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第七十三話 vs第三の柱、一

今回からサードシンボルとの戦いが始まります!

では第七十三話です!

 一目見た瞬間。

 ああ、これはダメだ。

 そう思ってしまった。

 今の彼女には「生きる意志」がない。どれだけ傷が回復しようと、どれだけ魔力が戻ろうと、どれだけ気配が充実しようと、本人に生きる意志がなければもうどうしようもない。

 俺がいかに全能の力を持っていたとしても、体と心にそれを受け入れる意志がないのであれば、それはもう手のつけようがない。

 だが逆に言え何かが彼女をそんな状態になるまで追い込んだということだ。そしてその原因ははっきりいている。目の前にいる皇獣。ガイアの顔と体を模倣し俺の様子を楽しそうに窺っている五皇柱の一体。

 その名も第三の柱(サードシンボル)

 こいつは麗奈の奥の手として呼び出された皇獣だ。奥の手というだけあってその見に宿している気配は常識をはるかに超えた大きさになっている。妃愛をかばったガイアを吸収しているのだからある意味当然と言えば当然なのだが、この世界で今まで戦ってきたどの皇獣よりも強いことは明らかだった。

 そして、その後ろに控えているカラバリビアを担いだ麗奈。おそらくだが、彼女はこの悲劇の全ての元凶だ。具体的な事情までは知らないが、まず間違いなく彼女が麗子や貴教に何かした結果、今という状況が作り出されている。

 もしかすると麗子が閉じ込められていたであろうあの血濡れた部屋も彼女が指示したものなのかもしれない。

 そう思うと、俺は急に冷静になってしまった。はらわたが煮え繰り返りそうな怒りは当然消えていない。だが、その怒りがどんどん静かなものへと変わっていき、最終的に赤嘘待っていた世界が色を取り戻したのだ。

 そして俺は息を吐き出す。赤い視線がサードシンボルに向けられ圧倒的な威圧を打ち出していった。


「ッ!?へえ………。こいつがお前の力ってわけか………。ひゃひゃひゃひゃひゃ!だが、それがどうしたっていうんだよぉ!今の俺は最強だ!どんな皇獣にも人間にも、神にだって負けはしない!それが俺なんだよぉ!!!」


「ガイアを喰らった結果、偶然得てしまった力で大口を叩くとは。慢心も甚だしいな。まあ、お前が馬鹿なおかげで俺は存分にやれるわけだが」


「ああん?お前、誰にもの言ってるか、わかってんのか?」


「当然だ。麗子の体に住まい、正規と魔力を吸い取ったのち、ガイアまで吸収したクソ皇獣だろ?ここまで悪に振り切られてるやつなら、俺も手加減はいらない。最高の力で捻り潰してやる」


「ちっ。言わせておけば………。おい、女!………殺っていいんだな?」

 その言葉は背後にいる麗奈に向けられる。麗奈はそれを待っていたと言わんばかりに頬を歪めて、こう返してきた。


「ええ。肉片一つ残さず滅ぼしなさい。何をしようがあなたの勝手よ」


「ひゃひゃひゃひゃ!だってよ、お前、終わったな。この俺がお前の相手をすることがどういうことか、思い知らせてやるぜ!」


「だったらさっさとかかってこい。お前と仲良く駄弁る気はまったくないからな」


「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ!」


 次の瞬間、ガイアの形をしたサードシンボルは猛スピードで移動し、俺の目の前まで接近してきた。そして魔力で作り出したであろう光剣を俺に振り下ろし、強力な一撃を放ってくる。


「はああああっ!!!」


「………」


 しかしその攻撃を俺は素手で受け止めた。正確には人差し指一つだけ。その関節の間にやつの剣を挟み込むようにして威力を全て殺していく。


「な、なにっ!?」


「どうした?この程度、驚くようなことじゃないだろ?それともなんだ、お前の力はこんなものなのか?」


「な、なめやがってっ!」


 するとサードシンボルはそのまま光剣を引き抜いて無数の連撃を叩き込んでくる。しかしその全てが俺の指によって弾かれ、挙句の果てにやつの光剣が真っ二つに折れてしまった。それはやつの態勢を大きく崩し、致命的な隙を作り出してしまう。その隙を好機だと思った俺は、すかさずやつの懐に入り込んで右足を下からなめるように動かして顎を蹴り上げていった。


