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第三十八話 神の力

気がつけば900話を超えていました(笑)まだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします!

では第三十八話です!

 ガイア。

 地母神にして原初の神。

 ギリシャ神話における最初の神として言い伝えられており、この神なくしてギリシャ神話は語れないとされている女神様だ。

 ギリシャ神話といえばゼウスやヘラなどが有名だが、そんな有名な神々よりもさらに前に存在していたのがこのガイアという女神である。私も興味本位で読んだギリシャ神話の漫画に書かれたことぐらいしか知らないのだが、目の前にいるこの女性が本物のガイアであることは直感的に理解することができた。

 見たこともなければ話したこともない。

 でもわかる、わかってしまう。一目見れば誰だってこの女性が本当のガイアだということを悟ってしまう。人間とは別の世界に生きる常識を超えた存在。その力は目にするだけで体に緊張を走らせ、その身を強張らせていった。

 だが反対に、当のガイアは空中に浮きながら髪をくるくると巻いて不満そうな顔を浮かべている。それはもうどこにでもいる普通の女の子のような仕草で、なんと反応していいのかわからなくなってしまった。


「もう。せっかく久しぶりに現界したと思ったら。こんなジメジメしたところだなんて、とんだ災難ね。これは神妃の坊やに一喝入れとかないといけないかしら?………でも、そんなことしたら私の命が危ないわね。なんて言ったってあの坊やは今やあのクソババア神妃を超えてるんだもの」


「………」


 な、何を言ってるの………?まったく意味が理解できないんだけど………。というかこの状況は一体何!?いきなり擬似皇獣が死んじゃったんだけど!?


「ああ、口には慎みなさい?一応聞こえてるから、その声。世界に生きる人間は全て私に繋がってるわ。そのパスを辿ればあら不思議、心の声だって聞こえちゃうの。まあ、あなたの場合は特別よ。普通はそんな荒技は使えないわ。今回はあなたを守るために現界した、つまり限定的ではあるけど神話上の力を一部再現できるのよ。神妃の坊やはそれを認めてくれたわ」


「は、はあ………」


「ま、そんなこと言ってもわからないわよね。これは神の戯言、そう思いなさい?………それはさておき」

 そう呟いたガイアは目を細めると、何かを考えるように首を傾げていく。それを数秒続けたのち、ゆっくりと目を閉じると大きく息を吐いてこんなこと呟いてきた。


「ふーん、なんとなくわかったわ」


「な、何が………?」


「だから口を慎みなさいって………ああ、もういいわ。所詮神秘の消えた世界に生きる人間なんてそんなものよね。っと、それよりも。………妃愛、あなたは今、自分がどんな状況に置かれてるか理解してるのかしら?」


「え?」


 自分が置かれてる状況?

 そ、それは、えっと、裏山に呼び出されて、でもそれは月見里さんの罠で、擬似皇獣っていう化け物に殺されそうになった、って感じ?

 と、またしても心の中で声を発してしまったのだが、それを聞いていたガイアは首を大きく横に振って否定のポーズを取ってきた。


「違う、違うわ。そういうこと聞いてるんじゃないの。まあ確かにそういう経緯でここに誘い込まれたっていうのはわかったけど、そういう意味じゃないわ。私が聞いたのは『この場所がいかにあなたを殺そうとしているのか』、それを理解しているのかって聞いたのよ」


 ガイアはそういうとふわふわと空中に浮きながら少しだけ私に近づいてくる。だが近づいたかと思ったらすぐにその横を通り過ぎて反対側の草むらに入っていった。


「え、ちょ、ちょっと………!?」


「あなたはそこにいなさい。危険だから」


「は?」


 と、私が呆けた次の瞬間。

 何かが爆発する爆発音とともにガイアが近づいていった地面がいきなり吹き飛んでいった。しかしガイア自身はまったくの無傷のようで、砂埃を手で払いながらまた私の方に近づいてきた。


「今の爆発はこの山の地面に爆発を引き起こす魔術が発動して起きた現象。まあいわゆる地雷ってやつかしらね。それを魔術を使って再現してる、そんなところよ。んで、そんな魔術がこの山にはいたることころに設置されてるわ。最初はあの醜い化け物を使ってあなたを殺そうとする浅はかな考えしか持ってないんだと思ってたけど、こうなてくるとそういうわけでもなさそうね」


「つ、つまりそれって、絶対に私を逃さないようにしてるってこと………?」


「あら、意外と頭は回るじゃない。まあ、でもその通りよ。………それにしてもあなた魔術って単語、知ってたのね。それに驚きだわ。あなたは何も知らない一般人だって聞いてたんだけれど」


