第八十八話 第三ダンジョン、一
今回はようやく第三ダンジョンに潜入です!
では第八十八話です!
アリエスたちとの戦闘訓練からさらに一日が経過した。
俺たちはいよいよ第三ダンジョンに潜入する。
聞くところによれば、一週間前まで滞在していたSSSランク冒険者は一応ダンジョンの最深部にまで到達したようだが、その部屋に神核の姿はなかったらしい。
やはり神核の出現は完全にランダムらしく、俺たちのように執着に狙われない限り出会うのは相当難しいようだ。
俺はその日目覚めると、すぐさまエルテナとリーザグラムを腰にさし、アリエスたちを引き連れエルヴィニア秘境の中央に根深くそそり立つ大樹のもとに向かった。
その際ハルカには一言、言ってくるよ、と声をかけてきた。その言葉にハルカは、心配している表情を出来るだけ隠そうとする笑顔で、お気をつけて、と静かにつぶやいた。
神核との戦闘は何が起こるか、本当にわからない。
それは俺の体を吹き飛ばすかもしれないし、運が悪ければその命すら失ってしまうかもしれない。
俺に限ってそのようなことはないかもしれないが、それでも危険であることに変わりはない。実際に第一神核ではアリエスが、第二神核ではエリアが、それぞれ命の危機に曝されている。
それを鑑みても油断はできない相手なのだ。
俺たちは大樹の目の前にやってくると、その根元に座っている一人の女性に話しかけた。
「およはう、ルルン。朝早いんだな」
その場にいたのは艶やかな黒髪を流しているエルフの美少女ルルンであった。
ルルンは腰に使い慣れたレイピアをさし、木の根元から立ち上がり俺の目を見ながらこう呟いた。
「まあねー。それに今日はあなたたちがダンジョンに入る日っていうの知ってたから。少しくらいは見送りに来るよー」
ルルンの表情は笑顔だったがその目は決して笑っていなかった。おそらくルルンはその身をもってダンジョンの恐ろしさを知っているのだろう。もしかするとルルンは実際にこのダンジョンに入ったことがあるかもしれない。
いや、それは当然か。
五百年も生きているという点もそうだが、その危険性を知っていなければこのダンジョンの門番なんて務まるはずがない。
そのままルルンは俺たちに問いかけるように言葉を繋いだ。
「このダンジョンは全二十階層だよ。そのなかの五層、十層、十五層にはそれぞれ強力な魔物が待ち構えていて、その全てがとても危険なの。まああなたたちの敵ではないかもしれないけどね。しかもそのあとには目的の神核が待ち構えているし………。一応聞いておくけど勝算はあるのかな?」
「いや、まったく。そもそも神核なんて化け物に前もって策を用意したところで、無意味だろうからな。そこはその場のその場で臨機応変に対応するさ」
俺は両手を肩あたりまで持ち上げるとそのままお手上げだ、と言わんばかりのポーズをとった。とはいえ気迫だけは一切変えず、闘志を燃やしながらそのルルンの目を見つめ返す。
「はあ…………。まさか五百年も生きてきてこのタイミングでこんなとんでもない人に出会うなんて思ってもいなかったよ。………よし、なら胸を張って行ってきなさい。何かあればすぐに戻ってくるんだよ。命は一つしかないんだからね」
「ああ、わかってる」
そのルルンの言葉に、アリエスたちも力強くうなずく。どうやらパーティーメンバーの気持ちの整理もついているらしく、その全員が目に強い光を宿していた。
俺は一度気持ちに活を入れるためにエルテナとリーザグラムを鞘から少しだけ抜き、勢いよくその愛剣を鞘に落とし込んだ。
それは響きのいい音を周囲に轟かせ、空気を締める。
「それじゃあ、行くぞ!」
俺はそう声をあげると、そのまま第三ダンジョンの中に入っていったのだった。
この第三ダンジョンはルルンが言っていたように全二十層構成になっており、それは大樹のさらに下、地下空間を切り抜くような形で生成されている。
どうやらこのダンジョンも第一ダンジョンと同じようにすり鉢状の構成をしているようで階層が進むことでその階層の面積は小さくなっていくようだ。
