第二十八話 共闘
今回は戦闘回です!
では第二十八話です!
「おいおいおい………。襲われてるってのは聞いていたが、これはもう襲撃とかそう言うレベルじゃないんじゃないか………?」
「まあ、それは否定しませんわ。これほどの皇獣が表に出て来たことは私の知る限り初めてですし、そもそも皇獣の中でも異形と呼ばれるものたちも混ざっています。とはいえ、だからなんだと、返して差し上げますけどね」
そう自信満々に吐き出したミストは口元に笑みを浮かべながらあたりの様子を確認していった。
俺たちは今、夕食をとっていたビルの入り口にやって来ている。皇獣の襲撃を受けたことによってビルはもはや倒壊寸前なのだが、そこはこのミストがなんらかの力で支えているようで、まだ倒れてはいない。
とはいえ状況は最悪と言っていいだろう。一般人が生活しているこの世界において、ざっと五百体の皇獣たちが俺たちを囲んでいるこの状況は、どう考えても緊急事態だ。今はミストや妃愛といった帝人たちを狙っているようだが、いつ他の人間たちにその目が移ってしまうかわからない以上、一刻も早く皇獣たちを倒してしまわなければいけない。
だが結局敵か味方かもわからないミストがいる以上、神妃化やそれに準ずる力はあまり使いたくないというのが本音だ。もちろん油断してるわけでもないし、本当にまずくなったら容赦なく使うつもりだが、それでも余計な情報は見せない方が身のためだろう。
何度も異世界に飛んでいる俺だからこそ、ここは冷静になっておくべきなのだ。
俺はそう考えると、体をブルブルと震わせている妃愛に視線を向けると、気配創造の刃を十本ほど生成して、それを妃愛の周りに配置していった。そしてできるだけ笑顔を作りながらゆっくりとこう呟いていく。
「悪い、妃愛。俺はミストと一緒に皇獣たちを倒してくる。俺がいない間はその刃たちが守ってくれるから心配しなくていい。それと、もし本当にまずいことになったら遠慮なく前に渡した道具を使ってくれ。すぐに駆けつけるから」
「う、うん………。き、気をつけてね、お兄ちゃん………」
「ああ、任せろ」
最後にそう呟いた俺は軽く妃愛の頭を撫でた後に、気持ちを戦闘モードに変えてミストの隣に移動していった。ミストはそんな俺たちを見ながら何が面白いのか笑みを強めながらこう問いかけてくる。
「準備は大丈夫ですか?」
「ああ、待たせたな」
「いえ。ただ本当に鏡さんは戦わないのだな、とそう思っただけです。これでは確かに他の帝人から狙われるのも納得です」
「何が言いたい?」
「あの様子だと鏡さんは神器すら呼び出していないのでしょう?だというのに対戦への参加登録がなされてしまった。これ以上危険な状態なんてありませんよ。ただまあ、彼女の場合、神器の代わりにあなたがいるということなのでしょうが」
「………言っておくが、俺はお前ら帝人が持っている神器よりも強いぞ?」
「随分とプライドが高いのですね。『魔人』でもないあなたにできることなどたかが知れているはずですわ。………ただまあ、今はお互い協力して皇獣たちを倒しましょう。思いソリものが見られると願って」
その瞬間、ミストはこの場から姿を消した。目で追えないほどのスピードで動いただけだ。妃愛や一般人の目では捉えられない速さだが、俺の目には当然その姿が映っている。
ミストは目の前から走ってくる犬型の皇獣に対して真正面から追突していった。ただ実際にミストと皇獣が激突することはなく、ただすれ違っただけ。だがそれだけで皇獣たちが悲鳴もあげることができずに消滅してしまう。
「へえ………」
「あら、あなたは攻撃しないんですか?竜型の皇獣がビルを攻撃しようとしてますよ?あのビルの中にはまだ人がたくさんいます。どうにかしないと大変なことになりますよ?」
「挑発しなくても、もう手は打ってある」
「は?それはどういう………ッ!?」
こいつがこの世界においてどれだけの強さを持ち、どんな地位にいるのかなんて俺にはわからない。だが結局は所詮人間。キラやサシリといったイレギュラーや神に迫る力があるわけでもないしエリアやルルンのような秀でた才能があるわけでもない。俺からしたらミストはそれほど大した相手ではないのだ。
