第百一話 第四の柱の謎
今回は第四の柱に迫っていきます!
では第百一話です!
「第四の柱ですか?」
「ああ、やつは確かにそう言っていた。………だが、その前に」
「はい?なんでしょうか?」
「一体、この家で何が起きたって言うんだああああああああああああああああああ!?」
街中でマルクと話して数時間後。
それなりに街で妃愛と楽しんだのち帰宅した俺たちを待っていたのは、目を疑いたくなる光景だった。リビングには食品や飲料が入っていたであろうゴミが散乱し、ソファーやベッドのシーツはぐしゃぐしゃ。たった一日でここまで汚くできるのかと疑問に思ってしまうほどの部屋がそこにはあった。
俺は全身から怒りのオーラを放ちながらソファーの上で優雅にくつろいでいるミストの近くにいたサンクを睨みつけた。
「おい、サンク!お前というやつがいながらどうしてこんなことになってるんだ!?お前は執事なんだろう!?だったらミストの世話ぐらいしてやれっ!」
「ほ、本当に申し訳ございません!で、ですがこのお部屋はミスト様がお使いになるからと、私も締め出されてしまいまして………。その他のお部屋はしっかりと手入れさせていただいております」
「な、なにいぃ!?」
それさえも疑いたくなってしまう俺だったが、俺よりも先に他の部屋の確認を行って妃愛が俺に近づきながらこう返してくる。
「確かに他の部屋は私が掃除するより綺麗になってたよ。で、でもこの部屋はちょっとね………」
「よぉうし!サンク、お前は合格だ。問題はお前の主人にあるらしい!」
「ん?何の話をしているのですか?」
「お前の話だよ、お前の!最強の魔人ミストさんのお話ですよ!?」
「いやあ、照れますね。私自身最強の魔人という肩書きは気に入っていますが改まって言われると少し嬉しいものです」
「ちっとも褒めてないから!というか貶してるから!戦闘は美しく戦えてもお前の私生活はダメダメだよ!」
「あら、失敬ですね。確かに少し散らかし過ぎた気はしますが、私も淑女としてそれなりに気を遣っているつもりなのですよ?ほら、そこ。しっかりとあなた方が今晩使うであろう食材も残してあるじゃないですか」
「って指さされた場所にあるの冷凍されたひき肉、一パックだけなんだけど!?というかこの冷蔵庫にあった食材全部食べたのかよ!?どんな胃袋してるんだ!?」
「そこは腐っても魔人です。私の場合人を喰らわない代わりに人間と同じ食料を欲します。しかし魔人である以上食欲は人一倍。これは仕方のないことなのです」
「そんなどうしようもない理由で納得できるか!」
とまあ、帰宅早々調子を狂わされた俺たちだったが、いくら騒いでいても始まらないので早速手を動かすことにする。ミストやサンクがいなければ事象の生成を使って一瞬で片付けてしまうのだが、さすがに今回はその策は使えない。
であれば地道に手作業で掃除するしかないだろう。とりあえずミストの頭に軽くげんこつを振り下ろした俺はミストにも片付けを手伝うように指示し、四人でリビングの掃除を開始していった。ミストは終始不服そうだったが、何か言おうとした瞬間俺が睨みつけて口を開かせなかった。
というか本来であれば妃愛が怒らないといけないのだが、妃愛は優しい性格なので文句ひとつ言わずに「こういうこともあるよ、お兄ちゃん」と俺を慰めてくれる始末。
もう涙が出るかと思ってしまうが、そこはしっかりとミストに反省させるべく、自分で散らかした場所は徹底的に掃除するように命じていった。
なんてことをやっているといつ間にか時計の針は午後九時をまわりすっかり夜も老けてしまっていた。本当ならば冷蔵庫に履いていた食材をふんだんに使って夕食を作ろうと思っていたのだが、その食材もミストが食い切ってしまったのでその案は無に消えてしまった。
となれば取れる手段は一つだ。
少々時間は遅いが出前を取るしかない。
俺は妃愛から渡されている生活費の財布を開けて入念な計算をこしらえると、そのまま受話器を持ってうな重の出前を頼んでいく。お財布的にはかなり厳しいが季節も季節なだけあって、ちょうど食いたいと思っていた料理だった。
