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第三十六話 忍び寄る敵

今回は妃愛の視点でお送りします!

では第三十六話です!

「うわあー!美味しそうなお弁当だね、妃愛ちゃん!それ、妃愛ちゃんが作ったの?」


「い、いや、これはお兄ちゃんが………」


「お兄ちゃん!?妃愛ちゃんのお兄ちゃんって料理もできるんだ。で、でもそんなに妃愛ちゃんを大切にしてル人を私は疑っちゃったんだよね………。とほほ」


「だ、大丈夫、大丈夫。気にしてないから。そ、それより早く食べよ?せっかくのお昼が台無しになっちゃうから」


 そう言ってみたものの、私の膝の上に置かれているお弁当は何だか食べるのが勿体無いくらい美しく完成されていた。一ヶ月前まではカレーやら焼きそばを作るのが限界とか言っていたお兄ちゃんも今は綺麗な卵焼きや唐揚げを朝から調理してしまうほどの技量をつけてしまっている。大した勉強もせずに学園トップの成績を取ってしまっている私が言えたことではないが、お兄ちゃんも大概天才肌だ。

 まあ、女子にしては少々ボリューミーなお弁当ではあるが。


「はむ………。そう言えば時雨ちゃんのお弁当も毎回すごいよね。どの食材も高級そうというか、実際にキャビアとか乗ってるし………」


「うーん、私はあんまり好きじゃないんだけどね、こういうの。でも組員の人たちが毎日私のために作ってくれてるから、そうは言えなくて………。だから妃愛ちゃんみたいなお弁当は本当に羨ましいんだー。家庭的というか愛情が入ってるっていうか」


「愛情は時雨ちゃんのお弁当の方が上じゃないかな………」


 現在。

 太陽がちょうど真上に輝いているお昼休憩。

 私と時雨ちゃんは以前の約束を再現するように学校の屋上に移動してお弁当を食べていた。一ヶ月前の私であれば月見里さんたちにお弁当を奪われかねないと思い、スナック菓子を昼食としていたのだが、今はお兄ちゃんがお手製のお弁当を作ってくれるのでそれもなくなっている。まあ相変わらずお菓子は大好きなので、しれっとコンビニでいくつかお菓子が買っているのだが。


「それはそうと妃愛ちゃん。修学旅行の班は決まった?」


「うん。男子が三人女子が三人。普通の班だよ。でも結局自由行動になったら班もばらけちゃうし、あんまり関係ないんじゃない?」


「だよねー。私もなんか勝手に班を決められちゃってたんだけど、あんまり仲のいい子いなくてちょっと困ってるの。一緒の部屋に泊まる子もあんまり話したことないから緊張しそう………」


「ああ、そう言えば私は来栖さんだったかな?生徒会長の」


「へー、来栖さんと一緒の部屋なんだ。あの人、なんだか固いイメージがあって少し苦手なんだよね………。私が話しかけた時なんて『は、はいっ!な、何がご用でしょうかっ!?』って怖がられたし………」


 それは時雨ちゃんというか後ろについてる真宮組の組員さんに怖がってるだけじゃ………。

 というのはわかっていても口に出せない。別に時雨ちゃんは私が何を言おうと気にしないだろうけど、あまりデリカシーに欠けることは口にしないほうがいいはずだ。少なくとも時雨ちゃんはお弁当の件のように一般的な家庭に憧れている節がある。時雨ちゃんのご両親はとてもいい人なのだが、その周りが「あんなの」なため、常日頃から「普通」という生活を夢見ているのだ。

 すると時雨ちゃんはいきなり目を輝かせながら私に振り返ると、ぐいっと顔を寄せながらこんなことを口にしてくる。


「ねね、妃愛ちゃん!」


「な、何………?」


「もしよかったら修学旅行中の自由時間とか、暇な時間があったら一緒にいようよ!私そんなに友達多い方じゃないからさ。ど、どうかな?」


「私は別にいいけど………迷惑かけるかもよ?」


「迷惑って何のこと?」


「そ、それは………」


 当然、月見里さんたちグループについてだ。

 確かに今はいじめの頻度は落ちている。いじめというより嫌がらせというレベルまでその規模が下がっているのは事実だろう。だがそれでもいつその嫌がらせが以前のようないじめに発展するかわからない。

 そうなった場合、私の周りにいる人たちは間違いなく迷惑を被ることになる。実際、その火の粉を被りたくないがためにクラスのみんなと始め、時雨ちゃんや松城くんを除いた学校の面々は私を無視したのだ。

