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二周年記念 変わった日常、二

今回はハクの学校生活を描きます!

ではどうぞ!

「ふわあぁ………」


「眠そうだな。昨日しっかり寝なかったのか?」


「いや。そういうわけじゃない。ただちょっと時差ボケがな………」


「はあ?何言ってんだ、お前?」


 赤紀に学校があると告げられて数十分後。

 俺は学校の教室にある自分の席に腰掛けていた。そんな俺の前には腐れ縁の小堂守が座って降り、いつも通りの雰囲気で話しかけてくる。神妃に時差ボケなんてあるわけないのだが、人間としての習慣が残っている俺からすると朝学校に向かうというだけで眠気は襲ってくるものだ。

 加えて今日は異世界で何時間かそれなりに過ごしてしまっているので疲れは一応溜まっている。ゆえに時差ボケ。眠くなるのは当たり前だし、この学校に満ち溢れた溢れんばかりの活気には萎えてしまう。

 だが今日は少々その空気が違っていた。

 いつもよりさらに活気に溢れてるというべきか。すれ違う生徒全ての顔に笑顔が宿っており、中には小躍りしそうなくらいテンションが上がっている生徒もいる。まあ、それもそうだろう。なにせ今日は高校生活で三度しかない文化祭の前日なのだ。

 つまり今日は準備日。

 各々クラスの出し物や文化部関連の準備が大詰めに差し掛かっている時期である。

 ちなみに俺たち三年六組の出し物はテントを立ててその中で料理を振る舞う屋台、というか出店だ。しかもその品目は焼きそば。野郎飯に代表される焼きそばだが、今日という日は男女関係なく飛ぶように売れる。つまり人気店になってしまうのだ。品目が品目なだけに俺たちクラスはかなり気合を入れているようで総出で準備に取り掛かっていた。

 かくいう俺はここ数日、姉さんの件や異世界での仕事が山積みになっていたので我が担任のシェリーに相談して一番楽なポジションにつけるように頼んでおいた。

 実際のこの現実世界では姉さんの一件は数ヶ月前に起きた出来事になっているのだが、世界の時間軸をいじっている関係上、俺にはその一件が昨日のことのように感じてしまっている。その間、俺は肉親の急病ということで学校を外していため、戻って来てみればなぜか急に文化祭の話が進んでいたというオチだったのだ。

 ゆえに色々と疲れが抜けきらないまま迎えてしまった今日なのだが、楽な仕事に割り当てられている以上、もう文句は言えない。俺はそう考えると、朝のホームルームにやってくるシェリーを待ちながらひたすら窓の外を眺め続けた。

 するとそんな俺に向かって守がいきなり話しかけてくる。


「なあ、知ってるか?あの歌姫、螺旋奏音ちゃんの話」


「名前は知ってる。珍しい名前だからな」


「ってことは彼女が何者なのかも知ってるのか?」


「いや、それは知らん。というか俺がそういう話に疎いことはお前もわかってるだろ」


「まあな。だけどさすがに学校一の美少女兼歌姫の噂ぐらいは知ってるんじゃないかと思ってたんだが、そういうわけでもなかったみたいだな」


「で、そいつがどうしたって言うんだよ?」


「なに、この文化祭で奏音ちゃんが軽音部のボーカルとして歌うんだと。なんでも芸能界のスカウトも見にくるらしぜ?」


「へー、たかが高校の文化祭でご苦労なこった」


「ず、随分と冷めてるな………。お前まさか美少女に興味ないとか言いだすんじゃないだろうな?」


「何を馬鹿な。俺だって健全な男子高校生だ。異性への興味ぐらい人並みに持ち合わせてる。だがまあ、その螺旋奏音とかいう女子に興味がないのは当たってるな。そもそも顔と名前も一致してないし………」


「かー!これだから可愛い妹ちゃんがいるやつはムカつくぜ。どうせ今日も『いってらっしゃい、お兄ちゃん!』とかいうスマイルを頂戴してきたんだろ?どうりで奏音ちゃんの話題に興味を示さないわけだ」


