第九十三話 第三神核、三
今回も神核との戦闘です!
最後はようやくハクのターンに回りますよ!
破壊。
その能力は俺とってあまり聞きなれないものだった。
そもそも俺はリアの力、つまり神妃の力を使っているので創造することはあっても破壊を神の力で行うことは滅多にない。
小さいことを言えば、物を壊したり魔物を倒したりすることも破壊に含まれるだろうが、神核がいう破壊とはもはやその次元には留まっていないだろう。
よく物を作り出す人間は作るより破壊するほうが簡単だ、と口にすることがある。それはある一面から見れば完全に的射ていることであるし、実際に人間のスケールであれば括弧とした事実だ。物を作り出すときは、どんなものを生み出すにしても頭の中もしくは紙面やデータとしてある程度の設計図を用意する。そこからはそのプランに従い、作業を進めるのだが、破壊と言う行為はその手順を必要としない。もちろん、身の危険や壊す際の方法などは計算する場合があるがそれでも物を創造するよりかは幾分か楽な作業である。
しかし、今俺たちの目の前で繰り返されている破壊はその限りではない。創造と破壊の比重が天秤において吊りあっているのだ。
神核が使用している破壊は、俺の攻撃やキラの根源を根底から壊している。それはその物理法則や術式の文言を全てなかったことにしているのだ。
つまりそれは軽い事象の書き換え。
この領域まで到達してしまうと創造も破壊もやっていることとしては殆ど大差ない。定理を理解し生み出すのか、壊すのかその選択を常に破壊に傾けているだけなのだから。
で、このような能力には確立した対処法が存在していない。
赤の章が直撃すればその能力ごと吹き飛ばせるかもしれないが、その前に剣技ごと破壊されては元も子もない。
というわけで、俺は残された選択肢を振り絞りながら、隣にいるキラに話しかけた。
「どうする?奴を倒せる手段はもう多くはないぞ?」
「…………ああ、そのようだな。妾の根源の証も威力は抑えているとはいえ完全に防がれてしまった。こうなっては少々尺だがマスターと戦ったときのように本気を出さないといけないかもしれん」
キラはじっと神核を見つめたままそう呟いた。
俺もキラと同じく本気、というかまだ策はあるにはあるのだが、それはやはり使うことを躊躇ってしまう。
キラほどの実力者との戦闘ならプチ神妃化もいいのだが、あれは火力が出すぎてしまうため、このような地下空間では倒壊の恐れもある。
また今までの戦いからわかることは、あの神核はどうやら俺たちの武器までは破壊できないようだ。当然それはリアが所有していた神宝であったりエルテナのように宿っている能力が特殊だったりと、そもそものランクが高いからかもしれないが、つまりはそのレベルの力は神核には破壊できないということだろう。
「ま、とりあえずは俺が今まで通り奴の相手をする。その間にキラはアリエスたちと対策を練っていてくれ」
「了解だ」
俺はその声をしっかりと耳に響かせると、エルテナとリーザグラムを握り締め神核の目の前まで転移した。
「へえ、俺の能力を知ってもまだ挑むのか。伊達に災厄者と呼ばれてはいないようだな」
「一つ言っておくと、俺のことをそう呼ぶのはお前ら神核と星神だけだからな」
「ふん、そんなことはどうだっていいんだよ。それで?続きやるのか?」
「お前がここで引けばやらないんだけどな………」
「ハハ!そいつは無理な注文だ!俺は今お前と叩けることが楽しくて仕方がない!」
その瞬間神核は俺のエルテナに向かって破壊の力を使用した。
「ぐっ!?」
それはやはりエルテナを壊すことは出来なかったが力の余波は残っており、俺の右手の自由を奪う。
くそ、こんな使い方もあるのか!
