第四十話 剣と鍵
今回はハクの戦闘回です!
では第四十話です!
カラバリビアの鍵。
それはかつてリアが神話大戦の際に作り出した最強の神宝だ。
あまりの強さゆえに作り手であるリアの記憶を消し飛ばし時空の彼方へと消えていってしまった曰く付きの神宝でもある。しかしそのカラバリビアの鍵は自ら飛び越えた時空の先で正規の使用者を発見し、拠り所を見つけることとなった。
その能力は一定の万能性と万物を封じ込める力の二つ。正確には地獄の扉を開くことのできる力も持っていたりするのだが、今はそれを考える必要はない。
なぜならその力は正規の所有者以外には扱えないからだ。鍵に選ばれ、その力を扱うことを認められたものだけが手にすることのできる最強の力。それが地獄の扉。
そしてその所有者というのは、言うまでもなくアリエスただ一人。全世界、この世全てを探してもこの鍵を使うことのできる所有者はアリエスだけだ。
とはいえ、その所有者でなくとも、この鍵は使うことができる。星神がいい例だろうが、地獄の扉を開くことができずとも、絶対的な力を手にすることができてしまうのがこの神宝だ。
加えて俺たちの世界ではカラバリビアの鍵は一つだけでも、他の世界に行けばその条件はいとも簡単に崩れてしまう。リアが生きていて、カラバリビアの鍵を作ったという歴史があればその鍵はいくらでも存在することになる。
とはいえ、今目の前にあるカラバリビアの鍵は俺が知っているそれとは少々作りが異なるようだった。姿形は同じ、しかしその中に蓄えられている力が全然足りない。おそらくあの鍵に地獄の扉は呼び出せないはずだ。
まあ、始中世界であり、全ての世界の根源となった俺たちの世界が中心である以上、その他の世界の神宝が劣ってしまうのは仕方のないことだ。見た感じだが、あのカラバリビアの鍵は俺がしっているそれの十分の一程度の火力しか出せないだろう。
だが。
あれは間違いなく本物だ。
追い詰められたガイアを見れば一目瞭然。ただの神宝に原初神として君臨しているガイアが負けるはずがない。であればあの神宝はおの世界におけるカラバリビアの鍵そのものなのだろう。
俺はそう結論付けると、軽く息を吐き出して左手を倒れているガイアに向けていく。するとすぐにガイアの体につけられた傷が回復し、気配や魔力も元通りになっていった。
「………感謝するわ、坊や」
「気にするな。お前はよくやってくれた。お前がいなかったら今頃妃愛は死んでいたかもしれない。それだけ俺はお前に頭が上がらないんだ。まさかカラバリビアの鍵のせいで俺のあげた鈴が効果を発揮できないとは思わなかったからな。本当に助かった」
「お礼なんていいわよ。あなたは神妃らしくを胸を張ってなさい。で、ここは任せていいのね?」
「ああ。お前は引き続き妃愛を頼む。魔力がなくなったら俺から遠慮なく持っていけ。躊躇う必要はない」
「わかったわ」
俺はガイアにそう返すと、ゆっくりと顔を持ち上げて一歩引いたところにいる男に視線を流していく。その男には鍵の力が嫌という程こびりついており、生半可な実力では太刀打ちできないことを俺に伝えてきた。
だが、ここまでされて引くという選択肢はない。こいつが月見里という少女の父親であるのなら、当然帝人としてこの対戦に参加しているはずだ。ミストの言葉を鵜呑みにするのは癪だが、この局面で今更それを疑うことはしない。
こいつは間違いなく妃愛を殺そうとした。己が白包を欲するためだけに。
であれば簡単だ。そちらがその気ならこっちもリミッターを切るだけのこと。ファーストシンボルと戦った時とは比べものにならない力で押しつぶすまで。
「………気配創造」
と、次の瞬間。
俺は思いっきり地面を蹴っていた。そして刹那の時を超えて男の背後に移動する。そのままエルテナを多いっきり叩きつけて全力の剣撃を叩き込んでいった。
「はぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「ッ!?ぐ、がああっ!?」
その攻撃を受けた男は勢いを殺しきれずに地面にめり込みながら妃愛がいる場所とは別の方向に吹き飛ばされていく。普通の人間では耐え切ることのできない威力を込めたつもりだが、おそらくあいつは死んでいない。
ゆえに追撃を加える。
