第百話 マルクの忠告
今回はマルクとハクの会話になります!
では第百話です!
「で、これは一体どういうことなんだ!?」
「む?何のこと言っているのだ、坊主?」
「だ、か、ら!何で一国の国王が大都会東京のど真ん中でタピオカを買い占めてるのかって聞いてるんだ!」
俺はタピオカ屋のタピオカを買い占めるという大変迷惑な行動に出ようとしていたマルクを引っ張って一眼のつかない路地裏へやってきていた。都会の路地裏ということもあって色々と物騒ではあるが、どんなに物騒でも今の俺たちが何かされる可能性は皆無だ。そもそもそんな一般人の常識で測れる領域はとっくに超えている。
ゆえにある意味安全だと判断した俺は妃愛と一緒にマルクをこの場所に連れ込んだわけだが、その後ろからマルクの部下であろう集団もついてきているので、三人だけで話をするということはできそうにない状況だった。
だがそんなことはどうでもいい。
俺の心の中にはよくまああれだけのことをやって太陽の下に姿を晒せたな、という怒りしかない。俺はまだいいとして妃愛は実際にマルクから呪いのような魔術を受けてしまっている。そんな状況で笑顔を作りながら「あ、こんにちはマルク国王!」なんて元気なあいさつができるわけがない。
俺はそう考えると、いつまで立ってもふざけた態度しかとらないマルクに向かって蔵にしまっていたエルテナを突きつけていく。エルテナの刃がマルクの首に押し当てられ、一瞬にして場の空気が凍りついた。
「ま、マルク様!?」
「うるさい、お前たちは黙ってろ」
となれば当然マルクの部下たちは騒ぎ出すわけだが、それは俺が気配創造の鎖を作り出して縛り上げてしまう。すでに周囲には隠蔽術式を張り巡らせているし、誰かに見られる心配もない。
そんな俺を見ていた妃愛は慌てた様子で何か口にしようとするが、妃愛としてもマルクは因縁の相手なので両手に力を込めたまま俺を見守っていた。
しかしマルクはそんな俺たちに向かって平然とした調子でこう返してくる。
「これは一体何のつもりだ?」
「わからないか?正直言ってお前がこの場にいることなんてどうでもいい。どうしてタピオカを買おうとしていたのかさえ俺にはどうでもいいんだ。俺が言いたいことは一つだけ。よくもまあ平気な顔で俺たちの前に姿を晒せたな」
「………それは、そこの少女に俺がしたことを言っているのか?」
「それ以外に何がある?ミストの件に俺が腹を立てていると思っているならそれは筋違いだ。俺にとって真に守るべき存在は妃愛しかいない。そこを履き違えるなよ」
「………ふむ。なんとなくだが、お前の意見は理解した。だがそれを踏まえて考えても俺は何一つ間違ったことはしていないと断言できるぞ?」
「なに?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、自分の腕にさらに力が入っていく感覚に襲われた。意識的に力を入れているのではなく反射的に入ってしまう力。それによってマルクの首により深くエルテナの刃が食い込んでいく。
とはいえ俺も剣を握って日が浅いわけではない。間違ってもマルクの首に傷をつけないように無意識のうちに加減してしまう。もし仮にここでマルクに傷をつけてしまえばそれはもう宣戦布告しているのとなんら変わらない。
ゆえに俺は威圧が混じった雰囲気を携えながらマルクの言葉にこう切り返していった。
「………お前は妃愛に無理矢理情報を押し付けてその口封じのためにその妃愛を危険に晒したんだ。それがどうして間違ってないと言える?一歩間違えば妃愛は死んでいたかもしれないんだぞ?」
「それがどうした。俺たち帝人は命を狙われて当然と言える存在だ。皇獣からも帝人からも戦いを仕掛けられる。むしろ先日のことを考えるならば直接命を奪わなかっただけマシと捉えてくれてもいいはずなのだが?」
「………本気で言っているのか?」
「本気だとも。そもそも俺は言ったはずだ。この坊主にはその情報を漏らすな、と。その情報を伝えようとしたからその少女は危険に晒された。ただそれだけではないか。むしろ間違ったことをしているのはお前たちの方だと俺は思っているのだが?」
