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第二十一話 区切り

今回はハクと妃愛の二つの視点でお送りします!

では第二十一話です!

 ノイズが走った。

 過去に、同じような言葉をかけられた気がする。

 ザザ、ザザザザッ!!!

 砂嵐のようなノイズが脳内に駆け巡り、思い出したいはずの記憶を無理矢理塗りつぶしてくる。見たい、見たいのにそれを思い出すことができない。

 ただ、何とか見ることのできたそれは、白いローブを身につけていた気がする。


「ッ………!」


 それを脳内に思い描いた瞬間。

 私はその場に崩れ落ちた。お兄ちゃんが支えてくれている腕の中から滑り落ちるように床に膝をついてしまったのだ。加えて、とてつもない吐き気と目眩が襲いかかり、呼吸まで満足にできない状態に追い込まれてしまった。

 お兄ちゃんに手を伸ばす。

 でも、どうしてだろう。

 お兄ちゃんに触れようとすればするほど、頭に走っているノイズが酷くなり症状が悪化する。その姿、その声、その服を目に入れれば入れるほど私は体の自由が効かなくなっていった。


「ッ!大丈夫か、妃愛!?」


 そんなお兄ちゃんの声が聞こえる。本当なら何でもない、大丈夫だよ、と答えたい。でも答えられなかった。込み上げてくる吐き気が喉を塞ぎ、空気を振動させることができない。

 だから代わりに私は必死にお兄ちゃんの服を掴み続けた。何かにすがるようにぎゅっと、ぎゅっと握りしめていった。

 すると、次第に体の調子が自動的に戻ってき、数秒後には何もなかったかのように回復してしまう。頭には頭痛が絶えず走っているが、それでも耐えられないほどではない。我慢できる範疇だ。

 私はそんな何とか元に戻った体を確認すると、原因など考えずにお兄ちゃんに向かって笑顔を振りまいていった。


「大丈夫だよ………。少し目眩がしただけだから。気にしないで」


「で、でも………」


 と、言ったもののどう考えても今の私は顔色が悪い。自分でもわかってしまうほど顔から血の気が引いていた。

 そんな状態で大丈夫だとか、心配しないでだとか、そんな言葉を言っても説得力に欠けることは私だってわかっている。でもそうしなければ余計にお兄ちゃんに気を遣わせてしまうと思うと、無理にでも笑顔を作ってしまった。

 私はそんなことを考えながらゆっくり立ち上がると、先ほどと同じようにお兄ちゃんの背中に隠れるようにして立ち上がり、目の前に立っている黒髪の女性に視線を向けていく。

 だがそこで私はとあることに気がついた。

 ………あれ?あの人の目、あんなに赤かったっけ?確か目も髪と同じ黒色だった気が………。

 私の視線の先、そこに立っている黒髪の女性。その女性の目が私の記憶と違う色に輝いていた。だがそれを目撃できたのも一瞬で、すぐに元の色に戻ってしまう。

 ゆえに私はそれを錯覚だと思うことにした。でも、どうやらその時の私はまたしても変な顔をしていたようで………。


「本当に大丈夫か、妃愛?辛かったら言っていいんだぞ?」


「へ?あ、ああ、うん。大丈夫、大丈夫。眠くなってただけ。何も心配いらないよ」


「そ、そうか。まあ、何かあったらすぐに言ってくれ。できるだけ力になるから」


 お兄ちゃんは私にそう呟くと再び視線を女性に向けて表情を真剣なものに変えていった。その顔は私が見てきたお兄ちゃんのものではなく、鞘から抜かれた刀のような鋭さを持っている顔だった。

 その顔は昨夜、皇獣たちと戦っている時に浮かべていたものだ。体から放たれる圧倒的な圧力は、対峙したものを一瞬で強張らせ押しつぶしてしまう異次元の覇気をまとっている。それをまともに受けてしまえば皇獣はおろか、人間とてまともに動けなくなってしまうだろう。

 それだけの力を私はお兄ちゃんから感じていた。

 そんなお兄ちゃんが私を守ると言ってくれている。その言葉の力強さが今になって脳に届き、私を呆けさせていく。


 そして、お兄ちゃんと私はまた図書館の司書さんの話に耳を傾けていった。

 だがこの時。

 私は私が一体誰なのか、それを理解していなかった。ゆえにこの先の未来にある様々な問題にぶつかってしまうことになる。

 でもそれに、私もお兄ちゃんもまったく気がついていないのだった。











 妃愛の様子がおかしくなり、何とか立て直した直後。

 俺は再び女に向き直り、威圧を放ちながら話を進めていく。

 この女は妃愛をこの図書館に匿うことによって守護すると言ってきた。だが現状、妃愛をここに預けるよりも神妃である俺自身が直接守ったほうが何倍も安全だと断言することができる。

