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幕間 桜舞う一日

なんだか最近、お花見というワードが作者の周りで飛びかっていたので、たまにはこういうのもと思って執筆しました。結局まだ私の中でもアリエスとアナの関係は踏ん切りがついていないのかもしれません。そういった感情をぶつけてみました。

ではどうぞ!

 春。

 別れが過ぎ、出会いがやってくる季節。

 桜の花びらが人々を出迎え、温かな日差しとともに心地のいい風を運んでくるそんな季節だ。私の隣を通り過ぎる人たちの顔もとても楽しそうな表情を浮かべており、見ているだけで心が温かくなってくる。

 かなり大きな帽子をかぶった私はそんな光景を目に焼き付けながらたくさんの人が歩いている道をゆっくりと歩いていった。白い髪にその容姿は目立つからと言われてこんな変装までしてきているわけだが、その甲斐あってか私に新線を向ける人たちはほとんどいない。いたところでそれはどこにでもいる一人の女の子程度にしか映っていないだろう。

 と、そんなことを考えていた時、不意に目についたものがあった。そこにいたのはなんだか不安そうな顔を浮かべた小さな男の子で、あたりをキョロキョロと見渡しながらそわそわしている。そして終いには瞳に涙を浮かべ始め、その場に座りこんでしまった。

 ああ、これはまさか………。

 なんとなく事情を察した私はできるだけ周囲の人の目を確認しながらその男の子に近づいていく。下手をすれば女の私だって不審者に思われかねない。ただでさえここは人が多いのだ。声をかけるにしてもできるだけ怪しまれないようにしなければいけないだろう。

 とまあ、そんなことまで考えていた私はその男の子の目線を同じくらいの高さまで腰を落とすと、巨大な女優帽のつばをゆっくりと持ち上げてその子に話しかけていった。


「こんにちは。君、お母さんは?こんなところに一人でいたら危ないよ?」


「ひぃ………!お、お姉ちゃん、だ、誰………?」


「私?うーん、多分君と同じかな。この公園にお花見に来ただけ。そしたら泣きそうになってる君を見つけたから声をかけてみたの。もしかして迷子になってるのかと思って」


「お、お母さんに、会いたい………。探しても探しても見つからないから、寂しくて………」


「そっか。だったら………はい。これあげる」


「こ、これ、飴………?」


 私はそう言うと今日のために持ってきていたお菓子の中から飴を一つ取り出して、それを男の子に渡した。すると男の子はものすごく警戒しながらもその飴を手に取り、口の中に投げ込んでいく。と、その瞬間、どうやらその雨がよほど気に入ったのか頬を赤くしながら満面の笑みをこちらに向けてきた。


「おいしい!ありがとう、お姉ちゃん!」


「どういたしまして。よし、それじゃあもう少しだけ移動しよっか。ここは道の真ん中だから色々と危ないし。そこの木の下にとかがいいかな」


「うん。わかった」


 そう呟いた私は男の子を連れて五メートルほど離れた場所にあった桜の木の下に移動していく。この子が迷子だとして、さすがに私がこの子を連れて行くのは少々問題だ。いくら女だからといって、そんな光景をこの子のお母さんに見られたらたまったものではない。どれだけ弁解しようがあらぬ疑いをかけられるだろう。

 だから私はとりあえず人の邪魔にならないところに移動すると、神経を集中しながらこの子と似たような気配を持つ人を探っていった。基本的に気配の質は血縁関係が深ければ深いほど似てくるものだ。ゆえにこの子のお母さんを見つける場合、この子と同室の気配を追えばすぐに見つかる。

 そして案の定、その気配は見つかった。


「………あ、本当に近くにいたんだ。多分このままここにいても大丈夫かな、向こうから近づいてきそう」


「お姉ちゃん?」


「へ?あ、ああ、ごめんね。独り言だよ、気にしないで」


 私はそう言うと、木の根の下に立ちながらこの子のお母さんがこちらに近づいてくるのを待ち続けた。そしてその姿が見えた瞬間、転移を使って姿を消す。

 そして同時に………。


「お母さん!」


「もう!どこいってたの、心配したじゃない!だからあれだけては離さないでっていったのに………」


「ごめんなさい………」


「でも無事でよかったわ。ってあれ?何舐めてるの、それ?」


「え?これは飴だよ?さっき誰かが僕に………。あれ?そう言えばなんで飴なんて舐めてるんだろう?思い出せない………」


「もう、また道に落ちてるものを拾ったのね………。今回は飴だったからよかったけど、次はそんなことしちゃダメよ?飴がほしかったら買ってあげるから」


「うん!ありがとう、お母さん」


 記憶を消した。

 別にそこまでする必要はなかったのかもしれないが、私は自分でいうのもなんだが、人の領域を大きく踏み越えてしまった。私たちが住んでいた世界でもないこの現実世界の人々とって私と言う存在は大きすぎる。だから必要以上に関わらないほうがいい。関わってもその痕跡を消す必要がある。そう考えていた。

 いや。

 ………多分。

 それは言い訳だ。

 私は怖いのだ。

 また、自分には何も関係のない人と関わって、その人が傷つくのが。

 怖くて、怖くて仕方がないのだ。


 脳裏に浮かぶのはアナの顔。

 最後に見た景色もこんな桜の舞う場所だった気がする。

 そして感じてしまう。

 ああ、まだ私はアナのことを忘れられないのだと。情けない話だが、結局親離れもとい子離れが私はできていない。もう二度と会えないとわかっていても、それでもまだ会いたいと願っている自分がいる。

 そんな感情を私は桜を見る度に感じてしまうのだ。


「はあ………。何やってるんだろう、私。こんなにも笑顔の溢れてる場所で」


 そう呟く私を置いて行くようにあたりにいる人たちの顔には笑顔が溢れている。まあいわゆるお花見という行事が開催されているこの場所において、暗い顔を浮かべている人なんているはずがないのだが。

