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第九十一話 第三神核、一

今回のタイトルは第三神核と言っていますが、登場するのは最後のほうだけです。すみません。

では第九十一話です!

 第三ダンジョン第十六層。

 キラが十五層のボスを撃破し、俺たちは次の階層に足を踏み入れていた。ここまで来るともはや細々とした小細工は出現せず、強力な魔物が大量に溢れている。

 それは通常、地上で出現する魔物の特異種が多く、魔力を錬成するものや能力を所持するもの、はたまた武器を保有するもの、と多種多様な存在が姿を現したのだ。

 それらはもちろん俺たちの敵ではなかったのだがやはり量が量なだけに時間がかかってしまう。場合によっては麻痺や毒などの状態異常攻撃を放ってくる魔物もおり、その攻撃をかわしながら進んでいるため俺たちの足は度々止められていた。


「かなり魔物が沸いているな」


「ああ、妾といえどさすがにこれは飽きてきたぞ」


 キラは俺の言葉に反応しつつも両腕から攻撃を放つ。見ればアリエスたちも必死に対処しているようで、余裕そうではあるがその首筋には少しだけ汗が滲んでいた。

 それは十六層を越えてもまだ続いており、十七層、十八層も同じように魔物の大群が待ち構えていた。

 俺はエルテナとリーザグラムを振り回し血しぶきを浴びながらも切り続ける。確かにここまでの魔物が出てくれば、発展途上の冒険者からすれば恰好の経験値収集ポイントとなるだろう。まあ倒せるかは別としてだが。

 ダンジョンとしては、第十六層は遺跡風の外見をしており上層では木材を使用していた壁も岩のものに変わり、明かりが完全に消失している。ここでは第五神核の遺跡で使用したように気配創造の灯りを出現させ辺りを照らし出しながら魔物を倒していった。

 十七層、十八層では地上にある大樹の根っこがメキメキと壁を突き破って出てきており、道や扉はその根っこにのまれ、魔物ですら進むことが困難になっていた。


「ハクにぃ、ここ登れない」


「はいよ」


 俺は度々ぶち当たる巨大な根っこによってふさがれている通路を、身長的に登れないアリエスやシルの体を持ち上げて進んでいた。そうでもしなければ進めないほどの樹木であり、それはダンジョンのエネルギーと同化しているようで、切っても切ってもすぐに再生してしまうのだ。それゆえ切り倒すというよりも今のようにアリエスたちの体を持ち上げて進んだほうが効率がいい。

 しかもなぜだかアリエスとシルは俺に持ち上げられるたびに嬉しそうにしており、その他のメンバーはなぜか下唇を噛んでいた。


「お、おい、お前らどうしたんだ?」


「いえ!なんでもありません!」


「そうです!別に私も抱っこしてほしいなんて思ってないんですから!」


「マスター、今夜は抱き枕にしてやるぞ……」


 な、なんだろうかこの雰囲気は………。

 明らかに機嫌が悪いのはわかるのだが、その理由がわからない。なにか怒られるようなことをしただろうか?


『もはやラブコメ主人公並みの鈍感野郎じゃな、主様は』


 リアがなにか俺に呟いているが、それでも俺の頭の上には疑問符が出現しており、頭を悩ませる。


「ふふーん!」


「ふふ………」


 対するアリエスとシルは顔をほころばせ笑顔を浮かべながら俺の手を握ってくる。

 うーん、本当に状況が理解できない………。

 シラたちには地上に戻ったらなにか埋め合わせを考えておいたほうがいいのかもしれない。


 それから俺たちは十七層と十八層を立て続けに突破し、第十九層に到達した。

 そこはボス前の階層ということもあって相当危険なフロアかと思ったのだが、その予想はまったくもって当たらず、神秘的な空間が広がっていた。

 それはこの第三ダンジョンを構成する樹木の樹液が大量に溢れだし、その全てが琥珀に変わっている空間だった。その琥珀は十九層の全ての壁を覆いつくし、煌びやかに輝いている。

