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第五十話 腐った魔術

今回は最後にグロテスクな描写があります。苦手な方はご注意ください。

では第五十話です!

「真宮時雨は家にいたわ。自室で机に向かいながら勉強みたいなことしてたはずよ。まあ、平日の真昼間から家にこもるのはどうかと思うけれど、それ以外は特に変わったことはなかったわね。………ただ」


「ただ?」


「真宮組自体はそういうわけにもいかなかったわ。確実に月見里家に何かしようとしている節がある。もっと正確に言えば、戦いの準備を始めてるってところかしら。おそらくあの時雨って子が妃愛を助けて欲しいだの、守って欲しいだの言ったんでしょうけど、その結果私たちとしては最悪の状況が出来上がりつつあるわね」


「………」


 この局面において真宮組が月見里家とぶつかるのは最悪だ。月見里家が普通の大富豪なら話は別だが、今の月見里家には魔術の知識も神宝も擬似皇獣もそろっている。この状況で近代武器の銃だの爆弾だので攻撃を仕掛けてもどちらが玉砕するかは目に見えているのだ。

 加えて月見里家にしてみれば真宮家を人質として確保できれば戦況は好転する。というかむしろそれを狙って月見里麗子は妃愛の前で時雨ちゃんという子を焚きつけたのだろう。

 そう考える方が自然だ。だがそうなると、それをなんとしてでも阻止しなければならない俺たちからすると面倒なことこの上ないのだ。真宮組が攻めても攻められても落ちるのは確定的。となると真宮組が月見里家の手に渡ってしまえば、流石の俺も手が出しづらくなる。

 その状況だけはなんとしてでも避けなければならなかった。


「………ならなおさら俺たちは急がないといけないな。月見里貴教と麗子の居場所、これがわかれば越したことはないんだが、気配探知にすらかからない以上、カラバリビアの鍵で気配を消している可能性がある。こうなるとやつらの索敵は困難だ」


「だからとりあえず月見里家の根城に向かってるの?でもそれはさっきも行ったんでしょ?あなたは月見里家に一度向かった後、誰もいなかったからあの図書館に向かったのよね?」


「ああ。だが状況が変わった。もし后咲の言うように月見里麗子が魔人であるならば、その体を魔人に変えている魔術道具や術式があの家には残されている可能性がある。その魔力をたどって居場所を突き止められるかもしれない」


 それが俺の目的だった。

 今向かっている場所は先ほども赴いた月見里家の豪邸。先ほどはメイドや執事以外の気配を感じなかったのでスルーした場所だが、后咲の情報を聞いてしまった今、向かわないわけにはいかなくなったのだ。

 魔術というのは魔力という力を使って発動しているシステム上、その魔力がどこから流れてきたのか大体わかるようにできている。まあ、それを探るにも最高峰の魔術の知識とそれを探れる力があって初めて可能になるのだが、俺はアリエスの世界の魔術は詳しくないが、現実世界の魔術ならそれなりの知識を持っている。なにせあのリアの力を引き継いでいるのだ。それと同時に魔術の祖とも言えるリアの知識を引き継いでいてもおかしくはない。

 というか実際引き継いでいた。

 しかも丁度いいことにこの世界の魔術は俺が住んでいた現実世界よりの魔術構造になっている。であればその魔術道具や術式を見れば大方の情報は把握できるはずなのだ。

 ゆえに俺とガイアは二人揃って月見里家の豪邸に向かっている。ちなみに妃愛にはガイアの使い魔のような存在をつけており、何かあればすぐに知らせてくれるようなシステムが出来上がっていた。

 そんなこんなで数分ほど空を飛び、ようやく目的地にたどり着いた俺たちは姿を魔術で消しながらその屋敷に近づいていった。


「ふーん。大富豪とは聞いてたけど、確かにそれなりに大きいわね、この屋敷。この時代を考えるとちょっと大きすぎるくらいかしら?」


「ああ。この大きさの屋敷であれば魔術の痕跡ぐらいいとも簡単に消せてしまうだろうな。相手は俺たちのような特異な奴らじゃなく、あくまでも一般人だ。一般人の嗅覚を欺くぐらいこの屋敷なら可能だろう。だが逆に、それが目印だ。こんな馬鹿でかい屋敷をここに構える理由が確実にあったということになる。単純に金の使い道がなくて家に投資したという線もなくはないが、それでもあまりにも不自然な大きさだ」


