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第六十六話 掌握された親子、一

今回は月見里親子の関係が明らかになっていきます!

では第六十六話です!

「「お、お母様!?」」


 俺と妃愛の声が重なった。しかしその直後、貴教や娘の麗子とは比べものにならないさっきが降り注いだことによって、その口は半ば自動的に閉じてしまう。全身を突き刺すような殺気かと思えば、舌で舐められるようなヌメッとした感触も同時に走ってくる。殺気というよりは怨念に近いその感情は、手で触れてしまうと錯覚するような奇妙な感覚を俺たちに感じさせていった。

 そしてわかることがある。

 月見里麗子がお母様と呼んだその人物。容姿端麗、黒髪黒眼。漆黒のドレスを身にまとった彼女は明らかに「人間」ではなかった。

 いや、正確に言うならば人間の見た目、気配をして起きながら人間として大切な何かを失っていると感じたのだ。現に貴教や麗子を見つめているその視線、それはもはや物を見ているかのように冷たかった。

 ゆえにだろうか。

 俺は知らないうちに一歩み足を下げてしまっていた。意識したわけではない。俺が圧倒的有利な状況も変わらない。だというのに、俺という存在があの女性を遠ざけようとしている。近づけば良からぬことが起きる、まるで体がそう告げてきているようだった。

 するとその女性が現れたことに気がついた貴教がボロボロになった体を動かして俺の鎖の中でもがくと、顔だけ上空へ向けてこう呟いていった。


「………お、お前は傍観してるんじゃ、なかった、のか?」


「そのつもりだったわ。でも、私が割って入らなかったら今頃、神器は破壊されていたでしょうね。それがどういうことを示しているのか、わからないあなたではないでしょ?」


「………」


「それとも何?まさかと思うけど、あなたが白包を使って麗子を救おうとしていたことに私が気づいてないとでも思ってたの?わざわざ神器を『貸して』あげたのも、それがわかってたからだって気づかなかったの?」


「そ、それは………」


「や、やめてください、お母様!お父様は悪くないんです!わ、悪いのは私が………」


「それもそうね。貴重な擬似皇獣も潰したみたいだし、セカンドシンボルさえもみすみす殺したあなたにはそれ相応の責任はおってもらわないといけないわね」


 そう口にしたその女性は左腕を掲げて指を鳴らしていった。すると次の瞬間、月見里麗子の体が不気味に蠢き、ボコボコと音を立てながらいびつな形に変化していった。


「あ、ああ、うあああああああああああああああああああああ!?」


「お、おい!な、何をしたっ!?」


「あら、敵の心配をするなんて意外と能天気なのね、あなた。鍵に関して詳しそうだったから色々と気になってたけれど、まだ人間の心を残してるなんて少し拍子抜けだわ」


「な、なにっ!?」


 俺は急に蹲って叫び始めた麗子に駆け寄ろうとするが、その言葉の意味がわからず足を止めてしまう。ただ一つわかることは、この女性が彼女に何かしたということだけだ。それがいかなる能力なのか、神器の力なのか、それはわからない。

 だがこの世界において能力者と呼ばれる存在は魔人以外存在しないはずだ。例外として神器を手にした帝人が挙げられるが、貴教が帝人である以上この女性は帝人ではない。となれば、必然的に母娘そろって魔人という線が濃厚になっていくが………。

 と、思っていた矢先。そんな俺の思考を読んだかのようにその女性は俺の疑問に答えていった。


「あなたは大きな勘違いをしてるわ。あなたの考え通り、この場には帝人は一人しかない。でもそれは夫じゃないのよ。夫はあくまで『私の権限で帝人のふりをしていた』だけ。私が一時的に帝人としての権利を譲渡していただけなのよ。でも、それももう終わり。夫はあなたに負けた。持てる全てを出し尽くして敗北した。だったら次は私の番だと思わない?『本来の帝人』である、この私の」


「な、なんだと………!?お、お前が本当の帝人………!?」


 衝撃の事実だった。

 そもそも帝人とはこの対戦において神器を召喚した人物を指す言葉だ。妃愛のような例外はあれど、基本的にその前提条件は崩れない。だが裏を返せば、その条件さえ守っていればその後神器をどうしようが誰にも文句を言われないのも事実だ。