そして数十分後。
無事に到着したうな重をダイニングテーブルに並べて四人揃って夕食をとる。
『いただきます』
そんな掛け声ととも箸に手を伸ばした俺たちは各々のペースでいい匂いのするうな重を頬張っていった。ミストや産駒は外国人のはずだが特に箸の使いに不自由は感じていないようで、俺や妃愛が見てもなんら不自然のない姿を見せつけてきた。
まあ、よく考えればミスト自身俺たちには日本語で喋りかけてきているし、日本という国に慣れているのかもしれない。そう考えればミストやサンクが箸の使い方をマスターしていてもおかしくないと思ってしまう。
なんてことを考えながら俺もモグモグと夕食を食していたのだが、そんな俺に向かってミストが頬を膨らませながらこんなことを呟いてきた。
「ふへ、ふぉーふしんふぉるのふぉとなんふぇふが………」
「おい、ちゃんと飲み込んでから喋れ」
「もぐもぐもぐもぐ………。これは失礼。私、美味しいものを前にすると色々と夢中になってしまう性質でして。………それはさておき。先ほどの話に戻らせてください。あなたはあのマルクが第四の柱について語っていたと、そう言いましたね?」
「ああ。なんでも第四の柱に関してはずっと追っていたらしい。そしてその第四の柱がこのメモに書かれた場所に現れるとかなんとか………」
「そしてあなた方は一緒に戦うように迫られたと、そういう流れでよろしいですか?」
「ああ、問題ない。とはいえ、あいつは俺たちの返答を聞かずに去っていったけどな」
「ふむ、なるほど。だいたいの事情は理解しました。となるとこれは厄介ですね………」
「厄介?どういう意味だ?」
うな重を食べているミストの表情がどんどん曇っていく。眉間にはしわが寄り、この場に流れる空気も重たくなっていった。
だがよく考えればこれは珍しいことだと思ってしまうミストは俺が知る限りいつだって超然としているような性格だったはずだ。そのミストが何かを心配し眉をひそめている姿というのは俺の中でまったく想像できなかったのである。
だがこの後ミストから語られた真実を聞いた俺たちはその表情の理由を理解してしまった。
「この状況ばかりはマルクが言っていることが正しいからです。第四の柱という皇獣は決して一人で戦っていい相手ではありません。いえ、厳密に言えば第四の柱と第五の柱。この二体の皇獣は非常に危険だと言えるでしょう」
「第五の柱?」
第四の柱と第五の柱。これは五皇柱の中でもまだ現存しているにタイの皇獣の名だ。麗奈の県から数ヶ月間、俺は皇獣や帝人の情報をさぐりながら同時にこの二体に関する情報を集めていた。
だがその結果は言うまでもなく振るわなかった。
影も尻尾もつかめないとはまさにこのことで、俺がどんなに探りを入れても五皇柱に関する情報は入手できなかったのである。
しかし今ここでその情報が俺たちに齎されようとしていた。皇獣に関する情報の中でもトップシークレットとも言えるその情報を今、ミストが語り出す。
「五皇柱と呼ばれる存在はその名の通り全部で五体存在しています。その強さはナンバリングが上がるにつれ強力になり、中には私たちと同じ言語を使う存在もいます。ですがその中でも、第四の柱と第五の柱。この二体だけは別格と言わざるを得ません」
「つ、つまりそれだけ強いってことか?」
「その通りです。実際に過去の真話対戦では多くの帝人がこの二体に殺されています。もちろん断トツの殺害率は帝人同士の殺し合いですが、それに次いで多いのがこの二体の皇獣に敗北して命を落とすケースなのです」
「………お前にそこまで言わせるほどの相手なのか」
「私自身今回の第四の柱と第五の柱を実際に見たわけではありません。ですが前回、前々回のデータを見る限り第四の柱から上の五皇柱はもはや次元の違う強さを持っています。………おそらく並みの帝人では一秒と経たないうちに殺害されるでしょう」
