二周年記念 変わった日常、五
すみません、今回だけじゃ終わりませんでした……。もう一話だけ続きます!
ではどうぞ!
「さあさあ、よってらっしゃいみてらっしゃい!三年二組のたこ焼きはいかがですかー!」
「あ!お姉さんお姉さん!漫画でも描いてかない?今ならとびっきり優しいイケメンが丁寧にサポートしてくれるよ!」
「はいはーい!金魚すくいに水風船、昔ながらの日本の屋台、それを完全に再現した二年七組の模擬店はこちらでーす!」
「記念撮影行ってまーす!今なら一緒にわたあめも販売してますよー!」
「参加自由!景品多数!とっても魅力的なクイズ大会の開催会場はこちらでーす!ちなみにダブルチャンスとしてビンゴもやってまーす!」
と、意識せずとも活気溢れる声が響いてくる我が高校。
黄色い声とはまた違うが、文化部が主役となって開かれる文化祭とは思えないほどのエネルギーが校舎の中に溢れかえっていた。
文化部が主役と言うものの、各クラスの持ち物もしっかりと存在しており模擬店やイベント、はたまたモニュメント作りや発表会、それこそ何をやっても怒られない自由空間を全校生徒全員で演出しているようだった。
そんな空気の中を俺とアリエスは並んで歩いている。当然だがアリエスは黒髪に瞳も黒色に変えて変装を整えていた。こうでもしなければ今のアリエスの美貌はあまりにも目立ちすぎる。せっかく文化祭を楽しみたいと思っても、そんなことで騒ぎになっていては楽しむものも楽しめない。
なのだが。
等の本人はまったく自覚がないようで、模擬店やイベントスペースに立ち寄る度にその笑顔を振りまき続けていた。
「………おいおい、さっきの子。むちゃくちゃ美人じゃないか?」
「ああ。見た所まだ中学生っぽいけど、子役として女優やってるっていっても俺は信じるぜ。でも、あんな子テレビで見たことないんだよな………」
「きゃあー!何あの子、すっごく可愛いんだけど!同じ女子として嫉妬しちゃうくらい綺麗だよー!」
「え、で、でもその隣に歩いてる男子、うちの生徒だよね?付き合ってるのかな?それにしては貧相っていうか、地味っていうか………。もっといい男いると思うのにね」
「それ私も思った!も、もしかして無理矢理とか………?だ、だとしたら一大事じゃん!ど、どうしよう………」
どうしようと言われても、むしろ俺がその言葉を返したいぐらいなんだが………。というかいくら変装して隠蔽術式をかけても結局その美貌は消せなかったという事実に俺は驚きを隠せないんだが………。
という戸惑いというか疑問が俺の心の中に浮かんでいく。いや、まあ、確かにアリエスは可愛いし、可愛いし、可愛いんだが、それでも一応隠せてる自信があったのでさすがに凹んでしまう。
だがそんな俺を置いていくようにアリエスは俺の隣で黒い怨念のようなオーラを放ちながら一人で何やらぶつぶつ呟いていた。
「………ハクにぃを悪くいう人は嫌い、ハクにいを悪くいう人は大っ嫌い。嫌い、嫌い、嫌い………」
「ひぃっ!」
おっと、失礼。つい心の声が。
いや、いやいやいや!
怖いよ!怖すぎるよ!なんだか知らない間にアリエスがメンヘラ………げふん。え、えっと、す、少し愛が重たくなっているような気がするんだけど!?
