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第九十七話 vs勇者、二

今回はキラ視点になります!

では第九十七話です!

 ハクが勇者一行の拓馬を吹き飛ばしたころ、南の村門に向かったキラは、里に広がる絶望の色を目に映しながら無表情で空中を浮遊しながら進んでいた。

 その場にあるのは赤い血痕と剣や魔術を打ち合う音。

 それはキラの感情を黒いものに変え、ますます身に宿る力を増長させていった。


(まったく人間という種族は………。戦に何を求めて戦火を広げる?そんなことをしたところで血涙しか生まれないというのに………)


 キラはその光景を眺めながら、自分の主の姿を思い浮かべる。


(やはり、マスターという存在が特殊なのか?どんな人間とでも分け隔てなく関われる、あの器が……)


 キラの体と心は既にハクに捧げた。それは今も後悔しておらず、精霊の女王たる自分が尽くすに値する人間だと心の底から認めている。

 だがそれが特異であり、今目の前に広がっているものが人間の本性なのかもしれない、そうキラは思い始めていた。

 野望は戦を生み、戦は殺しを生む。

 その事実は長い間生命を見守っていたキラからすれば当然のことではあるが、せっかくハクに出会って認識が変わり始めていたときに、この事態だ。

 キラは自分の心に渦巻く嫌な思い出と目の前の惨劇を照らし合わせ、顔を歪めた。

 だがそれをキラは頭を振り削除する。


(いや、そうではないか。暴走しているのはあの帝国のものたちだけ。エルフたちに罪はない。今の妾はそれくらの判別はつく)


 ハクと契約する前のキラならば、問答無用で戦に関わる人間を根絶やしにしていただろうが、今は違う。

 あのハクとの決闘からキラは変わったのだ。実力の差を弁えず、立ち向かってきたあの青年がキラを変えたのだ。

 破壊することが全てではない。その力は何かを守るためにも使えるということを教えてくれた。

 であれば。


(妾の目標はあの帝国兵だけ。それ以外は全て死守しよう)


 キラは里門の上空にたどり着くと、そう心に決め、地上の様子を確認する。

 するとそのときキラの感覚はある一つの気配を捉えた。

 それは神格ではなく、まぎれもない神の気配。

 その気配は暗黒を溶かし込んだように黒く、煉獄のように熱い。感じられるのはハクの魔力。

 その存在はアリエスたちの方角に向かい、ゆったりと空に漂っている。


(なるほど、アリエスたちのためにマスターが呼び出したのか。まったく自身も神に限りなく近くなっているというのに、まさか本物の神まで作り出すとは、つくづく規格外だな、我がマスターは。……………では、こちらも始めようか)


 キラの方角には、ハクの魔力は感じられない。またあのような神もついてきてはいない。それは一見すれば心配されていないようにも見えるが、それは違う。

 ハクはキラを信用して何の手助けも用意しなかった。

 そのことを理解したキラは、ようやく背中を預けられたことに顔を綻ばせると、そのまま圧倒的な神格を纏わせて地面に降り立った。


 そしてキラは目の前でキラの登場に驚いている帝国兵に向き直ると、こう宣言した。


「妾がわざわざ出向いたのだ。それなりに楽しませてくれよ、人間?」









 キラが地面に降り立つと、そこには瀕死の二人のエルフが倒れこんでいた。その傷はとても酷いものであり、必死に戦い抜いた様子が見て取れる。

 キラはそのエルフに治癒の根源を使用した。

 それは暖かい風を呼び起こし、すぐさまエルフたちの体を包み込む。その風はハクの言霊には敵わないが、ある程度の傷は一瞬で塞がった。

 いきなり自分達の傷が塞がったことに困惑するエルフたちは、顔を上げキラを見つめるとそのまま疑問を問いかけた。


「あ、あなたは、一体………」


 対するキラはというと、真っ直ぐ前を見つめたまま顔すら振り向けず単調に答える。


「喋るな。いくら傷が消えたといっても体にはダメージが残っている。ここは妾に任せておけ」


 するとキラはそのエルフたちを守るように帝国兵の前に立ち塞がり、戦闘を開始した。


「吹き飛べ」


 その言葉は強力は魔力が込められており、爆風を呼び起こす。それは空の雲さえも弾き飛ばす威力で、何千人といる帝国兵を順に吹き飛ばした。


「「な!?」」


 キラの後ろにいるエルフの二人は驚きの声をあげて、その光景を見つめていた。それもそうだろう。一見すれば、か弱い綺麗な少女が言葉を呟いただけで戦況をひっくり返したのだ。これは俄かに信じられる事態ではない。


