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第九十四話 第三神核、四

今回は色々なことが発覚する回になります!

いずれ全て回収するのでしばしお待ちください!

では第九十四話です!

 絶滅する乖離の剣(アニシオン)

 その剣はリアが保有する神宝のなかでも有数の破壊力を誇る武器である。その力は強大ゆえ一度現界してしまうと、空間が壊れだす恐れがあるほどだ。

 赤黒い刀身はまるで血を溶かしたような斑点が薄く滲んでおり、剣にひびを入れるかのごとく無数の赤いラインが刻まれている。

 それは所有者の鼓動と同期すかのように輝きを強弱させ、武器としての風格をオーラとして放ちながらその場に佇んでいた。

 この絶滅する乖離の剣(アニシオン)には能力が全部で三つ宿っている。

 その一つはレプリカにも受け継がれている防御不可という力である。読んで字のごとくなのだがその一刀はいかなるものでも切り刻み、防がれることはない。もし仮にこの剣の攻撃を防ぎたいのならばエルテナのような、その力を完全に相殺できるものを用意しなければならない。

 しかも今俺の手に握られているのはレプリカではなくオリジナル。

 生半可なものでは一瞬にして両断されるだろう。

 そしてその他の能力は、今は使わない。

 それらはどちらとも防御不可とは比べ物にならないほど強力で、それこそ使用すれば次元境界が一瞬で崩壊し、空間ごと吹き飛んでしまう。

 神宝とはその全てが絶滅する乖離の剣(アニシオン)と同レベルで強力であり、何の影響もなく使用できるリーザグラムはかなり例外な部類に入る。基本的には強大な力は周りに何かしらの被害を生じさせてしまうのだ。

 というわけで俺は絶滅する乖離の剣(アニシオン)を現界させると同時に、プチ神妃化を実行し、その力で次元境界の強度を限界まで引き上げた。

 これによって絶滅する乖離の剣(アニシオン)は問題なくこの空間に存在することができ、俺はなんの気兼ねもなくこの剣を振るうことができる。

 俺はその剣を肩に担ぎながら神核を眺め、口を開く。


「さあ、暴れていいぞアニシオン。長い間眠っていたから本調子じゃないかもしれないが、遠慮なくその力を見せてくれ」


 絶滅する乖離の剣(アニシオン)はその声に答えるように赤く光を発しながら空気を震わしたのだった。





「あれで倒せるかな………」


 ハクに絶離剣レプリカを投げたアリエスはそう呟きながら、絶滅する乖離の剣(アニシオン)を蔵から取り出したハクをじっと見つめていた。

 数分前。

 アリエスたちはキラを含めて、第三神核をどのように倒せばいいか只管考えていた。

 ハクの剣技を防ぎ、アリエスの魔術もキラの根源の証も効くことはなく、はっきり言ってアリエスたちの頭の中にはあの神核を打破する作戦はなかなか浮かんでこなかった。

 とはいえ考えなければ、ハクの体力が削られてジリ貧になっていくだけなので出来るだけ全力で頭を働かす。

 アリエスは魔本に書かれている魔術の中で効果的なものはないか探し、シラ、シルはサタラリング・バキを有効活用できないか悩み、エリアはハクとともに切りかかるタイミングを窺っていた。

 またキラとクビロは神核を眺めながら、その弱点を只管探し戦っているハクを見守った。

 結果的には完全なる打開策は浮かばなかったのだが、アリエスたちが最終的に目を付けたのは、そのアリエスの腰にぶら下がっている一つの長剣、絶離剣レプリカである。

 それはハクがアリエスに預けたものであり、防御不可の能力が宿っている。その威力はキラでさえ認めており、その能力ならば神核の破壊さえも壊せるのではないか、という結論に至ったのだ。

 キラの曰く、あの神核の身体能力の上昇は外部的な力をかき集めているようで、その力場を乱すことができれば道が開けるかもしれない、ということらしい。

 実際にアリエスたちはハクがその剣を使って様々な能力を切り落としているところを目撃しており、キラの言葉は真実味を帯びていた。

 というわけで、アリエスはハクにめがけて絶離剣を投げ飛ばしたのだ。

 実際はそのレプリカはほんの一瞬しか使われなかったのだが、絶離剣の力は予想通り神核に効果的なようで、その剣がハクの手に渡った瞬間、神核の表情が一変した。

 その目はハウの左手に握られている絶離剣レプリカに似た赤黒い長剣に向けられており、その剣は圧倒的な力を放ちながらハクの手に収まっていたのだった。


「あれが、オリジナルというわけか……」


 キラが目を細めながら呟く。


「そ、そのようですね………」


 シラが声を震わせながらキラに答える。

 その絶滅する乖離の剣(アニシオン)はこの空間に出現するたび、殺気よりも恐ろしい何かを迸らせながらハクの意思に従った。


「もう妾たちの出番はない。あれほどのものが出てきた以上、妾たちは邪魔なだけだ」


 キラは他のメンバーたちにそう告げると、ただ一点。その部屋の中心で余裕を取り戻した自分の主を見つめた。

 アリエスはその言葉に深く頷き、胸の前で指を組み、祈るようなポーズでその戦いを見守ったのだった。


(絶対に勝ってね、ハクにぃ………)