「まあ、そう考えるのが妥当かしらね。で、どうやってこの屋敷の中に入るのかしら?壁抜けの魔術でも使う気?」


「まさか。そんな面倒なことはしない。普通に転移を使って内部に侵入する。気配も遮断するし姿だって魔術で消してる。いくらカラバリビアの鍵を持っていようが、所詮は人間だ。俺たちの力をかいくぐるのは不可能だろう」


「そう願いたいわね。ただ、この世界は私たちの世界とは似ているようで色々と違うわ。気をつけておいて越したことはないはずよ。注意しなさい」


「ああ、わかってる」


 俺はガイアにそう返すと転移を使用して屋敷の内部に侵入した。屋敷の中はまさに中世にでも迷い込んでしまったかのようなヨーロッパ風の作りで、屋敷の中央には大きな螺旋階段が俺たちを待ち構えていた。さらにその上には大きなシャンデリアが吊られており、縦にも横にも長い屋敷の窓から差し込んでくる光を反射している。

 だが、そんなことよりも俺たちの感覚器官をいち早く刺激したものがあった。


「ッ!………ガイア。感じたか?」


「………ええ。魔術の香り。それもこれは肉体変化に状態異常系の魔術。それがこの中に入っただけでこんなにも溢れかえってるなんて………」


「おそらくこの屋敷全体に魔力の漏洩を防ぐ結界のようなものが貼ってあるんだろう。一般人にはこれだけあからさまな魔力が漂っていても、それを感じることはできないだろうし、俺たちのような存在から隠すのであれば、この程度で十分だったわけだ」


「でもまあ、それもこの中に入ってしまえば形無しもいいとこよね。とはいえ相手が本物の神だなんて想像してないでしょうけど」


 ガイアはそう呟くとこの屋敷全体に流れている魔力の発生源に向かって歩き出していた。俺もそれに続く形で追随するが、その際にすれ違うメイドたちにはやはりというか当然俺たちの姿は見えていないようで、何一つ怪しまれることはない。

 とはいえ注意は払うべきだ。ここは敵の根城。どんな罠が仕掛けられているかわかったものではない。罠が仕掛けられていようと、それを踏み倒せる自身はあるが、できるだけ相手に悟られないようにしておく方がいいだろう。

 そんなことを考えながらも俺たちは魔術と魔力の香りに吸い寄せられるようにして足を動かしていった。どうやらこの屋敷は上だけでなく下にも部屋が続いているようで、俺たちが目指している場所はその地下に設置されているようだった。

 だがその香りが漏れている場所に向かおうとすると袋小路のような行き止まりにぶつかってしまう。


「道がないな………。地下に入ったまではよかったが、行き止まりになるとは思ってなかった………」


「でも魔力はこの先から漏れてるわ。多分、隠し扉のようなものがあるんでしょう。まあ、ここは私に任せておきなさい」


「何をする気だ?」


 と、次の瞬間。

 いきなりガイアは目を閉じ、聞き覚えのない言葉を発したかと思うと、その言葉と同時に七色に光る小さな光球が五つほどどこからともなく現れてきた。それはそのまま俺たちの前に立ちふさがっている壁の中に入り込むと、ほどなくしてガチャリという音を響かせてくる。

 すると、いきなり目の前にあった壁が横にスライドし新たな道が作られていった。しかしその光景にガイアは何やら不満そうに顔をしかめている。


「どうした?」


「………別になんでもないわ。低位の使い魔を呼び出してこの隠し扉を開けようと思ったのだけれど、まさかこの扉にも魔術が仕掛けられてるとは思わなかったわ。まあ、きづかれない程度に被害は抑えたけど、その生で使い魔は死んじゃうし………。まあ、もう終わったことだからどうでもいいけど」


「つまり問題はないんだな?」


「ええ。でも、もしここに連中が入ろうとすれば確実に気づかれるでしょうね。痕跡をできるだけ残さないようにしたと言っても、一度開けたことには変わりないわ。今はバレなくても、いずれこの事実は露見する。それだけは言い切れるわ」


「それで十分だ。いずれやつらとはもう一度戦わないといけない。今この瞬間に悟られなければ及第点だ」


 俺はガイアの言葉にそう返すと、さらに先へ足を動かしていく。どんどん明かりが少なくなり湿度も上がっていくが、それよりも魔術の気配がどんどん濃くなっていく感覚が俺の頭を刺激していた。

