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幕間 破滅人の復活、七

そういえば、なろうのシステムがすごく変わっていてビックリしました。


 み、見えねえ……。

 何をすれば殺せるのか、決定的な一撃の軌道が、その因果のへし折り方が。

 見えねえ!


 ハクがフギトにやられ始めてからレントはその光景に言葉を失っていた。

 自分が知る中で最強であるハクが、真話に至りし者の中でリーダーをはっている存在が。

 そして何より。


 ダメージという概念を受け付けない人神化を使用しているハクが。

 押されているという事実に。


 ……。俺はよく知っている。人神化って技の凄まじさを。俺が一番知っている。

 っていうのに、どうしてだ? 

 このままだとハクは確実に負ける。

 その因果だけは変えられねえ気がする!


「ちっ……。いよいよやべえな……」


「はっ…………!」


「あ? ……いきなりどうしたんだよ。顔、真っ青だぞ?」


「ぇ…………?」


 そう言われて初めて自分の状態に気がついたかのようにペトナはゆっくりとレントに向き直った。しかしその顔は恐怖と驚愕に塗れたものになっており、顔の筋肉が全て強張ってしまっているように見える。

 つい先ほどまではフギトと一緒に自らの憎悪をぶつけるような表情を携えていたはずなのだが、その急激な変化にレントもペトナ自身もついていけないでいた。


「ふ、フギト……。邪気の暴走……。感情の喪失……。全て第五神核が言った通り……」


「だから何言ってるんだよ、お前は?」


「…………止めないと」


「はあ?」


 ペトナは小さな声でそう言うと、ふらつく足を持ち上げながらハクとフギトが戦っている場所に向かって歩き出してしまう。それはまるで小さな子供が一人で泣きながら助けを求めているような姿に見えた。

 そんなペトナの腕をレントはがっしりと掴んだ。


「いかせねえよ」


「……放して」


「断る。そもそもお前が行って何ができる? 特異眼を満足に使いこなせないお前が行ったところで無駄なだけだ」


「……なら。なら、あんな状態のフギトを黙って見てろっていうの!!」


「……知るか。そもそも、今はハクが劣勢だ。お前が助太刀に入る理由がないだろうが」


「……違う、違うのよ。あ、あれは……。あれはフギトじゃない、私が知ってるフギトじゃないの……」


「どういう意味だ?」


「あなたにも見えてるでしょう? このままフギトが力を出し続けたらどうなるか!」


「…………」


 今、フギトの気配は上がり続けている。邪気を纏うことによって覚醒したフギトは人神化したハクを飛び越えるかのように力を増していっていた。

 そしてその力を特異眼を通して見た時、どう頑張っても覆らない結末が映し出されてしまう。


「……世界崩壊。あいつの力はハクを打ち倒し、そのまま暴走を続けてこの世界を滅ぼしてしまう」


「そうよ! だから私は……!」


「気に食わねえな」


「は?」


 レントはペトナの言葉を切るように自分の言葉を滑り込ませた。そして心底嫌そうな顔をしてこう呟いていく。


「今回、戦いを仕掛けたのはお前たちだ。それも相手は星神を救い、覇女討伐の功績すらあるあのハクだ。言ってしまえば世界の英雄。そんなやつにお前たちは刃を向けたんだ。それを今更世界が崩壊する光景を予見したからって、考えを変えるお前が俺は気に入らねえんだよ」


「そ、それは……」


「お前たちの過去に何があったのかは知らねえ。だから同情もしねえ。だからお前がもしこのまま先に進みたいって言うんだったらせめて、俺を納得させてからにしやがれ!」


「ッ……!」


 その言葉には強い力が込められていた。

 実際、現状を鑑みるにレントといえどすぐにハクの助太刀に行きたいと考えているのは確かだ。だが今ここでペトナから目を離せば何をしでかすかわからないというのも事実だ。だからこそレントは焦る気持ちを抑えながらも、今、取れる最善の手段を選び続けていた。

 幸いハクもやられっぱなしではない。

 人神化に神破りの力を重ねがけすることによってフギトの動きについていっている。であれば多少の時間は稼げるはずだ。

 それに。


 ……さっきまでこの女もあのフギトってやつと同じ邪気を纏っていたはずだが、それが消えてやがる。まあ、こいつの邪気は特異眼を使ってようやく見えるか見えないかレベルだ。気にするレベルじゃねえが……。

