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第十八話 この世界の真実

今回はこの世界での神話大戦の歴史を明らかにします!

では第十八話です!

「な、に………?」


「どうかしましたか?」


「だ、大丈夫?お兄ちゃん………」


「い、いや、だ、大丈夫だ。問題ない、進めてくれ」


 そう取り繕うのが精一杯だった。

 この女はこう言った。


「神妃と神々は全て死んだ」と。


 それはつまりこの世界は現実世界とはまた違う結末を歩いたということになる。俺が知っている神話大戦は神妃も神々も死ななかった。中には死んだ神もいるにはいたが、全て死んだなんてことにはなっていない。

 だから驚いた。心臓が口から飛び出てしまうそうなほど。

 ………神妃が死んだ?

 こいつが言っている神妃は俺じゃない。ということはここで死んだ神妃っていうのは………。

 脳裏に浮かんだのは輝く金色の髪。初めは無愛想で偉そうで、それこそ本当に神々の王様って言ってもおかしくないくらい威圧的な態度だった。

 でも、蓋を開ければ誰よりも寂しがりやで誰よりも孤独で誰よりも他人思いな、お人好しの神様だった。俺が落ち込んでる時も、死にそうになっている時も、常にあいつはそばにいてくれた。

 そんなあいつが、リアが、死んだ?

 そう考えてしまった俺は慌ててその思考を吹き飛ばす。

 違う、違うんだ。ここでの神妃は俺の知っているリアじゃない。そもそもリアですらないかもしれない。神妃っていう単語に反応しすぎているだけだ。

 世界が違えば人も景色も変わる。だから狼狽えるのは少々おかしい。俺が気にかける必要はどこにもない。そんな結論に至る。

 でも、やはり後味はどうしようもなく悪かった。

 そんな俺を心配したのか妃愛が眺めるように俺の顔を覗き込んでくる。それに気がついた俺はハッと我にかえって優しく妃愛の頭を撫でていった。

 そして再び会話は続いていく。


「神話大戦を引き起こした神妃とその他の神々は持てる力の全てをぶつけて戦いました。その力は拮抗し、最後の最後で力が爆ぜたのです。その大爆発は世界の次元境界すらも破壊し、一時的に世界を再起不能にまで追い込んだと伝えられています」


「………で、その後は?」


「その後は最後の最後まで息があった神妃が、残る力を振り絞って世界を修復しその命を落とす形で終結しました。その時代はまだ人が生きていませんでしたから、神々も信仰を力に変えることができず、そこから蘇ることも生き返ることもなかったそうです」


「ならどうして、その話が今の時代にまで受け継がれている?人がいない世界にその情報を伝えることのできる存在はいないはずだが?」


「簡単な話です。神話大戦はその後の世界に、悲惨な出来事として歴史づけられました。つまりその後の世界から生み出される存在全てに『回避しなければいけない惨劇』と本能のどこかに刻み付けられてしまったのです。それは意識しても決して思い出せるものではありませんが、その影響を受けた人間たちがまるで自分が聞いてきたかのように書物に記録し、今の今まで伝わってきているんです」


 つまり、世界にとってもそうしなければいけないほど神話大戦は大きな出来事だったのだろう。世界の存続がかかっている以上、二度とあんな戦争がおきないように世界は努めなければいけない。

 であれば、深層心理的に生まれてくる生物がその戦争を忌避するように仕向けるのが手っ取り早いと言える。生物たちの負担にならない程度に心を操って自然に回避させる。そしてそれが回りに回って、人間たちはその事象を文字に書き起こした。信憑性などカケラもないが、そうしなければいけないという本能が働いたのだろう。

 ゆえに伝承が刻まれている。伝えられているというよりは途中で新たに書き出されたと言った方が正しい。

 そんな結末をたどったのが、この世界における神話大戦。

 その事実を俺は今、目の当たりにしていた。

 だが同時に思ったことがある。その話をどうして今、しなければいけないのか。結局この女たちは俺たちを守るためにこの話を開陳しているのだ。今の話を聞く限り、それがその目的に繋がっていくとは到底思えない。

