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第二十九話 vs第一の柱、一

今回はゴリゴリの戦闘回です!

では第二十九話です!

「こ、これが第一の柱(ファーストシンボル)………」


 俺は目の前の光景に言葉を失っていた。月をすっぽり隠してしまうようなその巨体、そしてそんな体の大半を占めている馬鹿でかい口。口の中からは三つに分かれた舌が伸びており、とてもではないが現存している生物とは思えない姿をしている。

 皮膚は他の皇獣たちとは違い、穴が空いていたり皮膚がただれていたりすることもない。似ているとすればそれは巨大なワニのような姿。空飛ぶ両生類と言ったその体はどこが頭で、どこが尻尾なのかわからないような君の悪い形をしていた。

 多くの魔物と戦ってきている俺であってもあんな生き物は見たことがない。強いていえばアザトースやヨグソトースといった形状不明の神々が具体例としてあげられるが、あれはあくまで「形がない」という性質を確固として持っていた。

 だがこの生き物ははたしてこの姿が正解なのか、それすらもわからない。わからせようとしていないことが見ただけで伝わってきた。

 ビビっているわけではない。確かにこれだけの巨大な体躯、全長三十メートルはあろうかという怪物はそうそういないだろう。ましてそれが宙に浮かんでいるともなればなおさらだ。

 だからといって今更大きさでビビるようなたまではないことは自他共に理解している。むしろ、先ほどの皇獣たちでは物足りなく感じていたほどだ。こんなボスみたいなやつがいるならさっさとよこせ、とさえ思ってしまう。

 しかし気がかりなこともあった。

 どうしてこれだけの体躯の化け物が騒ぎにもならず俺たちに接近できたのか。それが謎だ。いくら東京から離れていると言ってもここは住宅街。こんな化け物が暴れればすぐに騒ぎになるはず。

 するとそこにミストが汗を流しながら口を挟んできた。


「………厄介ですわね。あの皇獣は同じ皇獣たちを喰らうことによって通常の皇獣とは異なる進化を遂げています。おそらくですが、こんな住宅街のど真ん中にいても騒がれないのは、何らかの力が働いている可能性があります」


「なるほどな。催眠か人払いか、それとも透明化か。まあ、そんなところだろう。だが今はそっちのほうが都合がいい。おい、ミスト。この近くに派手に暴れられそうな場所はないのか?ここで戦うには少々危険すぎる」


「ほ、本気で言っているのですか………?私とて負ける気など毛頭ありませんが、こういう何が起きるかわからない相手とは一度対策を立てるべきです。この皇獣はファーストシンボル、つまり五皇柱なのですよ!?」


「そんなことはさっきの説明でわかってるよ。だがこの化け物がここに居座ってる以上、ここで食い止めなきゃ被害が広がる一方だ。もしお前が他の帝人たちの目を気にしてるっていうなら、俺一人でやる。場所だけ作ってくれればそれでいい」


 図星だったのかミストは思わず一歩後ずさってしまう。ミストにとってもこのファイーストシンボルという相手は無視できない存在なはずだ。加えて「負ける気は無い」と豪語している以上、本当に負けることはないのだろう。だがそれでもここで戦いを拒否するとなれば、その理由は結果的に自分を守ろうとする打算。つまり自分の情報がこれ以上外に漏れ出してしまうことを心配しているのだ。

 だが、俺にそんな縛りはない。見たところあの化け物は確かにたの皇獣たちとは違うが、だからといって今まで俺が戦ってきた強敵たちとは比べるのもおこがましくなるほど弱い。神妃化さえ使えればそれこそ一撃だろう。

 かつて帝人たちを屠った五皇柱と聞いていたが、あいつは拍子抜けだ。見た目がかなり奇妙だが、ようはそれだけ。見掛け倒しのハッタリ野郎だ。


「………わかりました。では私の力でこの場に大きな障壁を展開します。幸いファーストシンボルも空に浮いていますので、できれば空中で戦ってください」


「了解だ。んじゃその代わりにお前は妃愛を見ていてくれ。くれぐれも手はだすなよ。今の妃愛には俺の力を付与してある。下手なことをすればお前の首が飛ぶからな」


「あら、それはそれで楽しみですわね。本当にあなたの力が私の首を飛ばせるか今日があります。………ただ、そうですね。今は我慢しましょう。鏡さんの護衛、任されました」


 ミストはそう言うとそそくさと背後に飛びのいて戦線を離脱していく。それを確認した俺はすぐさま空に飛び上がると、大きな口を開きながらのんびりと俺たちを眺めていたそれに向かってこう呟いていった。