「そ、そんな………」
「………」
その事実に思わず俺と妃愛は言葉を失ってしまう。
だがそう考えると確かにマルクの言い分は理解できた。もし仮に第四の柱の居場所がわかっているのなら奇襲をかけるにはもってこいの状況と言えるだろう。加えてそこまで強力な力を持っているなら大人数で不意打ちを仕掛けることが好ましいと言いたくなる気持ちも理解できる。
だからミストはマルクを正しいと称した。
「つまり結論として、今回はマルクの提案を受けることが望ましいと言えます。月見里家が壊滅してしまった今、そもそも皇獣と戦える力を持つ存在の方が稀です。並みの魔術では傷つけられない以上、帝人と呼ばれる存在がいかに大切になってくるかわかるでしょう?できることなら残っている帝人全員で討伐したところです。ですがもうすでに第四の柱の存在が確認できている以上、悠長なことは言ってられません。早急に手を打つべきでしょう」
「………なるほどな」
今の言葉に俺はそう答えることしかできなかった。
俺はすでに五皇柱相手に神妃化の力を使ってしまっている。これより強い相手が出てくるとすればそれこそ完全神妃化のしようすら視野に入れなければいけなくなってくるのだ。
そうなると俺も腹をくくる必要がでてくる。妃愛を守りながら戦うことは最優先だし、そもそもそんな状態で第四の柱を相手にできるのかさえ疑問だ。
となれば。
確かにミストの言う通りマルクの提案を受け入れることはやぶさかではないのかもしれない。
だがそうなると、当然気がかりなことが出てくる。
「………だけどそれがマルクの作戦だたとしたらどうする?俺やお前をおびき出して第四の柱と戦って疲弊したところを襲ってくる可能性だってある。そもそもお前という存在を釣る餌かもしれないんだぞ?」
「確かにそれはあり得ますね。というよりは十中八九その考えは当たってるでしょう。彼の考えはいつになっても単調です。第四の柱を倒したいという気持ちはあるのでしょうが、その裏には私から神器を奪いたいという魂胆があるのでしょう」
「だ、だったら………!」
「ですが、それはどうとでもなる問題です。私が慢心せずあなたがマルクまで打ち倒してくれればそれで済むことです。今は第四の柱を放置しないことを考えなければいけません。これは今までの五皇柱と同じように接していい問題ではありません。私がここまで言う理由がわかりますね?」
「………本気なんだな」
「はい。この対戦もそろそろ佳境に入りつつあります。第三の柱を誰かさんが早々に倒してしまったせいで黒包もそろそろ本腰を入れてきたんでしょう。もう頃合いということです」
「悪かったな、早々に倒して………」
俺はミストのセリフにむすっと口を尖らせると、ずずっとお茶をすすっていく。すでに俺の目の前にあったうな重はすっかり胃の中に収まっており、十分な満腹感が俺を包んでいた。
だがそんな俺に向かってミストは最後にこう付け足していく。
「ですが結局最後に決めるのはあなた方です。私は今、匿われている身です。よって私にできるのは精々助言くらい。それを聞いてどう判断するか、それはあなた方が決めるべきです」
それはわかっている。
わかっているからこそ悩むのだ。
もし仮に俺が全力を出せば、それこそ第四の柱は相手ではないだろう。だがここで本気を出せばそれこそ俺はあとがなくなる。この後に待っている強敵たちに自分の情報を晒してしまうことになるのだ。
それだけは避けなければならない。
であれば、俺が今とる行動は………。
俺は妃愛と軽く視線を合わせてお互いに頷きあうと、こう口にしていく。
「わかった。一緒に第四の柱を倒そう」
こうして俺たちの月の戦いが決まった。
だがこの戦いは、俺が予想していたものより苛烈を極めることになる。
次回は物語が動き出します!
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次回の更新は明日の午後九時になります!




