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第六十四話 汚れた戦い、六

今回はハクがかなり追い詰められます!

では第六十四話です!

「よく持ちこたえたな、麗子」


「………擬似皇獣を一体失ってしまいました」


「問題ない。擬似皇獣はお前さえいればいくらでも作り出すことができる。それにしてもお前が増殖の能力まで使わされているとは思わなかった。これだけは想定外だな」


 そう言って月見里貴教はゆっくりと空から降りてきた。カラバリビアの鍵が復活したことで、万能性を取り戻した貴教は隠れていたであろう場所から飛び立って、俺たちが戦っている戦場にやってきたのだ。

 そんな貴教が現れたことによって、増殖し続けていたセカンドシンボルは貴教を避けるように場所を開けていく。その様はまさに「神」を思わせるような姿だった。実際、カラバリビアの鍵は神宝の中でも頂点に君臨する武器だ。神宝は通常の武器とは違い、担い手を選ぶ。真話対戦という戦いの場が例外を呼び込んでいるが、その鍵を扱えている今の貴教は神と呼ばれていてもなんらおかしくない状態にまで至っていたのだ。

 攻撃が一時中断したことによって息を整える隙ができた俺は、一度距離をとって態勢を立て直していった。だがその内心は当初考えていた計画がかなり狂っている事実に動揺していた。

 ………くそ、まずいな。月見里麗子を倒す前に親玉の貴教が出てきてしまった。セカンドシンボルが増殖するという事態がイレギュラーなのに、この状況は………。

 俺が考えていたのは、親二人を一人一人相手にしていこうと思っていた。一人づつ戦っていればカラバリビアの鍵が相手でも戦えると思っていたし、そもそも月見里麗子にここまで苦戦するとは考えていなかったのだ。

 この戦いを終わらせるには貴教が持っている神器を破壊するしかない。そうすることによって貴教の参加券は破棄され、戦う意味も目的も奪うことができる。よって俺はわざわざカラバリビアの鍵を永続ではなく一時的に封印して、戦いの場に引きずり出すことによって神器を破壊しようとしたのだ。

 だが現在、その二人が同じ場所に集結してしまった。

 こうなるならもっと長時間カラバリビアの鍵を封印しておけばよかったと思ってしまうのだが、そんなもの後の祭り以外何ものでもない。

 つまり端的に言えば、この状況は俺たちにとって想定外で、かなり危機的な状況だったのだ。

 すると貴教は妃愛を背負っている俺に視線を向けると、まったく興味のないような顔で口を開いてきた。


「久方ぶりだな」


「久方っていうほど時間は空いてねえだろ。というか、前回俺にあれだけボロボロにやられておきながら、よくもまあ顔を出せたな?」


「そう言う貴様も今は麗子に苦戦していたようだが?」


 睨み合い。

 だがその内情はこちらが圧倒的に無理だ。負けるとは思っていないが面倒な力を持っている相手を同時に相手にするののはかなり骨が折れる。妃愛を守りながら戦うのはかなり厳しい。そしてそれを貴教はわかっている。わかっているからこそ余裕を見せているのだ。

 俺はそう考えると、エルテナとリーザグラムをもう一度構え直し、態勢を整えていく。逃げるという選択肢がない以上、ここは戦うしかない。この二人が手を組んで向かってきたとしても、勝ち進むしかないのだ。

 と、そこに、貴教がゆっくりと己の足を動かして俺に近づいてきた。そして背後に控えていた月見里麗子に向かってこう呟いていく。


「ここは俺が引き受ける。お前は下がっていろ」


「………はい」


 月見里麗子はその言葉に頷くともはや数を数えるのもバカらしくなってしまうほどのセカンドシンボルを一度下がらせ、戦いの場を貴教に明け渡していく。それによって俺と貴教を中心に妙な空間が作り出されていくが、その中で俺はこの状況について貴教に問いかけていった。


「………まさか一人で戦うつもりか?随分と舐められたもんだな」


「今の貴様を倒すのに麗子の力は必要ないと判断しただけだ。セカンドシンボルごときに苦戦しているようなお前に、俺たちが全力を出す必要はない」


「言ってくれるじゃねえか。だったら確かめてやる。その大口の根拠をな」


「無論だ」


 そう口にした俺の顔にはうっすらと汗が滲み始めていた。この状況で一番まずいのは貴教とセカンドシンボルが同時に攻めてくることだ。今はそれがないとはいえ、後ろで月見里麗子が待機している以上、いつセカンドシンボルが攻めてくるかわからない。つまり、常にそちらにも気を配って置かなければいけないという状況が、俺の顔に汗を走らせていた。

