第四十五話 調査と再会
今回はハクの視点でお送りします!
では第四十五話です!
「よし、いくぞ」
「私はいつでも準備オーケーよ。………それはそうと、いくぞって言ってもどこに行くっていうのかしら?敵の出方次第じゃ私たちも戦うことになるでしょうけど、こちらから攻めることはしないんでしょ?」
「ああ。あくまで俺たちの目的は妃愛とその友達に降りかかる火の粉を振り払うことだけだ。こちらから攻める必要はない。まあ、攻め落とす必要があるならばそれもやぶさかじゃないけどな」
俺はそう呟くととりあえず妃愛の家の上空に飛び上がりガイアと会話していた。今日も今日とて空は快晴で、隠蔽術式をかけることで姿を消している。人間が空に浮かんでいるなど見つかれば大ごとになってしまう。そうなるとさすがに本末転倒なので、昼間とはいえ俺たちは自分の姿と気配を遮断しながら調査を進めることにした。
「まあ、期間が一週間しかないものね。その間に向こうも動いて来るでしょうけど、それに合わせて私たちも動かなくちゃいけない。攻めも守りも同時にこなさないとうまく回すことはできなさそうね」
「ああ。だが今はあくまで調査だ。月見里一家がクロなのはわかったが、表立って攻めることはまだできない。学校にその娘がいるならなおさらだ。下手に家をつぶして妃愛が襲われたなんてことになったらシャレにならない」
「なら私は昨日言われた通り真宮組だったかしら?その連中の監視に向かうわね。何かあれば連絡するけど、できれば何もないことを祈るわ。あの鍵は世界が違っても『対神兵器』であることに違いはないから」
「ああ。よろしく頼む」
そう言ってガイアは真宮組の本部があると聞いている街の北側に向けて飛んでいった。まあ、ガイアにも一応気配創造の防御膜は張っているので、それほど心配していないが、相手はあのカラバリビアの鍵だ。俺の知らない力を隠し持っていても何もおかしくはない。そうなると俺は妃愛とガイアの二人に気を配っておく必要がある。
まあ、ガイアの場合は倒されたところで俺の魔力が尽きない限りいくらでも蘇ることができるので、二人の比重はそもそも違うのだが。
そんなことを一通り考えた俺はガイアとは別の方角に進み、とある場所を目指していった。聞けばそこはこの街の中でも一位、二位を争うレベルの豪邸らしく、周囲の住民からも羨ましがられている建物のようだ。
そしてその建物は妃愛の家からそこまで離れていない位置に立地している。気配探知や索敵用の能力を使わずとも簡単に発見することができた。まあ、それもそうだろう。なにせ俺がやってきたのは件の月見里家の本拠地、その根城なのだから。
「………確かに、これはかなりの豪邸だな。この時代にこんな馬鹿でかい敷地を買える資金力に感嘆してしまう」
始中世界、それも特にアリエス側の世界ではこの程度の豪邸は言っちゃなんだがそこら中にあった。まず村という規模の集落が異様にでかい上に、その中に貴族の家がゴロゴロと並んでいるのだ。それらと比べるとさすがに数ランク落ちてしまうのは否めない。
だがこの現代においてそんな異世界の住居と拮抗できるような建物はどう考えても以上だ。大きなバルコニーや噴水。現代に似合わない西洋風の造りに、丁寧に整えられた巨大な庭。リムジンが数十台すっぽり入ってしまうようなその敷地は俺の目から見ても異常と言わざるを得なかった。
だが逆に。
これほどの財力があるならば、本当になんでもできてしまう気はする。
妃愛とガイアの話によればこの月見里家は皇獣たちを何体か捕獲して「擬似皇獣」なるものを作り上げたそうだ。この家自体にそのような技術力がなくとも、その膨大な金があればそれすら可能にしてしまう得る可能性もなくはない。
ゆえに俺はある意味納得し、疑問を持った。
これだけの地位と金があるのに、なお白包に頼らなければいけない事情。それがわからなかった。まあ、世の中金で買えないものも、金でどうすることもできないこともたくさんある。こんな血に濡れた戦いにわざわざ参加しなければ行けなかった理由が、彼らにもあるのだろう。
俺はそこまで考えると一通りその建物の中の気配を探っていく。しかし使用人の気配こそあれど、貴教やその娘の麗子の気配はどこにも感じられなかった。
「………外に出ているのか?だとしたらガイアが向かった真宮組に攻め込んでいる可能性も否定できない。とはいえ、さすがに昨日の今日だ。いくらなんでもすぐに攻め込むなんてことはないのかもしれない」