と、冷や汗をかいていた俺はアリエスの機嫌を戻すために手に持っていたチョコバナナをアリエスの口に突っ込んでいく。それによって「むぐっ!?」という声とともにアリエスの言葉が遮られ、瞬時にその顔がふにゅふにゅと柔らかくなっていく。
「んんーっ!このチョコバナナ、美味しい………!ねね、ハクにぃ!これあとでもう一回買いに行こうよ!」
「あ、ああ、そうだな………。そ、その前にとりあえずここから一旦離れようか………」
周囲の視線が痛すぎる。
男子高校生が女子中学生くらいの少女を文化祭で連れ回しているシチュエーションがそもそも問題なのに、明らかに俺の容姿が釣り合っていないせいであらぬ誤解まで招いてしまっている。
さすがにこの場にとどまり続けるのは得策ではないと判断した俺はアリエスを連れて逃げるようにこの場から立ち去っていった。
では次はどこへ向かうか。
文化祭というイベント場、基本的にどこに言っても目立つものは目立ってしまう。とりあえずアリエスが食べたそうにしている食べ物を適当に買い込んだ俺は、できるだけアリエスが目立たない場所を探しながら校舎を歩き回った。
とはいえ今回の目的はアリエスに文化祭を楽しんでもらうことなので、彼女が気になるものがあればその意向はできるだけ汲み取っていく。だがそれは結局またしてもアリエスの容姿に注目を集めさせてしまう要因となり、俺の頭をどんどん悩ませていった。
で、結局。最終的に俺が泣きついた先というのが。
「私たちのクラスだったってこと?なんというか我が兄ながら情けないというか………」
「う、うん、そ、それは俺も自覚はある………。でも、さすがにここまで話題になっちまうとなあ………。迂闊には出歩けないんだよ」
「ま、まあわからなくはないけどね………。アリエスさんて可愛いし綺麗なんだけど、いかんせん純粋すぎるっていうか、心まで真っ白っていうか………」
「うーん!もきゅもきゅ………。美味しいー!(声にならない声で)」
とまあ、幸せそうに口を動かしているアリエスを見ながら交わされたこの会話からわかるように今、俺たちがいるのは我が妹、赤紀のクラスだ。
赤紀のクラスは校庭で水鉄砲を使った体験型のアトラクションを催しているらしいのだが、その中でも赤紀は学級委員長らしく、教室から校庭を見渡してクラスメイトにディレクションを出しているらしい。
なんという重役………と、最初は思ってしまったのだが今は逆にそれが救いだった。というのも赤紀以外のクラスメイトは全員が校庭に出張っているため、この教室には赤紀以外誰もいなかったのだ。
加えて文化祭といえど模擬店やイベントで使用していない部屋には生徒でもそうそう立ち入ることはできない。ゆえに俺たちは赤紀に助けを求めるようにこの場所にやってきたのである。
「と、とにかくほとぼりが冷めるまでここにいさせてくれよ………。もし何か買ってきてほしいものがあったら買ってくるからさ」
「んー、今は別にいいかな。クラスの子が気を利かして色々と差し入れ持ってきてくれるし、むしろお兄ちゃんはアリエスさんの近くにいた方がいいよ。なんか噂だと文化祭の実行委員会がアリエスさんを探して構内を徘徊してるらしいから」
「実行委員会?どうして連中が………」
「ミスコンだってさ。お兄ちゃんはもう三回目になるからわかってると思うけど、うちの高校は文化祭の終盤にミスコンが毎回行われてるの。多分、そこにアリエスさんを参加させたいんじゃない?あれ、飛び入りオッケーだったし」
「ああ、なるほど………。確かにそいつは今以上の面倒ごとになりそうだな」
俺はそう呟きながら頬を引きつらせると手に持っていたなぜか青いコーラを喉に流していく。エスニック風ドリンクを売っている模擬店があったので気になって買ってみたのだが、これがまたかなり美味いという予想を超える味を叩き出してきた。
と、その時給に教室に備え付けられているスピーカーにノイズが走り、生徒からするとお馴染みの放送部の声が聞こえてくる。その声は妙に張りがあり、かなりテンションが上がっているようだった。
『はーい!どもども、みなさんこんにちは、放送部からのお知らせでーす!この放送では本文化祭で注目すべき点、ホットなニュース、その他様々なトピックをお伝えしていきまーす!』
「………放送部か。相変わらず張りきてるなー」
「まあ、うちの放送部は全国大会にも出場するくらいだかね。そりゃ気合も入るよー」
『本日お伝えすべき最もホットな話題は何と言ってもあの「螺旋奏音」さんのライブイベントでーす!午後二時から第一体育館で開催される本イベントはなんと未公開の新曲を含め、メジャーデビュー目前と言われている彼女の様々な楽曲を一つ一つ披露していただけそうです!………なんでも芸能界からスカウトがくるとかこないとか、そんな噂もあるそうですよ!』
