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第九十話 三つ巴の予兆

今回はマルクという存在に迫っていきます!

では第九十話です!

「「なっ!?」」


 その言葉の意味を理解した瞬間、俺と妃愛は椅子から飛び跳ねるようにマルクと名乗った男から距離をとった。さすがに俺に数ヶ月鍛えられているだけあって妃愛の動きにも磨きがかかってきている。俺に遅れることなく丸くから遠ざかった。

 しかし対するマルクとミストは何事もなかったかのようにこちらを見つめていた。というかミストに関してはなぜそれを知らなかった?とでも言いたげな表情でこう呟いてくる。


「まさかこの人の正体、知らなかったのですか?」


「し、知るわけないだろ!なんか豪華そうな服着てるし、偉そうだし、どこかの貴族なのかな?ぐらいは思ったけど、まさか一国の王だなんて聞いてないぞ!」


「まあ、知らなかったっていうなら初耳でしょう、当然。とはいえ、対戦が始まってからもう四ヶ月は経過しているというのに、他の帝人の情報を集めないとはなかなか呑気に構えているんですね。それはさすがに拍子抜けです」


「わ、悪かったな………。こっちにも色々あるんだよ………」


 主にこの数ヶ月の間、俺は妃愛の鍛錬と日々の家事に打ち込んでいた。そうすることが最優先目標だったこともあるが、この世界において戸籍も人権もない俺にはそれくらいしかすることがなかったという背景もある。

 今は妃愛の家にいて、ある程度事情を理解して泊めてくれているからいいが、それがなくなってしまえば本当に俺は住む場所がなくなってしまう。妃愛によって俺の存在意義というものが確立している以上、先に述べた仕事は何が何でもこなす必要があったのだ。

 というか。

 そんな話をしている場合じゃない。

 こうしてマルクが帝人とわかった以上、ここには三人の帝人が集まっていることになる。麗奈が脱落したことを考えると全体の半分以上の帝人が妃愛の家に集結しているのだ。その事実は正直言って無視できるものではない。

 ミストが説明してくれたように帝人の目的が皇獣の討伐と同じ帝人の抹殺だとすると非常に危険な状況だ。仮にここで戦闘が始まっても誰も文句は言えない。

 マルクという男から感じられる雰囲気は確かに普通ではなかったが、まさか帝人だとはさすがの俺も思っていなかったためこの状況はかなり驚いていると言えるだろう。

 加えて。

 ここにきてもう一つ気付かされたことがある。

 この世界は確かに俺がいた現実世界に似ている。

 妃愛が住んでいる国は確かに日本だし、同じ人間はいないまでも法律や国の仕組み、都道府県やその他の町なんかも俺が知っているものとほぼ同じだった。

 しかし。

 俺はマルクが治める「ネビュリアルス」という国を知らない。

 俺が知らないということはリアも知らない。

 つまり俺がいた現実世界には存在していなかった国ということだ。

 ゆえに確信する。この世界は確かに現実世界と似ているが、どこかが確実に違う世界だと。もっと言えば、俺がいた世界とは似ているようで何もかもが違うのだと。

 そう思い知らされた。

 となれば、俺が知っている世情を武器に舌論することはできない。この世界に生きる住人が知っている常識を打ち崩すことなんてできないということだ。

 そう考えた俺は慎重に思考をまとめながらゆっくりと言葉を口にしていった。


「………マルク、とかいったな。お前は一体何が目的なんだ?どうしてここにやってきた?」


「質問が多いな。仮にも俺は王だぞ?下民どもの戯言にいちいち答える義務はない」


「お前が言ったことだ。俺たちは帝人だから対等な立場でいようって。その言葉に嘘をつくつもりか?」


「俺は『お前たち』など一言も言っていないぞ?強いて言えばこの場にいるあの金髪の少女と我が姫が俺と対等な立場と言えるか………。だがお前はその中に含まれていない。帝人でもないお前がこの俺に口答えするなど言語道断だと、そう思わないのか?」


「だったらどうした?命をかける戦いっていうのは最終的には力の大小が勝負を分ける。それが武力なのか知力なのかはさておき、俺は今のお前にその力も負ける気はしないぞ?」