 さらに壁の隙間からは濁りのない水が滝のように流れ出しており、その下には虹色の果実を実らせる木々が生えていた。その果実は蛍の光のように局地的に光を放っており、俺たちの体を照らし出してくる。

 そういえば第一ダンジョンの九層部分でも、このような空間が広がっていたような気がする。第一ダンジョンでは巨大な魔石が頭上に浮かび上がり、その光がフロア全体を明るく照らしていた。

 まあそれは結局のところ第一神核のエネルギーの元となっていたため、正確にはダンジョン本来の姿ではないのかもしれないが、もしかするとダンジョンの最深部前にはこのような空間が全体に広がっているかもしれない。

 

「この部屋には魔物はいないようですね」


 シラがメイド服をなびかせながら呟いた。


「わかるのか?」


 俺は気配探知を使用しているため、すでにその事実は承知していたのだが、ほかのメンバーにはそのような能力は宿っていない。

 であればなぜシラはそのことを読み取れたのか。


「前にも言ったかもしれませんが、私たち獣人族は鼻や耳が利くんですよ。そもそも動物の血が混ざっているわけですから、身体能力や五感は優れているんです」


 なるほど、そういうことか。

 であればシラだけでなくシルも気づいているのかもしれないな。

 というか、獣人族ってスペック高くね?人族なんか相手にならないほど優秀じゃないか?

 しかもこれで差別されているというのだから世界というのは不条理なものだ。

 いやむしろ、人族にない力を持っているからこそ差別されているのかもしれないが、それはエルフや吸血鬼なども同じであり、やはり獣人族だけが不遇をくらっているというのは、到底納得できなかった。


「まあマスターのように完璧に気配の位置を把握するというのは難しいが、ある程度の気配は人間でも精霊でも探れる。それは獣人族のような体の器官的なものではなく単純な経験でだがな」


 キラが俺のそばに近づきながらそう答えた。

 確かに俺も戦闘時などで勘や経験が行動を変えることがある。ようはそのようなものが普段から働いているということだろう。俺は気配探知があるのであまりそのような経験は

ないのだが、エリアもキラの言葉に頷いているところを見ると心当たりがあるのだろう。


「それにしても美しいところですね」


 エリアが周囲の景色を見渡しながら徐に呟いた。

 周囲に輝く琥珀はよく見ると、時を止めたかのように魔物や植物を飲み込んでおり、さながら生きた標本のような感覚を受けた。当然その中に閉じ込められている魔物は生きていないが、いつ動き出してもおかしくない躍動感が感じられた。

 さらに耳に響き渡る水音は頭の中を浄化するような音色であり、今までの疲れを吹き飛ばすかのような感覚を与えてくる。


「あの木の実っておいしいのかな?」


 アリエスが近くに生えている樹木の果実を指さしながら俺に向かって聞いてきた。

 当然、この世界に来て一か月ちょっとの俺にわかるわけもなく、その言葉の返答に困っていたのだが、それには博識のキラが答えた。


「あれはカリブカラリの実だ。かなり珍しいものだが、普段は観賞用として用いられるもので、食用ではないな」


 確かに虹色に輝く果実はおとぎ話に出てきそうなほど美しいのだが、あれを食べたいとは思はないだろう。


「ふーん。それは少し残念。ああいうのって食欲そそられるから、食べてみたかったのになー」


 え!?

 アリエスはあんな色の果実を食べたいのか!?