 そしてかくいう私も、先ほどの男の子に言ったようにお花見に来ていた。それも今回はかなりの大所帯。すでに席はとってあると言っていたが、まだ人は集まりきっていない。たまたま私はこの世界に来ていた時だったので、現地集合という流れになっていた。

 手には朝早く起きて作ったお弁当とお菓子が詰められた籠がかかっており、いかにもお花見にきた人という雰囲気が自分でも感じられるほどにじみ出ている。

 まあ、今回のお花見はアナの一件で落ち込んでいる私を慰めようという目的が含まれているそうなので、私がせっせと準備をする必要はなかったのかもしれないが、だからといって何もしないというわけにはいかない。

 ゆえに私は集合時間よりも少しだけ早く、その場に訪れていた。あらかじめ言われていた場所に到着すると、そこにはすでに敷物が大きく広げられており、一人の青年が目を閉じて寝ていた。その顔は何度見ても落ち着く表情で、思わず私の顔もにやけてしまう。

 しかし、そんな私に気がついたのか、その青年はゆっくりと目を開いて意外そうな表情を作りながらこう話しかけてきた。


「随分と早いな、アリエス?主賓はもっとゆっくり来てもいいんだぞ?」


「そういうわけにはいかないよ。みんながわざわざ私のために開いてくれてるお花見なのに遅れるなんて失礼だし、そもそも今日は目が冴えて眠れなかったから」


「そっか。だったらみんなが来るまでの間、昼寝でもするか?」


「そうしよっかな」


 私はそう言うと、その青年、ハクにぃの隣に寝っ転がって目を閉じていく。すると柔らかな風が体を包み始め、ふわふわとした眠気が急に襲ってきた。そしてその眠気は私を夢の中へと誘っていく。


 そこにいたのはまたしてもアナだった。

 言葉は聞こえない。でも笑っていた。そして私も笑っていた。いつかの記憶が再現されているのだと思ったが、それがいつのものなのかははっきりと思い出せない。

 でもすごく温かかった。

 気温ではなく、その心の熱が。心地よくて心地よくて、気持ちよかった。


 そして再び私は現実世界に戻される。

 すると、そんな私の目に一番に飛び込んできたのはむすっとしたエリア姉の顔だった。


「むー………」


「え、エリア姉………!?ど、どうしたの?そ、そんな怖い顔して………」


「別になんでもないです!ハク様の隣で気持ちよさそうに寝ているアリエスが羨ましいだなんて思ってないでしから!」


「落ち着け、エリア。なんとなく言いたいことはわかるが、マスターはもうアリエスのパートナーなんだ。二人が何をしようと妾たちが口を出せる問題じゃない」


「わかってますよ、そんなこと!でもなんというか、こう………。ぐわああああってなんるんです!抑えられない衝動が湧き上がって来るんですよ!」


「久々にエリアに会ったと思ったら、その残念な性格がまだ健在だと言うことに驚きを隠せないわ………。桜の下でツンデレを発揮する王女って言えば響きはいいけど、ここまで振り切れてると逆に気持ち悪いわね………」


「姉さん!それは思ってても口にしちゃダメです!私も同意見ですが」


「ちょっとそこの猫耳の二人っ!?一国の王女に向かってその口の聞き方はないんじゃないですか!?」


「いや、もう私、女王だし」


「その妹ですし」


「ぐほおあああっ!?いつの間にか地位が抜かされている現実が辛い!?」


 とまあ、いつも通りのみんなが目を覚ました私の周りには集まっていた。かつてのパーティーメンバーを中心にこのお花見が開かれたのだが、もうすでに結婚している者もいるので、そのパートナーや子供たちも参加している関係でかなりの大所帯となってしまっている。まあ、それを計算してハクにぃは場所を取っていたようで、何も問題はなかった。

 と、そこにようやく目を覚ましたハクにぃがむくりと起き上がると、またしてもエリア姉に問い詰められると言う状況が出来上がり、和やかな笑いが溢れていく。そんな笑いが私に伝播し、ゆっくりと心にできた傷を癒していった。

 結局。

 人は出会い、別れていく存在なのだろう。

 出会ったら最後いずれは別れる運命になる、それを永遠につなぎとめておこうとすると、それ相応の力と努力が必要になってくるわけだが、私の場合ハクにぃやここにいるみんなとはそれに成功したが、アナとは失敗してしまった。

 だから傷ついたし、傷つけてしまった。

 でも、だからといって私がずっと一緒にいると誓った人を、人たちを悲しませてはならない。人も神も前を向いて歩いていく生き物だ。だから私も下を向いてばかりいられない。

 そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

 そして思う。

 この桜が散ってしまう頃には、私の気持ちも綺麗に散らせてしまおうと。

 忘れるのではない。飲み込んで、記憶して、そして前を向く。また一年後に咲く桜のように、いつかその記憶と思い出は咲き乱れるように大切にしまっていくのだ。


 そして。

 そして。

 そして。

 また私たちは歩き出す。

 世界へ、冒険へ、伝説へ。


 真話へ。


 でも今は、この光景を、幸せを胸と目に焼き付けておこうと私は思ったのだった。


「アリエス?」


 するとそんなことを考えていた私を不思議に思ったのか、ハクにぃが首を傾げながら私の名前を読んできた。その声に私は精一杯の笑みを浮かべてこう呟く。


「大好きだよ、ハクにぃ」


 その言葉がまたしてもみんなを騒がせることになるのだが、それはまた別のお話。でもそんなみんなの顔はとっても幸せそうな笑顔だった。




 そしてこれが桜舞う日、そんな一日の出来事だ。


次回は本編に戻ります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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