第六十七話 掌握された親子、二
今回は戦闘回になります!
では第六十七話です!
「まあ、そういうわけだから、欲はなくても一つだけ願望はあるの。私はそのためにここにいる。そしてわかってると思うけど、それを達成流には他の帝人は不要な存在。つまり今から私がしようとしてること、わかるわよね?」
「………くっ。が、ガイア………。妃愛を連れてできるだけ離れるんだ。ついでに貴教と麗子もつれていけ。他の連中は転移でまったく関係のない場所に飛ばしておいた。この場合、おそらくこの親子の関係が鍵を握ってくる。二人には鎖を巻きつけておくから心配はいらない、頼んだぞ」
「………わかったわ。坊やも気をつけなさい」
俺はガイアにそう言うと寂しそうにこちらを見つめる妃愛に一度笑いかけて視線を外していった。そして次に貴教と麗子に対して気配創造の鎖をさらに巻きつけて拘束していく。妨害が入るかと思ったが、どうやら母親である彼女は本当に二人には興味がないらしく、俺が何をしようと無反応だった。
だが反対に貴教は彼女が出てきたことに驚き絶望したような表情を浮かべ、麗子はずっとうずくまったままうめき声を上げて苦しそうにしている。どういう理由で二人がこんな状況まで追い込まれているのか知らないが、今ここで二人を隔離するのは逆に危険だと判断した。
ゆえに俺はガイアに二人も保護するように頼んだのだ。幸いカラバリビアの鍵は二人の手から離れている。麗子が携えていた皇獣も貴教の攻撃で全て消滅しているし、特段害はないだろうと判断したのだ。仮に害があったところで今のガイアならば十分に対処できるだろう。
そう考えた俺はガイアたちを逃がし神妃化の状態のままその女性に視線を流していく。改めて見ると、その女性は本当に麗子にそっくりだった。おそらく麗子がこのまま成長すれば今の彼女のような容姿になるだろうと容易に想像がついてしまうほど似ている。
しかし何度も言うが、今の彼女には麗子にはあった人間味というものがない。まるで人形のような固まった表情、憎しみも怒りも喜びも楽しみも、何も感じない凍りついた心。そんな得体の知れない気配が彼女から発せられている。
そして何より。
………カラバリビアの鍵が人格を移動してるだけあって、こいつの力は絶大だ。鍵の力を使いこなせないなんてことは絶対にない。なにせ武器自体が武器を振るっているようなものだ。貴教とは比べものにならない力を持っているはず………。
するとそんな俺の思考を中断させるように空に浮かんでいる彼女が俺に声をかけてきた。相変わらず光の宿っていない瞳は睨まれだけで悪寒を感じてしまう。
「自己紹介がまだだったわね。私の名前は月見里麗奈。旧姓は彼岸。つまり私はこの家に嫁いできた身、というわけ。だけど今じゃ表向きは夫が当主だけど、真の当主は私って感じかしら?なにせこの家に関係する全ての人間の命を私が掌握してるんですもの」
「………その話を俺にしてどうするつもりだ?俺にはまったく関係ないぞ?」
「そうでしょうね。でも、なんとなくよ。今のあなたは少なからず夫と娘に同情しかけてる。その精神を揺さぶる要素を私が持ってるんだとしたら、それを使わない手はないでしょ?」
「………随分と回りくどい手段を使うんだな。俺には理解できない」
「本当に?だったら、この敷地の頭上に設置してある『あの剣』は一体何なのかしら?」
「ッ!?………気づいていたのか」
「さあ、どうかしら?ただの挑発かもしれないわよ?」
………ただの挑発でガイアが設置した神宝の形状が見破られてたまるか。
そう内心は思ってしまうのだが、できるだけ感情を顔に出さないように俺はこらえた。というのも、ガイアは開幕にカラバリビアの鍵を封じ込めた後、俺の命令で「とある剣」の準備を進めていた。本来であれば貴教と戦っている時も妃愛をガイアに預けられたらよかったのだが、その準備がある関係で俺がおぶるという形になってしまった。
そしてその準備はすでに整い、何かあればすぐに使用できる状態まで持っていったのだがそれをこの麗奈という女性はすでに見破っていたらしい。まあ、フルスペックのカラバリビアを使えるのだから、ある意味当然なのかもしれないが、これにより俺は真正面から戦う以外の戦術を使えなくなった。
