第六十八話 掌握された親子、三
今回はハクの戦いがより本格化していきます!
では第六十八話です!
「ぐ、がああっ!ぎ、ぎぎぎっああっ!」
カラバリビアの鍵の力を侮っていた。フルスペックの力を有していることはわかっていたが、まさか星や宇宙まで相手取って俺と戦ってくるとは思ってなかったのだ。あくまで人間レベルの一対一という戦いであれば神妃化の力でどうにでもなる、そう思っていたのだが、このカラバリビアの鍵の人格が表層に出てきた時はどうやら麗奈の元の人格以上に荒々しくなるようで、誰彼構わず攻撃を仕掛けてくるようだ。
ゆえに俺は今、かなり追い込まれていた。カラバリビアの鍵が生み出したエネルギー玉。それが俺の頭上から降り注ぎ、この星ごと押し潰さんとしている。その余波で周囲の空気は全て吹き飛ばされ稲妻や雨が雲が出ていないのに落ちてきた。
それはもはや天変地異。
星がこの自体を滅亡の危機だと悟り、本来ではあり得ない事象を引き起こしている状態。抑止力すら消滅しているこの世界において、地球という星を守る最後の手段がこの気象状態だ。
しかしだからといってカラバリビアの攻撃が消えるわけではない。むしろどんどん激しくなっている。さすがに全力のアリエスほどの出力ではないが、それに迫る力が俺に向かって放たれていた。
俺はそのエネルギー玉を正面から受け止めてなんとか押し返そうとする。しかしあまりにも強大な力のため、浮遊している俺の体をそのエネルギー玉は徐々に後ろへ下げていった。
すでに両手は黒く焦げ付き、言葉にできない痛みが走っている。気配創造を使ってさらに身体能力を向上させているが、それでもまだ足りない。もう少し時間があれば神妃化の段階も上げることができたのだが、その隙さえ今の俺にはなかった。
「く、くそっ!お、押される………!」
「ふ、ふははははははははっ!どうした、どうした?お前の力はそんなもんか?………別に逃げてもいんだぞ?だがその時は、この星は跡形もなく消え去ることになると思うけどな!」
「くそがあっ!」
だ、だめだ!力が足りない………!
だがどうする!?神妃化の力もこれ以上あげられない。だからといって他の力を使おうにも、一体何が残されてる?カラバリビアの鍵の力を消すには生半可な力じゃ不可能だ。だとすると、俺に残されている選択肢は………。
そう考えた時、唯一思い浮かんだ答えがあった。
その力も本来は目立ちすぎるため使用は控えてきた力だ。しかしこれだけ強大な力が目の前に迫っていれば、それも目立たなくなるというもの。正直言って、今まで使ったこともない力だが不可能ではないだろう。
俺はそう考えると歯を食いしばって力を増幅させていく。そしてそれは俺の体に青白い光を纏わせ、気配や魔力を一気に上昇させていった。金色の髪のいくつかが青色に変化し、神の気配がより純粋なものへと変わっていく。
そしてそれが頂点まで高まった瞬間、俺の腕はカラバリビアの鍵の攻撃に食らいついていた。
「はぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
「へえ、ここにきてパワーアップか。気配が変わったな」
「………神破りっ!!!」
次の瞬間。
カラバリビアの攻撃は俺の両腕に握りつぶされるように小さくなっていく。それはまるで何かが万力に潰されるような現象で、星と同じくらいのサイズだったエネルギー玉が一瞬にして野球ボールサイズまで縮んでいった。そしてそのエネルギー玉は最終的に、俺の左手によって粉砕され、跡形もなく消滅していった。
「はあ、はあ、はあ………」
「やるじぇねえか、お前。まさか腕を二本潰しただけであの攻撃を消されるとは思ってなかったぞ。だがこれでだいぶ形成は傾いたな。お前は腕を失い、もはや剣すら握れない状態。その体力で腕の傷を癒せるとも思えない上に、俺が出てきた以上、勝機なんてものはどこにもないときた。はははっ、絶望的だな」
「………舐めるなよ」
俺はやつの言葉にそう返すと、今の攻撃で血が噴き出している両腕に治癒をかけていく。軽く事象の生成を発動し、体力ごと全開させていった。同時に俺自身にかかっていた神破りは解除され、通常の神妃化状態に戻っていく。
「なっ………。面白いじゃねえか。まさかまだ腕を回復させるだけの力があったとはな。これは俺も想定外だ………っと」
「彼の治癒能力はさっき私が確かめたはずでしょう?無駄口を叩く暇があったら、もう少しまともな戦術を立てることね。今の攻撃は彼が消滅させなかったら、危うく私たちまで消し飛ぶところだったのよ?」
「………ま、また人格が入れ替わったのか」
