバーヒートしてしまっている。莫大な話の内容の情報量が急に脳に入ってきて、処理しきれていないのがファンの頭の上に登る煙で確認することが出来る。
「着きましたよ、カイリさん!ここが私たちのmy homeですぅ!見た目は割と普通の家なんで、中身が気になるところですね〜虫といたら…嫌ですからね、そうなったら即引越しで」
「馬鹿かお前。そんな金あったらさっさと借金返済して、ほのぼの異世界ライフを満喫するわ。
だが、そこにお前の影はない」
「なんでですか!うるさいからとかいうそういう理由だったら、今日の夜は覚悟しておいて下さいね!」
「夜ぅゥ?」
『?』が頭の上に何個も現れるカイリとファンだったが、コラーが虫嫌いだという意外な弱点を知ることに成功した。
──虫か………枕元とかに置いといてやろう
とかそんなことを考えていると、ファンがスタスタと玄関まで歩いて鍵を開けているところだった。何故かますます秘書感が増していくファンに多少の不安を覚えたカイリであった。
「では皆さん、こちらへッェ__なッ!!?」
「何ッ!?」
「どうしたんすか!!?」
突然の出来事に対処しきれない3人だったが、目の前の現実が対処や処理なんてものを超えて叩きつけられる。
「__ンだよ、このバカでけぇ『熊』はよぉ……」
◆
圧巻、壮観、絶大、絶望と絶句。
【死の形】をかたどったような、その扉の奥からずっしりとカイリ達を見つめるその『熊』。
まだ顔半分と目しか見えていないその顔は、それだけで巨体だと感じさせる。そこから確実にカイリたちに向けられる【殺意】は生半可なものではなく、目を逸らしただけで殺されるという本能の囁きがカイリを延命させる。
ゆっくりと開かれるその口に、そこにいる誰もが息を飲み、死を覚悟した。
「お帰りなさいませ、ご主人様ァ」