二周年記念 変わった日常、一
今回から数話に渡ってアリエスが初めて現実世界に来た時のお話を投稿します!
ではどうぞ!
これは姉さんの一件が終了し、俺が異世界へ帰還したあとの物語だ。もっと正確に言えば赤紀とリフトルギアの意見よりも少し前。異世界へ帰還して数日後の話である。
まあ、特段事件が起きたわけでもハプニングがあったわけでもない。ただただどこにでもあるような日常が流れただけ。………ああ、いや。異世界人が来ている時点でどこにでもあるとは言えないか。
っていっても本当にそうとしか言いようがないので困る。
というわけで、この物語はどこまでも山がない、谷がない、そんなお話だ。
それでよければ聞いてほしい。
神妃様のちょっとおかしな日常を。
「ってなわけでアリエスがどうしても俺の世界にきたいって言うからやってきたわけだが………」
「ふ、ふぇえええっ………!!!」
「来て早々、俺の部屋の中にあるものに目を輝かせて小動物のように俺の部屋ではしゃいでいるこの少女可愛すぎないかっ!?」
「ねえねえ、ハクにぃ!この薄くて黒い板みたいなのなんなの?ああ、それと、この文字はどうやって読むのかな!私の知らない文字で書かれた本みたいだし後で教えてほしいかも!………って、ここハクにぃがいつも寝てるベッドだよね?だったら飛び込んでもいいよね、いいよね?」
「あ、ああ、うん………。い、一体俺のベッドで何をするつもりかは知らないけど、別に止めはしないよ。っていうか、やっぱりこの小動物的可愛さは心を揺さぶられるな、おいっ!」
真っ白な髪がふわふわと揺れ、同じ色のワンピースをはためかせるその姿はどこの誰が見ても胸をときめかせてしまうものだろう。そう思ってしまうくらい今のアリエスは可愛かった。
いや、開口一番何を言ってるんだお前は、と思われてしまうかもしれないが、ようやく世界を救い星神を倒したのだからそれくらいの私服は許してほしい。別にアリエスに変なことをするわけでもなく、ただただ眺めているくらいの幸せはあってもいいものだろう。
まあ、それで痴漢扱いされてしまえばそれはそれで終わりなのだが。
アリエスに限ってそんなことはないと思っているが、さすがにこのままアリエスのテンションに合わせていると話が進まないので今は自分の心を落ち着かせることにした。
いやー、でもさ、すごく可愛いわけですよ、アリエスは。思春期真っ盛り、いや終盤といったほうがいいかな?そんな男子高校生の目の前にとびっきり美人な十四歳の少女が笑顔を向けてきてくれているなんて状況ははっきり言ってご褒美以外の何物でもないと思いませんか?
ん?それはもう犯罪じゃないかって?
いやいや何をおっしゃいますか。この現実世界に法律はあれど、異世界にそんなものはないんですよ旦那。いや、法律はあるけど、あるけど!
とはいえバリマ公爵ように未成年と婚約するなんてことは貴族の間ではザラだし、あちらの世界では結婚できないわけではない。こちらの世界で犯罪でもあちらでは正当化されるなんて事例は数えるのが馬鹿らしくなるほど存在する。
まあ、だからといって。
その一線を俺がこえるかというとまた話は別だが。さすがに未成年のアリエスに手を出すほど俺も落ちちゃいない。というか俺とそういう関係になってしまうということは色々と問題になってしまうので(アリエスの体の成長が止まるとかいうその手の話です)俺は今まで通りの関係を続けようと考えていた。
だがまあ、等のアリエスはそういうわけではなさそうで、異世界に帰ってからすぐに俺は彼女に告白されていたりする。その時はなんとか答えを濁したが、それをどういうわけか肯定と受け取ったのか、ついにアリエスはこんなところまで付いて来てしまった。
というわけで話を戻そう。
現在、俺はアリエスとともに赤紀と姉さんがいる実家、および現実世界に戻ってきている。何かを思い出したように俺の住んでいた世界に行ってみたいと言い出したアリエスが俺と一緒にこちらにやってきてしまったという流れだ。