 しかしそれよりも。

 もっと棄民悪い感覚が俺の体に伝わってきていた。


「………血の匂いか。嫌な匂いだ。これは一日や二日で染み込む匂いじゃない。数年単位で血がこの空間に流れていたことを示している。………最悪だな」


「まあ、でも魔術と人間の血は切っても切り離せない関係なのよ。何の対価もなしに超常的な力を得ようとする方が間違ってる。だからある意味で言えばこの空間は魔術の真を突き詰めた結果なんじゃないかしら?」


「………もしそうだとしても、今の俺から見れば反吐が出るほど嫌悪する考え方だ。人間は俺たちのように強くない。脆く、弱く、繊細な生き物だ。無闇やたらに血を流して生き物じゃないんだよ」


「………元人間のあなたが言うと妙に説得力があるわね。でも、そこが私たち神々とあなたの価値観のズレ。それはあなたもわかってるはずでしょう?」


 俺の価値観はあくまでも人間寄りだ。元人間ということもあり、その道徳観念は現実世界の法律に則っている。しかしガイアたち神々の価値観はあくまで神代のものだ。人が贄となり、神々を讃える。

 俺やリア、アリエスの影響でその価値観が強制されていたとしても根源的な思想は変わらない。だからこの状況においても一定冷静でいられる。部屋の中に血の匂いが充満し、その原因が魔術によるものだとわかっても顔色ひとつ変えずに済むのだ。

 まあ、これに関してはどうこういっても始まらない。ゆえに俺はこの胸糞悪い空間の謎を早く解明すべく動かしていた足をさらに早く動かし、目的地まで急いでいった。

 そしてたどり着く。

 地下へ続く階段を降り、ただただまっすぐ進んだ突き当たり。そこには大きな鋼の扉がそびえ立っており、どういうわけか赤黒い血がいたるところに飛び散っていた。

 いや、正確には血で文字が刻まれていた。


「ッ………。こ、これは………」


「………まあ」


 もし俺が普通の人間だったなら、この場で胃の中のものを吐き出していたかもしれない。神としての精神がなければ、正気で入られなかったかもしれない。そう思ってしまうほど気色悪い空間がそこには出来上がっていた。


「痛い、怖い、辛い、助けて………。こ、これ………もしかして月見里麗子が書いたのか?」


「でしょうね。この血に含まれてるわずかな血は間違いなく彼女のものだもの。さすがについ最近書かれたものじゃないでしょうけど、この扉の奥で一体何が行われていたのか、それくらいは想像がつくわね」


「ちっ………。こんなことが今になっても行われてるのか………」


 脳裏に浮かぶのは白駒の記憶。

 幼い頃の白駒は実の両親に新薬の実験体として扱われていた。そんな白駒と月見里麗子を少しだけ重ねてしまった。この文字を見る限り、月見里麗子が自分の意思で魔人になったのではないことは明らかだ。

 それはつまり子供をただの道具としていしか思っていない親が原因。そんな腐った現実をまたしてもみることになるとは。

 俺は心の中から湧き上がってくる怒りを抑えながら意を決してその扉をあけていった。重たい扉は何かが軋むような音とともに中の光景を俺たちに見せつけてくる。

 だがこの時。

 俺は後悔した。

 まさかその部屋の中にある光景がここまで酷いものだとは思わなかったのだ。そしてそれは隣に立っていたガイアも同じ。ガイアの常識すら覆す悲惨な現実がそこに待ち構えていたのだ。


「な、なん、だ、これ………?」


「くっ………。ま、まさか、ここまで………」


 床に何かが落ちている。

 しかも「動いている」。

 それには見覚えがあった。具体的に言うと、人間の大腸。それがミミズのように地面を這いずり回っている。だがそれだけではない。何かによって引き裂かれたであろう人間の胃、肝臓、膵臓、その他内臓器官。それらが「複数」、まるで自ら意思を持っているかのように動いていたのだ。

 それは魔術の代償といっても本来ありえない光景。

 贄として摘出した臓器が「生きている」など、絶対にあってはならない。




 だが。

 それが現実となった空間が俺たちの前にある。

 そしてその臓器たちは。


 俺たちを発見した瞬間、何かに操られるように襲いかかってきたのだった。


明日は令和一日目ですし、ちょっと特別なお話を投稿するかもしれません(笑)

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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