 と、考えていると、そんな俺の思考を先読みするように黒い髪を携えたその女はこう語り出していった。


「神妃が死に、神々も死んだこの世界は神秘というものがかなり薄くなってしまいました。それこそ魔術という文化が完全に消えてしまうほどに。ですが逆に残されたものもありました」


「残されたものだと………?」


「………これです」


「これって何が………ッ!?」


 そう言われて夢乃に差し出されたものを見て、俺は又しても凍りついた。なぜならそれを俺は見たことがあったからだ。桃色の刀身に、対になるように作られている夫婦剣。小ぶりではあるが、全てを切り裂いてしまいそうなほど鋭い光を放っているその短剣。

 それを、俺は知っている。

 知らないわけがなかった。

 だって。

 それは。


「この剣はサタラリング・バキという神器、もとい神宝です。私たちは護身用として使っていますが、かつては神妃が所持していた数多ある神宝の一つでした」


 俺がかつてシラとシルに与えた神宝だったからだ。

 つまり、この女が何を言いたいのかというと………。


「神妃と神々が死んだことによって残されたのは彼らが所有していた大量の神宝でした。ですがその大半は彼らが死んだことによって消息がわからなかくなってしまい、今この世界に残されている神宝は数えるほどしかありません」


「………」


 当然だ。もしこれらの神宝をリアが保管していたのだとしたら、それは全て「蔵」の中に収納されている。あの蔵は所有者の権限なし開くことは絶対にできない。俺は今、アリエスたちパーティーメンバーにその格納領域を分配しているため、そのようなことはないが、普通であれば俺以外は蔵を開くこともできないのだ。

 なのだが。

 そんなことは気にも留めないかのような空気を出しながら女は話をさらに進めていく。そしてここで、ようやく話が核心へ近づいていった。


「そしてここで話は冒頭へ戻ります。まず初めに『真話対戦』とはなんなのか、それをお話しておきましょう。夢乃、あれを持ってきてください」


「肯首します」


 そう言われた夢乃はサタラリング・バキを丁寧にしまうと部屋の奥に消えていき、数秒後に何やら大きな紙を持ってこちらにやってきた。そしてそれを勢いよく広げると、空中に青白い光をまとった地図が出現する。


「えっ!?な、何、これっ!?」


「………これは、この街の地図か?」


「はい。鏡さんが驚かれるのも無理はありません。これは魔術を利用した立体地図です。それも皇獣を追うためだけのものになります」


「何か赤い点が動いてるな………。これが皇獣の居場所ってことか?」


「その通りです。この地図はこの世界に一枚しかなく、私たちもこの地図をつくことでしか皇獣を追うことはできません。今見たところでは人気のいないところにいるようなので、それほど心配ありませんが、これが市街地に向かい出すようならすぐに動かなければいけないのです」


「動くっていうのは、討伐しにいくってことなのか?」


 あの化け物を殺す以外にどうにかできる手段があるとは思えない。それに彼女たちが持っている神宝。あの力があれば一般人にはどうしもうない化け物たちも葬ることができる。ゆえに俺は咄嗟にそう答えたのだが、その言葉を女は首を振って否定してきた。


「いいえ、私たちは皇獣を殺すことはできません。万が一ということがあれば、できなくもないですが、それはそれで専門家の方々に任せています」


「専門家?」


 するとここでその女は一度言葉を切り、手に持っていた本を本棚に戻すと床を歩きながら書斎のような場所に向かい、またしても本を取り出してきた。だがその本はどういうわけか血に濡れた跡があり、表紙が赤く染まってしまっている。


「そもそも皇獣(エンペラスト)は何が原因で生まれてると思いますか?」


「さあな。見た感じ、あれが自然現象で生まれてるとは考えづらい。でもだからといって人為的に作られた存在だと言い切れないものも確かだ。あいつらには意思があった。それも恐怖に基づいた生存本能が。人が道具としてあれを生み出しているのだとすればそんな余計なものを与えるとは思えない」


「一理ありますね。というよりはほぼほぼ核心を突いていると言えます。なぜならあの皇獣たちは偶然的に、そして意図的に生み出されたものなのです。人を喰らうように命令され、あとは好き勝手にさせている。だたそれだけの生き物。それが皇獣という存在なんです」


