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第三十二話 休息、一

今回は箸休め回です!とはいえ、伏線はばら撒いていきますよ!

では第三十二話です!

『よく聞いておきてください、ハク。おそらくですが近々あなたたちは月見里家から襲撃を受けるでしょう。彼らのターゲットはあなたたちです。今回、ファーストシンボルがこの場所に攻めてきたのは単純な偶然でしょうけど、それを彼らがまったく知らなかったかと言われればかなりグレーです』


『グレー?いやだって、お前。さっきお前自身がファーストシンボルと月見里家の因果関係はないって………』


『直接的な関係はないと睨んでいます。ですが間接的に、皇獣や人間の数を極端に減らしてこの場所まで誘導するという方法は取れなくもありません。おかしいとは思っていました。あの五皇柱が他の皇獣を食らったにしてもさすがにこの一ヶ月一体も現れなかったというのは不自然な話です。………しかし意図的にその数がコントールされていたのだとすれば』


『この状況を作り出せなくないってことか………』


『はい。ですから注意してください。今もなお真話対戦に参加する気がないのなら、鏡さんを守りたいと思うのなら、月見里家は確実に立ちふさがってきます。現状、五皇柱を倒したのはあなたであって鏡さんではありません。帝人ともあろう人間が回りくどいやり方をするとは思えませんが、それでもあなたの目をかいくぐってくる可能性は否定できないのです』


『………わかった。その忠告はありがたく受け取っておくよ』


『そうしてください。そうでなければ私がこの食事会を開いた意味がなくなってしまいますから』


 そう口にしたミストはその後、何一つ真話対戦のことに関して語らなかった。俺としては后咲と話した時と同じようにまだまだ問い詰めたいことがたくさんあったのだが、いくら気を失っているとはいえ、いまの妃愛はかなり疲弊している。これ以上この場にいるのは危険だ。

 そう判断した俺はそのまま軽く夕食を済ませ、帰りは二人だけで帰ると言ってその場を立ちさった。さすがに距離が距離なので転移を使用して戻ってきたわけだが、それをミストに見られるわけにもいかなかったので、浮遊の力で少しだけ離れてから転移を使った。

 それからはいたって普通で、家に着く頃には妃愛も目を覚まし、ふらつきながらも一人で風呂に入れるくらいには回復していった。どうしてあの場で急に意識を失ったのか聞いたのだが、うまく思い出せないらしく妃愛も不安そうな表情を浮かべるばかりで、下人は不明。まあ、今回の戦いは前に襲われた皇獣とは比べ物にならないほど規模が大きかったし、根源的な恐怖で意識を落としてしまってもなんらおかしくはない。

 俺はそう考えることでいまのところは納得しておくことにした。

 そして現在、俺はミストに言われた月見里家とやらの情報を集めているのだが………。


「もう!お兄ちゃん、遅いよ!早く早く!」


「えー、ちょ、ちょっと待ってくれよー………。というかやっぱりやめないか?さすがにこの場所に俺が入るのは気まずいんだが………」


「私がいれば平気だよ。お兄ちゃんは気にしすぎ!」


「って言ってもなあ………」


 と、ぼやく俺の前に建っているもの。

 それは言ってしまえば女性服専門のデパートのような場所だった。家から電車を使った数十分。都会中の都会とも言える場所に赴いていた俺たちの前には、どうみても男の匂いがまったくしない建物が乱立していたのである。

 少し離れれば普通の建物も見えてくのだが、この一角だけはどこを見てもピンク、ピンク、ピンク!という景色が展開されているのだ。

 ああ、でも別に物理的な色のことだけを言っているのではない。もちろんしっかり比喩表現も含まれている。単刀直入に言えばこの場にいていい男子諸君は皆リア充と呼ばれている輩のみで、隣には確実に彼女と思わしき女性を侍らせていた。

 となると。

 現在の俺はどうなるのか。

 言うまでもないだろう。


「ここに俺がいたらただの変人なんだよなあ………」


 そう!

 断言しておく!

 女性だらけの空間に放り込まれたぼっちの男がどういった末路を迎えるか!