まあ、それ自体は一向に問題はないんだけど、アリエス自身は俺家族への挨拶か何かだと勘違いしているらしく、常に笑顔が顔に作られている状況。加えて、目に映る真新しいものに目を輝かせて体をぴょんぴょん跳ねさせながら部屋を何十周も駆け回っていた。
さっきなんてパソコンの画面に顔を近づけながら「いたっ!?」とかいって額をぶつけていた。その可愛さと言ったらもう………、ああ、だめだ。この話をしていてはすぐに脱線してしまう。
まあ、そんなこんなで俺とアリエスは現実世界にやってきたわけだが、俺は俺のベッドに飛び込んで枕に顔を押し付けている変態少女の体を摘み上げると、ため息を吐き出しながらこう呟いていった。
「さあ、俺の枕をよだれまみれにする前にリビングへ行くぞ。多分赤紀も姉さんも待ってるから」
「むぎゅ!?………むう。そ、そういうことなら仕方ないね。で、でも今日はこのベッドで寝るんだから!約束だよ!」
「い、いや、さすがにそれは………」
なんて会話を繰り広げながら俺とアリエスは部屋を出て階段を下りながら二人が待ってるリビングへ降りていった。
時刻は午前六時半。
まだこちらの世界と異世界の時間のズレを完璧には修正できていないため、このような時間になってしまったのだが、それでも赤紀と姉さんは起きているようだ。気配がリビングの机付近に集中しており、何か喋っているらしい。
まあ一応事前にアリエスを連れていくことは話していたし、色々と準備もしてくれているようだが、気を遣わせてしまったのなら後で埋め合わせは必要だろう。特に姉さんは連日ブラックキャノルでの仕事が続いており徹夜続きだと言っていた。弟の俺からすれば少しぐらい体をいたわってほしいものだが、仕事が生きがいとなっている姉さんにそれを言っても無駄なことはこの数日で重々理解したつもりだ。
よって今は堂々と、というのは少しおかしいが胸を張ってアリエスを二人に合わせることにする。
俺とアリエスは階段を降りてリビングへ近づくと、その扉を勢いよく開いて中で待っていた二人の前へ移動していった。そして朝の挨拶とともにアリエスの紹介をしていく。
「おはよう、赤紀、姉さん。アリエスを連れてきたよ」
「おはよー、お兄ちゃん。アリエスさんてその後ろに………………え?」
「おはよう、ハク。んで、そのアリエスさんていうのはどこに………………は?」
「あ、あの、その、こ、こんにちは!わ、私、アリエス=フィルファっていいます!え、えっと、むこうではハクにぃに色々とお世話になって………」
で、その直後。
どういうわけか静寂が部屋を包んでしまった。
よく見ると赤紀と姉さんの顔が固まっている。一応二人にはアリエスがどんな存在で、俺とどういう関係にあったかは話してある。それに容姿や性格についても話してあるから別に驚くようなことはないんだけど、と思っていたのだが。
それこそが二人にとって誤算だったらしい。
アリエスが自分の自己紹介を終えた数秒後。
赤紀が俺の横に控えているアリエスに向かって飛びついてきた。何事か!と思って反射的に身を退けてしまった俺だったがそうしている間にもアリエスは赤紀の腕に捕まってしまう。
「きゃああああーっ!何この子!すっごい可愛いんだけど!?ほっぺたプニプニだし、肌だってすっごく白い!それに何この髪!?サラサラなんてものじゃないよ!手を通しただけでまとまってなんかすごくいい匂いするし!本当にお人形さんみたいっ!ね、ねえねえ!抱きついてもいい?抱きついてもいい?ねえ、ねえっ!」
「ふ、ふええ!?は、ハクにぃ、ど、うなってるのぉ………!」
「え、えっと、その俺にもよくわからないというか………」
というかやっぱり可愛いな、アリエスは。赤紀にほほをびよびよ引っ張られてる様も絵になるというか………。赤紀もアリエスのことよくわかってるじゃないか、これは息が合いそうだ。
………。
じゃなくてっ!
そういう問題じゃなくて!
いや、わかるよ!アリエスが可愛いのはわかるけどっ!
だからっていきなり抱きつくのは問題だろうがっ!いくら同性でもそれは色々と誤解されるだろうがっ!
っていうか、姉さんも、スマホ片手にアリエスの写真を撮るんじゃねえ!