「よう。お前が五皇柱っていうやつなんだろ?夜分遅くにご苦労なこった。久しぶりにいい運動ができそうだから、少し付き合ってくれ。ああ、もちろん命の保証はない。死ぬ気でこないと本当に死ぬぞ?」


「グウウ………」


「ん?何か俺に言いたいことでもあるのか?」


「グウウ、グガアアアアアアアアアアアアアアアギュエエエエエエエエエエ!!!」


「なっ!?」


 と、その時。

 ファイーストシンボルの口の中から三つの舌が俺に向かって伸びてきた。浮遊の力を使っている俺にとって、それを避けるのはいたって容易かったが、不意をつくようなその攻撃は少々俺の心を焦らせていく。

 ………あの三本に分かれている舌。妙な気配が染みついてるな。第駅のような粘液もそうだが、見ただけで面倒な性能だということはわかる。その証拠に………。

 俺のすぐ下。

 先ほど俺とミストが戦っていたビルの前の地面。そこにはファーストシンボルがたらしたよだれのような液体が落下した跡があった。しかしその跡は徐々にアスファルトを融かし、巨大な穴を作ってしまう。ミストが展開したという障壁はどうやら先ほどの糸をそこら中に張り巡らしたもののようで、その間をすり抜けてこの唾液は落ちたらしい。


「なるほどな。気配はそうでもないが、お前が持つ能力自体は厄介極まりないと、そう言いたいんだな。まあ、俺には関係ないことだけどな!」


「グギュガアア!?」


 その言葉をと同時に、俺の姿は闇に溶ける。超高速移動を繰り返し、残像すら残さず絶えず己の位置を移動させていった。こうすることによって気配の位置がずっとぶれ続け、攻撃を命中させることが難しくなる。こいつのようにでかい図体を持ったやつほどこういった戦法は覿面なのだ。

 そして俺がファーストシンボルの頭上に移動したその瞬間、俺はそのまま己の拳をファーストシンボルの体に叩きつけていった。


「はああああっ!」


「グギュ!」


「ッ!?な、なあぁ!?」


 普通であれば山すら粉砕する一撃。神妃化してなくとも、今の俺の拳は十分な威力を秘めていたはずだった。

 しかし結果はこの通り。

 ………はじき返された?ち、違う!こいつの皮膚が衝撃を完全に吸収したんだ。俺の拳から伝わった力の全てを、やつは自分の柔らかい皮膚で殺したんだ!

 俺の手に伝わってきた感触。

 それはまるでスポンジに触れたような柔らかなものだった。その柔らかさが俺の攻撃を無に帰したらしい。山さえ吹き飛ぶ一撃であっても、この化け物には衝撃という概念すら通用しないようだ。

 加えて………。


「ちっ………。やつに触れた手が焼けただれてきた………。どうやら唾液と同じ成分の体液が体を守ってるみたいだな」


 視線を向けた右手。その右手はまるで塩酸や硫酸でもぶちまけられたのかと思ってしまうほど焼けただれていた。ボロボロになった手から赤い血が滴り、鋭い痛みを脳に走らせてくる。

 だがこの程度の痛みはもはやないに等しい。すぐに神妃の自動治癒能力がはたらき、傷を癒していく。まあ、これが腕を切断されたとか、はらわたをえぐられたとかだったら事象の生成を使っているところなのだが、今は自動治癒に任せても問題のない怪我だった。

 ゆえに俺はその傷を一瞥すると、今度は気配創造の刃を一つ作り出してそれを握りしめていく。いくら皮膚や地面を融かす毒薬であっても気配創造の刃までは融かせないはずだ。


「まだまだこれからだぜ、戦いは。素手が駄目なら今度は剣でいかせてもらう。まあ、こっちのほうが帝人らしいんだろうけど」


 俺は帝人ではないし、神器と呼ばれる武器も持っていない。ゆえにその戦闘方法に縛りはない。とはいえ、皇獣と打ち倒す者は帝人であると相場が決まっている以上、俺も武器を使って戦う方がルールに法っていると言えるだろう。