「だから、それが無理矢理押し付けた情報だと言ってるんだろうが!本来背負う必要のない負担を妃愛に押し付けている時点で、お前の行動は十分間違っている。それすら気付けない時点でお前は国王失格だ」
俺は今まで何人もの「王」と呼ばれる人間に会ってきている。そのどれもが国民を大切にし、分け隔てなく愛を注いできていた。一部間違った考えを持つやつもいたが、それでも自分の味方である連中には真は通していた。
しかしこのマルクという男にはそれがない。
何を考えているかもわからず、何をするにしても中途半端だ。よくもまあそれで国王の座に座ってられるな、と感心してしまうほどだ。
だが、その言葉が今まで平然としていたマルクの雰囲気を変えてしまう。
一瞬にして目が鋭くなり、俺への殺気が体全体から迸ってくる。
「………ほう?お前ごときが王を語るのか?平民のお前が?」
「生憎と、お前より高次元の王にあったことがあるからな。そいつらと比べればお前はまだまだ若いよ」
「………」
「………」
このマルクという男の中にある「王」という存在がいかなるものなのかは知らないが、どうやらその単語がマルクの逆鱗に触れたらしい。普通の人間であれば今のマルクのさっきだけで失神してしまうだろう。
それだけの気迫と威圧がこの場に流れていた。
だが、こちらも腐っても神々の王。神妃の名を冠する絶対最強の神だ。加えてエリアやキラ、その他様々な王族と関わってきている俺からすれば今更こんな殺気、どうというものでもない。
ゆえに俺はそんな殺気を打ち消すような威圧をマルクへぶつけていく。無言のまま視線だけがぶつかり空気がどんどん乾燥していった。
しかしそんな空気をマルク自身が不服そうに壊してくる。眉間にしわを寄せながら機嫌を損ねたような表情を浮かべてこう呟いてきた。
「………ちっ。どうやら本当にお前は数々の修羅場を乗り越えてきているようだな」
「さあな。だが少なくともお前のように温室にこもっているだけの生活じゃなかったことは確かだ」
「いちいち感に触る野郎だ。………だが、まあいい。この話はどこまでいっても終わらないだろう。お互いに非を認めない限りは、な」
「だろうな。だが、だからこそ俺はお前を許すつもりはない。いずれちゃんとお前に引導を渡してやる。ここで戦うことも考えたが、さすがに人の目が多すぎるからな」
俺はそういうとエルテナをマルクの首から離し、その体を解放していった。マルクは俺から解放されたあと、首を軽く回して体をほぐすと、またいつもの調子に戻ってこう切り返してきた。
「さて、そろそろ本題に入るとするか」
「本題?」
「ここで会ったのは本当に偶然だ。単純に俺もここ日本で流行っているタピオカなるものを食したかったからな。それを欲してここにきている」
「は、はあ………」
「と思っていざ食してみたわけだが、これが素晴らしく美味!ゆえに先ほどまでテンションが上がりっぱなしだったわけだ!がははははははははははははははは!!!」
「………」
こ、こいつ………。
気持ちの切り替え早すぎないか………?さっきまでの殺伐とした雰囲気は一体どこへ行ったんだよ………。
俺はそんなマルクの態度に呆れていたのだが、マルクはどこから取り出したかもわからないタピオカを手に持ちながらそれを喉に流していく。一応補足しておくとタピオカは俺が知る限り、今が第一ブームではないはずだ。数年前にも流行っているし、それどころか俺が知らないさらに昔にもブームは起きていたと聞いたことがある。
まあ、この世界は俺が知っている世界ではないし、そのあたりの歴史は少々誤差があるのかもしれないが、そこまで珍しい食べ物じゃないことは今の俺でも断言できた。
だというのに、この騒ぎよう。
まるで子供のようなそのテンションは見ているこっちがバカバカしくなってしまうほど陽気なものだった。
しかしマルクはここで俺たちが予想していなかった言葉を放ってくる。
「それにしても我が姫は元気にやっているのか?」
「「ッ!?」」