 神器が神宝である以上、その所有者にもかなり厳しい制約があるはずだが、ただでさえ例外を重ねたようなこの戦いで、その制約が正しく守られている保証はどこにもない。あのカラバリビアの鍵であっても人間の言うことを聞いているのだから、それが否定しようのない証拠だろう。

 つまり、この女性は一時的に貴教に鍵を渡し、戦いを進めるように命令していたというわけになる。どうしてそのような状況になっているのかはわからないが、貴教の反応を見る限り円満に進んだ状況ではないことは理解できた。

 するとそんな俺たちを置いていくように、苦しんでいる麗子をかばうように貴教がその女性に向かって声を上げていく。その声は必死に助けを求めるような感情がにじんでおり、先ほどまでの貴教をまったく感じさせないほど緊迫したものだった。


「やめろっ!やめてくれええ!どうしてお前は自分の娘を躊躇いなく苦しめられるんだ!?どうしてお前はそんなに非情になれるんだ!?」


「どうして?そんなの簡単よ。私も同じ道を歩んだから。ただそれだけ。それに今の麗子はただの化け物よ?私は魔人になるように教育されてもなれなかったのに対し、麗子は完全にその力を我が物にした。加えて、今麗子の体の中にいる『それ』の正体を知らないあなたじゃないでしょう?」


「そ、そこまでしてお前はこの戦いに勝ちたいのか………」


「いえ、別に。特段勝利にこだわりはないわ。でも私と言う存在はこの戦いのために生み出されたと言っても過言じゃない。だったら戦わない理由はないわ。私には欲望がない。それはあなたが一番わかってるはず。そんな私に家族愛だの、子供を大切にしろだの言われても響くわけないじゃない。何かおかしなこと言ってるかしら?」


 狂っている。

 とは思えなかった。

 なにせ彼女自身はいたって正常だからだ。だが普通ではない。人として大切な何かが抜け落ちている。ただそれだけ。だから狂ってはいない。本人も自分が通常とはズレた感覚を持っていることも理解している。でもそれが自分だと受け入れた上で行動し、発言している。

 ゆえに彼女は世間的に自分の言っていることはおかしいと理解しているが、自分という存在がそう口にするのはなんらおかしいと思っていない。

 だからそんな言葉が出てくる。彼女にとって家族や娘は別に大切にしないといけない存在ではない。別に愛がないわけではなく、愛というものを彼女が持っていないから与えられないだけ。

 つまりそこにいるのは感情というものを与えられなかったロボットのような人間、ただそれだけだ。

 だからこそ、俺は恐怖を感じた。

 ここまで壊れた人間がいるのか、と。

 意図的に心を破棄されたのかもしれない。だがその上で彼女は開き直っている。むしろそれを己の武器だと思っている節がある。それはどんな化け物を相手にするより俺に恐怖を走らせてきた。

 加えて。

 ………な、なんだこの感覚は?彼女の気配の中に何か別の気配が混じっている………?い、いや、俺は知ってるぞ、この気配を。こ、これはまさか………! 

 そう考えた瞬間、俺の頭の中に一つの結論が浮かび上がった。そしてそれは今まで起きた全ての事象に対し辻褄があり、もはや否定のしようがないほど確固たる事実を俺に突きつけてきた。

 と、その時。

 空に浮かんでいる女性の目の色が変わった。比喩表現ではない。物理的に瞳の色が黒から翡翠色に変化したのだ。


「だがまあ、俺はこいつとは反対に欲望はある。だから今のこいつは俺が動かしてるって言っても過言じゃねえ。そんなわけで危うく『俺』が破壊される寸前だったから俺たちは出てきたってことだ」


「くっ………」


 貴教がその言葉に悔しそうに唇を噛んだ。その顔には怒りと憎悪、その他ありとあらゆる負の感情が浮かんでおり、話しかけることすらできないほど顔をしかめていた。

 するとそんな俺の隣に妃愛を抱いたガイアが近づいてくる。そして小さな声で俺に耳打ちしてきた。


「坊や、わかってるわよね?あの女の中にいる『もう一つの存在』について」


「………ああ。まさか人格すら持ってるとは思ってなかったが、気配的に間違いないだろう。道理で神宝の所有者を変えたりできるわけだ」


「へえー。どうやらその様子じゃ気がついたみたいだな、小僧ども。加えて、俺の正体に気がついておきながらそんなに慌ててないところをみると、すでに予測されてた可能性があるな。………ったく、こいつは他の帝人より面倒かもな」