俺は迫り来る神核の黒い剣を左手のリーザグラムだけでなんとかいなし、態勢を立て直す。俺は立て続けに転移を複数回使用しながら神核の周りを動き回り、少しずつダメージを与えていく。
「ちょこまかと動きやがって!」
いくら黒の章を越える速度を出せても、無制限移動の転移のスピードにはついて来れないらしい。
一度や二度なら気配を辿りある程度の場所を探ることは出来るようだが、今のように何度も何度も使用されると反応できないようだ。
俺はそれと同時にカーリーの技を展開する。
「戦火の花、戦火の砂時計!」
それは俺がその言葉を叫ぶと同時に大量の極彩色の花を割かせる。また時間軸をコントロールして神核の動きを鈍らせた。
「また小賢しいマネを!こんなもの破壊してやる!」
神核はその瞬間両手を広げて俺の戦火の花、と戦火の砂時計を一度に破壊した。
しかしそれは想定済みだ。
俺が狙っているのはそれを破壊したときに出来る大きな隙、ただそれだけである。
「お返しだ、背後がお留守だぞ」
「な!?」
俺はその背中目掛けて全力で二本の剣を降り降ろす。それはこの第三神核との戦闘で初めてのクリティカルヒットであり、神核に大きなダメージを叩き込む。
「ぐがああああああああ!?」
俺はすかさず右足を頭の高さまで振り上げると、そのまま遠心力を利用して回し蹴りを叩き込んだ。
その攻撃もまともに受けた神核はアリエスたちとは反対方向の壁まで吹き飛ばされる。
俺はべっとりと血のついた剣を切り払うと、全身に気配創造の効果を纏わせ、次の攻撃に備えた。
俺のもつ気配創造は創造と言っているわりには、周りから気配を奪い取るのである意味破壊行為とも言える技だ。
ゆえに具象化した攻撃は破壊されても、この能力を防御や体自体に使用すれば、ある程度は神核の能力から身を守れるのだ。
すると吹き飛ばされた神核がどうやらゆっくりと立ち上がっているようで、気配の質が先程よりも一段階上がっているようだ。
「は、はは…………。ま、まさか俺がここまで追い込まれるとはな……。正直驚いてるぜ………」
「それじゃあどうする。このまま俺にやられるか?」
「馬鹿かお前は!俺がそんなことで引き下がるわけないだろう!………いいぜ、本気を出してやる」
「本気だと?」
俺はその神核の言葉に眉を寄せながら聞き返した。正直言って今の段階でも大分きついのだが、これよりもさらに強くなるというのだろうか?
「こいつはあの第五神核にも使った技だ。下手すると世界そのものに影響が出るが、そんなもの気にしてられねえ!」
「おい!今第五神核と、言ったか?その話詳しく聞かせろ!」
もしかすればあの遺跡の謎が少しでも解けるかもしれない。そもそもキラのようにその時代を眺めていないのなら仕方がないが、仮にも同じ神核。第五神核について知っていてもおかしくはない。
「ハッ!誰が言うかよ!お前ら人間が招いた結果だろうが!それよりも早く構えないと死ぬぞ?」
そう神核が言った瞬間、神核を中心に莫大な魔力が集中した。それはこの空間にある全ての魔力と、瓦礫や埃、はたまた自分の流した血液までかき集め、光り輝いていた。
そのまま神核の気配は俺の予想していたよりも大きくなり、最終的にその空間を一面の光が覆いつくした。
「ぐっ!」
俺は右手のエルテナでその光から目を防ぐが、神核からは依然もの凄い爆風と魔力が渦巻いており直視することができない。
「一体何が起きてるんだ!?」
しばらくするとその光は霧散していき、次第に神核の姿が露になる。
それはバチバチと小さい稲妻を纏わせながら、宙に浮かんでいた。
今まで人間の肌と変わらなかった体には無数の緑色のラインが走っており、その全てからとんでもない力を感じる。
俺は無意識のうちにその場から後ずさると、より腰を低くしていつ攻撃されても対応できるよな態勢をとった。
「何年ぶりにこの状態になっただろうか!これは俺のもう一つの能力『物質変換』だ!さっきこの空間にあったものは全て俺のエネルギーに変わった!この意味がわかるか、災厄者!!!」
その声は周囲の地面をさらに深く抉り風を巻き起こす。
それは俺に対して殺気になって届いており、俺は冷や汗を流しながらじっと神核を見つめた。
まさか、ここまでとは………。
このレベルになると、もはや十二階神と同クラスの強さになっている。
これはどうしたものか、と俺は後ろにいるアリエスたちをチラッと振り向きながら次の動きを考えていた。
しかし、そのスキを神核が見逃すはずがなく、すぐさま俺の目の前まで迫る。
速い!
