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第二十七話 知りたくなかった現実

今回はハクの視点でお送りします!

では第二十七話です!

「………どうして妃愛がカモだと?俺たちはお前と今日初めてあったはずだが?」


「相手の実力を把握するのに会う必要なんて必要だと本気で思っているのですか?一目見ただけで十分ですわ。彼女が血の匂いも知らない無垢な少女であることはすぐにわかります」


 ちっ………。やはりダメか………。

 妃愛がカモだと言い出した時点でなんとなくわかっていたが、こいつはある程度妃愛が帝人になった経緯を知っているらしい。もっと言えば妃愛がまったく戦うことのできないただの一般神だということ見抜いているのだ。

 まあ、それはある意味当然だ。戦いに身を置いてきた者なら、相手を見ただけで大凡の戦闘力を測ることができる。加えて、俺ほどではないにしろ気配量まで掴むことができるともなればそれくらいできて当然だ。

 先ほどの会話からこいつは俺たちをどこからか観察していたことは間違いない。となるととっくにこちらの情報を筒抜けなのだろう。

 だが問題は………。


「か、カモ………?わ、私が、ね、狙われて………」


「妃愛、落ち着け。心配ない。お前には俺がいるから」


「で、でも!私は弱くて、弱くて、今日も月見里さんから………」


「今日も?」


 その言葉に俺の意識が吸い寄せられる。そして同時に発せられた名前。それは俺の目の色を返させるには十分な威力を持っていた。

 だがそんな俺よりも大きな反応を見せたやつがいた。それは真っ白な髪を持った高身長の女性だった。


「月見里?………なるほど、そうですか。やはりとうとう動き出したと言うわけですね。それもいきなり本人に接触してくるとは。これは面倒なことになってきましたわ………」


「………どういうことだ?」


 そう言葉を吐き出した女性、ミストは何かを考えるような仕草を作りながら、すぐに俺に視線を戻してこう返してきた。そしてミストはゆっくりと今回の夕食の目的を語っていく。


「もし私の言った言葉が鏡さんの気分を害してしまったのなら謝ります。申し訳ございません。ですが現状、私の言ったことは全て真実だと思っていただけるといいかと思います。その証拠がまさに鏡さんが口にした『それ』なのです」


「『それ』って言われても………」


 そう言って俺は妃愛に視線を流していった。俺とミストの視線が集まっている妃愛は、そんな俺たちの顔を交互に見ながらはわはわと驚いている。だがそれも何かを思い出したような雰囲気をにじませた瞬間、一気に血の気が引いていった。


「妃愛………?大丈夫か?気分が悪いようなら無理に考えなくても………」


「お、脅されたの………」


「は?」


「きょ、今日学校で月見里さんに、この一ヶ月いじめがなくなって楽しめたか?でも戦いは始まってるから覚悟くらいしておけ。そうじゃないと死ぬって言われて………」


「なっ!?」


「………」


 だ、だから妙に帰りが早かったのか………。妃愛の気配がいきなり学校から飛び出してきたから慌てて駆けつけたのだが、まさかそんなことになっていたとは………。

 しかも妃愛がその月見里さんから逃げ出すというのは相当な以上事態だ。妃愛にとって月見里さんから受けているいじめは死を選ぶほどのものではない、と本人の口から聞いている。そっとしておいてほしいと言われている以上、俺はそれに関して足を踏み込めないわけだが、それを考えてもやはりこの状況は異常だと言わざるを得ないだろう。

 妃愛をここまで追い詰めていたということは今日の月見里さんはいつもと確実に何かが違ったということだ。加えて妃愛に放った言葉。「戦いは始まっている」という文言。これはどう考えて真話対戦以外に考えられないだろう。学校で起きる戦いなんて所詮は生徒会選挙とか、期末試験の勝負とかそんなところだ。

 だというのに、月見里さんは妃愛に命が危ういという脅しをかけてきている。それはつまり何がどう転んでも黒だと言っているようなものなのだ。

 すると、そんな俺たちの対話に割って入るようにミストはまた口を開いて真実を語っていった。その口調は聞いたことがないくらい重く、張り詰めていた空気をさらに乾燥させてしまう。


