第六十一話 汚れた戦い、三
今回は戦闘がより本格化していきます!
では第六十一話です!
「だあああああっ!」
「グギュアアアアア!!!」
「な、なにっ!?」
剣を全力で振り下ろす。しかしその攻撃は金色の擬似皇獣の体に当たった瞬間、大きく弾かれてしまった。その反動で俺の体は一瞬だけ身動きが取れなくなり、隙を晒してしまう。
そしてその隙を狙っていたかのように、もう一体の皇獣セカンドシンボルが俺を喰らおうと大きな口を開けて飛びかかってきた。
「くっ………」
その攻撃をギリギリのところで交わした俺は、すぐに体をひねってセカンドシンボルの背後をとる。そしてそのまま右足を振り上げてその踵を叩きつけていった。
「でりゃああっ!」
「キュエエエエエエエ!?」
セカンドシンボルの体が落下していく。地面には先ほど俺たちを攻撃していた連中が大量にいるが、その大半は負傷者を抱えて避難し始めているため、この落下によって被害が出ることはないだろう。だが、そこに人がいてもいなくてもセカンドシンボルには関係ない。今のこいつはただの皇獣ではなく月見里麗子に操られた獣だ。
つまりどんなことがあっても、すぐに戻ってくる。仮にセカンドシンボル本人が戦いたいとは思っていなくとも。
「ガアアアアアアアアアアアヂュエエエエエエエエエエエエン!!!」
「ちっ。こたえてねえか………。それなりの力は入れたつもりだが、さすがは五皇柱。一筋縄じゃいかないか」
「うぅぅ………」
すると俺の言葉に反応するように背中にひっついている妃愛から声が漏れてくる。妃愛は俺の動きに振り落とされないように力一杯俺の肩にしがみつきながら、その黒い瞳をぎゅっと閉じていた。
こうでもしなければ一般人の妃愛はこの戦いについてこれない。そもそも超スピードで動き回っている時点で、その体にはとてつもない風圧がかかってしまう。いくら気配創造の力でそれを弱めたところで、恐怖心は完全に消すことはできない。
ゆえに俺は妃愛に何も考えず、背中にしがみついているように指示したのだ。
「大丈夫、大丈夫だ。俺がなんとかする。妃愛は何も考えず俺の背中にしがみついててくれ」
「う、うん………」
と、そう言葉を口にした次の瞬間、自分の背後に大きな気配が出現した。その気配の主は俺めがけて金色の光を打ち出してくると、追い打ちをかけるように光弾をいくつか放ってくる。
だがそれはいくつもの戦場を駆け回ってきた俺にとってはなんでもない攻撃だ。ゆえに今回も俺は余裕を持ってその攻撃に対処しようとした。
しかし、その予想は大きく裏切られることになる。
「………ッ!?な、なに!?」
俺がその攻撃に反応した時にはもう、攻撃が目の前まで迫っていたのだ。咄嗟にエルテナを振り回してその攻撃を切り払うが、威力自体は殺し切れずに大きく仰け反ってしまう。するとまたしても、その隙をつくように吹き飛ばされていたはずのセカンドシンボルがムカデを思わせるような無数の腕を俺に向かって伸ばしてきた。
「こ、今度はこっちか………!くっ………!」
「あら。あんなに粋がってたわりには随分と苦しそうな表情ね?女の子を守りながら戦うってそんなにも辛いことだったのかしら?だったら、さっさとその子を手放せばいいのよ。そうすれば、あなたは自由よ?」
そう呟いてくるのは先ほどから地上で俺たちの戦いを観察していた月見里麗子だ。彼女は依然として大量の皇獣たちに囲まれており、位置は違うが高みに見物感覚で俺たちの戦いをみつめていた。
かくいう俺はその言葉が耳に響いた瞬間、心のスイッチを一段階切り上げて衝撃波を含んだ威圧を周囲に打ち出していく。それは近づいてきていた二体の皇獣を一気に吹き飛ばし、大きく距離を取らせていった。
「だああああああああああっ!!!」
「………へえ。面白いことできるのね、あなた」
「………。随分と余裕そうだが、お前は自分が置かれている状況を理解しているのか?」
「どういう意味かしら?」
「簡単なことだ。この二体がお前の切り札なんだったら、こいつらが俺に倒された時、お前は攻撃と守りの両方を失うってことだ。そうなれば、お前に勝ちはない。それをお前はわかっているのか?」
