第五十六話 作戦
今回はハクの視点でお送りします!
では第五十六話です!
「正面突破だ」
「はあ………。出たわね、その脳筋思考………。つくづく頼りない神妃様ね、あなたは………」
「なにおうっ!?」
「う、うん………。さすがに正面突破はないと思うよ、お兄ちゃん………」
「うぐっ………妃愛まで………」
現在。
俺たち三人は一度家に帰宅し、リビングにおいてあるテーブルを囲んで作戦会議を開いていた。一応学校には今日妃愛は体調が悪いということで連絡してあるし、そもそも学校も時雨ちゃんの騒動で慌てているようだったので特に何か言われることはなかった。
つまり完璧な欠席をいただいた妃愛は俺たちとともにどうやって月見里家に攻め込むか考えていたのだが、開幕から俺の意見が真っ向から否定されてしまったのである。
しかし俺はそれでもまだ諦めず。
「い、いや、何も考えなしに正面突破なんて言ってるんじゃないんだ。ほら、攻撃は最大の防御っていうだろ?向こうが色々と作戦を考えてきてる以上、こちらはその裏をかくように行動しないと上手を取られるから………」
「だからって正面突破は絶対にあり得ないわ。そもそも神妃化すらしないでどうやって正面突破なんて作戦を決行するつもりなの?あなたの力の基盤とも言える神妃化なしに、正攻法で連中を倒せるとは到底思えないわ」
「そ、それは確かにそうなんだが………」
神妃化。
この力は俺の根幹を担う力とも言える。全ての戦闘能力を上昇させ、神の領域に近づこうとする力だ。その威力は今までの戦いが物語っている。完全神妃化までいってしまえばあの星神すら倒せてしまうのだ。
しかしそれをこの状況で使うことはあまり得策ではない。前にも言ったがこの戦いは月見里家を倒しただけでは終わらないのだ。つまり今神妃化という力を晒してしまうと後々こちらが不利になる可能性も否定できない。
加えて神妃化という力はある意味俺を象徴する力とも言える。その力を使ったためにまだ誰も知らないであろう俺の正体が露見することは絶対に避けたい。
以上の理由から俺はこの戦いで神妃化を使うことはできなかった。
とはいえ。
「つっても、追い込まれたらさすがに使わざるを得ないけどな。もし妃愛が襲われたり、どうしようもなくなったときはいやでも使う。この世界がどうなろうと知ったこっちゃない」
「その威勢はいいけど、最初は使うつもりないんでしょ?だったらそれを作戦に組み込むのは間違ってるわ。あくまでも今ある戦力の中から組み立てるべきよ」
「ぐっ………。正論すぎて返す言葉がない………」
「え、えっと、何の話してるのかな………?」
とまあ、身内ネタを繰り広げてしまうと妃愛がまったくついてこれなくなってしまうので、俺とガイアはこの話をここで一度切ることにした。いまだに正面突破という戦法は悪くないと思っているのだが、民主的多数決を鑑みてここは俺も引くことにする。
改めて言うが今回は俺とガイアだけの戦闘ではない。巻き込みたくないと思っていた妃愛もその中に入っている、本来であればその加入は頷けないのだが、本人たっての頼みとなればさすがに首を縦に振らないわけにもいかなかった。
ゆえに今回は妃愛の意見も尊重しなければならない。それはパーティーメンバーと始中世界を旅している時のような気分にさせてくるが、俺はその高揚感を無理矢理押さえつけて話を進めていった。
「それじゃあ、一度状況の整理から始めよう。時雨ちゃん関連の話は全員知ってると思うから省くことにする。ってなると次は、月見里貴教と月見里麗子が一体どこにいるのかという点だが………」
「どうせ見当はついてるんでしょ?もったいぶらずに話しなさい」
「えっ!?そ、そうなの、お兄ちゃん!」
「なぜそれをお前が知っている、ガイア………。えー、コホン。まあ、そういうことだ。ここに戻ってくるまでの間に軽く居場所は調べておいた。あれだけ派手に暴れてくれたからな、気配も魔力もたっぷり残ってたよ。それを魔眼と気配探知でたどって居場所を割り出した」
「確か魔眼って月見里さんも持ってる力だったよね………?お兄ちゃんも持ってるの?」
「え?………ああ、そうか、ガイアから聞いたのか。うん、俺も魔眼は持ってるんだ。それも彼女とは比べものにならないくらい強力な魔眼をな。とはいえ、強力すぎるがゆえの苦労もあるんだけど………」