 別にそれを責めるつもりはない。私が同じ立場なら多分同じことをするはずだから。

 ゆえに私は恐れていた。特に今の月見里さんは以前とは違う。いじめはしなくなったものの、もっと得体の知れない何かを携えてしまている。もしその火の粉が時雨ちゃんに降りかかったら、それこそ何が起きるかわからない。

 時雨ちゃんのお家がいかに裏社会で生きていようと、ミストという女性が言っていたように月見里さん一家がこの戦いに関わっているならば、話の規模はそれをはるかに凌駕するだろう。

 とはいえ、それは言葉にできない。して仕舞えば間違いなく時雨ちゃんも巻き込んでしまう。だからこそ私はあえていじめの件に話を振るように会話をコントロールした。

 した、つもりだった。


「………私、月見里さんのこと大っ嫌い」


「え?」


「前にも聞いたけど、妃愛ちゃんと月見里さんって昔、『何か』あったんでしょ?」


「………」


「しかもそれは妃愛ちゃんが『大怪我』することで収束した」


「………」


「そのとき、二人の間に何があったのかは知らない。けど、目の前で妃愛ちゃんがそんな目にあってるのを見てるのに、輪をかけて妃愛ちゃんを傷つけてる月見里さんは絶対に許せない。あの子のお家はかなり大きいし、私の家の力でも深く踏み込めないからあまり関わらないようにしてたけど、そのせいで妃愛ちゃんがもっと傷つくんだったら、私は今まで以上に月見里さんを嫌うし、妃愛ちゃんのそばにいたい」


「ち、違う、違うの………!あのときは私が悪くて………」


「ううん、違わないよ。クラスのみんなも学校のみんなも先生だって月見里さんには口を出せない。でもそんなことが認められていいわけない。まして何も抵抗しない妃愛ちゃんが傷ついていい理由なんてないんだよ。だから妃愛ちゃんは心配しないで。私は望んで妃愛ちゃんのそばにいるだけだから」


 違う。違うのだ。

 もし仮に今の月見里さんが以前と同じ月見里さんだったらその意見は多少なりとも通ったかもしれない。どれだけ月見里さん一家が大きくても真宮組の力を持ってすれば拮抗することぐらい可能だったかもしれない。

 でも違うのだ。

 もはや次元はそのレベルに留まっていない。

 神器、皇獣、帝人。

 人の文明レベルでは解析することすらできない異次元の力を持った存在が相手なのだ。そんな場所に時雨ちゃんを巻き込むなんて絶対にできない。

 それに「過去」のあれは一方的に私が………。


 と、次の瞬間。

 風が吹いた。

 私の金色の髪と時雨ちゃんの綺麗な黒髪が揺れる。

 だがその髪が舞ったその先に、その人物は立っていた。

 いつも一緒にいる取り巻きの二人はいない。そしてその顔からはいつものような余裕の表情が消えている。だがそれと引き換えに彼女が携えていたのは………。


 明確な殺気だった。


「あら?仲が良さそうね、二人とも?」


「や、月見里さん………」


「………早速現れたんだね。人の話を盗み聞きだなんて、月見里家のご令嬢がはしたない真似するじゃない?」


「暴力で解決しようとする真宮組の野蛮人に言われたくありませんわ。そっくりそのまま言葉を返してさしあげます。ああ、ごめんなさい?野蛮人には私の高貴な言葉は理解できませんでしたね、すみません」


「言ってくれるじゃない………。喧嘩を売られたってことでいいのかな?」


「や、やめて、時雨ちゃん!今の月見里さんを挑発しちゃ………」


「なるほど、さすがにその程度の事態は理解しているわけですね。まあ、あれだけあからさまな脅しを仕掛けたわけですし、気づかないほうがどうかしていますけど。………それで?今度はお友達もこの『戦い』に引き込もうとしていたわけですか?」


「違う!時雨ちゃんは関係ない!だから、時雨ちゃんを巻き込まないで!」


 声が震えてしまう。反射的に胸ポケットに入っている鈴と星砂に手が動いていく。しかしそれを使う気にはなれなかった。ここには時雨ちゃんだっている。一般人の時雨ちゃんに見られて困るものだって色々あるはずだ。