「あー、なんか機能も守がライブがどうとか言ってたな。これのことを言ってたのか。随分と派手なイベントだな………」
「まあなんて言ったってうちの高校のアイドル的存在だからね。楽屋がわりになってる会議室の前なんて外部からのファンで人だかりができてたよ」
「う、うへえ………。そ、そんなに人気なのか………。これはライブやってる時は体育館に近づかない方がいいな」
と、俺は思っていたのだが。
その話を聞き逃さなかったものがいた。
急に背後に気配を感じた俺は瞬時に振り返って身を翻そうとしたのだが、俺は肩をがっちり掴まれて身動きが取れなくなってしまう。それと同時に彼女の綺麗な顔がぐいっと寄せられて俺の顔と体は一瞬にして固まってしまった。
「なにそれ、面白そう!私も行きたい、行きたいよ、ハクにぃ!」
「あ、アリエス………!そ、その、近いっ!近すぎるっ!」
「え?あ、ああ、ご、ごめん………」
するとアリエスは自分がいかに俺と接近していたのか気づいたらしく、顔を真っ赤に染めながらゆっくりと俺から離れていった。なんだかアリエスにしては珍しい反応だったので変な新鮮さを感じてしまうが、そんな俺の近くでニヤニヤしている赤紀視線が俺の心を逆に落ち着けていく。
照れを隠すように咳払いをした俺は改めてアリエスに向かって話しかけていった。
「こ、こほん………。えー、そ、それでなんだが、本気で言ってるのか、アリエス?今の話聞いてただろ?その螺旋奏音ってこのライブは超絶人が集まるらしいんだ。そんなところに乗り込むなんて正気の沙汰じゃ………」
「それでも行きたいの!だってライブってルルン姉がよくやってあれでしょ?だったら私も見てみたい!」
「あー、ルルンね………。う、うん、まあ、確かに似てるっちゃ似てるけど………」
似てるには似てるがあれはどちらかといえばこちらの世界でいう「アイドル」に近い。比喩表現ではなく、そのスタイルや曲のジャンルがかなり明るいのだ。
対して螺旋奏音のパホーマンスジャンルはどちらかというとロックに近い。学校のアイドルなんて言われてるが、それは類い稀なる美貌とその地位から言われている例えであって活動ジャンルはアイドルとは程遠いと言わざるを得ないのだ。
ゆえにアリエスの期待しているものがそこにあるかと言われると正直言って難しかったりする。俺も別に音楽に詳しいわけではないがそれでも方向性の違いくらいはわかっているつもりだ。
なのだが。
それを説明しても異世界人であるアリエスに伝わるはずがない。あちらの世界にも多種多様な音楽ジャンルは存在したが、それでもロックはなかった。そもそも電気がない世界で電子楽器なんていうものは生まれない。
ゆえに螺旋奏音が得意としている音楽ジャンルをどう説明すればいいのか、それが一番の難所だった。
しかしここで思わぬ奇襲が俺に降りかかってくる。
「いんじゃない、お兄ちゃん?せっかくアリエスさんがライブ見たいって言ってるんだし付き合ってあげればいいじゃん。それに彼女がメジャーデビューなんてしちゃった日にはそれこそ二度とお目にかかれないよ?」
「ま、まあ、それはそうなんだが………。人混みの中に入るとまたアリエスに注目が………」
「だたら今度は本気で気配でも姿でも隠せばいいでしょ?それとも天下の神妃様がそんなこともできないっていうのかな?」
「ぐっ………」
そう言われるとまったく反論できない。実際できなくはないから余計に困ってしまう。そんな返事の返せない俺にダメ押しを食らわせるかのようにアリエスがさらに食いついてきた。
「………ハクにぃ、だめなの?」
「う、うぐ………」
ず、ずるい。これはずるい。
潤んだ瞳で上目遣い。加えて以前より大きくなっているその豊かな双丘が服の間から………。
って、いかんいかん!何を考えているんだ、俺は!
と、とはいえ、ここまで言われてしまうとさすがに断りづらい。というかこれ以上アリエスに詰め寄られたら本当に心が持たない。
そう判断した俺はため息をつきながら渋々頷いていった。
「はあ………。わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「やったー!ありがとうハクにぃ!」
とまあ、結局押し切られてしまったわけだが男なんて単純なもので、喜ぶアリエスの顔を見たときにはもう、渋っていたことなんてどうでもよくなっていたのだった。
次回こそこの幕間終わらせます!
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次回の更新は明日の午後九時になります!