 ど、どうやら味の感覚は同じでも、色味と味覚の価値観は元の世界とこの異世界では違うらしい。

 そういえば王国で食べたかき氷もどきもあの果実に似た極彩色だったな………。

 この世界では派手な見た目の食材が美味なのかもしれない。

 俺たちはそのような戦闘とまったく関係ないことを話しながら、ダンジョンの最深部に向かった。

 十九層は面積こそ狭いが、天井が高く、二十層に到着するのにかなり長い階段を降りなければならなかった。当然手すりなどついているはずがなく、空中に浮いているキラを除いた全員が何度も踏み外しそうになっていた。

 

 そしてとうとう俺たちは第二十層にたどり着く。

 そこは今までの中ボスの部屋とは比べ物にならないほど巨大な扉が設けられており、先程とは違い不気味なほど何の気配も感じ取れなかった。

 地上ではひしひしと感じられた殺気や敵意は放たれておらず、かえって俺たちの不安をそそるような雰囲気が漂っている。


「なるほど、神核というものには初めて近づくが、これはなかなか強敵のようだな」


 キラが感慨深かそうな表情を浮かべながら口を開ける。


「お前、世界創成期直後から生きてるくせに会ったことなかったのか?」


「まあな。そもそも精霊と神核は別の方向から世界を維持している。今のような状況ならともかく普段であれば絶対に交わることのない存在なのだ」


 キラはそう告げると、そのまま目線を目の前の扉に移すと、目に鋭い光を宿し戦闘態勢に入った。


「ハクにぃ………」


 するとアリエスが不安そうな表情で俺のローブの裾を引っ張ってくる。


「どうした?」


「ハクにぃ、またあの状態になったりしないよね?」


 あの状態というのは、俺が豹変した時のことだ。


「それは、俺にもわからない。アリエスは豹変した俺は嫌いか?」


 俺がそう問いかけると、一瞬だけアリエスは思考を巡らせると、すぐに俺に向き直り話し出した。


「ううん、そうじゃないよ。………でも今のハクにぃが居なくなるのは絶対にいや」


 アリエスは俺の顔をしっかりと見つめながら、真剣なまなざしで自分の気持ちを訴えてきた。

 今の俺に豹変した時の記憶はないが、その時の俺はアリエスや仲間たちには手を出していない。であればもし俺の人格が消えても心配はいらないだろう。

 だが今回は神核との戦いだ。もしかすればまたしてもその人格が表層に出てきてしまうかもしれない。

 それを俺は考えながらも、アリエスを心配させないようにその柔らかな髪をやさしくなでながら言葉紡いだ。


「俺の人格が変わってもきっとそいつはアリエスたちを攻撃しない。そんなやつを信じろって言っても納得できないかもしれないけど、だからこそアリエスも俺を信じてくれ。俺は絶対にアリエスたちの前から消えたりしない。仮に意識が飲み込まれてもアリエスたちだけは守るから」


 俺はそう言うと、出来るだけ笑顔でアリエスに笑いかけた。

 するとアリエスはその言葉にうつむきながらもコクリと頷くと、絶離剣レプリカを抜き、もう一つの手で魔本を開いた。

 その目は完全に覚悟を決めた目で、その姿を確認した俺は両腰にさしている二本の愛剣を抜き、扉の前に立った。


「今回は紛れもなく神核との戦闘だ。基本的に俺が前衛でキラが遊撃、残りの皆は後衛から間合いに入らないように攻撃してくれ。クビロは自分の判断で元の姿に戻っていいぞ」


『「「「「「了解!」です!です……!」です!」だ」じゃ』


 俺はその言葉を聞くと勢いよく巨大な扉を開いた。


 ギギギと音を立てて開かれた扉の先には、十九層よりも遥かに大きな部屋と、ゴツゴツとして舗装されていない床が俺たちの前に現れた。


 そしてその部屋の中心にいたのは、どこからどう見ても人間の男の子というような容姿を携えた人物がそこに立っていた。




「き、君たちが……、じ、人類を……滅ぼそうとしている……ひ、人達?」


 その少年は消えそうなほど小さな声で部屋に入ってきた俺たちに問いかけたのだった。





 こうしてエルヴィニア秘境における神核との戦闘が幕を開けた。


次回は本格的に第三神核との戦闘になります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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