まあ、最初から正面突破を掲げていた俺だから別にいまさらどうってことはないのだが。
「………まあいい。それよりも始めるんだろ?言っておくがカラバリビアの鍵を持ってるからって俺に勝てるとは思わないことだな。お前の夫がすでにそれを証明している」
「勝てる勝てないなんて低次元の話をする気は無いわ。私には勝利しか見えないし、勝利以外は必要ない。あなたがどれだけ強くても全てねじ伏せて進むだけよ」
その言葉を受け取った俺は体に流していた力をさらに爆発させ気配を上昇させていく。神妃化、それも第一形態であるこの神妃化はどう頑張っても全力のカラバリビアの鍵には敵わない。
だが俺も成長している。星神と戦った段階で敵わなかったとしても、今はきっと違うはずだ。それは俺も自覚してるし、まぎれもない事実。
だから俺はあえて今の状態を崩さず神妃化のみで麗奈に立ち向かおうとしていた。
そして俺が大きく息を吐き出した瞬間、俺の体は麗奈が浮かんでいた空へと移動する。首元を狙うように右足を振り上げて蹴りを繰り出すと、同時に気配創造の刃を胸にめがけて投げつけていった。
「はあああっ!」
「………」
しかしその攻撃は全て霧散する。俺の蹴りは分厚い鋼のような見えない何かに受け止められ、気配創造の刃は光の粒子へ変換されどこかへ消えていってしまう。
「ちっ」
だがここで攻撃を止める俺ではない。すぐに態勢を立て直して距離を取ると拳と足を使って無数の連撃を叩き込んでいった。
「だあああああああっ!」
「………」
だが手応えがない。全て見えない何かに防がれて麗奈本人には傷一つつかない。それどころか光の宿っていない瞳が俺の攻撃する姿を覗き込み、奇妙に歪んでいった。
と、次の瞬間。
「ッ!?」
ま、まずいっ!
そう思って咄嗟に転移を使用して距離をとった俺だったが、直後に走ってくる鋭い痛いみによって自分がどういった状況に置かれているのか理解していく。
胸の中心。そこに何かによって薙がれたような傷が一つだけついている。血が流れ、白いローブを赤く染め上げていっており、その傷がかなり深いことを俺に伝えてきた。
しかしその傷は俺の自動治癒能力ですぐに回復する。痛みもすぐに消え、残ったのはローブについた血の跡だけだった。
「………なかなかやるじゃない。攻撃は今ひとつだけど、防御面ではなかなか面白い力を持ってるわね。空間転移に即時回復。魔人でもないあなたがどうしてそんな力を持ってるか気になるけど、今は気にしないわ。どうせここで殺してしまえば考える必要すらなくなるから」
「………今の攻撃、斬撃を空間越しに飛ばしてきたな?俺が地面を蹴ってお前に接近する直前、お前はカラバリビアの鍵を使って時限式の斬撃を放っておいた。そしてその斬撃を回避がもっとも難しい瞬間にぶつけてきた。違うか?」
「ご明察。でもそれがわかったからと言ってあなたに何ができるっていうの?今、この瞬間にもその斬撃が一体いくつ作り出されてるのかわからないのよ?」
そう。
これがカラバリビアの万能性の厄介なところだ。
万能、つまり万の能力を有している力。それは使用者のイメージすら力を具現化し、自由に手を加えることができることを意味する。今回の場合、剣を使ってもいないのに斬撃を飛ばし、軸を歪めて空間と時間を飛び越えてそれを打ち出すという事象を引き起こしてきた。加えて俺の攻撃を全て無力化するというおまけ付き。
もはや何でもありの能力だが、それが万能というもの。事象の生成のようにあくまで能力の範囲にとどまっているのではなく、武器としてそれを具現化することでより使用者に使いやすい形をとった万能の究極系。
しかしだからこそ付け入る隙はある。
結局のところ戦いというのは脳筋的な発想がものをいう。どれだけ強力な能力も、神宝も絶対的な力の前にはひれ伏すしかない。
つまり、万能を超える唯一の力で押しつぶしてしまえばいいということだ。
俺の性格上、無駄に考えるよりそちらの方が性に合っている。命をかけた戦いであればあるほど、下手に思考を巡らせるより体を動かした方がいい結果につながることが多いのだ。
特に傷を負っても致命傷を負ってもすぐに回復できる俺ならば余計にそれは顕著になる。