「………私が持っている情報の中に月見里麗子の父親、月見里貴教(たかのり)が帝人の一人だというものがあります。一ヶ月ほど前に他の帝人を揺さぶる目的で母国から大量の術式道具を密輸したのですが、それに唯一食いついてきたのも月見里でした」


「や、月見里さんのお父さんが、帝人………!?そ、そんなことって………」


「今の話を聞く限り、ほぼ間違いなく月見里家はこの戦いに絡んでいるでしょう。娘すら利用しているのは少々いただけませんが、あの家はかなりの財閥だと聞いていますし、家族ぐるみ、いえ組織ぐるみでこの戦いに臨んでいてもおかしくありませんわ。現に私の下にも偵察隊と思わしき人間が何人かきましたから」


「………その話、嘘じゃないんだよな?」


「私の話はともかく、鏡さんの話は信憑性があると思いますが?」


 ここで俺がミストの話を信じなければ、それは妃愛の言葉を信じないと言っているようなもの。二人の話は通ずる部分が多い上に、タイミングがあまりにも合いすぎている。

 つまり。

 ここで月見里家が妃愛に接触してきたことを考えると………。


「やつらの標的は妃愛ってわけか………」


「そういうことです。今回私がこの場を設けたのは、あなた方にこの戦いの本当の顔を説明するということもそうですが、それよりも月見里家が動いているということを伝えるためでした。私の目から見ても彼が引き抜いた神器は強力です。決して油断できないかと」


「知っているのか?その神器について?」


「能力までわかりませんが、見ただけでかなりの力が伝わってきました。少なくとも神器のレベルで言えば私が持っているものよりも強力ですわね」


 ここでその神器の見た目や力を聞き出すことができれば、大方相手の戦力を把握できると思ったのだが、俺はそれを喉の奥にとどめて踏みとどまった。今はそれよりもこの女の行動理念、というか目的の方が気になる。

 妃愛が月見里家に狙われているのはわかった。だがそれにしてもその情報をこいつがわざわざ伝えてくるメリットがない。月見里家の話題に移る前にこいつが俺たちにとって白なのか黒なのか、それを判明さる必要があるだろう。

 ゆえに俺は自分が狙われているということを知って震えている妃愛の手を握ってやりながら、ゆっくりと口を開いてミストに言葉を投げつけていった。


「………一つ聞いておきたい。お前はどうしてそこまでするんだ?お前が俺たちにその情報を教える利点はないはずだが?」


「確かに。それはそうですね。正直なところ、私はあなた方のことも月見里家のこともどうでもいいと思っているのです。どうせ最後は私が勝つことになりますし、そこに至る過程なんて興味ないですわ」


「………」


「ただ。私とて狂ってはいても堕ちてはいません。無関係な人間は極力巻き込みたくないと思っています。今の鏡さんのように無理矢理この戦いに参加させられているような人も含め、人畜無害な人間に手を出すほどおちぶれてはいないんですよ。まあ、逆に自分の石で一度でも私の邪魔をしようものなら、内臓を引き裂いてでも排除しますけど」


「ッ………」


 最後の言葉に込められた威圧は凄まじいものだった。背中に悪寒が走り、汗は出ないものの反射的に体が後ろに下がってしまう。まさか神ともあろう俺がこんな状態に立たされるとは思っていなかったが、まあそれだけこの女が常識から外れた位置にいるということだろう。


「だからこその救済、援助ですよ。私はまだ鏡さんを敵だとは思っていません。この戦いから逃れられないということはもうすでに聞いていると思いますが、であるなら極力関わらないようにすればいいだけのこと。さすがにこんないたいけもない少女が目の前で肉塊に変わるのはさすがにくるものがありますから」


「う、うぅ!あ、わ、私、が………」


「おい、しっかりしろ、妃愛!………ミスト。お前の意見はわかったが、あまり妃愛を刺激するようなことは言わないでくれ。今の妃愛はかなり追い詰められている。下手な言葉は逆効果だ」


「あら、それは失礼。気をつけますわ。………ただまあ、これでおわかりになられたと思いますが、この戦いは皇獣だけでなく帝人にすら気をつけなければいけません。それがわかっていただければ今日のところは問題ないですね。ささ、ディナーの続きといきましょうか。冷めたものはまた作り直しますので」