「………」


「………」


 睨み合い。

 両者一歩も譲らない威圧のぶつけ合いが起きる。

 一瞬にして部屋の空気が乾燥し、肌がピリピリするような重たい圧が部屋全体にのしかかった。

 その空気は柔らかな笑みを浮かべていたミストお顔さえ怪訝なものへと変え、冷たい風を流していく。妃愛はいくら俺が鍛えているとはいえ、さすがにこのような雰囲気を直に味合うことは少なかったため、膝を震わせているようだ。

 しかしその空気はそのままマルク自身によって破られた。


「………ふっ。いい、いいぞ。なかなかそそる坊主ではないか。我が姫が認めただけのことはある」


「………ミストが認めた?」


「気づかなかったのか?先のセカンドシンボルとサードシンボルの戦い。あれはやろうと思えば我が姫一人で解決できたレベルの話だ。実際にそうしなかったのは、お前たちが相手にしても負けないだろうという確信と己の力を隠すための策。その様子だとそれにすら気がついていなかったようだが、まあ及第点には届いていたようだな」


「………」


 なんとなくだが。

 実際のところミストが俺たちの様子を見ていたことは気がついていた。

 確信はなかったが、麗奈たちと戦っている途中にどこからか俺たちを見ているような視線を感じていたのだ。それが何者によるものなのかはわからなかったが、神妃化の力をセーブしながら戦っていた俺にはその目に注意を向けている暇はなく、結局正体がわからないままずるずるとここまでやって着たというわけである。

 だが今のマルクの口ぶりを聞く限り、その目の正体はミストだったようだ。まあ、ミストは正直言って何を考えていてもおかしくなさそうな雰囲気は感じるし、実際常識を超えた思考能力を持っているのだろうからそれくらいのことはやってきてもおかしくないだろう。

 俺はそう考えるとマルクに俺の質問への答えを急かさせるように無言を貫いていく。それを察したのかマルクは大きなため息をつきながらようやく俺に視線を合わせてこう返してきた。


「わかりきったことを言わせるお前の気がしれないが、俺がここにやってきた目的は一つしかない。それは当然帝人の殺害だ。此度の対戦の白包は全部で三つあると聞く。その三つ全てを手に入れたいと考えている俺からすれば、そう動くのは当然だろう。正直なところ皇獣など二の次で構わん」


「………国王のくせに皇獣は野放しにするのかよ。皇獣を放っておけばお前が守るべき民も死ぬんだぞ?」


「意味がわからんな。この国は俺が治めている国ではない。であればこの国の民草がどうなろうと俺の気にするところではないわ」


 ………悔しいが的はいている。

 国王は神ではない。世界全ての平和と幸福を守るべき存在ではないのだ。ゆえに今のマルクの意見はどこにも否定する要素はない。外交的な側面を見ればもっと攻めるポイントが出てくるのかもしれないが、生憎俺にはさっきもいったようにそのへんの知識が現実世界よりになってしまう。

 それでは肝心なところでボロが出る可能性も否めない。俺がボロを出すということは、俺の正体が露見してしまうということだ。この状況で俺の正体をつかめている人間は妃愛以外にいないだろうが、ほかの世界に関する情報をこぼしてしまうとどうなるかわかったものではない。

 ゆえに俺はマルクの言葉を否定することも肯定することもせず、次の質問をぶつけていくことにした。


「………だったら、ここで俺たちと戦うか?言っておくが、ここには同じ帝人のミストだっている。三つ巴をご所望なら受けて立つぜ?」


「若いとはいいことだな。さすがの俺もそこまで血気盛んではない。今日はただ単にお前たちの様子を見にきたのだ」


 若い?

 何を馬鹿な。お前だって十分若いだろうが………。

 と思ってしまったがそれは口に出さない。

 マルクの見た目はそれこそ二十代前半くらい。今の俺とほとんど大差ないくらいの見た目だ。いや、まあ俺は十八歳で身体年齢が止まっているためマルクよりは若く見えているはずだが、それにしてもマルクも相当若く見えている。

 だがそんなマルクに対して俺は挑発と恨みを込めてこう切り返していった。


「それにしては随分と用意周到だったみたいだな。この家のエアコンをことごとく破壊して俺たちの疲れを誘ってたみたいだが?」


「確かに初めはそれも考えていた。あまりの暑さでお前たちが疲弊していたらそれこそここで首を取ろうと思っていたのだ。とはいえ、以外にもお前たちは丈夫だった。我が国の気温を考えるとこの暑さは致死レベルだと踏んだのだが………」