「あの赤紀がそんなことすると思うか?言っておくが俺と赤紀の家の中での立場は逆だからな。俺が完全に下。言い訳のしようがないくらい立場がない」


「へいへい。朝からお熱いな、お前たち兄妹は」


 だから、俺たちはそんなアニメに出てくるような兄妹じゃないだっての。

 と、ついつい口を挟みたくなってしまうが、そんあことをすれば余計に守が騒がしくなってしまうと思い、俺は口をつぐんだ。

 ただ実際のところ、俺がその螺旋奏音という少女を知らなかったのは事実だ。言ったように名前は聞いたことがある。その名の通りというか、なんでも色々なライブハウスやイベントにボーカルとして参加しているらしく、その美貌も相まって芸能人でもないのにファンが大勢いるらしいという学内トップの超有名人物だ。

 だがそれ以上の情報は知らない。

 顔だって見たことがあるのかもしれないが記憶にないし、顔と名前はまず間違いなく一致しない。

 加えて興味がないというのも当たっている。別に赤紀に惚れ込んでいるわけではないし、女性に興味がないわけでもない。

 ただアリエスを始め異世界で出会った数々の女性を見てしまうと、やはり見劣りしてしまうのは否めない。ものすごく失礼なことを言っている自覚はあるが、今更アリエスを差し置いて他の女性に目を向けろと言う方が無茶な話なのだ。

 よってそんな高校生活特有の話を守ると繰り広げた直後、教室の扉が開いて廊下からシェリーが姿を現してきた。


「はーい、みんなー。席についてー。ホームルーム始めるわよー」


 その声に従うように教室に散らばっていた生徒たちは一斉に自分の席に着席していく。それと同時に案の定クラスにいる男子たちはシェリーの顔を見てへにゃへにゃと顔を歪めているが、それももう見慣れてしまったのでスルーした。

 実に寂しい生き方をしていると思われるかもしれないが、俺の身の回りで起きてきた出来事があまりにもインパクトがあったのでこうならざるを得ないというのが正直なところだ。

 命がけの戦闘はある意味俺の日常感覚を狂わせているのである。

 まあ、そんなこんなで出席をとったり今日の予定を確認してホームルームが終われば、案の定学校全体が文化祭ムードに包まれていった。俺たちも前日ということもあって材料を買い込んだり当日の流れなどを確認する時間が続く。

 んで、俺はというと。

 一人で教室に残り、金の管理をしていた。

 シェリーが俺に配役した仕事とはこの三年六組というクラスの出し物において発生したお金の管理だった。本来ならそれは担任であるシェリーが行う仕事なのだが、現場に入る以外これ以上に楽な仕事がなかったため、シェリーはこの仕事を俺に振ってきたらしい。

 作業自体はみんなが提出してくる領収書やレシートをまとめてシェリー所有のパソコンに打ち込んでいくだけなのだがまあ、楽な仕事と言われてるだけあってやることが少なすぎる。

 本番になればどれだけ売れたとか、赤字か黒字かなんて話が持ち上がるのだが、それも文化祭が終わってからの集計になるので、この期間は本当にすることがなかった。

 ゆえに俺は窓の外から校庭を見下ろしてせっせと準備に勤しんでいる生徒たちの様子をうかがっていく。特段何があるわけでもなく、「ああ、あんな部活あったんだ。あ、あのクラスはこんな出し物をするんだ」程度の感想しか湧いてこない。

 だがこれが俺の元いた世界の日常だ。常に命を狙われたり、剣を持って戦うなんてこととは無縁の生活。どこまでも平和なのどかな日常だった。


「………これはこれでいいもんだな。最近は色々と立て込んでたし、心と体を休めるにはもってこいだ」

 と、心の言葉を漏らしていると。


「あ!やっぱりここにいたのね。どう?お仕事進んでる?」


「………なんだ、シェリーか。まあ、ぼちぼちだな。というかほぼ終わったから暇してたところだ」


「そう。だったら少し付き合いなさいよ。生徒から色々と食べ物もらったから一緒に食べましょ?」


 そう言ったシェリーの腕には確かに大量の食べ物が抱かれていた。たい焼きにたこ焼き、チョコバナナにフライドポテト、かき氷に唐揚げ、綿飴に焼き鳥。ザ・文化祭と言いたげなメニューが並んでいる。

 まあ、確かにこの量の品をシェリー一人で食べるのは無茶だろうと思って俺もいくつか受け取ることにした。


「にしてもこれまたすごい量だな………。全部試作品か何かか?」


「ええ。なんでも毒味兼味見ですって。なんで私がって思うんだけど、まあこういうのって断れない主義だから困ったものよね。あ、このたこ焼き美味しい………!」


「ん、こっちの唐揚げもそこそこ美味いな。まあ、多分冷凍ものなんだろうけど、それなりにしっかりしてる」


「あなた、それ絶対に作った子たちの前で言うんじゃないわよ?わかってると思うけど彼らにとってこの文化祭は命と同じくらい大切なものなの。そんなこと言ったら殺されるわよ?」