やつが俺の攻撃の威力を殺し切るポイントを予測し、その場所に転移。そして予め発動しておいた気配創造の力を鎖状に変化させて、その体を縛り上げていった。
「な、なにっ!?」
「これで身動きは取れないはずだ」
気配創造の鎖はかつて暴走状態のリアナさえ封じ込めるほどの力を持っている。たかだか人間の分際でこの鎖を断ち切れるとは思わない。だからこそ俺はやつの懐に向かって踏み込んでいった。
しかし。
それと同時に俺の鎖がボロボロと崩れる感覚が頭に走ってきた。その感覚は自然と俺の体を後ろへ下げて、やつから距離を取っていく。
「ッ!」
奇妙な感覚に思わず顔を上げた俺は目の前に展開されている光景を見て少なからず驚いてしまった。気配創造の鎖はまた別の鎖のような何かにことごとく粉砕されておりその力を失っていたのである。
だがその光景はある意味当然だった。
なにせ相手にしているのは、世界は違えどあのカラバリビア。万物を封印することのできる力の効果対象は気配創造とて例外ではない。つまりこの男は俺の力すら鍵の力で封印してしまったのだ。
「………なるほど。どうやらガイアを追い詰めた力は本物らしい」
「貴様、何者だ?どう考えても普通の人間には見えないが」
「それはお互い様だ。だがまあ、お前の正体はなんとなく知っている。月見里貴教。月見里麗子の父親にして対戦の参加者。そしてその手に握られている神器もとい神宝はカラバリビアの鍵だ。まさかその神宝まで呼び出せているとは俺も思ってなかったがな」
「ほう?なかなか聡明、いや博識のようだな。そういう貴様はただの子守か、それとも小娘を利用して白包を狙う悪魔か、そんなところか?」
「なっ!?お兄ちゃんは悪魔なんかじゃない!あなたみたいな人にお兄ちゃんの何が………!」
「ちょっ!?いきなり会話に割って入るのはやめなさい!あの男は危険なのよ!?避けない首は突っ込まないで!」
「………だそうだ。少なくとも俺は妃愛にそんな目で見られていないらしい。まあ、ただの子守っていうのは否定しないけどな」
貴教の言葉に反応した妃愛とガイアを尻目に俺はそう返していった。だがそんな会話にさえ表情をまったく動かさない貴教は、俺に向かってカラバリビアの鍵を真っ直ぐ向けてくると殺気を丸出しにしながらこう返してきた。
「であれば余計なお節介というわけだ。貴様のやっているそれは小娘の命を無駄に伸ばしているだけに過ぎない。あの小娘は俺が殺さなくともいつか誰かに殺される。この戦いは弱者が一歩的に殺される戦いだ。この運命だけは変えられない」
「面白いことを言うんだな、お前。今この瞬間にも俺はお前を殺せる手札を整えてるんだぞ?その殺気といい無表情な顔といい、妙に癇に障る野郎だ。妃愛が殺される?その運命だけは変えられない?はっ!ふざけたこと。生憎俺は運命って言葉が嫌いなんだよ。そんなくだらない妄言を吐くやつの話は聞かないことにしてるんだ。つーわけで、お前はさっさと………」
そしてまたしても俺は地面を蹴る。
今度は先ほどよりもより早く。そして鋭く相手の懐に入り込んでいく。
「消えろ」
懐に入り込んだ瞬間、俺はエルテナを横に薙いで相手の腹を切り裂こうとした。しかし手応えがない。剣が宙を切ったような感覚だけが手に伝わり、攻撃が不発だったことを俺に教えてくる。
だがその理由はすでに理解していた。切られる直前に、俺の背後へと移動していたのだ。
「背中がガラ空きだな」
「知ってるさ。わざとだ」
「なに?………ッ!?」
「生憎とこの力はどんな形状にも変化できるんだよ。つまり剣の雨なんて小洒落た芸当もできるってわけだ」
剣の雨。
正確に言えば気配創造を水色の刃に変換し、全方位から多数の刃を突きつける技。それは雨のように避けることができず、ただただ攻撃を見に受けるしかない。俺はわざと自分の背後にやつを誘導してこの技の間合いに誘い込んだのだ。
ゆえに俺は半ば確信した。己の勝利を。カラバリビアの鍵があったところで、それを使いこなせなければ意味がない。アリエス以外の人間がそれを扱うなど無謀にもほどがある。あの星神でさえ標準的な能力しか引き出せなかったのだ。地獄の扉の力を使うなど絶対に不可能だ。
と、思い俺は気配創造の刃たちがやつの体を串刺しにするのを待っていたのだが、またしてもその予想は外れてしまう。今回の攻撃はいかにカラバリビアの力を展開しようと間に合わないタイミングだった。だというのにその力がまた発動して俺の攻撃を無効化したのだ。