そのダンジョンの中は床が岩、壁が木材というアンバランスな作りになっており、その壁はなぜか自ら発光する素材のようで、特段明かりを用意を用意する必要はなかった。
そしてまず第一層。
そこはまだ何となく太陽の光がこぼれており、魔物もほとんど出てくることはなかった。しかなんというか一層らしいといえばそれまでなのだが、しょうもない仕掛けが数多く仕掛けられていたのである。
「あ、ハクにぃ!あれは何かな?」
アリエスは突如として出現したその小さな柱を指さしながらそう呟いた。
それはなにやらレバーのようなものが取り付けられており、いかにも動かして下さい、と言わんばかりの形をしており、絶対になにかあるな?と俺たちに示してるのだった。
「いや、なにかはわからんが、とりあえず無視でいいだろう」
俺はアリエスにそう呟くと、その怪しい柱を迂回するようにその場を去ろうとした。
しかしその瞬間、それを待っていたかのように俺たちの目の前に壁がいきなり現れる。
「………なんだこれは」
どうやらそれは侵入者の動きに合わせて開閉する壁らしく、俺たちが引き下がれば開かれ、いざ通ろうとすると急に壁が行く手を阻む仕掛けのようだ。
このダンジョンを作った奴はどうやってもこのレバーを引かせたいらしい。
「ど、どうしますか?」
シラが俺の顔を覗き込みながらそう問いかけてくる。
本来ならば時間をかけてその罠を解除していくのだがセオリーだろうが、今の俺たちにそのような時間はない。なんとしても早急に最深部にたどりつかなければならないのだ。
というわけで。
「こうするのさ」
俺はそのまま右手を目の前にかざすと、その壁めがけて軽めの魔力を打ち放った。それは行く手を阻む壁に衝突した瞬間、その壁をいとも簡単に打ち砕き、道を開ける。
「なんといいますか、ハク様らしいですね………」
その光景を見ていたエリアが半ば呆れ半分そのような言葉を漏らした。
俺たちはその後もダンジョンの奥に進み続ける。罠があればその都度俺が破壊し、魔物が出ればメンバーの中で適当に配分し討伐する。
さすがにメンバーがメンバーなので特段問題なくダンジョンの攻略が進んだ。
何やらルルンの特訓や昨日の訓練がうまく効いているようでアリエスたちの動きは以前よりも遥かに滑らかになっていたのが少しだけ驚きだった。
正直って戦闘というものは一朝一夕で上達するものではない。長い経験と弛まぬ努力があって初めて階段を上ることができる。
そのはずなのだがどうやら俺のパーティーメンバーはとてつもないセンスの塊のようで、少しの鍛錬をそのまま実力に変換できるようだ。
これは、将来が楽しみだな。
俺はそんな考えを頭に浮かばせつつ、さらに奥へと歩き出した。
大体一時間ほど経過しただろうか。
俺たちはようやく第五層のいわゆる中ボス部屋の前に来ていた。
そもそもダンジョンといえど今の俺たちにはこの程度の階層の魔物は相手ではないので、どちらかといえば、この広大な面積の階層を歩くのに時間がとられたという感じである。
というわけで、俺は今一度全員の顔を確認して注意喚起をした。
「次はおそらくこれまでとは違う魔物が出てくるはずだ。全員気を引き締めて行けよ」
その言葉にその場にいた全員が頷く。
俺はその頷きを見届けると、黒塗りの重厚な装飾がなされている扉を両手で押し開けた。
部屋の中は不気味な明かりがポツポツと輝いておりい、その中央にいる魔物を照らし出す。
俺たちの目に映ったのは、竜ほどは大きくない翼と槍を持つゴツゴツとした両腕。下腹部からは長い尻尾が生えており、その先端は鋭く尖っている。
いうなればそれは俺たちの世界のゲームなどに度々描かれるデーモンのような容姿をしていた。
「グギャアアアアアアアア!!!」
そのデーモンは俺たちを発見するととてつもない声量とともに雄たけびを放ってきた。それは俺たちの鼓膜を振動させ痛みを走らせる。
「よし行くぞ!」
俺はメンバーにそう声をかけると、そのまま俺はデーモンの動きを窺いいきなり立ち止まる。しかし俺の言葉を真に受けたアリエスたちはすでにデーモンに突撃していた。
その中にいたキラの腕を急いでつかみ取りその動きを止めそっと耳元で俺の思いを呟く。