「わかってるよ。いくら俺でもそんな無謀な真似はしない」


「そう。ならいいんだけど。………で、話は変わるけど、最近どうなのかしら?」


「というと?」


「ブラックキャノルの一件からそれなりに経ったけど、調子はどうなのかしら、ってことよ」


「別にどうもしないさ。こっちの世界に来たり異世界に行ったり。それなりに忙しい生活が続いてるな。………ああ、それで言うと今日はアリエスが家に来てるぞ。今は留守番させてるが」


「アリエス?アリエスってあなたが前に話してた異世界で出会ったっていうアリエス?」


「ああ。というかそれ以外に誰がいるんだよ」


「そっか、そうなんだ。それじゃあ私も仕事帰りにその子の顔、拝んでいこうかしら。少し気になるもの」


「気になる?どういうことだ?」


「前に赤紀ちゃんが言ってたのよ。そのアリエスって子は将来自分のお姉さんになる人だ、って。随分嬉しそうだったわよ?」


「………色々突っ込みたいところだが、それは察してくれると助かる」


 俺はそう言ってシェリーから受け取ったかき氷に手を伸ばしていった。その味が口の中に広がったと同時に、頭の中で家においてきたアリエスの顔を思い浮かべていく。

 まさか今日学校に行くことになるとは思っていなかった俺はアリエスに家に留守番しているように言いつけて家を出てきた。右も左もわからない世界にアリエスを放り出す気にはなれず、少々気は引けたがおとなしく家で待ってもらうことにしたのだ。

 まあ、明日になれば学校の文化祭も始まるし一緒に来てもらってもいいかなとは思っているのだが、今日はいかんせん文化祭前日だ。さすがに今日この場に連れてくるわけにはいかない。

 とはいえ仮にアリエスをこの場に連れてくることになったとしても、変装と隠蔽術式は必須になる。先にも言ったが今のアリエスは学校一美人だと称されている螺旋奏音とは比べ物にならないくらい美人だ、お前に白髪青眼という外人と思わせるような容姿をしている。そんなアリエスを学校につれてこようものならそれこそ大事件に発展してしまうだろう。

 そんなこんなでアリエスを家に待機させる形で学校にやってきていた俺だったが、そんな時やけに廊下が騒がしいことに気がついた。


「ん?なんだか声が聞こえるな?この場所はあんまり人が寄り付かないと思ってたんだが………」


「この区画はみんな生徒が他の場所に出張っちゃって閑散としてるものね。………でも確かに声が聞こえるわ。誰かやってきたのかしら?」


 と、俺とシェリーは首を傾げながらそんなことを呟いていたのだが、その理由はすぐに判明する。声の主は案の定大量の生徒たちで、その視線を足は俺たちがいる教室をさらに超えた先にある学校の入り口に向かって伸びていた。


「お、おい!誰だ、あの子!ものすごく美人だぞ!」


「しかもよく見たら目が青くて髪が白いぞ!外人さんかなにかか!?」


「きゃー!何あの子、可愛くて美人でスタイルも抜群。どこかのモデルさんかな?」


 その瞬間、俺の頭に嫌な予感が走る。

 目が青くて髪が白い。

 そんな人物俺が知る中で一人しかいない。いやいや、まさかな。だってあいつには家にいるように言ったんだぜ?それをこんな場所までやってくるなんてあるはずが………。

 と、思いながら俺は窓の外にいるであろうその人物に視線を向けていった。

 するとそこには俺が振り向いたことに気がついた白髪の少女が立っており、満面の笑みでこちらに手を振ってくる。

 それを見た瞬間、俺は手に持っていたかき氷を落としそうになって椅子から転げ落ちてしまった。

 だが俺には見えていた。その少女の背後に白と黒が混ざったような髪を携えている女性がいることを。


「ど、どうしたのよ、白駒?」


「あ、あんの、クソ姉貴があああああっ!」


 俺はそう叫んでかき氷を口の中に流し込むとそのまま教室を飛び出して白髪の少女、アリエスがいる場所へと走っていった。




 とまあ、こんな感じで、またしても俺に面倒ごとが降りかかってくるのである。


次回はハクとアリエスがメインです!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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