となるとそんなミストの目を盗んで皇獣たちを撃破することだって容易い。ミストが皇獣たちに突っ込んでいった直後、俺たちの上空に浮かんでいた皇獣を気配創造の刃で撃墜。そのまま地面に落ちてこられると面倒なので、気配創造の力をそのまま使用して気配を吸い取って消滅へ導く。その一連の攻撃をミストが気付く前に終わらせていたのだ。
「………なるほど、どうやら思っていた以上にお強いのですね、あなたは」
「この程度で驚かれちゃ話にならない。さあ、まだまだ皇獣たちは向かってくる。この気配の流れから察するに、すでに俺たちは囲まれてるみたいだ。地上だけじゃなく空中も逃げ場はないらしい」
「問題ありません。私にとって空を飛ぶことなど息を吸うようなもの。地面であろうが空であろうが、私に向かってくるものは全て殲滅します」
「なら、さっさと終わらせるぞ。あまり妃愛に心配はかけたくないからな」
と、今度は俺から行動を開始することにした。気配創造で作り出した刃を握りしめて神速のスピードで皇獣たちを切り刻んでいく。もはや生きているのか死んでいるのかわからない見た目をしている皇獣たちは、肉体を引き裂かれさらには気配すら奪われて無に帰っていった。
そしてそんな俺を見ていたミストも負けじと皇獣を屠っていく。何やら右手の指を不自然に動かしており、その動きに合わせるようにして皇獣たちが命を散らしていく。まだ神器を取り出していないところを見ると、ミストはその身に何らかの力を持っているようで、その力で皇獣たちを倒しているようだ。
まあつまり能力者、ということになる。
だが少しだけその言葉では納得できない部分があった。
………妙だな。あいつの体からにじみ出ている力。能力者の力にしては変に歪んでいる。神秘も魔力も一応感じるが、それでも琴乃やヌエのような淀みない力って感じがしない。
基本的に能力者という存在は前に紹介した琴乃やヌエといった、神秘が消えた時代に稀に現れる異能力者のことを指す。彼らは普通の一般人とは違い、その身に気配だけでなく魔力を有している。つまり神秘の消えた時代でありながら、消しきれなかった神秘が集まった集合体と言える存在なのだ。
ゆえに根本的概念に立ち返ればその力は神妃や神が持っていたものと類似している。能力ではなくその質が似ているのだ。
そう考えると現実世界に似たこの世界では、ミストという女も能力者というくくりに分類されるはずなのだが、どういうわけか俺の直感がそれを否定していた。
………具体的に何が、と言われても答えることはできない。だがやつは琴乃たちとは何かが違う。常識を超えた強さを持っている点では同じだが、肌のざわつきが止まらない………。
と、考えていたその時。
急に俺の目の前にいた皇獣が何かに切り刻まれるようにして弾け飛んだ。
「グギャアアアアアアアッ!?」
「なっ!?」
こ、これは、い、糸………?
一瞬だけそれは見えた。目の前の皇獣が弾け飛んだ瞬間、その体を切り裂いたそれが月の光を反射して俺の目に飛び込んできたのだ。そしてその攻撃を放った主は何食わぬ顔で俺を見つめてくる。
「あら、失礼。こちらはあらかた片付け終わりましたので、お手伝いして差し上げようかと」
「………その能力、とんでもなく細い糸を作り出す力なのか?」
「見えたのですか?それはまあ、とても目がいいのですね。ですが不正解です。私の糸は私の能力の一側面に過ぎません。ただまあ、使い勝手がいい分わりと使用頻度は多いですが」
と、次の瞬間。
またしても俺を囲んでいた皇獣たちが弾け飛んだ。肉を潰され、骨を切断され、とてつもなく鋭い剣で切り裂かれたような体の断面が目に飛び込んでくる。だがそれも一瞬で、肉も骨もミンチにされるがごとく粉砕されていった。
「ちっ………!」
俺は反射的に自分の周りを観察する。気配探知の感度を限界まで引き上げ、魔眼まで使用して周囲の状況を確認していった。
………やはり、目では確認できないほど細い糸のような何かがそこらじゅうに張り巡らされてる。その糸を使ってこいつは皇獣たちを屠ってるのか。………今思えばここはこいつの根城。いつ襲われてもいいように攻撃手段を用意しておくぐらいのことはできるか………。