 まあ、そんなことを気にしていられるだけ俺は余裕だということだ。

 俺は一度そこで思考を切ると、先ほどよりも少しだけスピードを上げてファイーストシンボルに接近していった。やはりこの化け物はその図体通り、素早い移動ができないようで俺の動きにはまったくついてこれていない。ゆえに俺がその懐に忍び込むのも時間の問題だった。


「ははっ!腹がガラ空きだぜ、ファーストシンボル!」


「キュキャアアアアアアアアアア!?」


 紫色の液体がファーストシンボルの体から吹き出していく。思った以上に弾力が強かった皮膚は俺の刃をまたも押し返そうとしてきたが、それでも傷をつけることはできた。とはいえ人間で言えば毛細血管を切った程度の出血と傷だ。致命傷とは言い難い。


「ちっ!面倒なくらい厄介な体だな………!かくなる上は!」


 そう呟いた俺は転移を使用してまたもやつの頭上へ移動すると、気配創造の刃を百本ほど用意してそれを一気に振り下ろそうとする。一応この攻撃でダメージは確認できている。となれば、あとは物量で押し切ればいいだけのこと。

 なのだが。

 その時、俺の予想をはるかに上回る出来事が起きてしまった。


「な、なに!?ば、馬鹿な、俺の刃が撃ち落とされた!?」


「ギャアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオォォォォ!!!」


 雄叫びが上がる。その声は空気を、大地を、空を震わせて何かを出現させてきた。

 それは黒い靄のかかったような何か。まるで生きているように蠢くそれは俺が展開していた気配創造の刃を全て粉砕し、俺の攻撃を防いできたのだ。

 そして気がついた時には、あの巨体が俺の頭上に移動しており………。


「し、しまっ!?」


「グガアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「ぐっ!?」


 重さ数トンはあるであろう巨大な尻尾が俺の体に叩きつけられる。それによって俺はミストと妃愛の立っている目の前の地面に叩きつけられることになり、体が地面にめり込んでしまった。


「お兄ちゃん!!!」


「………ふうー。素早い動きができないと思ってたら、そういうわけでもなさそうだな。まあ、あれは俺が使う転移に似てるものなんだろうけど」


「あら、強気な発言をしていたわりには、押されているじゃありませんか。これでは私が出なければいけないなんて展開も考えなくてはいけませんね」


「ほざけ。戦っていうのは常に相手の動きを見ながら行う心理戦だ。闇雲に力で押しつぶせばいいってわけじゃねえ。特にやつのような人の意思がないようなやつは駆け引きが上手くいかない分、こちらがどう誘導するかが重要になってくる。俺はそれをしてるだけだ」


「敗者に言い訳をする口はありませんよ?」


「言ってろ。………ただ、これ以上戦いを長引かせる気もない。妃愛もそろそろ限界だろうし、あんな化け物は早く倒した方がいいに限るのは俺も同感だ。まあ多分、やつは他にも色々と隠し球っていうのがあるんだろうが、だったら俺も抜くものは抜いとかなきゃな」


 そう呟いた俺は小さく展開した蔵の中からとあるものを取り出していく。それは蔵の外に出た瞬間、太陽に変わるような輝きを放ち夜の世界を照らしていった。


「そ、その武器は………!」


「生憎と以前は剣士の紛いごとをやってたからな。実剣だって使おうと思えば使えるんだよ。まあ、その中でもこの剣はとくにお気に入りだけどな」


 絶離剣はアリエスに貸してしまっている以上、それは使えない。ではリーザグラムはどうか、と思いもするがあの剣は世界からダイレクトに力を引き寄せる剣だ。この世界から力が引き出せるかわからない以上、上手く使える確証はない。それになにより、俺と言えばこの剣以外にないだろうと、自他共に声を揃えていうはずだ。

 そう、その剣は。




「お前に血を吸わせたくはなかった。でも、結局俺はまたお前を頼るよ。さあいくぞ、隠蔽の魔剣(エルテナ)。俺たちの力をあのデカブツに見せてやろう」




 真っ白な刀身に同色の柄。

 何があっても壊れることのない永劫不変の剣。

 かつて俺が最も信頼し、最もよく使った剣。




 それこそがこの隠蔽の魔剣(エルテナ)だ。

 そんな隠蔽の魔剣(エルテナ)を手に持って俺はかつての自分を再現するように戦いへ身を投じていくのだった。


次回はハクがエルテナを使ってファーストシンボルと戦います!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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