 ……まあ、それだけでも対話はできそうな気がするからな。


 レントはそう考えると、ペトナの腕を離し、改めてこう問いかけていった。


「……もう一回聞くぞ。お前たちは一体何者なんだ?」


「……フギトの能力は『目を瞑る』ことによって『邪気』を体の中にためること。それによって己の力を上昇させることができるわ」


「は?」


「それが『第二イレギュラー』フギトに与えられた能力。そして私は……」


 そしてペトナは自傷ぎみな笑いを浮かべながらレントに向かってこう呟いたのだった。




「そんなフギトを助けたくて、でも助けられなかった特異点のまがい物よ」









「がはっ!?」


「どうした? 余裕がなくなったぞ? あの威勢の良さはどこへいったんだ?」


「ぐっ!」


 押されていた。

 あろうことか人神化まで使った俺が、フギトに押されていたのだ。

 フギトが邪気を色濃く纏った直後、その拳から放たれた一撃は俺の体を捉えた。ダメージを無効化するはずの人神化すら貫通して痛みを体に伝えてきたのだ。

 原因はどう考えてもフギトが纏っている邪気以外の何物でもないだろう。

 かつてリアナが使用していたその力が今になって俺を苦しめている。しかしリアナの邪気は俺の人神化を破るほどの力は持っていなかった。せいぜい周囲の魔物を凶暴化させたり、無理やり覚醒させたりさせることぐらいしかできなかったはずなのだ。

 だからこそ俺も油断していた。

 フギトという常識を大きく逸脱している存在にもっと注意すべきだったのだ。

 俺はそう考えると歯を食いしばってさらなる力を解放していく。すると俺を包んでいる気配が変化し青白い光が周囲に溢れ始めた。


「……はぁぁぁああああああああああああ!!」


「ほう。まだ上がるのか、お前の気配は」


「……へっ。もう俺には余裕なんてないからな。悪いけど全力でいかせてもらうぜ!」


 人神化に神破り。

 現状俺が満足に発動できる能力の中では最も強力な状態だ。しかしそれでも長くは持たない。エネルギー消費がただでさえ激しい神破りに加え、人神化まで発動しているのだ。体への負担はとてつもなく大きい。

 だがそうせざるを得ないまでに俺は追い詰められていた。

 フギトが一体何者で、どういう経緯でその力を手に入れたのか、俺にはわからない。

 でも、自然と俺の顔は笑っていた。

 久しぶりに出会った好敵手とも言うべき相手に。


「いくぞ!」


「こい。星神と関係のある者、その全てを殺してやる!」


 その声を合図に俺は足に力を入れて全力で地面を蹴った。それによって俺が立っていた地面はひび割れ、爆風を巻き起こす。

 そしてその爆風が巻き上がったと同時に俺はフギトの懐に入り込んでいた。


「はああっ!」


「ふっ!」


 右拳を突き上げるようにフギトの顎に叩きつけていく。それは見事直撃しフギトの体をのけぞらせた。しかしフギトの足は地面についたまま。離れることはない。

 そして次の瞬間。

 殺気に満ちたフギトの目が俺を捉えた。


「……はああああああああああっ!」


「ちっ!」


 反り返った背中をさらに反り返して反動をつけたフギトは、そのまま体を横に回転させて右足を俺の顔面に向けて放ってくる。そのスピードは先ほどとは比べものにならないほど速く、俺ですら視認することがやっとだった。

 その攻撃が俺の顔をかすめ、白色の髪の毛を何本か散らした後、俺はフギトと同じように背中を反り返してバク転を繰り返す。そうして距離をとった直後、左手に気配を集中させ気配想像の刃を大量に作り出していった。