 アリエスたちにはただその光景を見ていることしかできない。もはや戦いの領域はその段階に移行していた。

 それはとても悔しいことだったが、それでもアリエスたちの心の中には自分達が一番信頼を寄せる青年をただ只管信じるのだった。






「神とはなにか、そう考えたことがある。神は全ての生命に祝福を与え、同時に罪をかす。それは何のためか。自ら作ったものを自ら裁くことに何の意義があるのか。俺も一時期そんな考えに至ったことがある。世界は常に無常で、不条理で、人間の望みなんて何一つ聞きはしない。それを恨み、憎み、人の存在意義だって無価値ではないかと考えたことさえある。だがそれは人間の夢でしかない。神だってこの箱に生きる一つの命だ。そう考えたとき神という役職が馬鹿らしくなった」


 俺はかつての自分の考えをつらつらと述べながらゆっくりと神核に近づく。

 プチ神妃化をしたことによって、髪色は金へと変わり、両目は鮮血を飲み込んだように赤い。

 その体から滲み出るのは、純白なまでの神の気配。

 それは神核に絶望を与え、周囲に漂う神核の魔力を吹き飛ばした。


「な、なにを言っている!?人間ごときが、神の気配を纏い、神を語るんじゃねえ!!!」


 神核の言葉は痛いまでの殺気が篭っており、すぐさま俺の前まで接近すると、黒い片手剣で俺を殺そうとしてきた。

 俺はその剣を絶滅する乖離の剣(アニシオン)で叩き折ると、そのまま神核に近寄る。


「な!?ば、馬鹿な!?」


「だからこそ、俺は第五神核の考えもわからなくはない。人に絶望し、神としての仕事を捨て自分の意思の赴くままに生きる。これは実に人間らしい神だ。だがな、それは怨恨だけで実行していいものじゃない。神は神として、人は人として、その運命がある。それは永遠に逃れられない楔。時の回廊。それから逃れるということは、それなりの覚悟を持っていなければならない。もしお前も軽い心で人類守護という鎖を断ち切っているのなら、それは今ここで俺がこの絶離剣を持って砕き折ってやる。何度でも、何度だって、俺はお前の前に立ちふさがるだろう。俺はこの剣を抜くことで、お前にそれだけの心意を要求する!」


 その言葉に答えるように、絶滅する乖離の剣(アニシオン)が唸りを上げながら、俺の手の中で回る。


「う、うるっせえええええ!!!たかが人間風情が神の、人の、俺の何がわかるっていうんだ!!!俺は人類の悪であるお前を殺す!それで全て解決するんだよおおおおお!」


 神核はそう叫ぶと、俺に向かって全速力で近づき、右手で渾身の一撃を繰り出してくる。それは本来ならエルテナやリーザグラムですら弾き返せない一撃だったが、絶滅する乖離の剣(アニシオン)はそれを容易く両断する。


「ぐがががががががががあああああああああああ!!」


「それがお前の心の弱さだ。星神に操られていようとそれを振り切るくらいの意志力を見せてようやく、神としても人としても上の領域に到達する!あいつは全世界の信仰をその身に受けながらも自分の意思を貫き通したぞ!!!」


 斬り飛ばされた神核の右腕はくるくると宙を舞いながら、地面に落下する。

 俺は今一度、金髪の少女との別れの場面を思い出しながら、残った左腕と両足を切断した。

 やはり絶滅する乖離の剣(アニシオン)の力だといくら神核といえど破壊も防御もすることは出来ず、紙を切り裂くかのような感覚で奴の四肢を切り裂いた。


「ぎ、はあ、かっ!?」


 もはや神核は肉体を切られる痛みによって声すら出なくなっており、意識も朦朧としているようだ。

 潮時だな、と俺は判断すると絶滅する乖離の剣(アニシオン)を鞘に収める。

 どうやら神妃化すると少々口調が変わり、少し熱くなってしまうようだ。これはリアの性格が少しだけ前面に出てきている影響でそうなっているのだが、よくよく考えれば今の神核に熱弁したところで奴はまったくもって理解できないのだ。