 だから、俺の言葉にこもっている力はハッタリにすぎない。内心はどうやってこの二人を倒そうか、そればかり考えている。そしてその結論がいつまでたっても出ないせいで焦りがどんどん膨れ上がっていた。

 そして。

 そんな俺の汗が地面に落ちた瞬間、ゆっくり歩いていた貴教の姿が消える。


「ッ!?」


「はあああっ!」


 頭上からカラバリビアの鍵が振り下ろされた。その攻撃を俺は二本の剣をクロスしてなんとか受け止める。しかしその威力は俺の体を伝わり、屋敷の地面にまで到達していった。

 それによって地面が深く陥没したような形状に変化してしまうが、それでも貴教の攻撃はおさまるどころかどんどん強くなっていく。


「くっ………!」


「どうした?この程度の攻撃でまいるような貴様ではないだろう?」


「ちっ。舐めるなよ………!」


 俺はそう吐き出すと、背中にしがみついている妃愛の無事を確認しながら両手の剣を左右に振り抜いてカラバリビアの鍵を弾き飛ばしていった。それにより貴教の態勢が一瞬だけ崩れるが、その隙も一瞬にして修正されてしまう。空中で体を回転させた貴教は、何かに引き寄せられるように地面へ着地し、すぐさま地面を蹴って俺に攻撃を仕掛けてきた。


「縛り上げろ」


「させるかよ!」


 その攻撃はカラバリビアの鍵が何かを封印するときに使用する力だ。俺の足元から無数の鎖が伸び上がり、体を拘束しようとしてくる。しかしその攻撃は俺も読んでいたのでリーザグラムを振り抜くことで相殺していった。

 だが、そんなリーザグラムに伝わってくる感覚はあまり芳しくない。

 ………世界は違えど最強の真方であるカラバリビアを切り裂くのは無理があるな。相手の力と同調しているはずのリーザグラムが悲鳴を上げている。腕に伝わってくる感覚も嫌な予感しかしない………。

 カラバリビアの鍵は本来リアスリオンと並ぶ最強の神宝の一角だ。神宝ですらないリーザグラムがその力を無効化するのはいくらなんでも無理がある。今は力づくでどうにかしたが、あと二、三回同じようなことが続けばまず間違いなくこちらが押し負けるだろう。

 しかし、ここで俺はとあることに気がついた。

 この手の攻撃は前回戦った時も使われていた。しかしその際はこれほどまでカラバリビアの力は完成されていなかったのだ。人の身で神宝を使っている以上、その性能の全てを発揮できないのは道理だし、それが当然だと俺は思っていた。

 だが、今は。


「………お前、どうやってその武器を使いこなしている?前回戦った時とはその力の質も、規模も、気配も何もかもが違っている。その急激な成長は何が原因だ?」


「それを貴様に答える義務はない。俺には貴様を倒せるだけの力があるという事実だけで十分だ」


 明らかに強くなっていた。

 前に戦った時はエルテナ一本でもどうにかなっていたはずだが、今のこいつはリーザグラムすら使っている俺の上をいっている。二度の攻撃だけでそれを悟ってしまうほど、今のこいつの実力は抄紙機を超えていたのだ。

 戦いは何が起きるかわからない。それを今まさに痛感してしまっていた。誰にでも隠し球の一つや二つあるものだが、親子揃ってそれを用意しているとはさすがに思っていなかった。

 ゆえにまたしても俺は焦った。

 このままだとジリ貧になって負けるのは目に見えている。そうなれば俺は妃愛を守ることはできない。むざむざと目の前で妃愛が殺されるのを見ているしか無くなる。

 それは絶対に許されない。許されないのだが、それを回避する手段が見つからない。今のこいつにはエルテナもリーザグラムも気配創造も通用しないのは目に見えている。

 あのアリエスが使っていた神宝が相手なのだから、その力は俺が一番よく知っているのだ。

 と、そこに、貴教はいつまでたっても動かない俺を不審に思ったのかカラバリビアの鍵を振り上げてその力を一気に覚醒させていった。

 空に掲げられたカラバリビアの鍵は周囲の空気や塵、水蒸気や光、その他ありとあらゆるものを吸収して力を蓄えていく。そしてそれは世界の全てを飲み込むが如く大きな力を発生させていった。


「お、お前、な、何をっ!?」


「貴様が本気を出していないのはわかっている。部下を殺さずに意識だけ飛ばして無力化していた状況を見ればそれは明らかだ。であればそんな余計なものは排除してやる。貴様が気を使う必要がない場所を用意すれば、自ずとその力は明らかになるというもの」