 その威力は先ほどまでとは比べものにならないほど上がっている。直撃すればそれこそ体が吹き飛ぶだけでは済まないだろう。

 だけど、俺には確認があった。

 こんな攻撃フギトにはまったく通用しないという確信が。

 だがそれでも俺は攻撃を放つのをやめない。その先にまっている攻撃につなげるために。


「いくぞ、フギト!」


「ふん。その攻撃は効かんぞ!」


「……へへ、どうかな」


「なに?」


 俺は不思議がるフギトに対してそう呟くと、そのまま刃を撃ち放つ。そして同時に俺は次の行動へシフトした。

 それは何かというと。


「無駄だと言ったはずだ!」


「……ああ、知ってるさ。だから本命はこっちだ!」


「な、なに!?」


 攻撃をいなし続けるフギトの背後。そこに俺は移動する。

 いや、移動という言葉を使うのは不適切かもしれない。

 俺が行ったのは、移動は移動でも自らの足を使った移動ではない。空間を捻じ曲げ、一瞬でその距離を詰める能力。

 つまり、転移。それも、転移能力の中でもトップクラスの移動速度を保つ「高速転移」である。


「隙ありだな、背中がガラ空きだぜ!」


「く、くぅ!」


 フギトは急いで俺に向き直り距離を取ろうとするが、今の俺にはその動きが遅く見えた。フギトの身体能力であれば、俺がいかに高速転移を使用しようとも攻撃から逃れるための最適解をはじき出すに違いない。俺はそう考えた。だからこそ俺はその動きさえも予測し、次の攻撃に一番繋げやすい位置に転移したのだ。

 その策を講じたさは見た目ではほとんどわからない。だが当事者である俺たちからすれば、この違いはとても大きなものだった。


「だああああああああっ!」


「がああああああっ!?」


 俺の渾身の一撃がフギトの体を捉えた。右拳を突き出したストレート。その一撃がフギトの顔に突き刺さる。

 今出せる俺の全力の一撃だ。これでさすがのフギトも堪えるはず。

 ……そう。

 ……そう考えていたのだが。


「……が、あぁ」


「ッ!?」


「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「な!? ま、まじかよ!」


 突然の雄叫び。

 それに呼応するように高まるフギトの気配。それは人神化に神破りを重ねた俺の気配すら凌駕するほど大きくなっていく。

 その事実に驚いていた俺だが、気がついた時には俺の体は物凄い勢いで後方へ飛ばされていた。


「が、はぁっ!?」


 ……な、何が起きた?

 い、今俺はどうなっている?

 そんな心の声が脳内に響き渡るが、それを志向するよりも先にフギトの拳が俺を捉えていく。俺が飛ばされ、落下するそのポイントにフギトはすでに移動していたのだ。


「がはっ!?」


 すぐさま俺は態勢を立て直して攻撃へ転じようとするが、それさえも予測していたフギトは続けて無数の後部氏を叩き込んできた。邪気によって俺のダメージ無効化能力がかき消されている関係で俺の体には堪え難い痛みが連続で走ってくる。

 そもそもだ。

 さっきの雄叫びは一体何なのだ?

 気がついた時には俺は吹き飛ばされフギトの気配が上昇していた。

 考えられるのは俺の攻撃がフギトの眠っていた力お刺激して、それを覚醒させてしまったということぐらいだが、それにしても今のフギトの力はあまりにも強すぎる。

 あの奈落化したリアナにでさえ、人神化の力で十分ついていくことができたのだ。

 つまるところこの状況はあまりにも異常すぎる。いや、正確にいうならばフギトという存在事態が特殊すぎるのだ。

 などと考えていたのだが。


「どうしたどうしたどうしたどうしたあああああああああ! 俺は、オレは、オレハアアア! 星神ヲ、タオス! オマエノヨウナヤツニ、負けるワケニハああああああああああ!」


「こ、こいつ、もう自我が邪気に飲まれて……。ぐはっ!」


 その瞬間。

 俺の鳩尾にかつて受けたことのないほど大きな衝撃が飛んできた。それはフギトの放った膝蹴りがオレの体にめり込んだため起きたものだ。

 だがそれは俺を吹き飛ばしただけでは止まらなかった。あまりにも重たすぎるその攻撃は俺の意識を朦朧とさせてしまう。

 ま、まずい……。い、意識が飛ぶ……。

 こ、このままだと本当に負けて……。


 と、その時。


「はああっ!」



「ッ!?」


 黒い閃光が俺とフギトの間に割り込んできた。それを放った主はボロボロになって倒れている俺の前に立つと、こう言い放ってくる。


「色々と事情は聞いてきた。またあの星神が何かやらかしたらしい。まあ、それは置いといて。ハク、お前まだ力隠してるだろ? 時間は稼いでやるからさっさと準備しろ」


「れ、レント、お前どうしてここに……」


「どうしてもなにも、意識飛びそうになってるやつが目の前にいたらさすがに助太刀するだろう、普通。つーか、お前がやられっぱなしなんてらしくねえんだよ。いい加減、こいつの相手も飽きてきたところだ。さっさと片付けるぞ」


 それは先ほどまでペトナを見張っていたレントだった。

 そして、そのレントの介入によって俺はフギトとペトナの置かれていた悲惨な過去を知ることとなる。


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