 であればこの要求は飲み込むしかない。そう私は考えていた。

 だが、そう簡単に話は進まない。


「それはあなた次第ですわ、鏡さん?言っておきますけど、私は一般人を巻き込むことに躊躇いはありません。必要であれば利用し、必要であれば殺します。それくらいの覚悟で臨んでいるんですよ、私は」


「ッ………!」


 ほ、本気で言ってる………。この言葉は嘘じゃない。そう本能が告げていた。

 だったらこの場に時雨ちゃんがいて気にすることなく巻き込んでくるかもしれない。最悪の場合ここで力を振るわれる可能性だってある。自分でも何を言ってるんだと思ってしまうが、実際に超常的な力は間違いなく存在している。お兄ちゃんを始め、帝人や皇獣と呼ばれている存在は、既存の兵器では絶対に太刀打ちできない力を持っているのだ。

 そしてその力は一般人である時雨ちゃんを容赦なく吹き飛ばすことだって可能。であれば今、時雨ちゃんを守れるのは私しかいない。

 そう考えた私は震える足に鞭を打って時雨ちゃんの前に立つと、額から吹き出る汗をぬぐいながら話を無理矢理進めていった。


「私次第っていうのはどういうこと………?」


「私とて無闇に一般人を巻き揉むつもりはありませんわ。ですから交渉しましょう」


「交渉?」


 と、そのとき。

 私のスマートフォンがブルブルと振動する。慌ててそれを開くと、知らないアドレスから一通のメールが来ていた。そしてその中には短い文章でこう記載されていた。




『友達を巻き込みたくなかったら今日の放課後、学校の裏山に来なさい』




「う、裏山………?」


「無事に届きましたね?私が要求することはそれだけです。それを飲めなければ私は誰彼構わず攻撃を仕掛けますわ。それがあなたにとってダメージになるならなおさら」


「くっ………」


 そう呟いた月見里さんはもう要件は済んだと言わんばかりに屋上から退散していく。しかしそんな月見里さんに向かって時雨ちゃんが明らかにイラついたような声でこう言い放っていった。


「もしかして一般人って私のこと言ってるの?」


「あなた以外に誰がいるというのかしら?」


「言ってくれるね。一応私も裏に生きてる人間なはずなんだけど、それじゃまだ物足りないのかな?」


「まったく足りませんね。私が生きているのは、人間という狭い領域で測れる場所ではない。もっと高次元の高みなんです。そこにあなたの居場所はない」


「………」


 それが最後の会話だった。月見里さんは背中を向けたまま屋上を去り、残された私と時雨ちゃんは半ば呆然としながら立ちすくんでいた。

 しかし緊張が解けたことによって、私の足から力が抜けそのまま膝をついてしまう。


「妃愛ちゃん!?」


「あ、あはは、ご、ごめん………。足が言うこと聞かなくて………」


「と、とりあえず保健室に行こう。しばらく休んだほうがいいよ」


「で、でもそれは時雨ちゃんもでしょ?顔色悪いよ?」


 確かに時雨ちゃんはお家のこともあってか裏の社会の空気を吸ってきている。ゆえにそんじょそこらのことでは怯みはしない。

 だが今、月見里さんが放っていたのは、そんな空気すら凌駕する本物の殺気だった。それはいくら時雨ちゃんでも感じたことのないものだっただろう。仮に殺気というものを「感じ取れたとしても、それを直に浴びれば顔色だって悪くなるのは当然だ。

 しかし時雨ちゃんはそんな私を励ますように笑みを浮かべてこう返してくる。


「私は大丈夫。それにやらないといけないことも見えたから。それより妃愛ちゃんの方が心配だよ。ほら、立てる?」


「う、うん………。し、時雨ちゃん、あの………」


「うん?なに?」


 このままではいけない。

 そんな予感が走る。おそらく時雨ちゃんは今の会話から色々と感じ取ってしまったはずだ。それを考えればこの後時雨ちゃんが何か行動に出てもおかしくない。

 だがそれだけは絶対に止めなければいけない。このまま突っ走らせてしまえば、本当に取り返しのつかないことになるような予感がしたのだ。


「………お願いだから何もしないでね。絶対に」


「………。行こっか、保健室」


 答えがなかった。

 それは一層私の不安を煽ってくる。

 だが私にはもうどうすることもできなかった。手を伸ばせば届く距離にいた時雨ちゃんに手を伸ばせなかった。




 しかし、それが命取りとなる。

 そんな未来を私はまったく予想できなかったのだった。


次回は妃愛が裏山に向かいます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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