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第二十六話 奇妙な夕食

今回はハクの視点でお送りします!

では第二十六話です!

「お、美味しい………!」


「ああ、そうだな。美味しい、確かに美味しい。それは俺も認めるよ、妃愛。俺が普段作ってるようなお粗末料理なんか比べるのもおこがましくなるほど、ここの料理は美味い。本当に美味いよ。………だけど、だけどな!」


「何ですか?ディナーの場で騒がしいのは少々いただけませんよ?」


「どう考えてもおかしいだろう、この状況!?さっきまでの殺伐とした空気は!?というかここ何!?どうして俺たちは今高級レストランの一室に通されてるんですかねえ!?」


「あら?このお店ではご不満でしたか?そいうことならもっと早く言っていただきたかったのですが。候補となるお店はまだ一杯あったのですよ?」


「がああああっ!話が合わない!」


 現在。

 妃愛がミストという女性に襲われた数時間後。俺たちはいきなり黒塗りの車に乗せられてとあるレストランに来ていた。そこに到着する頃にはすっかり日が沈んでしまい、あたりはもう闇に包まれている。

 ということは必然的に昼食を通り越して夕食の時間帯に突入してしまっているわけで、いきなり通されたレストランで目まぐるしく登場する料理に困惑していた、というのが現状だ。

 襲われた場では怯えきっていた妃愛も今は俺の服を掴みながらも高級レストランの料理に舌を唸らせている。まあ、それだけこのレストランは庶民が近づけるような場所ではないということだ。

 内装はもちろん、どこかのホテルか!と間違ってしまいそうな接客。そしてどういうわけか超高層ビルの最上階に設置された立地。窓から見える景色は素晴らしく綺麗な夜景が広がっており、俺も妃愛も言葉を失ってしまったくらいだ。

 とはいえ。

 気をぬくことはできない。まんまと連れてこられてしまったわけだが、この女は妃愛を襲おうとしていたのだ。俺が助けに入らなければどうなっていたかわからない。ならどうしてそんな殺人鬼もどきと一緒に行動しているのか、と突っ込まれてしまいそうになるが、一応理由はある。

 ミストはあの後、俺たちに「あなたたち、というよりは鏡妃愛さんは他の帝人たちに狙われています。その件についてお話ししたいのでディナーでも一緒にどうでしょう?」と言ってきたのだ。

 俺もいきなりのことでかなり動転したが、その瞬間からミストの敵意が消失したこともあってその言葉に頷くことにした。危険だということはわかっているが、こいつは皇獣ではない。見境なしに襲いかかってくるような人間じゃないと判断したのだ。

 それに純粋に聞きたいこともあった。こいつの正体や目的。どうして俺たちに接触してきたのか、その理由。后咲に聞いただけではわからなかった情報を聞き出せると思っている打算が俺を動かしている。

 そんなこともあって見事に夕食の席についてしまっているわけだが、開幕早々調子が狂わされてしまった。

 ………一体何なんだ、この状況は。いくら夕食と一緒にとろうってことになってもまさか普通こんな場所に招待しないだろう………。っていうかここ、一体どれだけの金を積めば入れるレストランなんだ?俺たち以外に人がいないってことも不思議だし………。


「簡単ですよ。ここならば他の帝人たちの監視網から逃れられるからです」


「ッ!ど、どういうことだ………?」


 心を読まれた。

 いや、違う。単純に顔に出ていたのかもしれない。俺の思考を読むなんて荒技はそれこそ姉さんクラスの力がなければ不可能だ。予測ではなく真実に変えてしまうその推察力は普通の人間にはない。となるとやはり俺が自ら心の声を態度に表していた可能性が高いだろう。

 しかしそんな俺の葛藤などまったく気にしていないのか、ミストは丁寧にナイフで切った厚切りの肉を口に運びながらこう返してくる。


「ここは私自身が保有し、運営しているレストランです。ここにいる人間は皆、私の関係者。ここに余計な偵察やスパイは侵入できません。加えてここは郊外も郊外。というかもはや東京都ですらありません。真話対戦が行われている街から物理的に離れてしまえば、誰かに見られる可能性も薄くなりますから」