 それは簡単だ。単純に変態扱いされる、これに尽きる!さらに面倒なことになれば痴漢や冤罪をかけられてもなんらおかしくない!そんな場所に彼女すら連れてきていない俺がいたら、どうなるかわかったものではないのだ。

 ここにアリエスがいたらまだどうにかなったかもしれない。まあ、アリエスは基本的に外見が美人すぎて目立つため、滅多にこのような場所にはこないのだが、とはいえいてくれたらどんなに頼もしかったかと思えてしまうほど、この場において彼女という存在は大切なのだ。

 そんなに言うならば妃愛はどうなのか。妃愛は俺と一緒にいて俺の彼女には見えないのか。そう突っ込みたくなる気持ちもわからなくはない。

 だが考えてみてくれ。妃愛はまだ中学生だ。来年高校生になるとはいえ中学生なのだ。俺が仮に十八歳の容姿を持っていたとしても、さすがにこの年齢差でカップルとは言い張れない。言い張ってしまえばそれこそ変態というか犯罪者である。

 よく見られて歳の離れた兄妹。悪く見られて女の子を誘拐してきた誘拐犯。そんな見解が関の山だ。まあ、来てしまった以上無理矢理にでも兄妹という設定を通しますけど!


「何か言った、お兄ちゃん?」


「………いえ、なんでも。ったく、赤紀だってこんな場所に俺を連れ回したりなかったぞ、まったく………。妃愛には思春期というものがないのか………?いや、まさかと思うがセルカさんのようにわざとそうしている可能性も………」


 頭に浮かぶのは初めてアリエスの世界やってきて間もない頃の記憶。海水浴に行くために女性陣が水着を買うとか言い出したあの時だ。その時はアリエスでもシラやシルでもなく、セルカさんが俺をからかってきた。無理矢理女性の水着コーナーに連れ込んで、ああでもないこうでもないと試着しまくったのだ。

 ………あれは思い出すだけで地獄だったよな。さすがに今は夏じゃないし、そんなことは起きないと思うけど………。

 と、変なことばかり考えてると。


「もう!だから早くいくよ!ここのお店、すごく人気なんだから、早く並ばないとなくなっちゃうの!」


「ああ、もう!わかった、わかったよ!どこまでもお伴しますから、あんまり大きな声で叫ばないで!周囲の視線で死んじゃうから!異世界にきてまで変人呼ばわりされたくないからあああぁぁぁ!」


 とまあ、そんなこんなで現在。

 ファーストシンボルとの戦いから三日後の日曜日。

 俺と妃愛は二人揃って女性陣お得意の大きなデパート、もとい駅ビルに来ていた。元々ミストとの夕食のせいで外食ができなかったため、週末はどこかへ出かけようという予定を立てたことがきかっけなのだが、それがどういうわけか、出かけるなら行きたいところがあるとかなんとか妃愛が言い出して今に至るのだ。

 俺としては月見里家がいつ襲ってくるかもわからない以上、常に気を張りながら情報蒐集に徹したいところなのだが、妃愛曰くずっと家に引きこもってると怖い記憶が蘇ってくる、とのことで仕方なく外出しているというわけなのだ。

 ちなみにこの三日間、妃愛は学校を休んでいる。妃愛は学校での成績がすこぶるいいらしく、いじめられているとはいえ、その一点だけはクラスメイトも教師陣も口を出せないのだとか。

 ゆえに単位を落とさないレベルでの欠席は問題ないらしい。まあ、学校に行けば月見里さんたちもいるだろうから、ここで無理に活かせるつもりは俺にもなかった。むしろ正しい判断と言える。

 さすがに妃愛を威嚇してきた以上、これまで同じように向こうが接してくるとも限らない。またしてもいじめが再発し、事態が悪化しないとも限らないのだ。

 であればここは一度距離を置く、というのは間違っていないだろう。

 ………いないのだが、いないのだが。

 いないんだけど、ね………。はあ………。


「なんでお兄ちゃんそんな死んだ魚が一度蘇生してもう一回殺されたような顔してるの?」


「ひどいな、おい!というか、そもそもだ!どうして俺まで付いてくる必要があったんだ?見たところこの店はアイスクリーム専門店みたいな感じだけど、テイクアウトもできるしわざわざ店内で食う必要はないだろう!なんで俺を道連れにするんだ!」


「ぶー。こういうのはみんなで食べたほうが美味しいの。それを教えてくれたのはお兄ちゃんじゃん!」


 え?