 そう呟いた直後、彼女の瞳の色が元に戻った。すると、身にまとっていた荒々しい雰囲気も一瞬にして吹き飛び、元の心のない母親が戻ってくる。


「………確かにあなたたちは面倒くさそうね。この一瞬のやりとりで『この子』の正体に気がつくなんて、さすがにそれは想定外だわ」


「本当にそうか?俺にはそれすら予測して動いていたように見えるが?少なくともお前の手に鍵が戻った今、中に『そいつ』はそのくらい平気な顔でこなしそうな気がするけどな」


「さあ、それはどうかしら?ご想像にお任せするわね」


「………一つ聞かせろ。お前、どうやってその女性の中に入った?」


 その質問は彼女の人格に向けて放たれたものではない。彼女の中にいる「もう一つの人格」に向けたものだ。するとすぐに瞳の色が変化し、そいつはやってくる。


「簡単だ。俺は他の神宝とは違う。意思があり、人格がある。だから俺はこいつと契約した。俺の力を使わせてやる代わりに、俺をこいつの中に住まわせて自由にしろ。そして俺の願いを叶えるために行動しろってな」


「それを彼女は承諾したのか………?」


「ああ。こいつは欲がないないなんて言ってるが唯一一つだけ叶えたい願いがある。それは確かに白包を使わない限り叶えられない願いだ。願いを叶えるだけが白包の力じゃないが、こいつにとって白包は願いを叶えるための道具にすぎねえんだよ。そしてそれを得るためなら家族だって利用する人外。ただそれだけの話だ」


「無茶苦茶な利害関係だな………」


「そうでもねえさ。なにせ俺は一応こいつの夫の願いも聞き受けてる。白包は全部で三つだ。こいつと俺、そしてもう一つ残った白包をこいつの夫に受け渡す契約になってるのさ。まあ、俺は夫がどんな目的で白包を使うかまでは知らなかったが、こいつはどうやらわかっていたらしい。それに関しては俺は関与してねえよ」


 彼女の中にいる存在。

 それは俺ですら予想できなかった存在だった。だが似たような存在を見たことがないか、と言われるとそうではない。

 カラバリビアの鍵を始め、武器には少なからず意思がある。使用者を選ぶ聖剣、魔剣、聖槍、魔道書、多種多様な武器、それらには必ず意思が宿っている。俺たちの世界のカラバリビアの鍵がアリエスを使用者と認めたようにその意思は大抵本来の担い手が誰であるか判断する目的で動くことが多い。

 だが例外もある。

 詳しくは説明していないが、カラバリビアの姉妹鍵、リフトルギアという存在を覚えているだろうか。あれはカラバリビアとは違い己の形状をいかようにも変化させることができ、今では人の形をとって赤紀と一緒に生活しているのだ。

 つまりあいつは武器でありながら人間同様の知性と思考、そして人格を有している。そして今回の場合、この世界のカラバリビアの鍵にも似たようなことが起きていた。

 真話対戦で召喚された神宝とはいえ、本来神宝と呼ばれる武器はそう簡単に使用者を変えることはできない。先ほどまでは例外に例外が積み重なって起きたイレギュラーな現象と思っていたが、そこになんらかの理由がなかったとは言い切れないのだ。

 そしてその理由を考えると、上記の点から一つの結論が導き出される。

 つまり。


 この世界のカラバリビアの鍵には人格があり、その人格が誰に自分を使わせるか判断していた。


 という結論が俺の頭に浮かんだのだ。

 そして今、彼女の口から放たれた言葉をふまえると、その線はかなり濃厚になる。彼女の中には彼女の人格とは別にカラバリビアの人格が居座っており、瞳が翡翠色に輝くその瞬間だけ表に出てくる。


 そしてそいつこそが、この親子を戦いへ駆り立て全てを操っている張本人だったと、ようやく俺たちは気づいたのだ。

 ゆえにここから先は俺も経験したことのない神宝と神の戦いとなる。そしてその結末は誰の顔にも笑顔は浮かんでいないのだった。


次回は戦闘に入れればと思っています!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回は明日の午後九時になります!

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