俺を見ていた麗奈の瞳の色が元に戻る。すると殺気じみた雰囲気は消えて無くなり、その代わり先ほどまであった君の悪い悪寒が戻ってくる。どうやら今は人格が麗奈本人になっているらしく、あたりを包む空気ごと変化していた。
するとそんな麗奈は俺の顔を見ながら怪訝そうな表情を浮かべてこんなことを呟いてきた。
「それにしてもまさか今の攻撃を防がれるとは思わなかったわ。それこそ惑星一つは丸々破壊できるだけの力を込めたはずだったのだけど………。あなた、一体何者なのかしら?」
「説明する必要も義務もない。俺たちの関係は倒すか倒されるかそれだけだ」
「まあ、確かにそうね。でも今の攻撃を破壊したあの力。それをすぐに解除したところをみると、そうやすやすと使えない技みたいね」
「………だったらどうした?それを理解したところでお前の負けが覆るとでも?」
「私が負けるかはさておき、相手の情報を戦いの中で収集するのは当たり前だと思うのだけど、何かおかしいかしら?」
「………」
おかしくはない、むしろそれが普通だ。
加えてこいつの推測は当たっている。俺が今発動した「神破り」という技。これは本来完全神妃化や人神化を使用した際に、さらに神の力を上乗せすることで限界を突破する能力だ。
ゆえにその力はただの神妃化に使用するために作られたのではない。あくまでも俺が使う最上位形態に対して使用しなければ本来の力は発揮されないのだ。
だがそれを俺は、無理矢理使用した。その結果カラバリビアの攻撃はどうにかできたが、反動で両腕がやられ、出力も中途半端にしか上がらなかった。その傷はすでに治しているので特に心配はいらないが、それでも弱点を晒していることに変わりはない。
今の神破りが俺に反動を与えているという情報は伝わっていないようだが、それでも太陽できないだろうという予測は立てられてしまった。
まあ、今回の神破りは神妃化の出力も上げられず、他の解決手段すら使えなかった状態での使用だったので特段気にするようなことではないが、情報戦であるこの戦いの中で自分尾弱点を知られてしまったのは少々痛い。
俺はそう考えると、生きと整えて神妃化の力を上昇させていく。その力は先ほどまでとは違い、第一段階の神妃化で出せるフルパワーに近い状態だった。
「ッ!………気配が上がったわね。その力、今まで隠してたのかしら?」
「隠すつもりはなかったんだが、さすがにさっきの攻撃の途中で発動する暇はなかった。だが今なら問題ない。お前がいかにカラバリビアの鍵を使おうが、俺には勝てないってことを証明してやる」
「大きく出たわね。でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」
そう口にした瞬間、俺と麗奈は同時に足を動かしていた。空中に飛び上がりお互いの力を激突させる。俺は拳を突き出し麗奈は鍵を俺に振り下ろしてきた。両者は何度も激突し、空気を震わせ、空間を歪めようとする。
しかしその歪みが生じる前に麗奈は鍵の力を一歩引いて発動してきた。
「縛り上げなさい」
「ッ!………鍵の力か」
「そして落として」
その瞬間、俺の周りに無数の鎖が出現し、体に絡みついてくる。そしてその鎖は体に絡みついた瞬間、とてつもない引力で俺を地面へ引きつけていった。
「ぐっ!?」
「どうかしら?夫の攻撃とは一味も二味も違うでしょ?カラバリビアの本質は何かを封じ込めることにある。その力を使えばあなただってこのザマよ」
「………」
「そして………。これで終わりにするわ」
そう言って麗奈は鍵を空へ振り上げてとあるものを出現させた。それは何かの「門」だった。そしてその門はゆっくりと開き、中から超巨大な黒い死神のような何かを出現させてくる。
黒いフードに大きな鎌。肉はなく骨だけの体。そして痛みを感じてしまうほどの殺気。何も知らない人間が見れば、その姿を視界に入れただけで気絶してしまうそうな異質な存在がそこに浮かんでいた。
「これが何か知ってるかしら?まあ、説明したところで今から死ぬあなたには意味のない説明だけど」
「………」
知ってる、知ってるさ。
だが、そのどれもが「中途半端」だ。
俺の体に絡みついている鎖も、その門も、全部俺の知っている「本物」とは程遠い。
カラバリビアの鍵に備わっている封印力はこんな陳腐な鎖なんかで表現できるほど安くはない。あのアリエスの、あのキラの、あのサシリの、あのパーティーメンバーの記憶すら葬った封印力、それこそがカラバリビアの真骨頂だ。
加えてあの門。
あれはおそらく「地獄の扉」だ。だがそれもまだまだアリエスのものとは比べるのも烏滸がましいくらい弱々しい。アリエスが使うあの力は見ただけで心臓が潰されるのではないかと錯覚してしまうような、絶対的で圧倒的な力だったはずだ。