魔眼とは魔力を持つものがごく稀に瞳に力を宿してしまう能力のことだ。その力は多種多様で、確認されている魔眼を調べようとすると何年あっても足りないだろうと言われているほどだ。とはいえその大半は「観察眼」という魔眼に分類され、今回の月見里麗子もその一つだった。
魔眼という力は俺が住んでいた現実世界とアリエスたちが住んでいた始中世界のどちらにも存在が確認されている力で、魔術とは違って性質や理論の違いもほとんどない。それはおそらく原初にして最強の究極神妃が「界眼」という魔眼を持っていたからと推測されているが、真実は俺にもわからない。
とはいえ、そんなおれたちの世界から派生したであろうこの世界に存在する魔眼は、俺がよくしっている魔眼である可能性が高い、そうなるとそんな魔眼の中でも最上位に位置する俺の魔眼を欺けるはずがないのだ。
というわけで早速事件現場から漂っている力を観察し、その力の流れを追ったのだがその先には「とある建物」が立っていた。
俺は妃愛からスマートフォンを借りると、その中に入っているマップを開きやつらが隠れている根城を指し示していく。そこは東京湾に面した広大な敷地の中にひっそりと立つ巨大な屋敷だった。
「こ、ここに月見里さんたちがいるの?」
「ああ。今回も例のごとくカラバリビアの鍵によって気配が遮断されてたけど、周囲に残された痕跡を見る限りここ以外には考えられなかった。加えて、ここ周辺の空間が妙に歪んでいる。ネットの写真や衛星画像じゃうまく確認できないけど、人払いのような結界が仕掛けられてるみたいだ」
「ってなると、さすがにここはクロみたいね。海に面した見晴らしのいい場所に居城作ってる以上、それ相応の対策は積んでるってことみたいね。でもわざわざ潮が飛んでくる海のそばに建てるなんて、わざわざ家を錆びさせてくださいって言ってるようなものね。馬鹿なのかしら」
「いや、おそらく昨日俺たちが入ったあの屋敷が本丸なんだろう。だがやつらはあえてそこにはこもらなかった。つまり今回のこの屋敷には俺たちを迎え撃つ『何か』があると考えたほうがいい。つまり使い捨ての隠れ家ってところだな」
となると、確実に俺たちを倒す自身があるということだ。というかその準備を整えられた洗浄が今回の屋敷ということになる。罠が仕掛けられているのか、魔術が施されているのか、はたまた近代兵器が大量に詰め込まれてるのか、それは知らないが、一つ言えるのは俺たちがそこに攻め込むというのはかなりリスクが高いということだ。
しかしだからといって怯むわけにはいかない。
「まず大前提として、俺と妃愛は一緒に行動する。それだけは絶対だ」
「そうね。妃愛を連れて行く以上、その選択だけは変えられないわ。あの鍵がむこうにある以上、私じゃ力不足だもの」
「う、うん、それは私もわかってるよ」
「なら次だ。一体どのようにして攻め込むか、なんだが………。とりあえず俺たちの勝利条件は月見里貴教と月見里麗子を完全に無力化させること、これに尽きる。で、そうするために一番手っ取り早いのが」
「神宝の破壊ね」
「ああ」
「し、神宝の破壊?」
帝人は神妃が持っていた神器、もとい神宝を手にすることで常識を超えた力を身につけている。であればその根幹を担っている神宝を破壊してしまえば、どんな帝人であろうが無力化できてしまうのだ。
しかし問題点がいくつかある。
「だが、そうなるとどうやって神宝を破壊するか、それがポイントだ。世界は違えどやつが持っているのはカラバリビアの鍵だ。その神宝を破棄できる武器や力ってのは見つける方が難しい」
「絶離剣はお姫様が持ってるのよね?」
「ああ。だが仮にそれがあったとしても神宝のランクは鍵のほうが上だ。絶離剣の能力うんぬんの前に弾かれるのが関の山だろう」
「それじゃあ、残ってる神宝はあれしかないわね」
そう言ったガイアの視線は、俺が座っている椅子の横に立てかけてある真っ白な長剣に吸い寄せられていった。確かにこの剣ならばカラバリビアの鍵は破壊することができるだろう。
だがこれはある意味神妃化より強力な俺の切り札だ。そうやすやすときれる武器ではない。
「いや、これは使わない。これを使えばそれこそ俺の正体が露見しかねないからな」
「それじゃあ、どうするのよ?他に鍵を破壊できる手段なんてあるの?」
「ないわけじゃない。だが成功するかと言われればかなり際どいところだ。だからそれがなるべく成功するように戦闘を運ばせる」