「何を言い出すかと思えば、そんなことあり得るわけないでしょう?この二体は私が使役している皇獣の中でも最も強力な力を持ってる個体よ。相手がどんな存在であれ、負けるなんてあり得ないわ」
「………違うな。もし本当にそう思っているなら、お前は最初からこの戦力を俺たちにぶつけてきていたはずだ。前に妃愛を襲ったあの裏山で、こいつらを呼び寄せていたはずなんだ。でもそうしなかったってことは、お前はこの二体の皇獣を駒としてしか見てない。大方、カラバリビアの鍵が使えなくなったお前の父親を立て直すための時間稼ぎがお前の目的なはずだ」
「………さあ、どうかしらね。私には何を言ってるのかさっぱりわからないわ。私が言えるのは一つだけ。あなたはここでこの子たちに殺されるのよ」
そう彼女が吐き出した直後、俺に吹き飛ばされていた皇獣たちが態勢を立て直して起き上がってくる。二体ともまだまだ体力は十分のようで、その体には傷一つ刻まれていない。強気な態度を持ち続けているが、妃愛を守りながら戦っている以上時間はかけられない上に、攻撃すらろくに当てることができていないことこの状況は、俺の心を少しだけ焦らせていった。
………さて、ああは言ったもののこれからどうするか。金色の皇獣、やつの防御力ははっきり言って異常だ。闇雲にエルテナを振り回しても、さっきのように弾かれるのが関の山。だからといって大きく踏み込めばその隙をセカンドシンボルが突いてくるに違いない。正直言って面倒なことこの上ないな………。
俺はそう考えると、ここで迷っていてはいけないと思い、蔵の扉を開いてとあるものを取り出していった。それは暗い空の下でも、青空を映し出すように青く輝いており、神々しい雰囲気を放ちながらこの世界に現界していく。そしてその光が俺の手に収まった瞬間、俺の新たな武器が一つ増えていった。
「なっ!?そ、その武器は………!」
「こうなった以上、俺も余裕ぶってるわけにはいかなくなったからな。妃愛を担いでなけりゃ肉弾戦を申し込んでるところだが、今はとにかくリーチが欲しい。ってなわけで、お前が二体同時に皇獣をけしかけてくるなら、俺だって数を増やさせてもらう」
右手にエルテナ、左手に青い光を放つ長剣。かつて俺がパーティーメンバーと呼ばれる仲間と旅をしていたころに取っていたスタイル。それを俺はここに再現した。本当であれば、エルテナの相棒は絶離剣のほうがいいのだが、絶離剣は今俺の手元にはない。となると必然的に俺が使う武器は限られてくる。
神宝ではなく、神宝に迫る力を持つ世界が作り出した長剣。相手の力と同調した攻撃を放つことによって攻撃を封殺する異次元の力を持った武器。
その名も………。
「理を穿つ天球の証。どんなにお前たちが神宝を神器として召喚していたとしても、この剣だけはお前たちには扱えない。この剣は世界に認められた者だけしか扱えないからな」
「くっ………!や、やりなさい!あの男を殺して!」
「「クグギュゲエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」」
俺がリーザグラムを出した瞬間、リーザグラムが放つ異様な空気を感じ取ったのか月見里麗子は慌てたように二体の皇獣を俺に突きつけてくる。当然その皇獣たちは俺を殺そうと動き出すがリーザグラムを手にし、二刀流というスタイルに変わった俺に死角はない。
魔眼を使い、相手の一手先を先読みした俺は軽く体をひねって二体の攻撃を避けるとすれ違いざまに金色の皇獣にリーザグラムの刃を深く突き刺していった。
「はあああっ!」
「ギュガアアアアアアアア!?」
手応えはあった。
ということはこの金色の皇獣の体がやたら硬いのはこいつ自身の能力がそうさせているということらしい。リーザグラムの能力は先ほども説明した通り、相手の力と同調してそれを無効化させるというものだ。つまりこれがもし、やつの防御力の源が硬質な皮膚によるものだったらリーザグラムの刃は弾かれていた可能性が高い。
しかしそうはならなかった。ということはこの以上な防御力はやつの特殊な力からきているということになる。
その事実を今の攻撃で確認した俺は、背中に背負っている妃愛に攻撃が当たらないように移動しながらセカンドシンボルの目の前に近づいて二本の剣を思いっきり振り下ろしていく。その攻撃はムカデのような姿のセカンドシンボルの体を再び地面まで突き飛ばし、大きな爆発を引き起こしていった。