「ちっ」
とはいえ焦ることはない。今、無理矢理鍵の力を発動させたのなら確実にインターバルが生じる。連続でその力を使うことなどただの人間はできない。であれば切り込むなら今しかない。
俺はそう考えると気配創造の力を体にまとわせ自身の動きを加速させながらやつに肉薄していく。そして剣を振りかぶって四連撃の剣術を叩き込もうとする。
だが次の瞬間。
「な、なにっ!?」
俺の立っている地面の下。
その場所にいきなり魔法陣が展開され、灼熱の火炎が襲いかかってくる。それはマグマのような火炎で俺の服をわずかに焦がしながら空に向かって勢いよく噴出していった。
ま、魔術を予め設置していた?い、いや、この山に仕掛けられている魔術はガイアが消していたはず………。ということは今、俺の認識街で魔術を仕込んだ?だがそれにしてはあまりにも早すぎる。この俺の目を出し抜くことなんて………。
と、思ったその時。
俺の視界にとある人物の姿が入り込んでくる。それは妃愛と同じ年齢と思われる少女で、自らの血を使って描いたであろう魔法陣の中に立っているようだった。
あ、あの子は確かこいつの娘で妃愛のクラスメイトの………。
と、そんなことを考えていた刹那。
俺の頭上にいきなり気配が移動すると、そこから突如として現れた貴教がカラバリビアの鍵を片手に鍵の力を使って作った封印の鎖を放ってきた。
「余所見とはいい度胸だな」
「………。なるほど、そういうことか。お前が俺の刃を全て消し飛ばせた理由がわかったよ。お前は自分の娘と感覚を共有しているな?だからこそ俺の認識街で魔術が発動したり、自らが反応するよりも速く鍵の力を発動することができた」
「なるほど、さすがに鋭いな。だがどんなに洞察力が優れていても体を動かせないのであれば話にならない。今の貴様にこの鎖が避けられるか?」
「ほざけ。俺を舐めすぎだ」
そう吐き出した俺はその鎖に向かって魔眼を発動する。俺の魔眼はレントの特異眼ほどではないが、かなり高位の魔眼だ。視界に入れたものに死を与えることすらできてしまう力を持っている。ゆえに鍵本体を殺すことはできずとも、その能力によって生み出された鎖程度であれば死を突きつけることができるのだ。
俺は魔眼を発動すると、青白く光るその瞳を鎖に向けたこう呟いていった。
「消えろ、ウジ虫」
「ッ!?」
その瞬間、俺を拘束しようと向かって来ていた鎖は跡形もなく消滅し、俺と貴教の間には妙な沈黙が流れていく。そんな光景を妃愛とガイア、そしていつの間にか駆けつけた貴教の娘である麗子が見守っているという状況が出来上がっていた。
だがこのままでは一向に話が進まないので、俺は挑発ついでに聞きたかったことを問い詰めて見ることにした。
「………四日前に俺たちはファーストシンボルと戦っている。だがあの戦いは色々とおかしなことがあった。その中でもお前たち一家が皇獣たちの数を間引きながらコントロールしていたという噂があったりするが、それは事実か?」
「それの質問に答える義理もメリットもない」
「だろうな。だが今の答えで十分だ。ガイア戦いから擬似皇獣なんてものがいたことはすでに俺も理解している。あの皇獣をお前たちが作り出したのだとすれば、そのサンプルとして本物の皇獣たちを捕獲していてもなんらおかしくはない。つまりだ。俺の勝手な妄想だが、お前たちは皇獣の数を間引くだけじゃなく、その皇獣すら捕まえて研究を重ねていた。そう考えるのはどうだ?」
「………答える必要はない」
「ふっ、そうか。だったら戦いを再開しよう。お互いにウォーミングアップは終わったところだし、そろそろ本気でいかせてもらう。どうせ死ぬ直前になったら嫌でも口を割るだろうからな!」
そう言って俺と貴教は武器を突き合わせていった。
俺が負ける可能性は百パーセントない。ゆえに俺は探り続ける。この戦いの中で月見里家という得体の知れない存在を。
だが妙な胸騒ぎがしていた。
この戦い、はたして本当に俺が有利なのだろうか。
そんな一抹の不安が俺の心の中に走っていたのだった。
次回はこの戦いが決着します!
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