だがその瞬間、俺の口角は自然とつり上がった。もともと戦闘になればテンションが上がる俺であるがゆえに、この状況は放っておいても気分が高揚してしまうのだ。
悪い癖だとは思うが、高揚すればするほど集中力は上がり、戦いを効率的に進めることができるので、意図して抑えようとはしない。
まあ、ただ。
一つ欠点を挙げるとすれば。
「手加減、できるかなあ………」
そう呟いた刹那。
俺の気配探知がこの場にいる全ての皇獣たちを捉えた。そしてその座標に向かって気配創造の刃が打ち込まれていく。それはミストが糸を使って皇獣たちを倒すよりも早く正確で、ものの数秒で死体の山が築かれてしまう。
「ッ!………全ての皇獣の気配が消えた。ま、まさか、あなたがやったのですか?」
「まあな。まあ、少なくともお前が倒したわけじゃないってことは確かだ。別に張り合うつもりはなかったが、舐められたままだと癪だからな。いずれお前が俺たちと敵対するっていうならいい威嚇になるだろうし」
「………あまり調子に乗らないことです。この程度で私が怖気付くわけないでしょう?あなたがやってなければ私がやってました」
「そうか、そうか。ただまあ、これで今日のところは何とかなっただろう。皇獣ってのは死んだら勝手に消えるっぽいし、後片付けも楽そうだな」
そう呟いた俺は一瞬にして消えた皇獣たちの残骸を見つめながらそう呟いた。どうやら皇獣は倒すと数分後に死体すら残さず消えてしまうらしい。前にアリエスの世界で数千体の魔物を倒したときとは大違いだが、存在の成り立ちから違うようなので、当然といえば当然だろう。
と、そんなことを考えながら俺は背後で控えていた妃愛の下に戻ろうとする。気配探知によればここにはもう皇獣たちは一匹も残っていない。であればとりあえずの機器は去ったということになるのだろう。
俺はミストに向かって軽く手を振ると、体の向きを変えて心配そうな顔を浮かべている妃愛の下に戻っていく。
だが、次の瞬間。
「ッ!?な、なんだ、この気配は!?」
「………?どうかしましたか?」
近づいてくる。
どんどん近づいてくる。
とてつもなく大きな気配がこちらに向かって近づいてきていたのだ。
気配探知から推察される気配量は今しがた倒した皇獣とは比べ物にならない。その数千倍は軽くあろうかという大きさの気配だった。
そんな気配の持ち主が俺たちがいるこの場所に近づいてきていたのだ。
そして、そんな俺の言葉を訝しんだミストもようやくその気配に気がついた。一気に顔つきが神妙なものへと変わり、今までとはまったく違うオーラを放っていった。
「………まさか、こんなタイミングで襲いかかってくるとは。さすがに計算外ですね」
「どういう意味だ?何か知ってるのか?」
「ここ一ヶ月、あなたの周りだけでなく私たちの周りにも皇獣たちは一体も現れませんでした。つまり鏡さんが言っていた月見里家の方々が攻撃を抑制していたという要因とは別にの理由で皇獣たちは姿を消していたのです」
「な、なんだと………?」
意味が理解できなかった。
だがそんな俺を置いていくようにミストは下唇とか見ながら淡々と説明を続けていく。
「結果的に、皇獣が出現しない理由は判明しました。その理由はいたって簡単で、『同じ皇獣に食べられていた』のです」
「………は?」
「皇獣は確かに人間を喰らうことを目的としていますが、同じ皇獣を食べてはならないとうルールは存在しません。数多の種類が存在する皇獣において、同じ皇獣を養分として食べる存在がいてもおかしくはありません。………ですが、そんな皇獣は普通ではない。そして普通ではない皇獣というのは………」
その言葉と同時に、「それ」は姿を現した。
空を飛んで現れた「それ」は巨大な口から伸ばした三本の舌をぐねぐねと動かしながら宙に浮いている。翼もなければ羽もない「それ」は月を隠すようにして俺たちの頭上に現れたのだった。
「五皇柱。その中でも今回の対戦で最初に生み出された存在、第一の柱です」
次回はvsファーストシンボルです!
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次回の更新は明日の午後九時になります!