「………でりゃあああああっ!」


「ごふっ!?」


「ついでだ。これも受け取れっ!」


 振り上げた足を軸に体を回転させた俺は、そのまま左足の踵で放心状態のサードシンボルの顔を蹴りつけていく。その二連撃は美しいガイアの顔を完全に破壊し、地のような紫色の液体を周囲に撒き散らしていった。


「がはあああっ!?………ぐ、ふ、ひゃ、ひゃひゃひゃっ!痛ってえ、痛ってえなあ………。これが、痛みってやつかよ………。ひゃひゃひゃ、こいつは初めての感覚だ。燃えてきたぜえっ!」


「………さすがにガイアを喰らっただけのことはあるか。瞬時に傷が再生している。どうやら本当に姿形だけじゃなく、その力も吸収してやがるみたいだな」


「当然だ。人間なんて陳腐な存在を喰らうより、あのガイアとかいう神を喰らう方がよっぽど美味いってもんだ。味も格別だったぜ?舐めれば舐めるほど唾液が滴るような舌触りのいい肌。そして全てをしゃぶりつくしたくなるような骨と肉もなっ!ひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


「………」


 ガイアは確かに喰らわれてしまった。その力もその姿も、何もかも奪われてしまった。

 だが結局、あのガイアは俺の力を使って顕現させていただけに過ぎない。いくらこいつがガイアを喰らっても、その命だけは俺が管理している。

 ゆえにやろうと思えばいくらでもガイアは復活できるわけだ。だが、ここで不用意に他の神々を召喚すればまたしてもこいつの餌食になる恐れがある。だから俺はあえて自分一人で戦うことにした。

 というよりは。

 俺一人で蹴りをつけたいという感情が優ってしまったのだ。

 俺はそう考えると一度だけやつから目をはなし、その背後に控えている麗奈を見つめていく。そして麗奈に向かって挑発するような台詞をぶつけていった。


「お前もかかってきていんだぞ?俺はサードシンボルとお前、両方とも倒す気でいる。今更一人が二人に増えたところで、その結論は変わらない。それとも、お前はそんなにもこのサードシンボルを信用してるのか?」


「信用、とは違うけれど、あなたごときを倒すのに私の力はいらないと判断したわ。今のサードシンボルは私が予想していた以上の力を持ってる。それがあればあなたなんて相手じゃないわ」


「………そうか。だったら、見せてやる。お前の選択がいかに間違っていたかを」


 そう呟いた俺は転移を使用してサードシンボルとの距離を一瞬にしてつめていった。そして裏拳をやつの顔面に叩き込み、麗奈の下へ弾き飛ばす。


「がはっ!?」


「ッ!」


 驚いた様子の麗奈の横を通過しているサードシンボルは空中で攻撃の威力をなんとか殺すと、俺がいた位置に視線を向けていった。だがそこに俺はいない。当然だが、俺の攻撃が一撃で終わるはずがないのだ。

 俺はやつが視線をあらぬところに向けている間に、気配を消しながらサードシンボルの背後に近づいていた。そしてそのまま左足を蹴り上げる形でやつを空へ吹き飛ばすと、絶対的な破壊の力を勢いよく打ち出していく。


「ッ!?お、お前一体何を………」


「何を?わからないか?………お前を殺すんだよ」


 そう俺が呟いた瞬間、空へ飛ばされたサードシンボルの周囲に水色の煙が浮かび始めた。その煙はサードシンボルの体に巻きついて気配ごと消滅させていく。


「な、なにっ!?お、俺の気配がっ!?」


「もう手遅れだぜ?」


 気配殺し。

 その破壊は再生を一切許さない力。触れれば最後、肉体はおろか気配すら消滅させる最強の攻撃。それを俺はサードシンボルに放ったのだ。その結果、やつの体と気配は完全に消滅し、この世から消えていく。

 だが。

 俺は見逃さなかった。

 気配殺しによって消えていくサードシンボルの顔が笑っていることに。

 と、次の瞬間。

 背中に嫌な感覚が走った。咄嗟に転移を使用して距離をとった俺だったが、着ていたローブには無数の穴が空いてしまっている。


「ひゃひゃひゃひゃっ!この俺があの程度の攻撃で死ぬと思ったのか?そいつは浅はかにもほどがあるぜ。仮にもガイアとかいう神を喰らったんだぞ?お前がどんな攻撃手段を思っていて、そんな存在なのかぐらい理解しいてる。まあ、記憶に何やらプロテクトみたいなものがかかってるせいで、完全に覗けたわけじゃねえけどな。ただ、今の攻撃は『気配殺し』っていうんだろ?さすがの俺もその情報がなけりゃ、今の攻撃で死んでたと思うぜ?」