 俺は妃愛をごく普通の生活に戻してあげたいと思っている。となると妃愛が本当に人気を召喚して帝人になる線は論外。かといって図書館に隔離するという手は妃愛を現実から引き離しているのということになる。しかしそれでは妃愛が元の生活に戻るということは不可能に近い。

 であればやはり力を持っている俺が妃愛を血生臭い世界から遠ざけながら守るのが最善だろう。そう俺は思い至った。

 幸いなことに皇獣たちにもしっかりと気配は宿っている。であれば、その気配を辿る、ないし探ることで大半の皇獣には対処できるだろう。

 だがそんな俺の言葉を聞いていた黒髪の女は冷たい視線を俺に向けながら事実を注げるようにこう呟いてきた。


「………本気で言っているのですか?」


「無論な。理解できないようなら何度だって言ってやる。俺はお前たちに妃愛を預けるよりも、自分が妃愛を守る方が安全だと、そう言ってるんだ」


「何を根拠にそう言っているのですか?あなたにどれだけの力があるのか知りませんが神器すら持っていないあなたに鏡さんを守ることは不可能に等しいと思いますが?」


「だったら俺からも言わせてもらおう。お前に俺の何がわかる?この世界に、この世の中に皇獣を倒すことのできる手段が神器だけなんてルール、誰が決めた?もしそんなルールがあるなら是非教えてほしいものだ」


「それはこれまでの真話対戦が物語っています。今の今まで例外なく神器以外の武器で皇獣を倒せたことはありません。鏡さん自身が帝人となって戦うというのならまだわかりますが、参加資格すら持たないあなたが何をしても無駄に命を散らすだけです」


「無駄に命を散らすかは置いておいて、少なくとも皇獣への対抗手段に例外がないっていうのは誰も言っていないはずだ。現にお前は知っているんだろう?昨日俺が皇獣たちを倒していることを。だったら話は早いはずだ。俺には妃愛を守る力がある。それに関して明かすつもりはないが、それがあれば皇獣たちはどうにかできと思っているんだ。お前たちが勝手に巻き込んだ手前、こちらの言い分を聞く義務くらいあるはずだが?」


「………本気で言っているのですか?」


「それは二度目だが、今回も肯定しておこう」


「………」


「………」


 視線と視線が激突する。

 威圧と威圧が混ざり合い、空気をより重たいものへ変えていった。普通の人間ならばこの空気に当てられただけで失神してしまうほどなのだが、生憎と俺たちは普通じゃない。お互いにお互いの隙を探るように視線を這わせ、相手の出方を窺っていく。

 だがここで女は何かを諦めたのか俺から視線を外し、大きなため息とともに肩の力を抜いていった。華奢な体を近くにあった机に預け、困ったような表情を作っていく。


「まったく強情な方ですね、あなたは。そこまでして死に急ぎたいのですか?」


「誰が殺されるかよ。いっちゃなんだが、こんな台詞、そこそこ自分の力に自信がなけりゃ言えないぞ?つまりそれだけの啖呵を切る度胸は持ち合わせてると受け取ってほしいんだが?」


「度胸だけで解決できれば苦労はありませんよ。それに自信過剰な方々が命を落としていくのはもはやテンプレートのようなものです。それがわかっているのに、みすみす命を落とされるのは私たちにしても後味が悪いんですよ。………でも、その様子だと引くつもりはないみたいですね」


「もし止めるなら死ぬ気でこい。それだけは言っておく」


 俺にしては随分と強気な台詞だが、これくらい言わないとこいつは下がらない。俺はそう思っていた。結局こいつが何をしたいのか、それはまだわからないが一応妃愛や他の参加者のことを考えていることぐらいは伝わってくる。

 ゆえにこの場で俺を止めようとする理由もわからなくない。

 とはいえ。

 やはりどう考えてもここで妃愛をこいつらに預けるのは得策じゃない。出会って一日経ったか経ってないかぐらいの俺が妃愛の何をわかってそんなことを口に出しているのか、なんて言われそうだが、少なくとも一人の神として今は妃愛のそばにいることが妃愛を守ることに繋がると確信していた。