「………その言い方だと、常に俺たちは見られてるみたいな言い方だな?」


「あなたたちだけではありませんよ。もちろん私だって見られていますわ。この戦いは皇獣たちを殺す目的が第一ですが、他の帝人たちをどう排除するか、という戦いも同時に行われているのです。今回および立てしたのは、それをお話するためですわ」


 その瞬間、俺と妃愛の目が大きく見開かれた。持っていたナイフとフォークをそっとテーブルの上に置き、視線をまっすぐミストに向けていく。そんな俺たちの様子の何かおかしかったのかわからないが、ミストは笑いながらこんなことを吐き出してきた。


「ふふふ、そんなに警戒しないでください。確かに私も帝人ですが、今すぐにあなたたちと戦おうとは思っていません。皇獣を倒す義務はあれど、帝人を殺す義務はどこにもありませんから」


「その言い方だといずれは俺たちを殺すと言っているように聞こえるが?」


「さあ、どうでしょう?まあ、邪魔になれば躊躇なくそうさせていただきますけど、白包を必要としていないというのであれば、襲う必要はありません。むしろ皇獣の数を減らしてくださるのですから感謝するくらいです」


「白包………。お前は白包が欲しいからこの戦いに参加したのか?」


「当然です。でなければどうしてこんな極東の離れ小島にやってこなければいけないのですか?………ああ、すみません。別にこのようなお話をするためにディナーに誘ったわけではないのです」


 ミストはそう言うとグラスに注がれていた赤ワインを一気に飲み干すと、何一つ顔色を変えずもう一杯ワインをよこすようにウエイターに告げて息を整えていった。その飲みっぷりはもはや清々しいほど綺麗で、酒豪という存在を改めて認知させられてしまうものだった。


「そ、そんなに飲んで大丈夫なのか………?一応、それワインだろ?」


「は?何を言い出すかと思えば………。この程度のお酒は私にとって水と同じですよ。あってないようなもの、そのレベルです」


「は、はあ………」


「お兄ちゃんはお酒飲めるの?」


「え?あ、ああ、まあ少しだけなら………。一応二十歳は超えてるしな」


「その容姿で二十歳を超えている、ですか………。まあ深くは詮索しませんわ。個人情報ですものね」


 ………言いたいことはわかるぞ。つまり俺の顔は二十歳には到底見えないって言いたいんだろう?ぐっ………。わかっていたことではあるが、正面からそう言われるとなかなか辛いものがある………。

 そもそも。俺の身体年齢はリアから力を受け継いだ十八歳で完全に止まってしまっているのだ。ゆえに容姿はそのまま、でも年齢は進む。という不可思議な現象が起きてしまっている。

 だから、ミストの言っていることはあながち間違いじゃない。間違いじゃないのだが………。

 うーん………。女性は若く見られて悪いことはないだろうけど、男はいつまでも童顔だとか女顔だとか言われるとなかなかくるんだよなあ………。まあ、もう諦めてるから今更だけど。

 と、そこでコホンと咳払いをしたミストは、いきなり真剣な顔つきになってこう語り始めた。


「あの図書館に向かったことを考えると、大方この戦いの説明は受けたと思いますが、それでもまだまだ疑問に思っていることは多いでしょう。あの司書は肝心な部分を話したがりませんから。ゆえに私が警戒しているのはあの司書だったりします」


「まあ、それはわからなくないが………」


「なら話は早いです。どうせ、ですが、あおの司書は三つ存在する白包をどう帝人に分配するか、語らなかったのではありませんか?」


「え?」


 そういえば。

 確かにそれは説明されなかった気がする。

 今考えれば不思議な話だ。白包の数は全部で三つ。しかし今回の帝人は全部で六人だ。もし仮に六人全てが白包を得る権利を得たとしたら数的に矛盾が生じてしまうことになる。

 それに振り返れば前回、全然かの対戦も白包と候補者の数があっていない。確かに誰も生き残らなかったから白包が残っているという話は納得できるが、もし誰かが行きのkっていた場合はどうなっていたのだろうか、という疑問が出てきてしまう。

 まあ、普通に考えれば皇獣を倒した数とか功績とかで優劣をつけるのだろうが、それでは皇獣に関わらないようにして、生き残ることだけを考えていればいいという策まで浮上してしまうことになる。