「や、やめろ!お、お前、部下を殺す気か!?」


「私にとって部下はただの駒だ。それが必要なことならば、命だって奪う」


「く、くそっ!妃愛、俺にしっかり掴まってろ!そして目を瞑れ!」


「え?う、うんっ!」


 俺は妃愛にそう呟くと、この場にいる全員に気配創造の防御膜を張り巡らせ、妃愛を抱きながら地面に伏せていった。そしてそんな俺を見計らったように貴教はカラバリビアの鍵の力を解放し、大爆発を引き起こさせていった。

 その瞬間、空気と音、そして光が消えた。鼓膜を破るような爆音が響き、その直後に静寂が訪れる。そして気がついた時には、目の前にあった屋敷と大量に増殖していたセカンドシンボルの全てが消失してしまっていた。

 この場にいた人間は一応俺が全員守ったため大事にはなっていないようだが、それでも全ての人間を守護できたわけではない。屋敷の中にいた人間や俺が感じ取れなかった人間は、今の爆発によってその命を落としている、幸いこの爆発は屋敷が立っていた敷地内だけで止まったようだが、それでも俺たちは目の前で多くの命が消える瞬間を目の当たりにしてしまったのだ。


「さあ、これで思う存分戦えるはずだ。いい加減隠している力を俺に見せてみろ。貴様が心配しているセカンドシンボルもいなくなったのだ。これ以上ない環境だと思うが?」


「………お、お前、部下を殺しておいてよくそんなこと言えるな」


「だから言ったはずだ。やつらは所詮俺の駒に過ぎないと。麗子が用意したセカンドシンボルを失ったのは痛いが、あれはいたところで後々処理に困る存在だ。であれば先ほどまで貴様を足止めできた時点でその役目は終えている。消してしまう方が効率がいい」


「………」


 その言葉に月見里麗子は何も反応しなかった。自分が操り、強化してきた皇獣が実の父親に殺された心境はわからない。だがこの状況に彼女自身素直に喜べていないのは明白だった。

 その証拠に彼女の両手が伸びているスカートの裾は折り目がついてしまうほど強く握られている。一体その仕草がどんな感情からきたものなのかわからないが、それでもこの状況は彼女にとってあまり芳しくないようだった。

 だがそれよりも。

 今、この瞬間をもって。

 俺は俺の中にあったリミッターを解除した。

 目の前で人が死んだ。その事実が俺を本来あるべき俺に戻していった。

 だがその時。俺の心に全てを見ていたガイアが話しかけてくる。


『………さすがに、ここまでやられると私も自分を抑えられなくなるわね。こんなにもねじれた性根を持つ人間に会ったのは久しぶりだけど、あなたの気持ちはよくわかるわ』


『使っていいと思うか?』


『それはなんとも言えないわ。でも一つ言えることは、あなたの正体がバレようと死んだ人間は二度と生き返らないってことよ。そもそも神妃が死んでいるこの世界で、あなたの力が神妃だと断言できる証拠はほとんどないわ。………まあ、私から言えるのはここまでね』


『そうか………』


『坊やが「お姫様とその仲間たちを失った」あの気持ちを二度と感じたくないっていうなら、私は何があっても坊やを止めないわ』


 その言葉が俺の背中を押した。

 そして俺の中で答えが出た瞬間、それを察したガイアが俺の隣に移動してくる。そして俺の背中から妃愛を引き剥がし、手に持っていたカラバリビアのレプリカで自分と妃愛をしっかりと防御していった。

 そんな二人を見届けた俺は目を閉じたまま、ゆっくりと己の中に気配を爆発させて言った。


「………はぁぁああ!」


「ッ!………ほう?ようやくその気になったというわけか」


 貴教が俺を見てそんなことを呟いてくるが、俺の耳にはまったく届かない。だがそんな俺をおいていくように、俺から湧き出る力は地面を揺らし、空を割り、雲から大きな雷を振り落とさせていった。

 そして。

 とうとう。

 それは降臨する。


 俺が目を開いた瞬間、俺の気配が一気に膨れ上がった。体からほとばしる気配は神の気配。神妃リアスリオンと同質な力。そして世界を軽々破壊できてしまうほどの戦闘力。

 つまりそれは。




「………俺にこの力を使わせた意味を理解しろ。ここから先は人の立つべき世界じゃない。神のみが歩くことを許される高次元の世界だ。だから覚悟しろ。カラバリビアの鍵であろうがなんだろうが、今のお前に勝ち目はない」




 神妃化。

 俺の十八番とも言えるその力がついに顕現したのだった。


次回はハクの無双回になります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になりましたらお教えください!

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