 と、言われても。

 それを理解しろというのは無理な話だ。

 人を喰らうために生み出されておきながら、自分の意思で生きている化け物。それが皇獣。そこまではわかった。だが結局、何が原因になっているか、それがまだわからない。

 あんな生き物がこの世界に存在していていいはずがない以上、あれを生み出している輩、ないし装置があるというわけだ。そうでなければこの女は俺にそんなことを聞いてくるはずがない。

 するとその女は手に持っていた本をゆっくりと開き、その中に視線を落としながらこう語り始めた。


「歴史の話になります。三百年ほど前、この世界に突如人を喰う『鬼』が出現しました。鬼と言ってもそれはあくまでその時代の総称で、実際は私たちがイメージする鬼とはまったく違う姿をしていたそうです。その鬼は多くの人を殺し、その血肉を養分として数を増やしていきました。そしてその中でも最も力を持ち、全ての鬼を従えている存在がいました。その鬼はこの世界を一瞬で破壊できるほどの力を持ち、世界を混乱に陥れ暴れまわったそうです。ですが………」


「ですが、なんだよ?」


「その鬼を封じ込めた存在がいました」


「封じ込める、だと?」


「何がおきたのか、どうやって封印したのか、だが封印したのか、今の世にそれを探る術はありません。ただそれがきっかけとなりこの世界から鬼は姿を消しました。どうやらその強大な鬼が全ての起点となっていたらしく、それが封印されると姿を見せなくなったようなのです。そして、その封印された鬼のことを私たちは『黒包』と呼んでいます」


 なんとなくだが、話がきな臭い方向に向いてきている気がする。鬼の出現、そしてその鬼を取りまとめていたさらに強大な鬼。その鬼が封印されたことによってこの世から鬼は消えた。

 それらの情報が俺の頭に嫌な予感を走らせてくる。いや、それは予感ではない。ただの事実だ。この女は「鬼」という名はあくまで時代の総称だ、と言った。であればその「鬼」が今の言葉に変換されればどうなるか、考えるまでもない。


「気がついたみたいですね」


「………その鬼っていうのが『皇獣(エンペラスト)だったのか』


「はい。どういうわけか、その皇獣が封印された後、皇獣たちが引き起こした惨劇を覚えている人はまったくいなかったらしく、伝承に残されているのもここまでなのですが、少なくとも鬼というのが皇獣であること、皇獣はとある皇獣の存在があるせいで生まれていること、それらが判明しました」


「となると、今の時代に皇獣が出現しているのも………」


「封印された皇獣が原因だと考えられます。というよりはもはやそれ以外にありえません。なぜならそれは一応私たちのほうで調べましたから、間違いありません」


「し、調べた?そ、それはどういうことだ………?」


 すると女は本を閉じてそれを肥大に傍に抱えて右手で地面を指差してきた。そしてそのまま不気味な微笑みを浮かべながら衝撃の発言を漏らしてくる。


「この図書館の下、その地中深くに黒包は存在しています」


「なっ!?」


 その瞬間、俺は慌てて地面の中に気配探知を伸ばしていく。だがそこには何の気配も感じられず、魔力の動きすらヒットしなかった。だが同時に感じたこともある。

 お、おかしい………。気配も魔力もない。でも何もないという事実がそこにある。土屋岩があるわけじゃなく、何もない空間が広がっている!?


「では話を戻しますね」


「ッ………」


「この地面の下に黒包があるということは、まだその皇獣は封印されたままだということです。ということはまだ皇獣は生きています。生きているなら、他の皇獣を生み出す力は当然………」


「健在ってか………」


「その通りです。ですが封印はかなり高性能です。生きていてもその力が漏れ出すなんてことはまずありません。しかし今はそれが漏れているからこそ皇獣の被害が出てしまっています。それはどういうことか………」


 そこで女は言葉を切った。

 そして言い放つ。

 真話対戦というものの正体を。




「百年おきに活性化する皇獣の活動を沈める戦い、それが真話対戦です。皇獣を殺すことのできる神々の神宝、一時的に神器を呼び出して黒包が活性化している一年間世界を守り続ける、それがこの戦いの目的なんです」




 その言葉を俺はすぐに理解することができなかった。


次回は真話対戦について掘り下げます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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