「人間風情が、精霊である妾に敵うと思ったか?」


 その後もキラは有象無象と群がる帝国兵を蹴散らしながら前進する。その様子にエルヴィニア秘境を取り囲む木々は喜びに打ち震え、花々は嬉しそうに咲き誇る。

 それはキラという精霊の女王を全ての自然が応援している証拠だった。


「ま、まさか!?」


「あ、あなたは、き、キラ様、ですか!?」


 ここでようやくエルフたちがキラの主体に気づく。その顔は尊敬の念と申し訳ない感情でいっぱいになっていた。

 そもそもエルフは精霊を崇拝する種族だ。その精霊の頂点に君臨する女王が今、自分達を助けるために戦っている。

 それはエルフたちの心を刺激し、なんともいえない気持ちに変えるのだった。

 キラはそんなエルフたちに一度だけ振り返り、言葉を紡ぐ。


「フッ、気にするな。妾はお前達を責めたりしない。むしろよくここまで頑張ったな」


 キラはそう言うと、包み込むような笑みを浮かべてエルフたちを見つめた。

 その姿はまさに女神のように輝いており、神々しさと慈悲深さの両方を兼ね備え、その場に君臨していた。


「「は、はい!」」


 エルフたちはその圧倒的な存在感にただ頷くことしか出来ず、キラをただ只管見つめる。

 その瞬間、帝国兵の中なら一人の少年が姿を現した。


「なんだなんだ!?いきなりとんでもない音が聞こえたぞ!?お前ら何してやがる!」


 その少年は帝国兵の一人にそう問いかけながら、ぼさぼさに伸びた髪の毛をかき回しながらキラの目の前に登場した。


「そ、それが、あの女がもの凄く強くて………」


「女だあ?」


 そしてその少年の目線はキラに向けられる。その視線はいぶかしむようなものだったのだが、キラを見た瞬間その雰囲気が一変する。


「へえ、なかなか可愛い顔してるじゃねえか。こりゃ今日はついてるぜ」


 その言葉と同時にエルフたちがキラに注意を促す。


「き、キラ様!あ、あいつは危険です!」


「す、直ぐに退避を!」


 と言いながら駆け寄ってくるエルフをキラは右手で制し、そのまま口をあける。


「慌てるな。ここにいるのは精霊の女王たる妾だぞ?恐れるに足らん」


 キラの言葉は明らかに強者の自信から来るものだったが、その目には一滴の慢心も感じられず、その気迫はエルフたちを下がらせた。


「お前がここの統括者か?」


 キラはその口調の荒い少年に向かって問いかける。


「ああ、そうだ。そういうお前はまたエルフを守ろうとするなんて馬鹿なこと言うんじゃないだろうな?」


「いや、まさか。そんなことは言わない」


「ほう、なかなか頭のいいやつだ。そういう奴は嫌いじゃない。それなら俺と一緒に来ないか?ついてくればいい思いさせて………」


「勘違いしてないか?妾はエルフを助けるのではない。ただ、お前達帝国のものを蹴散らすだけだ」


 瞬間、キラの根源がその少年を直撃した。


「があああああああああ!?」


 少年は勢いよく吹き飛び身を焦がす。その根源は当然キラの中でも最底辺に位置するのだが、通常の人間が喰らっていいものではない。

 根源とはキラのみが使うことが出来る魔力の大元となる力だ。それは魔力よりも濃厚な力の塊であり、百パーセントの還元率をほこる世界の因子だ。

 それは極微量でも魔力の何倍もの威力を叩き出す。

 当然その攻撃を受けた少年はただではすまないはずなのだが、その予想は大きく裏切られた。


「………いつつ、可愛い顔してるから油断した。少し効いたぜ、今の攻撃?」


「ほう、立ち上がるか」


 キラはその光景に少しだけ眉毛を上げると、そのまま少年をにらみつける。


「なるほどな、この強さならこいつらが通用しないのもわかる気がするぜ。ま、それでも俺には敵わないけどな」


 と隣にいる帝国兵を指差しながら、少年が口を開く。


「随分と余裕だな」


「当たり前だろ?なんてたって俺は勇者だからな。」


(勇者か………。それが何かは知らないが、あの身から迸る力は確かに特殊なようだ)