「し、知らないよ………。で、でも、目の前に神様がいるような状況じゃ、もうなんでもありなのかなって………」


「………い、意外と聡いのね、あなた」


 当然、魔術なんて言われても私は知らない。お兄ちゃんなら何か知っているのかもしれないけど、私を戦いに巻き込みたくないと思っているお兄ちゃんが自らそんな知識を開陳するはずもない。となると必然的にそれらの知識は私には伝わってこないという現状が出来上がる。

 しかし、だ。

 今は疑ってかかるほうが不利になる、その事実だけは理解できていた。

 ここでガイアが本当に神様なのかと疑ったところで話は進まない。私を助けてくれるというのなら、そんな彼女の口から出てくる言葉は全面的に信用しておいたほうがいいだろう。

 ゆえに理解できない単語が出てきても今は聞き返そうとはしなかった。それは確実に時間の無駄になるとわかっていたから。

 するとガイアは「まあ、いいわ」と呟いて私の背後に移動すると、いきなり私の体を抱き上げてその豊満な胸に顔を押し当ててきた。


「な、なに………むぎゅうっ!?」


「さてそれじゃあ、そろそろ私たちも動き出すわよ。そこでずっと私たちの様子を伺ってる『魔眼持ち』の女の子には悪いけど、遠慮なくこの山を抜けさせてもらうわ」


『ッ!?』


 ガイアがそう呟いた瞬間、明らかに動揺している月見里さんの声が耳に響いてきた。どうやらガイアが言っていることは的中していたようで、慌てた月見里さんの返事が帰ってくる。


『ど、どうして、それをあなたが知ってるのかしら………?』


「強がりは止しなさい?どうせ今頃私の力を盗み見て全身汗ダラダラなんでしょうけど。それもこれも敵に回しちゃいけない存在を敵に回したのがいけないのよ。あの坊やはあまりにも規格外。敵になったら最悪死よりも恐ろしい未来が待ってる。それを悟れなかったあなたの負け。言ってる意味わかるかしら?」


『わ、わかるわけないでしょう!』


 怒鳴り声にも似た月見里さんの言葉が放たれた時、私たちの周りから新たな擬似皇獣たちが大量に現れ、いきなり襲いかかってきた。どうやら擬似皇獣たちは月見里さんの命令を聞くようになっているらしく、その言葉の意図に従っていく。

 私はその光景に思わず目を瞑ってしまうが、そんな私を優しく慰めるようにガイアは淡々とこう話しかけてきた。


「心配しないでいいわよ?あなたを抱いてるのは神々の中でも原初神に分類されるガイアそのもの。その女神がこんな低レベルな獣に負けるはずがないじゃない」


『なんですって!?』


「そうねえ………。まずは手始めにこの山にかけられている全ての魔術を吹き飛ばしみようかしら」


 そう言ってガイアは己の右腕を真っ直ぐ前に伸ばしていった。しかしそんなガイアを取り囲むように擬似皇獣たちが鋭い牙を向けて襲いかかってくる。

 でも、それでもガイアは微動だにせずただただ腕を伸ばしたままだった。

 そして擬似皇獣たちの牙がガイアの肌に触れる寸前、ガイアは伸ばした手の指を高らかに鳴らしていく。乾いた音が鳴り響き、一瞬だけ時間が止まったような感覚が走ったかと思ったその刹那。

 感じたことのない神聖な気配が駆け巡り、この場に漂っている空気が一瞬にして塗り替えられていった。言うなればそれはまさに新たな世界を作ってしまったような感覚。このガイアという存在がガイアである証明をしているかのような力だった。

 そしてその力は目に見えた形で効果を表していく。


「グ、ギャア………」


「ふふふ」


「擬似皇獣たちが一斉に地面に倒れた………!?」


『そんな馬鹿な!?』


「それだけじゃないわよ?この山に仕掛けられていた魔術、その全てを私は『殺した』わ」


『なっ!?』


 言っている意味がわからなかった。

 擬似皇獣だけでなく魔術も殺した?そもそも殺すって言葉は命ある存在に向けるものだよね?それなのに魔術を殺したって………。ってことは魔術っていうのも生き物なの?