俺は咄嗟にエルテナを振り下ろすが、掠ることもなく神核に避けられ空を切る。
「どこ見てんだよ!」
刹那、神核の握りこぶしが俺の鳩尾を捉えた。
「がはっつあああああああああああああ!?」
俺の体は地面をスーパーボールのように跳ね百メートルほど飛ばされてようやく止まった。
俺はすぐさま立ち上がると、そのままリーザグラムを構え剣技を全力で放った。
「青の章!」
渾身の一撃を込めたそれは強力な斬撃とともに神核を切り裂こうとする。
だが。
「なめてるのか?」
神核は俺の剣技をたやすく素手で弾き返すと、ゆっくりと歩きながらこちらに向かってきた。
これは本格的にまずいぞ。
剣技や十二階神の力はあの破壊の能力の前では役に立たない。それどころか肉弾戦でさえも今の状態では歯がたたない。
くそ、どうすれば、どうすればいい!
俺は必死に頭を回し、神核への有効打を考えた。
するとそのとき俺の背後からいきなり俺の名前を呼ぶ声がした。
「ハクにぃ!これを使って!」
それはアリエスの腕から勢いよく放たれ空中をくるくると回転しながら俺の元にやってきた。
それは赤黒い刀身で全てのものを断ち切ることができる神宝のレプリカ。
そう、絶離剣レプリカそのものであった。
俺はそれを投げていたパーティーメンバーのほうを見ると全員がなにやらその剣に目線を向けていた。
いやしかし、この剣は強力だがそれでもこの神核にはダメージを与えられないだろう。
俺はその考えを滲ませながらもう一度アリエスたちを見た。
するとアリエスたちは力強くこちらを見つめて頷いている。
つまり、この剣がキラを含めたアリエスたちの神核打開策なのだろう。俺の内心ではこの剣が効果的とは思えないが、それでも仲間が俺を信じて託した策だ。無下にはできない。
俺はリーザグラムを蔵の中にしまうと絶離剣を左手に構えると、そのまま神核を迎え撃った。
「はん!剣を変えたくらいで、俺の攻撃を防げると思うなよ!」
神核はやはり圧倒的なスピードで俺に肉薄し黒い片手剣を突き出してくる。
その攻撃をできるだけかわすように絶離剣レプリカで受け流す。
すると、俺の剣が黒い片手剣に触れた瞬間、神核の体が突然ぶれた。
「な!?なに!?」
それは今まで纏っていた力が急に削がれたような動きで、物質変換を使う前の気配に一瞬だけ戻ったように見えた。
当然、そのような大きな隙を俺が見逃すはずがなく、俺は残ったエルテナで神核の喉下を狙う。
「チッ!」
しかし、その攻撃はすぐさま復帰した神核の剣によって弾かれる。
「お、お前!その剣は一体なんだ!!!」
困惑しているのは、俺同じであり、その光景をもう一度頭の中で反芻しつつ一つの結論を纏め上げる。
もしかすると、この剣ならば………。
破壊を上回る攻撃を叩き出せるのではないか?
破壊を上回る破壊。
絶離剣の能力は防御不可。
それは奴の破壊と同様に万物に対して作用する。
だがそれの出力が神核の能力を遥かに上回っていたら?
第一神格のようにその力を防ぐ手段を持ってないのだとすれば?
そしてそれは能力によって強化された神核自体にも効果があるのだとすれば?
俺はその解答を頭に浮かべながら、左手に持つ絶離剣レプリカを神核目掛けて投擲する。
それは当然神核に阻まれるのだが、やはりその絶離剣がやつの体に触れた瞬間、神核の力が少しだけ歪む。
「く、くそが!!!なんなんだよその剣は!」
俺はその神核の表情を見た後、勝利を確信し行動を起こす。
蔵の中に入っているそれを何の躊躇いも無く、俺は掴み取りこの空間に現界させる。
「絶離」
それはアリエスに渡したレプリカよりも遥かに強力な力を秘めた一本の長剣。
レプリカではなくオリジナル。
絶滅する乖離の剣。
赤黒い刀身が目印の絶対的な破壊力を秘めた神宝だった。
俺はボロボロになった体を持ち上げてその神核を見下ろすようにこう呟いたのだった。
「久しぶりのお目覚めだ。派手にいくぞ!」
そして俺たちパーティーと第三神核の戦闘は最終局面を迎える。
次回は第三神核戦ラストです!
ようやく出てきた絶離剣。以前から名前だけ出てきていた武器がついに登場しました!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は今日の午後六時以降になります!