おそらくだが、このセカンドシンボルとかいう皇獣にもなんらかの特殊能力はあるはずだ。ファーストシンボルが特異極まる力を持っていた以上、こいつだけ何の力も持っていないということはあり得ないだろう。
となると、今は力の詳細がわかりかけている金色の皇獣を相手にするほうが効率的だ。それに先ほどの光と光弾の攻撃。あれはおそらく………。
そう考えた直後、まるで俺の思考を読んだかのように金色に光る竜の形をした擬似皇獣は、口を大きく開いて無数の光弾を打ち出してきた。だがその光弾は放たれた瞬間、どこかへ消えるかのように姿を消してしまう。
だが、それを見た瞬間俺は悟った。というより予想が当たったと言うべきか。ゆえに俺はその予想をもとに次の攻撃へ繋げていく。リーザグラムを大きく振りかぶって、「まだ」何もない空間を切り裂いていった。
「はああああああっ!」
すると、何かがリーザグラムのヤイバに当たった音が響いてくる。また俺の左手には何かを切り裂いた感触が伝わってきていた。その感覚に思わず口角を上げた俺は、転移で一気に距離を詰めてやつの顔を二本の剣で横から殴りつけていく。
そしてたった今起きた現象を懇切丁寧に口に出していった。
「残念だったな。お前が攻撃を『亜空間』に飛ばしてることはもうお見通しなんだよ。別の空間に攻撃を溜めて、相手の死角から再び打ち出す。そうすることで相手の隙を確実に突くことができる上に、次への攻撃にも繋げやすくなる。まさか空間に干渉する力があるとは思わなかったが、タネが割れてしまえば対策くらい、いくらでも立てられるぞ?」
つまり、俺はやつが攻撃を逃がした亜空間を斬ったのだ。無数の光弾も一つの空間に閉じ込められている以上、その空間を切り裂けば無に帰るのは道理だ。ようは何かを収納している箱を、中身含め箱ごと破壊した。たったそれだけのことだ。そしてそれは相手の力に同調できるリーザグラムだからこそ可能な絶技。
先ほどの攻撃が俺の予想とはまったく異なる速度で俺に近づいてきたのも、つまりはこれが原因だ。俺が攻撃から目を離した隙に、光弾を亜空間へ放り込んで絶好のタイミングで吐き出す。その罠にまんまとはまった俺は見事に体制を崩されてしまった、というわけだ。
俺はそう呟くと、吹き飛ばされた金色の皇獣めがけてさらに肉薄する。そして二刀流のために作られた「あの技」をここで発動するための準備を整えていった。
剣に魔力を流し、攻撃の予測線を頭の中で組み立てる。そしてそれが完璧にシミュレートできたその瞬間、全力の攻撃をその皇獣に叩き込んでいった。
「さあ、これでくたばりやがれ!………黒の章!!!」
今回の黒の章は本来あるべき姿で打ち出された。この技は先にも言った通り二刀流でこそ力を発揮する剣技となっている。ファーストシンボルと戦った時のように、一本の県で使用しても本来の力は発揮されない。
だが今回は、完璧なまでの二刀流。つまり出し惜しみなしの全力解放だった。だから俺は勝てる自信があった。この攻撃をまともにくらって立てるはずがない、そう思っていたのだ。
現にその金色の皇獣は空中に浮かんでいることすらできなくなり、力なく地面へ倒れていく。体も傷だらけで肉も半ばちぎれかけていた。
なのだが。
「な、なにっ!?」
その傷がどういうわけか時間を巻き戻すように治っていく。それどころかやつの気配そのものが回復し、戦い始める前の状態まで完全に戻ってしまったのだ。
「い、一体何が起きた!?お、俺の攻撃はやつを仕留めたはず………」
「まあ、これはこれは。まだ『あの子』の力に気づいてなかったのね。それであんな大技を使ったのかしら?」
「あ、あの子だと?」
そう言われて視線を別の方向に向ける。すると何やら緑色に輝きながら声を上げている皇獣が目に飛び込んできた。
そう、つまり。
今、目の前で何が起きたのかというと。
セカンドシンボルが他の皇獣の傷を回復させていたのである。
次回は戦いに大きく動きます!
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次回の更新は明日の午後九時になります!