「そこまで驚くことか?我が姫の性格を考えれば深手を負った今、お前たちに助けを求めるのは至極当然。対魔人兵器の威力は俺も知っているからな。いくら我が姫が魔人尾中で最強だとしても、あの兵器には勝てんだろう」
「………そこまでしてお前はあの神器が欲しいのか?」
「無論だ。そのためならどんな手だって使う。例えば油断している我が姫のホテルを爆破する、とかな」
「………それがお前たち帝人のやり方なのか」
「帝人全てが俺のような行動をとるかと言われればそうとは言えないが、少なくとも俺と我が姫の関係はそれがまかり通ってしまう関係性と言えるだろう。俺たちには浅からぬ因縁がある。そして俺は俺の目的を達成するために我が姫を襲っているだけだ」
その言葉に嘘はないように感じられた。
マルクの言葉に珍しく力が入っているような気がしたからだ。
俺や妃愛もミストとマルクの関係を深く知っているわけではない。精々同じ師匠を持っていたというぐらいしか聞いていないのだ。そんな俺たちが二人の関係に割って入ろうとはとてもではないが思えない。
だが、さすがに今のミストを放り出すことができなかったのも事実だ。
ゆえに俺は声に力を込めてこう言い放っていく。
「俺たちは今回ミストに協力することにした。だからお前とは敵同士。その意味がわからないお前じゃないだろう?」
「無論な。お前もわかっていると思うが、その少女に俺が声をかけたのはあくまでお前たちの気を引くためだった。それが果たされた今、お前たちを手を組む理由はない」
「ならここからは全面戦争だ。馴れ合いじゃれあいは………………って、なんだよこれ?」
そんな俺の言葉を遮るようにマルクは自身の着ているマントの中から一枚の紙を取り出して俺に投げつけてきた。その紙には住所のような何かが記載されており、他には何も書かれていなかった。
するとマルクは俺たちに背を向けながらこう呟いてくる。
「ただ、そうは問屋が卸さないらしい」
「どういう意味だ?」
「今渡した紙はいずれ『第四の柱』が現れるであろう場所だ。んで、俺が何を言いたいかというと………」
「ま、まさか、一緒に戦えっていうのか?」
「その通りだ。俺と我が姫のいざこざはさておき、俺たち帝人の役目は皇獣を討伐することにある。その紙に書いてある情報は俺が第四の柱を追い続けてなんとか入手した情報だ。我が姫が持つ神器を王にも邪魔者がいると集中できない。だから今は手を組んで第四の柱を討伐しないか、と提案している」
「………その提案を俺たちが飲むと思っているのか?」
言ってしまえばその提案は妙だ。
このタイミングで協力を持ちかけてくる時点で怪しいのに、第四の柱の情報自体信憑性に欠けている。それなのに協力しろなんて言われても素直に頷けるはずがない。
なのだが。
マルクはむしろその返しを待っていたかのようにこう呟いてきた。
「いいのか?ここでお前が引き受けなければそれこそ多くの人間が死ぬことになるぞ?」
「言っている意味がわからないんだが?」
「簡単なことだ。第四の柱は今までの五皇柱とは一味も二味も違う。ゆえに戦力は多い方がいい。もしお前が参戦しなければそれだけ被害が大きくなってしまうかもしれないということだ」
と、マルクが呟いた瞬間。
俺がマルクの部下にかけていた気配創造の鎖がいきなりはじけ飛んだ。それと同時にマルクの姿がこの場から消えていく。空気に解けるように霞んでいくマルクに俺は手を伸ばしながら言葉を投げ続けた。
「ま、待て!も、もっと詳しく説明を………」
「最終的な判断はお前に任せる。だが後悔することになるかもしれん、とだけ言っておくぞ」
その言葉を残してマルクはこの場から消え去った。
気配も魔力も何も辿れなくなってしまう。
この場に残された俺と妃愛はただただ呆然とマルクの言葉を半数させることしかできなかったのだった。
そして。
これより。
麗奈のときとはまた違った戦いが幕を開けるのだった。
次回はミストがメインになります!
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次回の更新は明日の午後九時になります!
 