はっきり言って。
昨日のやつらは敗走という敗北を突きつけられた。文字通り最強と名高いカラバリビアの鍵を使っておきながらたった一人の少女を仕留めきれなかったのだ。
そしてその事実をやつらは受け止めている。だからこそ昨日は無理に俺に挑んでくることはなかったのだ。だがそうなるとそれ相応の作戦を立ててからではないと同じ末路を描いてしまうことになる、そう考えていなければおかしいのだ。
ゆえに今日すぐにやつらが動き出すとは思えない。だから俺はこの豪邸にはもう用はないと決めつけてその場から去っていく。だが反対に目指す場所もあった。丁度いいことに今は妃愛がいない。妃愛に聞かれては困るような話も今ならできる。
そう考えた俺はとある場所に転移で移動していった。
「………ここは何度も来ても好きにはなれないな」
そこは高台の頂上付近に設置されている灯台のような図書館。一ヶ月以上前に妃愛と二人で赴いた場所だ。あの時は妃愛だけでなく俺も動転していたので、あまり組み込んだ話はできなかったが、今は違う。
思う存分、聞きたいことを聞けるはずだ。なにせ、この中にいるであろう夢乃と后咲はこの対戦を管理しているのだから。
俺はそのまま図書館の目の前に降り立つと、その重たく古びた扉に手をかけてゆっくりと手前に引いていった。ノックはしない。そんなものする必要はない。こいつらに払う礼儀などどこにもない。それが俺が抱く彼女たちへの感情だった。
だがそんな俺に向かってそのドア付近に立っていた夢乃が声をかけてきた。
「お久しぶりです。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「………后咲と話がしたい。時間はある。できれば前のような状況で話ができるとありがたい」
「かりこまりました。后咲には対戦関係者は無条件で通すように言われておりますので、どうぞこちらへ」
そう言って夢乃は俺を部屋の中に招き入れてくる。図書館の内部は以前入った時となんら変わっておらず、薄暗い部屋の中に大量の本と本棚が立ち並んでいた。だが今回は妃愛がいないこともあって比較的気を抜いて歩くことができたというのは言うまでもない。
誰かを守りながら行動するというのは非常に緊張するものだ。これがセナクォ預けられるほどの実力者ならそういった心配はないのだが、いかんせんそれを妃愛に要求するのは無茶すぎる。そもそもそいう世界には足を踏み入れてほしくないから俺は戦っているのだ。ゆえに、妃愛がいない今は存分に目の前のことに集中することができていた。
すると今まで見えていなかったことが徐々に見えてくるようになる。例えば薄暗い部屋の中にもいくつか窓は設置されているようで、日の光が溢れるように漏れ出していたり、そんな窓の隣には不気味な肖像画や絵画が飾られていた。
だがそんなことを考えているうちに俺の感覚は后咲の気配を捉えてしまう。引っ張られるように持ち上げられた俺の瞳は、以前と変わらず椅子に座りながら本を読んでいた后咲に吸い寄せられていった。
そして后咲も俺の到来に気がついたようで、顔を上げていく。同時に夢乃は軽く頭を下げてその場から立ち去り、俺と后咲だけの空間が出来上がっていった。
「ようこそおいでくださいました。なんとなくですが、そろそろこちらにきていただけるころかと思っていましたので予想が当たって何よりです」
「………そりゃ、意図的に嘘をついてたんだから当然だな」
「嘘、といいますと?」
「とぼけても無駄だ。この対戦、確かに皇獣や五皇柱は危険だが、それ以上に帝人同士の争いが妃愛の命を脅かしている。それはお前の話にはなかった情報だ。それを嘘とは言わずになんて言うつもりなんだ?」
昨日の出来事がなければ俺は后咲とミストの情報の食い違いにまだ疑問を残したままだっただろう。后咲はこの戦いは皇獣を倒すことが全てだと言い、ミストは皇獣よりも帝人同士の戦いの方が危険だと言った。結局俺はまだどちらも完全に信用しきったわけではない。だが妃愛が月見里家に襲われた以上、ミストの情報の信憑性が格段に上がったことは事実だ。
ゆえに俺はそれを問い詰める。しかし后咲はあっけらかんといった表情でそれを軽く笑い飛ばすと俺に向かってこう返してきた。
「ふっ。その様子だと色々と他の帝人の方々に吹き込まれたようですね」