 久しぶりに絶滅する乖離の剣(アニシオン)を抜いたせいで調子に乗ってしまった。

 俺もまだまだ現役中二病なのかもしれない。


 ただ、最後に言ったあの言葉だけは俺の本心だ。

 あいつは最後の最後まで自分の意思を貫いて消えていった。俺はその心を強いと思うし、同時に目標にしている。

 それだけは偽りのない事実だ。

 俺はそう思いながら、地面に倒れ付す神核の側に近寄り、その胸にエルテナを突き刺す。

 その瞬間、バリンという音が木霊し、神核の中に潜んでいた何かが崩れ落ちた。


 こうして呆気なくも第三神核との戦闘は終了した。

 それは俺としての神のあり方を唱え、初めてこの世界で絶滅する乖離の剣(アニシオン)を使った戦いになったのだった。







「す、すみません………。ぼ、僕、戦いになっちゃうと気性が荒くなるみたいで………。本当にごめんなさい!!」


 俺たちはその戦場に残った四肢を切り飛ばされた神核を囲うように、その少年を眺めていた。

 戦いが終わってみれば神核は先程の荒々しい雰囲気を完全に消しており、極普通の気弱な少年に戻っていた。

 その姿を見ながらパーティーメンバーは各々俺に冷たい目線を向けながら話しかけてくる。


「ハクにぃ、こんな小さな子の体を切るなんて、最低」


「そうです!いくらハク様といってもこれは酷すぎます!」


 と、アリエスとシラが神核を守るように立ちふさがる。


「え!?おいおい、そいつはさっきまで俺たちを殺そうとしていた奴でだろ?なんでそんな態度に………」


「え?だって可愛いから」


 理不尽!

 一応そいつ四肢がなくて血まみれだよ!?なんでそれが可愛いってなるの!これはあれですか、みなさんそういう男の子が好みなんですか!?

 見れば他のメンバーもうんうんと首を縦に振っている。

 なんですか!?全て俺が悪いんですか!?俺だって痛い思いしてここまで追い詰めたんですけどね!?


「み、見ての通り、僕は、そろそろ限界です………。鍵に戻る前に………聞きたいことがあればどうぞ」


 おっと、それは確かに早くしたほうがいいのかもしれない。

 俺はその大人しくなった神核に近づき、質問を投げかける。


「それじゃあ、遠慮なく。このエルヴィニア秘境にあった第五神核の遺跡、あそこに書いてあったことは本当なのか?」


 俺の問いかけは神核の表情を一瞬曇らせると、苦虫を噛むように語り始めた。


「あれは…………。一部は事実です………。ですが間違いもあります」


「間違い?」


「あの遺跡ではおそらくいきなり第五神核は力をつけたと書かれていたと思いますが………それは違います。あれは元々持っていた力です。それをなぜか第五神核は使おうとしなかったんです。それがある日突然牙をむき人間を襲った。それは人間から見ればいきなり力を得たと勘違いしたんでしょう」


 それは実際に俺も疑問に思っていたことなので、素直に納得する。

 実力を隠していたのなら、その状況も辻褄が合う。

 だが問題はなぜその力を体が切り刻まれるまで使わなかったのかということだ。そこまでの絶望を背負う必要はなかっただろうに。

 俺はさらに聞きたい質問を神核にぶつける。


「次だ。俺のたまに出てくる凶暴な人格についてわかることはあるか?」


「ええ、その話は第一神核から聞いていましたので、僕なりに考えてあります。…………ですが、正直なところあなたも薄々気づいているのでしょう?あなた自身が唯一完全には統御できていない力。おそらく原因はそれにありますよ」


「ッ!?そ、それは本当か?」


「ええ、半ば確信があります。ですから次にその力を使うときは注意したほうがいいでしょう。なにせ使用していない状態でも表層に出てきている。これはかなり危険な状態です。下手をすればあなたの人格が消されてしまうかもしれない」


 その言葉を聞いていたパーティーメンバーは全員が言葉を失い、目を見開く。

 唯一アリエスだけは、俺の体に引っ付いて顔をローブに埋めているが、それでも確実に心配してくれているのがわかった。


「では、僕は………もうそろそろ鍵に戻ります。第五神核はおそらくあの気性ですから星神でも舵を取れないはずです。それゆえあまり心配しなくていいでしょう……。彼女は動機がなければ動きませんから。………それと」


 神核は一度言葉を切ると、その幼い顔に深々と皺を寄せ、こう呟いた。





「なにやら地上が騒がしいです。急いで戻ったほうがいいでしょう」


 その瞬間、ダンジョン全体を揺らすほどの振動が部屋中に響きわたったのだった。


次回は地上に戻ってあの人たちと戦闘です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日中です!

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