「ふふふ………。これは私の新しい待ち受けになりそうね………」
「おい、人の知り合いを勝手に盗撮してんじゃねえよ。後で俺にも送ってくれ」
「ええ、わかったわ。というか今送ったから」
「サンキュー。………じゃなくってだなああっ!赤紀も姉さんも、アリエスにいきなりあにやってるんだ!少しぐらい礼儀を巻きまえろ!アリエスが困るだろうがっ!」
「え?何言ってるの、お兄ちゃん。アリエスさんってお兄ちゃんの未来のお嫁さんでしょ?私の義理のお姉ちゃんなる人じゃん。つまりお姉ちゃんになるわけ。わかってる、この意味?」
「だああああああっ!先走りすぎだ、くそ妹がああっ!そもそも俺とアリエスはまだそんな関係にすらなってねえよ!」
「ありがとうございます!私もお二人と家族になれて嬉しいです!」
「おい、待てえい!アリエス、お前もそっちサイドのなのか!?また俺をはめようとしてるのかっ!?」
とまあ、そんな会話が初っ端から展開された我が家のリビング。その中ではさらにこのくだりが続き、それが終わる頃にはアリエスと赤紀、それに姉さんはすっかり打ち解けていた。
とはいえさすがに筋は通せ、と俺が無理矢理二人とアリエスを引き離したことでこの場は収拾がついた。その際に赤紀と姉さんにはどうしてそのような行動に出たのか問い詰めたところ、あまりにもアリエスが可愛く美人だったので思わず飛びかかってしまったらしい。
まあ、それに便乗してアリエス自身もあたかも俺と結婚したかのような雰囲気を醸し出していたためもはやお相子なのだが、とにかく俺の喉が悲鳴を上げていたのは言うまでもない。
というわけでようやく机につけた俺たちだったが、赤紀がちょうど朝食を用意していたこともあってすぐに朝飯の時間となった。今日は異世界人であるアリエスにも馴染み深いようなパンをメインにした朝食で、綺麗に焼かれたトーストとベーコン付きの目玉焼き。それにトマトが入ったサラダに牛乳とコーンスープ。というかなり一般的なラインナップになっていた。
実を言うと、異世界には魔物の肉や、俺の知らない野菜などを食べる習慣もあるが、俺たちが食べている普通の食材なんかも存在している。ゆえにアリエスがこちらの食事に困るということはなく、箸が使えないという点以外特に問題はなかった。
この点は数日前にリアが初めてこのリビングに実体化した時に経験済みなので、違和感なく過ごせたと思う。
するとここで赤紀が俺とアリエスを見ながらこんなことを呟いてきた。
「そう言えば今日はどうするの?せっかくアリエスさんが来てるし、どこか行く気なの?」
「そうだなー。………って言っても行くあてがないんだよなあ。このあたりはそんなに面白い場所もないし、だからといって遠出するわけにも………」
「まあ、お兄ちゃんは引きこもりのニートだからね。学校以外は部屋にこもるのが日常的な高校生に女の子を楽しませるデートなんてできるわけないよね」
「お、おいっ!そこは少しくらい兄をたてろよ!お、俺だってその気になればデートスポットの一つや二つくらい………」
「そういう考えになる時点であなたはいろんなものに敗北してるのよ、いい加減諦めなさい」
「いつにも増して冷たいな、姉さんは!?」
それから。
俺たち四人は朝食を取り終えて各々の準備を始めていった。
俺は料理が乗っていた皿を洗い、姉さんはシャワーを浴びに浴室に行ってしまう。赤紀とアリエスは何やらテレビを見ながら会話しているようだ。
とはいえ皿洗いはそれほど時間のかかる作業ではないため俺もすぐにアリエスたちの中に入っていこうと考えていたのだが、ここでおもむろに赤紀が立ち上がった。
それを疑問に思った俺はそれを言葉に出してしまう。
「どうした、赤紀?どこかいくのか?」
「はあ?どこってそりゃ、学校だよ、学校。今日は平日だよ?」
「な、なに!?」
「お兄ちゃんはてっきりアリエスさんが来てるからお休みするんだと思ってたけど、まさか違ったの?」
そう言われて俺は急いでカレンダーを確認する。
するとそこには黒い文字で曜日を表す単語が書かれていて………。
「ど、どうしてそれを早く言わないんだっ!いつもだったら俺が学校休もうとしてたら注意するだろう!?」
「いや、だってせっかくアリエスさんきてるし、今日くらいはいいかなって」
「どうしてそういうところでは気が回るんだっ!?」
まあ、何が言いたいかというと。
ここに来て俺は学校という存在を忘れていた。
確かに赤紀のいうように今日くらいは学校を休んでも問題ないのかもしれないが、俺には休めない事情があった。
簡単にいうと。
今日は俺が通う文化祭の前日だったのである。
次回はこの続きになります!
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