「一体どんな国に住んでるんだよ、お前………」


 確かに今の気温は暑いがさすがに死ぬレベルではない。そんな暑さになっていてはもはや外に出ることすら叶わないだろう。

 と、冷静に考えていると。

 横からミストが嫌味を言うようにこう吐き出してきた。


「でも、この人が私たちを殺そうとしているのは本当ですよ?隙あらば首を取りに来ます。どうせ今もこの家の地下とかに爆弾でも仕掛けてるんでしょう?」


「さすがは我が姫!その思考能力は感嘆に値する!」


「な、なにっ!?」


「ちょ、ちょっと待って!?」


 ミストとマルクは平気そうな顔して話しているが、こちらとしては冗談じゃないと言ってやりたい。この家の地下に爆弾なんてものが仕掛けられていたら俺たちはともかく、ここら周辺は一気にクレーターと化してしまう。

 その危険性に気がついた俺はすぐに魔眼を発動して爆弾の気配を探っていった。

 しかし。


「………あれ?ば、爆弾なんてどこにも………」


「そんなもの仕掛けるはずがないだろう。これは我が姫のジョークだ」


「こ、こいつら、一度殺されたいらしいな………」


 俺はそう言いながら再び湧き上がってきた怒りを抑えながら拳に力を入れていく。もう一度マルクの顔を殴ってやりたい衝動に駆られてしまうが、ギリギリのところでなんとか踏みとどまっていく。

 だがそんな俺に向かってミストはこう返してきた。


「でも、もし次にこの人と出会う時はそれくらい平気でしてきますよ?彼は親切なのですよ、いつも。誰かと戦う時、一度目は様子見に程度の低いいたずらを仕掛ける。今回であればエアコンの故障がそれですね。ですが、それが終わってしまうと彼は容赦がない。次に戦う時はあなたがたの命を平気で消しに来ます」


「………つまり俺たちは完全になめられてるってわけか」


「そうではない。単純に俺が殺すべき存在か見極めていただけだ。この程度のいたずらにさえ気づけないのであれば俺が直に殺す必要などなくなってしまう。意味も意義もないものに手を出す趣味はないのだ」


 マルクはそう呟くとそのあとに「だがまあ」と付け加えて座っていた椅子から立ち上がった。そして続けてこう返してくる。


「お前はそれなりに楽しめそうな気がした。観察力は正直言ってまだまだだが、それ以上にお前が持つ『その力』が気になる。それは十分に俺を楽しませてくれそうだ」


「………」


「というわけで様子見はこれで終了だ。この後は我が姫を愛でるために時間を使うとしよう」


 するとマルクはいきなり体の向きを変えてミストに向き直る。そして両手を大きく広げながら猛スピードで抱きついていった。


「さあ、我が姫よ!俺との至福の時間を始めようではないか!」


「なんでそうなるんですか!というか、お断りです!あなたのような野蛮人とどうして私が………」


「野蛮は時に勇敢なものだぞ?動かない人間よりは動く人間のようが美徳がある。少なくとも俺はそう思っているぞ?」


「どういうこじつけ理論ですか!?え、ええい、もういいです!すでに逃走経路は整えました!」


 ミストはそう言うと、何かしらの能力を使って自分の姿をこの場から消していく。自らの体を煙のような何かに変化させたミストはそのまま俺たちに向かってこう告げてきた。


「彼はこう見えてかなり強いですよ?今後あなたがたとどう関わってくるのか、それは私にもわかりませんが、少なくともあの月見里麗奈よりは強いと思っていた方がいいかもしれません」


「なに?」


 そう言い残してミストは消えてしまう。

 だがそれに合わせるようにマルクも意味のわからない言葉をわめき散らしながらこの場から立ち去ってしまった。


「なんだとおおおおおお!くそ、我が姫は本当に逃げ足が速い!お、お前たち、今すぐ追いかけるぞ!逃走経路はすでに調べがついているだろうな?我が姫を取り逃がすなよ!」


 その声に合わせて大量のSPたちが動き出す。

 もはや何かの部隊を見ているような雰囲気になってしまった俺たちは壊れた壁をさらに破壊して出ている彼らを見送った後、半ば呆然としてその場に立ち尽くしてしまった。

 そして俺と妃愛はお互いに顔を見合わせた後、揃ってこう呟いていく。




「「いや、せめて壁くらい直していけよ!」」




 というのが俺たちとマルクの出会い。

 だがこの出会いがさらなる戦いに俺たちを誘っていくことになる。


次回は別の人物に焦点を当てます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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