「なわけないでしょ。魔術に命があったらそれはそれで大問題よ」


「へ?あ、ああ、そうなんだ………」


「でも魔術に限らずこの世界にあるあらゆるものには気配っていう力が宿ってるわ。その気配を全て消し飛ばせば、それはもう『殺した』って言っても過言じゃないのよ。私は全てを生み出した女神として君臨してる。生み出したってことはその逆もできないわけじゃないわ。まあ専門分野じゃないことは認めるけど、こんな陳腐に陳腐を重ねたような魔術じゃ、この程度のこと造作もないわね」


 そう呟いたガイアは少しだけ頬を釣り上げると、私の体に腕を回して短かくこんなことを言ってきた。


「少し揺れるわよ?」


「え?ど、どういう………………って、きゃああああああああああああああああ!?」


 その瞬間。

 周りの景色が目まぐるしく変わった。

 もはやジェットコースターとか新幹線とか、そんなレベルの速度が出ていたと思う。それがガイアがただ移動しただけだという事実に気がついた時、すでに場所は変わり見知った少女が目の前に立っていた。


「はい、追いついた」


「なっ!?い、いつの間に………!?」


「え………?や、月見里さん………?」


「魔眼持ちと言っても所詮はただの人間。命眼や界眼を持ってるわけでもないし、それほど心配する必要はないのよ。この子ができるのは精々他人の能力を盗み見ることぐらい」


 ガイアはそう言うと私を抱えたまま裏山の中の少しだけ開けた地面に降り立っていった。そこには何やら不気味な力を放っている魔法陣のようなものと月見里さんが立っており、額に汗を浮かべながらこちらを見つめている。さすがの月見里さんもガイアの登場は想定外だったようで、その顔から余裕という単語が消え去っていた。

 するとガイアはそんな月見里さんに向かってまたしても右腕を伸ばし、こう呟いて言った。


「さあ、あなたのやったことのツケは払ってもらうわよ?私たちが生きていた神話の時代じゃ、人が死ぬなんてそれこそ珍しくもなんともないことだったけど、今は色々とかってが違うのよ。あんまり後味よくないけど、これ以上この子を危険な目に合わせるわけにもいかないから、ここで死んでちょうだい」


「くっ………!」


「ま、待って!ほ、本当に殺すの!?そ、そこまでしなくても………」


「あら、あなたも随分と甘いのね、妃愛?この子はあなたを殺そうとしたのよ?それもこんな人目のつかない薄暗い場所で。聞けばあなたたちはクラスメイトとか言う仲なのよね?それなのに、この子はなんの容赦もなくあなたを殺そうとした。これだけで神の鉄槌が下るには十分だと思うけど?」


「そ、それは………」


 返す言葉がなかった。

 一歩間違えれば私は死んでいたのだ。その状況を作ったのは間違いなく月見里さんだし、それを否定できる材料はどこにもない。ゆえに私が月見里さんを見逃すという状況はあまりにもおかしすぎる。

 だが。

 だからといって無闇に人を殺していいわけがない。それを判断できるほどの理性はまだ残っていた。しかしガイアはそんな私に向かってさらに鋭い言葉を突きつけてくる。


「はあ………。よく聞きなさい?確かに私も生ける全ての産み親として無意味な殺生は嫌いよ。でも、この子はその一戦を超えた。ただの人殺しじゃないわ。この神秘の消えた時代に神秘を持ち出してまであなたを殺そうとしたの。それに私という神にすら牙を向けたのよ?普通だったら自ら望んで首を差し出すところよ」


 そこまで言ったガイアは「というわけで」と一言言葉を挟み、目を見開きながら残酷にも死の宣告を月見里さんに突きつけていった。

 だが。

 だが。

 だが。

 この段階まで来て私もガイアも忘れていたことがあった。

 確かに月見里さんは帝人である私を殺そうとした。でもその手に「神器」と呼ばれている武器は見当たらない。実際本物の神器を見たことのない私が言うのもなんだが、この場に武器はどこにもなかったのだ。

 となると必然的にどうなるか。

 当然、その武器を持った存在がどこかにいるわけで………。


「さあ、地面に這いつくばって己の行動を後悔しながら無様に死になさ……………ッ!?」


 その瞬間、ガイアが何かを感じ取って月見里さんから大きく距離をとった。そしてそこで初めてガイアの顔に緊張が走る。その顔についている口からは小さく「あり得ない、あり得ない」と何かを否定するような言葉が漏れていた。

 だがそれと同時に。

 月見里さんの背後にあった草むらからとある人物が姿を表した。その人物の方には見たことも、言葉にすることもできない奇妙な「何か」が乗っかっている。渦を巻いたような螺旋状の剣。そう形容するのが手っ取り早いかもしれないが、それもまだ足りない。その「何か」には色さえ読み取れないような光がまとわりついており、一目見ただけであれが「神器」だと理解することができた。

 そしてその人物は登場するなり、こんなことを口にしてきた。




「何をやっている、麗子」




 その人物が月見里さんの実の父親で真の帝人であることに私はまだ気づいていなかったのだった。


次回は一つの神器の正体が明らかになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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