「ここはアリエスたちにやらせよう。見たところあまり強そうなやつじゃないしな」
「ほう。そういうことか。いいだろう、了解した。ではとくと見させてもらうとしよう」
キラは一瞬だけ戸惑ったようだが、すぐにいつもの表情を取り戻すと、何かを楽しむような視線をアリエスたちに向け、その場に佇んだ。
俺とキラの行動にアリエスたちは、少しだけ訝しげな表情をとったが、すぐさま俺の意図を理解するとそのままデーモンに攻撃を仕掛ける。
「氷の終焉!!!」
するとアリエスが魔本を片手にその魔術を発動した。
いきなりの大技だが、不意をつくには十分だろう。
その瞬間、デーモンの頭上から大量の雪と氷が叩きつけられる。
「グガア!?」
しかしすぐさまデーモンはその攻撃に反応すると口から灼熱のブレスを吐き、アリエスの魔術を相殺する。
しかしまだ攻撃は終わっていない。
左右から挟みこむようにシラとシルがサタラリング・バキを構えながらデーモンに切りかかった。もともと身体能力の高い二人は、今まで見たことのないスピードでデーモンに近寄り、その尻尾にダメージを与える。
「ギャアアアア!?」
その剣線は見事に命中し、鮮血を舞い上がらせる。サタラリング・バキはデーモンの尻尾にある硬い鱗をたやすく断ち切り骨を砕いていた。
「なかなかのコンビネーションだな」
キラが感心したように呟く。
俺はその言葉に無言の肯定で返すと、もう一人の動きに注目した。
残っている一人、つまりエリアは右手に構えた片手剣を構えたままデーモンの正面に肉薄する。
その動きはもはや神速と言っても過言ではなく、デーモンの目では捕らえられない。
エリアはそのままデーモンの握っている槍を足の蹴りだけで弾き返すと、がら空きになった胸に片手剣を横に薙ぎ切り裂いた。
「はあああ!」
エリアの片手剣はデーモンの肉を裂き確実に致命傷を与える。
しかしこの程度で引き下がるデーモンではない。さすがは中ボスと言うべきか、そのデーモンはエリアの片手剣を傷を受けながらも弾き返すと、持っていた槍に魔力を込めそのまま全力で投擲してきた。
それは真っ直ぐエリアの顔面を狙っており、片手剣を弾かれたエリアには防ぐ手立てがない。
さらにデーモンはその後もなにやら黒魔術の様な攻撃を連発する。
これはさすがに少々やばいか?と思ったのだが、そこでエリアの顔が笑っていることに気づく。
「あとは頼みましたよ、アリエス」
その瞬間エリアの背後から忍び出てきたアリエスは手に持つ赤黒い長剣を振り回し、デーモンの投擲された槍を叩き折った。
「ガウッ!?」
これにはデーモンも驚いているようで、一瞬だけ怯んでいるようだ。
アリエスが手に持っている剣は俺が授けた絶離剣レプリカ。であれば基本的にどのようなものでも切り裂くことができる。その能力を持ってすればデーモンの槍ごときなど触れるだけで折れてしまうのだ。
また同時に発動された黒魔術はシラとシルがエリアを庇うようなタイミングで現れその全てを叩き落した。
すぐさまデーモンは次の攻撃に移ろうとするが、もう遅い。
その眼前にはアリエスの絶離剣が迫っており、その攻撃は音もなくデーモンの体を切り裂いた。
「ごめんね。あなたに恨みはないけど、私達はこの先に進まないといけないの」
アリエスはそう口にすると、右手に持つ剣をブンブンと振り回し、デーモンの体を解体していく。
それは血液すら断ち切り、血生臭い戦闘とは思えないほど洗礼された光景を作り出した。
正直言って、最後には俺が助けに入らないとまずいかな、と思っていたのだが、それはまったくの杞憂であり、俺のパーティーメンバーは着実と力をつけているようだった。
俺はその事実に顔を綻ばせ、キラと一緒にアリエスたちの下に駆け寄る。
「お疲れ」
俺は一言そう呟き、エルテナとリーザグラムを鞘の中にしまうのだった。
第三ダンジョン現在攻略位置、第五層。
次層は第六層になる。
次回も第三ダンジョン内部を探検します!
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