「………。なるほどな。俺の力がある程度わかっていたお前は、俺の攻撃を食らう前に分身を用意したわけか。つまり俺が消しとばしたのはお前の気配を少しだけ分けたただの身代わり」


「ご明察だ。さあ、まだ戦いは始まったばかりだぜ?もっと楽しませてくれよぉっ!!!」


「………」


 その言葉に俺は返事を返さなかった。こいつとの戦いを楽しむ気など俺にはない。いくら戦闘狂と呼ばれている俺でも、人の命がいくつも散っているこの状況がその高揚感を潰してきていたのだ。

 だから俺にあるのは単純な怒りだけだ。

 ゆえに俺は向かって着たサードシンボルを適当にいなしながら、大きな隙ができるのを待っていく。ガイアの力と記憶を両方併せ持つこいつに下手な攻撃は無意味だ。であればこいつが絶対に反応できない瞬間を狙うのが無難だろう。

 と、その時。

 サードシンボルの動きが急に変化した。何かを思いついたような顔を浮かべたサードシンボルは両手を閉じたりひらいたりしながら、徐々にその笑みを強めていく。


「………ひゃひゃひゃ。そうか、そういうことか、そういうことだったのかよぉ!ひゃひゃひゃひゃ!こいつは最高だぜっ!」


「どういうことだ?」


「何を俺は馬鹿正直に『一人』で戦ってるんだって言ってるんだよ。お前ごとき俺が直々に空いてするまでもねえ」


「なに?」


 その言葉が俺の耳に届いた瞬間、サードシンボルからガイアの力と思わしき力が流れ始めた。それは空を覆い、暗かった空を金色の染めて奇妙な現象を引き起こす。

 だがそれを見た瞬間、俺はやつが何をしようとしているのか気づいてしまった。

 ガイアとは原初神であり地母神だ。つまり生物の起源に君臨する神の一体。その能力はいうまでもなく無から有を生み出す力だ。だからこそあいつはこの世界に住む人間や生物を全て「子供」と認識していたし、それが当然だと言わんばかりに振舞っていた。

 現にガイアが登場するギリシヤ神話では、ゼウスたちが登場するよりも前にガイアは世界に君臨し、この世全てを創造したとされている。

 であれば。

 その力を吸収して使えるようになったサードシンボルが何を考えるか、それはいうまでもない。

 先ほどの分身。

 あれはサードシンボルが俺の攻撃を避けるために生み出した身代わりのようなものだ。つまりその身に力はほとんど宿っていない。

 だがもし、その分身がサードシンボルと同じ力を持っていたら?もし、それらが一体だけでなく大量に存在していたら?

 戦況はどうなる?

 答えは簡単だ。一体だけでさえ他の皇獣とは比べものにならない力を持っている五皇柱が量産されれば、戦況は圧倒的に不利になってしまう。麗子がセカンドシンボルを増殖させていたあの悪夢が再来してしまうのだ。

 しかもいうまでもなくサードシンボルはセカンドシンボルよりも強い。喋ることのせきる知恵に加え、あのガイアの力までも持ってしまっている。加えてやつ独自の能力はまだ未確認の状態だ。

 それが増殖なんてしようものなら………。


「………面倒なことになったな」


 そう俺が言葉をこぼした瞬間、サードシンボルの体から何かが分裂していく。それはぶよぶよとした細胞の塊のような存在で、時間が経つに連れサードシンボルとまったく同じ形を持っていった。

 そしてそれがさらに増え、どんどん数を増やしていく。


「ひゃひゃひゃひゃっ!まったくお前の仲間の神には感謝しねえとなっ!まさかこの俺がセカンドシンボルと同じ能力を使えるようになるなんて思いもしなかったぜ。………だが、これで戦況はひっくり返ったな。今のお前に『百人』の俺を一度に相手する覚悟があるか?」

 百人。

 合計で百人のサードシンボルが生み出されてしまった。加えてその気配の大きさは全て同じ。


 だが。

 一応言っておこう。

 この俺に二度も同じ手は通用しない。

 ゆえにこの勝負の結末は揺るがなかった。


 そして俺は初めてここで口元を釣り上げる。

 戦いの高揚感からくるものではない。

 純粋に。


 勝利の確信からくるものだった。


次回はこの戦いの続きになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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