 キラはその少年を一目見たときから、その力の存在に気づいていた。それはキラの目を持ってしても解読不能な能力であり、その少年がいかに特異な存在かを物語っていた。


「俺の名前は、山杉正悟。異世界から召喚された勇者の一人だ!だがら、降参するなら今のうちだぜ?ここからは手加減できないからな」


 その正悟と名のった少年は、そのまま肩に担いだ大剣を抜き放ち、キラの目の前に構えた。


「フン、やれるものならやってみるといい。その剣が妾に当てられればな」


 その瞬間、キラがもう一度根源を打ち放つ。

 それは先程よりも遥かに強力で、直撃すれば間違いなくその命を吹き飛ばす威力を秘めていた。

 だが。


「甘いぜ!」


 その攻撃は正悟に当たる前に大剣によって弾かれてしまう。

 そのまま正悟は大剣を力強く振りかぶり、キラの体目掛けて攻撃を放つ。

 それはキラからすれば止まっているも同然な攻撃だったのだが、瞬間その剣がありえない起動を描いた。

 先程まではキラの横腹を狙っていたのだが、今はキラの首に真っ直ぐ突き進んできている。


「ッ!?」


 キラはその攻撃に対して初めて焦りの色を滲ませて後退する。しかし完全にはかわしきれなかったようで、ツーと赤いラインがキラの頬に作られた。


「やるな。俺の攻撃をかわす奴なんて初めてだぜ」


「お前、何をした?」


 あのような動きをする剣は、おそらくハクであっても不可能だろう。もちろん超高速で動かせばそのように見せることも出来るだろうが、それはあまりにも無理がある。

 であれば今の攻撃はなんなのか。

 ぐにゃぐにゃと曲がるように攻撃の軌道を捻じ曲げるそれは、もはや人間業とは思えなかったのだ。


「これは俺のスキル、屈折境界だ。俺の剣はいくつも剣の虚像を見せながら突きつけられる。それは絶対必中の攻撃になり相手を穿つ。はずだったんだが、まさか避けられるとはな。ますます気に入ったぜ。あのエルフの女もよかったが、お前の方がそそられる!」


 その言葉と同時に今までよりも速いスピードで正悟はキラに向かって突き進む。

 その剣はもはやエルフたちや帝国兵には目視できず、ただ何かが走っている、という程度にしか認識できなかった。

 

 だが、そこに一人だけ、表情を変えず佇む精霊がいた。

 その精霊は目を細めながら、なんの準備をするわけでもなくその場に立っていた。


「これで終わりだぜ!」


 正悟がキラの目の前に迫り、勝利を確認した顔でそう呟く。

 確かにこのままキラが何もしなければ、正悟の剣は届いたかもしれない。

 しかし、戦闘とはたかだか一ヶ月程度の訓練でどうにかなるほど甘いものではない。それは今の正悟に最も足りていないものであり、戦いをただのゲームと勘違いしている現代から召喚された勇者の弱点でもあった。


 その瞬間、キラの口元には笑みが浮かんでおり、その口は殲滅の言葉を謳うのだった。




根源の爆撃マタタキハハカイノウタ


 その根源はキラの言葉と同時に、正悟とキラの間に展開され、巨大なレーザー砲の様な攻撃を放つ。

 それは爆音と爆風を伴って、正悟と全ての帝国兵を吹き飛ばし、地面に大きな破壊痕を残しながら霧散した。

 それはキラが戦闘を始める前から、練り始めていた根源の証であり、時限式の術式であった。

 この戦いは魔武道祭のような試合ではない。

 であれば、どのような策を用意しようとそれは全て武器に変わる。

 それを理解していなかった正悟はまんまとキラの思惑に引っかかったのだ。


「粋がりすぎだ、人間。能力に絶対の自信を寄せるから、こうなる」


 キラは一言だけそう呟くと、吹き飛ばされた正悟と帝国兵を見つめながら、自分の主の姿を思い浮かべた。


(こちらは無事に蹴散らした、そちらはどうなっている、マスター?)


 そのときのキラの嬉しそうな表情は誰にも見られ事はなかった。




 こうして全十一人の勇者の一人が倒された。

 キラは捕らえられているエルフたちを開放すべく、その場から離れたのだった。




 残る勇者の数、十人。


次回はアリエスサイドに移ります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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