 こうなっては対戦の意味がなくなってしまう。皇獣を倒してもらう代わりに白包を用意しているはずが、白包だけ奪われるという状況が作り出されてしまうのだ。

 だが、それをミストは鋭い視線をこちら向けながら否定してきた。


「あの司書は一つ嘘をついているのですよ。そもそも前回と前々回、その帝人たちが皆、五皇柱に倒された、だなんて本当だと思いますか?」


「それ以外に帝人が殺される要因があるとでも?」


「ありますよ。簡単じゃないですか。白包の数は三つ。できることならその全てを手に入れたいと帝人たちは考えるでしょう。となれば皇獣を倒すことももちろんですが、何より手っ取り早いのは………」


 嫌な予感がした。

 聞いてはいけない、そう本能が告げてきている。

 いや、違うか。俺は別にいい。だが妃愛には聞かせてはいけない。そんな気がした。

 しかしもう遅い。ミストの口は動き出しており、止めることなどできなかった。そしてその口は淡々と事実を突きつけてくる。




「帝人が帝人を殺すこと、それにつきます。そしてそれこそがこの戦いが『対戦』と呼ばれている理由です。皇獣たちと戦うことが主ではなく、どちらかといえば同じ人間同士で殺しあうことが重要になってくるんですよ、この戦いは」




「ひぃ、ッ………」


 その言葉に妃愛が小さな悲鳴を漏らした。

 俺はそんな妃愛の様子を心配しながらも、まだまだ止まらないミストの声に耳を傾けていった。


「まあ、簡単な話です。白包を独り占めしたいから他の帝人を殺す。殺せば手柄は全て自分のものになりますし、何より自分以外の実力者を排除できる。白包みを手に入れた後でも、寝首をかかれたくはありませんからね。帝人にしてはこれ以上ない戦略です」


「ま、待て………。ということはあの司書が言っていた五皇柱という話も嘘ってことに………」


「ああ、それは違います。五皇柱は確実に存在してますよ。そしてその五皇柱に殺された帝人がいたのは事実です。ですが全てではありません。帝人に殺された帝人も少なからずいたということです」


「………」


 衝撃の事実だった。

 人が人を殺す。それはどの世界においても禁忌の所業。決して認められるものではない。

 だがこの世界はおそらく、それが限りなく甘い。一般人ではなく人の常識を踏み越えた者たちの中でその敷居がとてつもなく低いのだ。

 しかし考え方によってはこれはある意味人間らしいのかもしれない。目的のためならなんでもする。己の邪魔をする者を消すことのできる力があるのならば、その行動理念がいかに間違っていようと、それを正義と言い換えることできる。

 それが力。

 一歩間違えば人の道を踏み外す危険なもの。

 それをこいつらは躊躇なく人に向けているのだ。

 するとミストはコロコロと笑いながら最後にこんなこと呟いてきた。


「正直なところ、今回の真話対戦の帝人たちはかなり曲者ぞろいです。この私でさえ次の展開が読めないのですから、ある意味当然と言えます。ですが、その中でも鏡さん、あなたはどんな立ち位置にあると思いますか?」


「え?」


「お、おい、やめろ!それ以上言うな!」


 悟ってしまった。

 この女が次に何を言おうとしているのか。

 それは決して妃愛に聞かせてはならないものだ。もし仮に妃愛が積極的に戦いに臨んでいく姿勢なのだとすると、また話は違ってくるが今の妃愛はそうではない。

 むしろ戦いを嫌っている。自分が死ぬことに恐怖している。それが普通だし、そのふつうの人生に戻してあげたいと俺も考えている。

 であればこれ以上こいつに口を動かさせてはいけないと思った。

 しかしそんな俺の気持ちを無視するようにミストは脅すように現実を妃愛に引きつけていったのである。




「あなたは六人いる帝人の中でも最弱です。そんなカモを前に私たち他の帝人が何もしないと思いますか?」




 それは宣告。

 お前はいずれ死ぬのだと、いずれ殺されるのだと。

 そんな意味がこもった死の宣告だった。


次回はミストがこの夕食の場を設けた理由が明らかになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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