 俺、そんなこと言ったっけ?

 ああ、もしかして俺がっこの世界にきてからいつも一緒にご飯は食べてたから、そのことを言ってるのか?まあ、だとしたら確かに間違ってないけど………。

 いやいや、諦めるな、俺!なんでもいい、なんでもいいから適当に言い訳をでっち上げてこの場から逃げるんだ!でないと、俺は本当に死ぬ!

 体験したことがあるだろうか。男という生き物はナンパだとか浮気性だとか、常に女の尻を追いかけている生き物のように思われているが、今のように周りにいる全ての人間が女性だとまったくそんな気分は抱けないということを。もちろん、俺はアリエス一筋だし、他の女性は眼中にないが、だとすれば余計にこの環境は地獄以外の何物でもない。

 何かされずとも自然と息が詰まってしまう。地面に足がつかないといか、落ち着かないというか、とにかく居心地が悪いのだ。こんな場所ではっちゃけられる男はそれこそ彼女持ちか、真性の馬鹿以外のどちらかだ。

 まあ、あくまで俺というヘタレが考えている意見なので色々と偏見が多くあると思うのだが、今の俺は妃愛の買い物が終わり次第即転移で帰宅したいと思ってしまうほど追い詰められていたのだ。

 神妃と呼ばれている存在が難易を情けないことをと思われてしまうかもしれないが、だったらそこの君、ちょっと俺と場所を交換しようか。実際に体験してみるとすぐにわかるから。と、何一つ笑っていない笑顔でそう語りかけたくなってしまう。

 何はともあれ、そんなくだらない思考を動かし続けるしかないくらい、俺はこの空間にいることが苦だったのである。

 すると妃愛は勝手にレジへと並び、よくわからないカラフルなアイスを大量に購入すると、それを両手持って俺の元まで戻ってきた。そして視線で店内の空いている席に座るように指示すると、高く積み上げられたアイスを崩さないようにゆっくり椅子に座っていく。


「よし、これで大丈夫っと。はあー。やっと買えたー。このアイスすごく人気でいつ行っても売り切れだったから、今日は変えてよかったー」


「うん、そうか。だったら早く出ようか、この店。多分、お兄ちゃんもうすぐ死んじゃうから」


「ダメだよ、お兄ちゃん!お菓子を粗末にするのは絶対に許さないよ!」


「あ、アイスってお菓子なの………?いやいやいや、そんな真面目に突っ込んでる場合じゃなくて………」


「いいから、一緒に食べる!いい?」


「え、えっと、はい………」


 普段はずっとごろごろしてお菓子を食ってるだけの妃愛がここまで真剣になったことなんて今まであっただろうか。………ああ、そう言えば一つだけあったな。たまたま買い物をしてるときに、美味しそうなカステラがあったから勢いで買ってみたら、それを見た妃愛が目の色変えてそのカステラを頬張っていた。ってことは、そこから導き出される結論は………。


「妃愛、お前って本当にお菓子が好きなんだな」


「んんんーッ!!!冷たい、頭痛いよー。………って、お菓子?ああ、そうだね。お菓子は好きかな。それこそこんなお店にお兄ちゃんを連れて来ちゃうくらいには好きだよ」


「できればもっと大衆向けのお店にしてくれます!?まじで死にそうなんですよ、お兄ちゃん!」


 とまあ必死に抗議してみるものの、それからの妃愛は本当に美味しそうにアイスを食べて行った。頬を上気させて、目を輝かせながら一人の女の子のようにはしゃいでいる。

 この場に連れてこられたことは不幸だったけど、そんな妃愛が見られたことだけは幸運だったかもしれない。なにせファーストシンボルと戦った後だ。意識を失うほど衝撃を受けたであろう妃愛が普通の生活に戻れるのか、それも心配していた俺だったのだが案外気晴らしというのは妃愛に合っているらしい。

 まあ、それと単純に「お菓子」という文化そのものが好きなだけかもしれないが。

 そんなことを考えながら俺はひとときの休息に体を浸からせていく。周囲の気配は常に観察していたが、特におかしなところもなく時間は過ぎていった。

 だが言うまでもなく。

 妃愛につられて口にしたアイスは口の中に砂糖を投げ込まれたかのように甘かった。


次回は妃愛という人物に迫っていきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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