「俺が答えなくてもどうせお前は気づいてるんだろ?」
「気づいているというよりは推察の域にすぎないのですが………。まあ、それはいいでしょう。あなたは純然たる魔人と呼ばれているミストさんにこの戦いの裏の顔を教えてもらった、そうですね?」
「ああ。実際のその情報は正しかった。月見里貴教は妃愛の命を狙い娘すら利用しながら、俺と戦った。もしミストが俺に注意を促してくれていなかったら今頃どうなっていたかわからない」
「本当にそうですか?あなたの場合、仮にミストさんの助言がなくとも鏡さんを守ることができたのではありませんか?」
「結果なんてどうでもいい。俺はお前がどうしてその情報を俺たちに伝えなかったのかって聞いてるんだ。この戦いの管理者を名乗るなら、その話は参加者に伝えなければいけない情報のはずだ」
俺はそう吐き出すとまっすぐ后咲の黒い瞳に視線を向けていったのだが、后咲はその視線を無理矢理外し、そのまま椅子から立ち上がると本棚に入れられていた本を一冊抜き取り、それを開きながら言葉を返してくる。その顔は笑っていながらも表情というものがまったく浮かんでおらず、人形でも見ているのではないかと錯覚させられそうになってしまった。
「………確かに、私たちもこの戦いの中で帝人の方々同士で争っていることは承知しています。ですが、それはこの戦いの本来の姿ではありません。白包の数も限られ、それを褒賞として掲げている以上、少しでも候補者を減らしたいという気持ちはわからなくはありませんが、それはこの戦いの趣旨と何も関係ないのですよ」
「だから口出しはしないと?だから俺たちには何も語らなかったと、お前はそう言いたいのか?」
「端的に言えばそうですね。この戦いは帝人の方々に皇獣を倒してもらうための戦いです。それを達成してこそ、白包は与えられます。だというのに、それを無視し勝手に暴れまわっている方々にこちらから何か言うことなどあるはずがありません。そしてその被害にあわれる方も同様です。私たちの仕事はあくまで『対戦』の管理、運営です。皇獣に関する情報やサポートはいたしますが、その他に関することは専門外も専門外。問屋違いなのですよ。口を出す義務もなければその気もない。ただそれだけのことです」
「………お前たちにとっても皇獣を殺してくれる帝人が減るのは困るはずだ。それでもお前たちは黙りを決め込むつもりか?」
「最悪の場合対戦を続けられなくなることもあるでしょう。ですがそうなった時はそうなった時です。この戦いは小規模ながら世界の命運がかかっています。こちらといしては帝人の方々はその責務の重さを理解しているものだと考えています。現に一度説明はしたのです、神器召喚の際に」
「だが、そこに妃愛は含まれていないはずだ。もとはと言えばお前たちと帝人たちが皇獣を討伐しきれてなかったから妃愛は今、苦しんでいる。その責任は間違いなくお前たちにもあるはずだ」
「それを言われると耳がいたいですね。というよりは、反論のしようがありません。ですからどうでしょう?もう少しだけ私たちが知っているこの対戦の情報をお教えするというのは。さすがに帝人の方々の個人情報まではお教えできませんが、今あなたが抱えている問題を解決できるかもしれない情報は提示できるかもしれません」
后咲はそう言うと、手に持っていた本を机の上においてその中にあったとあるページを開いていく。そしてその本と俺を交互に見ながらこう呟いていった。
「反論がなさそうなので、話を続けますね。今回お話する内容は『魔人』という存在についてです。前回、前々回の対戦はそうでもありませんが、今回の対戦はこの『魔人』と呼ばれている存在がそれなりにポイントになってきているようなんです。それを今から説明させていただきます」
魔人。
何度か聞いたことのある単語だ。
だが毎度その意味は聞けなかった気がする。話をはぐらかされたり、それよりも大切な会話が優先されていたはずだ。
だが今。
俺はその言葉の意味を知ることになる。
本当は「魔人」という存在の正体はもっと後に明かす予定でした。ですが毎度恒例ですが書いているうちに設定が色々と変わってしまいまして、このタイミングで発表することにしました!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