あんなよくわからない死神なんか呼び出して満足するような力ではない。
ゆえに俺は何一つ驚かなかった。カラバリビアの人格が宿っておきながらあの程度の力しか出せないということは、おそらくこの世界のカラバリビアは所詮このレベルなのだろう。
惑星を破壊できるほどの力がこもったあの攻撃も、確かに強力ではあるが星の名を冠する神々であればその程度のことは造作もない。真の強者は星ではなく、宇宙ではなく、世界を壊す。
だからこの時、俺はかなり冷静だった。先ほどの攻撃はかなりいきなりだったため驚いたが、あちらがその気だとわかってしまえば別に驚くようなことではない。
俺はそう考えると、鎖に縛り付けられながらじっと麗奈の顔を見ていた。だがその視界を遮るように超巨大な死神が俺の眼前に立ちふさがっていく。そしてついにその死神が持っている鎌が俺に振り下ろされてきた。
「さあ、やりなさい。あの子を殺して!」
「………ウゥゥゥゥゥキエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
「………」
それでも俺は黙っていた。
だが。
その沈黙は勝利の余裕からくる沈黙だった。
そして。
その鎌が俺の首に当たる直前。俺の目と口は同時に見開かれた。
「はああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「ッ!?」
「な、なんですってっ!?」
俺の体から気配が滝のように流れ出していく。その気配は俺の首に吸い込まれようとしていた鎌とその持ち主である死神を吹き飛ばし、さらに縛り付けていた鎖さえも粉砕していった。
これにより自由を取り戻した俺は、ゆっくりと体を起こして麗奈を睨みつけていく。
「………わかっただろう?お前の攻撃は俺には効かない。それどこか気配に当てられただけで消滅する。そんな陳腐な力で俺に勝てると思うなよ?」
「なっ………!?」
さすがにこの状況には麗奈も驚いたようだ。俺の視線に恐怖を示し、慌てふためいている。しかし俺はそんな麗奈を無視しながら浮遊を使用し、彼女が浮かんでいる高さまで浮上するとさらに気配を上昇させてこう呟いていく。
「そっくりそのまま言葉を返してやる。………これで終わりにしよう。今のガイアが仕掛けた柵すら使われずに敗北する。お前たち親子がどんな関係かはしらないが、それでも俺には敵わないんだよ」
「………」
その言葉に麗奈は顔を俯け黙ってしまう。
表情は読めず、気味の悪かった雰囲気も今はどこへ消えてしまっていた。とはいえ所詮は人間、俺という力を前にしてもこの結末が見えなかった愚か者。こうなったら最後、惨めでも哀れでも戦いに敗北するしか道はない。
俺はそう思い、最後の一撃を麗奈に叩き込もうとする。
だが。
次の瞬間。
「ふふふ、ふふふ、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」
「な、何がおかしい………?」
「これが最後、ですって?何を馬鹿なことを言い出すかと思えば、格好つけたいただの中二病じゃない。そんな哀れなあなたにこの私が本当に負けるとでも?」
「………だったらそれを証明してみろよ。俺はいくらでも相手になってやる」
「ええ、もちろんそうするわ。………でも、あなたの相手は私じゃないわよ?」
「なに?」
と、次の瞬間。
麗奈は俺から視線を外し、俺の鎖に縛り上げられている麗子に視線を合わせていく。そしてどこまでも冷え切った声で、こう呟いた。
「さあ、出番よ。全てを食い散らして出て来なさい、第三の柱!」
その時。
俺は麗奈の言葉の意味がわからなかった。
だが目の前に描き出された光景が俺に現実を伝えてくる。
麗奈の言葉が響いた直後。
麗子が一瞬だけ笑った気がした。だがその瞬間、麗子の体は真っ二つにちぎれ、背中から吹き出る血とともに何かが出てくる。
それは煙のような姿をしていたが、やがて形を帯びて体を得ていった。そしてその何か産声をあげるように顕現すると、俺たちにむかってこう口にしてきたのだった。
「ひゃひゃひゃひゃ!!!まったく、随分と時間がかかちまったが、ようやく外に出られたな。あの女の体の中もそれなりに居心地はよかったが、外の空気は段違いだぜ!さあ、早速食事の時間だ、ひゃひゃひゃ!この第三の柱様が喰らってやろうって言ってんだ。食事くらい用意してあるよな?ひゃひゃひゃひゃ!」
この戦いの場に悪夢が顕現した瞬間だった。
次回は麗子の過去を掘り下げていきたいと思います!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!
 