 結局のところ、どうして妃愛にそこまで肩入れしてしまうのか、それは俺にもわかっていない。まあ、正直なところなせばなるというか、乗りかかった船というか。今の俺がここにいる理由の大半が妃愛にある以上、妃愛の力になることは俺の中で最優先事項にあげられる。

 となるとそういう観点から考えても、ここでの選択は決して間違っていないはずなのだ。

 するとその女は何かを諦めたようにまたため息を吐き出すと、黒い瞳でこちらを見つめながらこんなことを呟いてきた。


「………いいでしょう。ですがその場合、私たちはあなたたちが何か問題を引き起こしても責任は追えません。皇獣を倒すことは良くも悪くも目立ってしまいます。それを今の今まで私たちはもみ消してきました。一般の方々に迷惑がかからないように。その恩恵すらあなたたちは放棄することになりますが、それでも本当にいいのですね?」


「くどい。それでいいと言っている。ただ何度も言うように妃愛がこの戦いに巻き込まれたのはお前たちの不手際が原因だ。そのツケは払ってもらうぞ?」


「………わかりました。それを持ち出されては私たちも反論はできません。鏡さんの負担になるようなことはこちらで引き受けましょう。それとあなたが皇獣や帝人の方々と関わることも認めます」


「いいだろう。なら今日のところは失礼させてもらう。俺はともかくこれ以上ここにいると妃愛が保たない。それはお前もわかっているだろう?」


「はい。ではこの場はお開きにしましょう。一応鏡さんは真話対戦の参加者ですので、こちらが保有している皇獣たちの情報などは随時送らせていただきます」


「助かる。それじゃあな。よし、いくぞ、妃愛」


「う、うん………」


 俺はそう呟くと、まだ色々と疑問が湧き続けている頭を振りながら姫とともに図書館の出口に向かって歩いていった。

 本当ならここでこの女に聞けるだけの情報を聞いておくのが得策なのだろうが、先ほどの妃愛の様子を見るとこれ以上の永井は妃愛を追い込んでしまう。一般人である妃愛がこの場にいるのはとても厳しいはずだ。感じたことのない威圧や空気、場合によってはさっきすら飛び交うこの場所で満足に息ができるかというと、できるわけがない。

 だから俺は必要最低限の情報と、今後皇獣を倒すことの許可を得ることをこの場の目標としていた。そしてそれが達成された今、もうここにいる必要はない。

 俺とて大量の情報を頭でもう一度整理したいし、何より自分たちを守るために必要な情報は最低限手に入った。であれば、あとはどう妃愛の生活を守るか、その一点だけ。

 正直な話、俺は黒包とかいう化け物も、報酬の白包という霊薬にも興味はない。黒包が妃愛の人生を狂わせるなら問答無用で排除するし、白包を欲しがってしまったがゆえに面倒ごとに巻き込まれると言うのなら、そんなものはすぐに譲る。

 つまるところ、俺はこの世界のために戦うのではなく妃愛のために戦う。その意志をこの場で示したのだ。

 こんな話をアリエスにしてしまえば色々と嫉妬されてしまうかもしれないが、俺は別に妃愛にそういう気持ちを抱いているわけではない。俺はアリエス一筋だ、そこは絶対。

 であればどうして俺はここまで妃愛に固執するのか。

 正直なところそれは俺にもわかっていない。わかっていないが、おそらく………。


 似ているのだ。


 アリエスに、アリスに、ユノアに。


 かつて俺が手を差し伸べてきた彼女たちが当初持っていた空気と同じようなものを今の妃愛は放っている。

 何かに打ちひしがれ、生きることすら辛くなっているようなその雰囲気。

 それを見せられてしまうと、どういうわけか体が勝手に動いてしまう。別に女の子だからというわけでもない。これが仮に男の子であっても俺は同様に手を差し伸べるだろう。

 だが、今の妃愛は………。




 とてもではないが、「生きている」ように見えなかったのだ。




 と、そこで。

 俺はあることを思い出す。そしてそれをこの図書館から去る直前に口に出していくのだった。


「そういえば、お前の名前はなんて言うんだ?」


「私の名前ですか?」


「夢乃は最初に名乗ったが、お前は名乗らなかった。だから一応聞いておきたいと思ったんだ」


「ああ、そういうことですか。確かに話を進めるあまり、自己紹介がまだでしたね」


 そして黒髪の女は自分の名前を告げた。

 だが何の因果か、この女もこの先の戦いで俺たちと大きく関わることになる。




「私の名前は后咲(きさき)と言います。この図書館の司書および真話対戦の管理者です」





次回は后咲の視点でお送りします!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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