ゆえに俺は呼吸を整えてもう一度麗奈に接近していった。拳を振り上げて思いっきり叩きつける。だがやはりその攻撃は何かによって阻まれその威力を失っていった。
だが。
「………はぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「な、なに、を………っ!?ま、まさか!」
「お前がどんな力を使ってるかなんて俺にはわからない。でもだったら俺はその力の全てを粉砕して進むだけだ。つまり純粋な力くらべ。悪いがこの手の戦いは俺の得意分野だぞ?」
そして次の瞬間、何かが砕ける音が響き、俺の拳が麗奈の顔を捉えていった。だが咄嗟に別の能力を発動したのか、麗奈の動きが加速する。そのせいで俺の拳は麗奈の左頬を掠めただけで終わり、致命傷には繋がらなかった。
しかし、俺の攻撃はまだ終わっていない。突き出した腕を軸にして空中で体をひねると、そのまま左足を使って彼女の体に回し蹴りを叩きこんでいく。その攻撃は麗奈の腹に直撃し、その体を地面まで落下させていった。
「く、かはっ!?」
「どうやら純粋な出力勝負だったら俺の方が上みたいだな」
「………やるわね。まあでも、ある程度想定内よ」
麗奈はそう呟くと地面からゆっくりと立ち上がって何事もなかったかのように俺を睨みつけてくる。よく見ると俺につけられた傷はすでに回復しており、体力も魔力も全快しているようだった。
………ちっ。堪えてないな。このままじゃ、純粋な回復力勝負になっちまう。仮にそうなったとしても負ける気はしないが、決められるなら早めに決着をつけたほうがいい。少し戦い方を変えるか………。
と、思っていた矢先。
麗奈の瞳が翡翠色に変化した。そしてその口が歪に曲がり、喉の奥からカラバリビア本人が顔を出してくる。
「ふははは、ふははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
「………何がおかしい?」
「何が?この状況を笑わずして何に笑えって言うんだ?この俺の力に真っ正面から向かってくるやつなんて初めてだ。それも自らの拳を使って戦うなんて馬鹿につける薬はないってのはまさにこのことだぜ」
「………だったらその馬鹿を早く倒してみろよ?異性がいいだけのアホはお呼びじゃねえんだよ」
「だろうな。だから見せてやる。俺とお前の実力の差をな」
次の瞬間。
俺が浮かんでいる空よりもはるか上に巨大な気配が出現した。それは紫色のエネルギー玉を固めたようなもので、やがてこの星を飲み込んでしまうのではないかと思えるほど巨大化していく。おそらくこの地域一体には俺たちが見えない何かがしかけられているので目立つことはないだろうが、それにしてもこの大きさは異常だった。
「お、おい………。お、お前一体何を………っ!」
「あまり大きくしすぎると色々と面倒だからな。この辺にしといてやる。だが避けるなよ?これを避ければこの星はおろか、その爆風でこの宇宙が消し飛ぶ。神妃が作り出した神宝ってのはそれくらいの力は持ってて当然なんだよ。まあ、簡単に言えば、この攻撃を避ければお前もろともこの星と宇宙はみんなおさらばだ」
「お前、それがどういうことを意味してるかわかってるのか!?仮にこの星が消えたら白包はおろか、お前自身だって残らないんだぞ!?」
「だから避けるなって言ってんだよ。それがわかってるお前にはあの攻撃を避けることはできない。それを利用してるってわけだ」
その言葉が放たれた瞬間、カラバリビアの鍵は俺に向かってその巨大なエネルギー玉を落としてきた。その瞬間、とてつもない爆風が俺に襲いかかってくる。
だがここで俺が引くという選択肢はなかった。やつの言う通りここで俺が避ければこの星全てが消えてしまう。そうなればもはや対戦がどうとかこうとか「、そういう話ではなくなるのだ。
つまり逃げることは許されない。
だから俺は。
「く、くそっ!」
その攻撃を正面から受けざるを得なかった。
そしてこの戦いはかつてないほど激化していく。
次回はこの戦いの続きになります!
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次回の更新は明日の午後九時になります!