「い、いや、さすがにそれは………」


 俺は最後にとんでもないお嬢様発言をしたミストにジト目を向けながら、息を荒げている妃愛の背中を撫でていった。すると次第に呼吸が落ち着いていき、数分後には元の調子を取り戻していった。

 だがそれでも自分が狙われていると知った妃愛の表情は晴れず、暗いままだ。まあ、命が危ないという状況に立たされていて平然としているほうがどうかしているのだが、今の妃愛は俺が見てきた中で一番と言っていいほど憔悴している様子だった。


「妃愛、大丈夫か?辛かったらもう帰ってもいいんだぞ?」


「う、うん………。で、でも大丈夫。平気だから………」


 どう考えても平気じゃないよな、これ。無理してるのは見なくてもわかるし、そもそもミストは一度妃愛を襲おうとした相手だ。そんな相手と同じ場所で食事など、ストレス以外の何物でもない。

 そう考えた俺は妃愛の体調を考えて今日はこの辺りで帰ろうとしたのだが、そんな俺に向かってミストは鋭い視線を向けたままこんなことを呟いてきた。


「さて、少し余談なのですが、結局のところあなたは何者なのですか?」


「なに?」


「私が鏡さんを襲ったのはあなたが間違いなく出てくると踏んだからこそでした。そしてその予想通りあなたは鏡さんを守りました。ですが紛いなりにも帝人の手刀を割り込みながら素手で止めるというのは普通の人間にできることではありません。あなたからは鏡さんのような一般人のものではなく、こちら側の匂いがします」


「………だったらどうするつもりだ?」


「いえ、何も。ただ先ほども言ったように私の邪魔をするのなら容赦はしません、ということだけ言っておきます。あなたにあなたの目的があるように、私にも私の目的がありますので」


「俺に勝てるとでも?」


「さあ?それはやってみないとわかりません。ただあなたは受けた恩を仇で返すほど人でなしなのですか?」


「恩着せがましいやつだな。お前が勝手にしただけのことなのに」


「それが女というものです。私が女という性を名乗っていいのかはわりませんが、まあ一応淑女としての自覚はありますから」


「淑女が恩着せがましいとか、世の中の淑女に謝ったほうがいいぞ?」


「ではそれはまたの機会に。どうやら動き出したようですから」


「なに?」


 と、次の瞬間。

 部屋の中に何かのブザー音が鳴り響く。それは部屋を突き抜けるような大きな音で、思わず俺も妃愛も声が出なくなってしまった。


「こ、この音はなんだ………?」


「簡単です。皇獣ですよ、皇獣。どうやら『捕食期間』終わったようですわね」


「ま、待て!皇獣は基本的にあの図書館の付近でしか生まれないはずだろう!?どうしてこんな離れたところまで………」


「あら、説明は受けたはずでは?確かに皇獣は図書館の周りでしか発生しませんが、誰も移動しないとは言っていませんよ?それに皇獣は帝人を追いかけるような命令が植えつけられています。生まれたら最後、普通の人間よりも帝人を狙ってくるはずです。ほら、こんな風に」


 その瞬間。

 俺たちがいるビルが大きく揺れた。それはまるで何かに衝突されているのような振動で、危うくビルが傾いてしまいそうになる。


「きゃあっ!?」


「ちっ………!」


「一応私の力でビルは支えています。ゆえに倒壊の心配はないでしょう。ですがだからといって安心することはできません。………そこのあなた、お名前は?」


「………ハクだ」


「そうですか。ではハク、少々面倒ですが下に湧いている皇獣を排除します。力を貸してください。私一人でも十分ですが、人数が多いほうが早く片がつきますから」


「それはいいが、俺にとって最終戦事項は妃愛を守ることだ。それだけは忘れるなよ」


「もちろんです。………ではいきましょうか」


 ここでミストは言葉を切った。

 そして言い放つ。戦いの火蓋を切って落とす、その台詞を。




「戦場へ」




 こうして俺と妃愛の初の戦闘が幕を開けていくのだった。


次回は戦闘回です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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