俺はそう言うと、机についていた腕を胸の前で組み直して、言葉をさらに紡いでいった。だがその台詞が俺の心臓を凍らせてしまう。
「それに神宝を破壊したからといって戦いに勝利できるわけじゃない。向こうには月見里麗子がいる。あれは言うなれば月見里貴教より厄介だ。もしミストのような力を持っているのだとすると、一筋縄ではいかない可能性が高い」
「え?月見里さんが厄介ってどういうこと?」
「あ、ああ、いや、その………。彼女は魔眼も魔術も使えるから単純に面倒だなあって………」
「そ、そうなんだ………。月見里さんってそんなにも………」
あ、危ない危ない………。うっかり口を滑らせるところだった。
さすがにこの状況で妃愛に月見里麗子が魔人でした、なんて話できるわけがない。ただでさえ妃愛は時雨ちゃんが襲われて傷ついている。そこに無理矢理魔人にされていた山梨麗子の現状を突きつければどうなるかなんて目に見えている。
ゆえに俺は咄嗟に真実を隠すように振る舞ったのだ。ガイアには冷たい目で見られていたが今は気にしないようにする。
「と、とにかく、神宝を破壊するにしても二人を無力化するにしても一度戦わないことには始まらない。転移をして攻め込んだところで、向こうは大きな組織だ。駒だっていくらでも持ってるだろう。つまりどう足掻こうが戦闘は避けられないってことだ」
「まあ、確かに忍び込んだところでどうせ囲まれて襲われるのがオチだものね。で、具体的にはどうするのかしら?まさかまた正面突破なんて言わないでしょうね?」
「まさか。だがそれに近いといえば近いかな」
俺はそう言うと、頭の中に浮かんでいたその作戦を二人に伝えていく。妃愛は相変わらず何のことかわかっていない様子だったが、ガイアは目を見開き終始驚いたような表情をしていた。
だがこの作戦が決まれば他のどの作戦よりも上手くいく自身がある。だから俺はそれを実行するように告げた。
「多分この作戦はお前に一番負担がかかるはずだ。本来なら俺が代わってやりたいところだが、今はお前しか頼れないんだ」
「まあ、私は初めから拒否する気は無いけど、だったらどうしてもっと他の神々を呼び出さないのよ、とは思うわね。でもあなたのことだから自分を鍛えるばかりで神々の召喚なんて練習してないんでしょ?」
「うう………。め、面目無い………」
確かにガイアに負担がかかるならそれを分散できるようにたの神々を呼び出せばいいではないか、という結論にいたってしまう。しかし今の俺にはそれができなかった。もちろんオーディンの瞳を使えば何千、何万体の神々を召喚できるが、あれには時間制限がある。加えてあの力を使うためにも俺の魔力が必要な以上、今回の作戦は任せられない。
んで、ガイアの言ったように俺は自分の自身の力を鍛えるばかり、神々の召喚というものにまったく慣れていなかった。よっていまだに呼び出せる神々は一度につき一体という悲惨な現実が突きつけられてしまっているのだ。
しかしガイアはそんな俺に少しだけ微笑むと、呆れたような雰囲気を滲ませながらこう呟いてきた。
「まあ、本当にあなたの言ってることが本当に可能なら、それは引き受けるわ。ここが正念場というならなおさらね」
「………よろしく頼む」
と、そんな俺たちのやり取りを見ていた妃愛が急に口を挟んできた。そしてその黒い瞳で俺を映しながらこんなことを呟いてくる。
「お兄ちゃん………。わ、私は何したらいいかな?迷惑だけはかけたくないから、何か言って欲しいんだけど………」
「妃愛………」
多分、俺とガイアが淡々と作戦を決めている際に気を遣わせてしまったのだろう。妃愛だって今回の作戦の一員だ。その自覚が少なからず妃愛にも芽生えているのだろう。
だから俺はその頭を撫でながら、こう返していく。
なぜならそれは俺でもガイアでもなく、妃愛にしかできないことだったから。
「妃愛は月見里麗子をこっぴどく叱る準備をしておいてくれ。彼女がもう二度と道を間違えないように。妃愛の思いをぶつけてくれ。そのために妃愛はついてくるんだろう?」
その言葉に妃愛は強く頷きを返してくる。その仕草を見て俺も頷くと、立てかけられていたエルテナを手にとって俺は立ち上がった。
そうして俺たちの作戦会議は終わり、戦いの舞台へと向かっていく。
そして今夜、俺たち三人と月見里家の最後の戦いが始まっていくのだった。
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