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第八十七話 勇者召喚

今回はハクの視点ではなく、また別サイドからのお話です!

ローファンタジーからハイファンタジーへ、そして異世界のテンプレは別の場所で巻き起こります!

では第八十七話です!

 勇者召喚。

 この言葉を聞いたときに一体何を想像するだろうか。

 魔王を倒すために違う世界から勇者を呼び出す。

 はたまた不慮の事故で勝手に転移してしまう。

 そのくらいだろうか?

 いやいわゆる異世界転移系のライトノベルにはありがちな展開で、神様のギフトやら天職、ユニークスキル。その他多種多様な固有アビリティを保有して召喚される人間達を呼び込む儀式そのものをそう呼ぶこともあるかもしれない。

 なにせそれは中学生や高校生からすれば夢のような世界であり、誰もが一度はそうなってみたいと考えるような事柄だろう。

 剣や魔法を放ち、自由気ままに旅をして魔王を倒す。そのような妄想をしたことがあるはずだ。それは夢に心を躍らせ現実から遠ざからせてくれる唯一の手段とも言えるかもしれない。

 それは時には大量の代償を必要としたり、誰かの思惑が重なって黒々としたイメージとして浮かび上がることもあるが、それでも世の少年少女たちはその世界に憧れる。

 その憧憬は脳裏にこびりつきなかなか離れることがない。

 それゆえいざ召喚されたときには物凄く喜ぶのだ。

 やっと自分の番が回ってきたと。

 

 そしてこの世界にもその儀式はやはり存在した。

 仮にも七属性魔術と六属性魔法が存在しているのだ。地球の物理法則など通用するはずがない。その世界には魔力が溢れ、超常的現象をいとも簡単に引き起こす。

 それがこの世界のシステムであって平常。

 その力は異世界の扉をこじ開け、なんの変哲もない少年少女たちを連れ込む。召喚陣は既に組み立てられ、「とある人物」からの助太刀も無事に機能している。

 瞬間、その召喚陣は光り輝き、莫大な魔力を発しながら次元の狭間をこじ開け、異世界の人間をこの世界に引きずりこむ。

 

 やはりその召喚された少年少女たちは強力な力を授けられてかの異世界に降り立つ。

 そしてこう思うのだ。

 ここからは俺たちが主役だ、と。





 その儀式が実行されたのは、ハクがルモス村にてクビロを仲間にしたときと同時期に行われていたのだった。









 オナミス帝国。

 そこはエルヴィニア秘境よりもさらに北にある学園王国を越え、より北上したところにある巨大帝国だ。

 そこはシルヴィニクス王国と同等の敷地面積を保有し、独自の文化が発展している都市である。またこの帝国では獣人は当然のこと魔法を使えないものは全面的に迫害されており、入国すら出来ない。

 魔法は基本的に人を選ぶ技術だ。

 それは生まれつき使用可能かが決まっており、その可否は実際に使用してみないとわからない。

 それゆえこのオナミス帝国には強靭な戦士や魔道師が大量に集まっており、武力だけで言えば確実に全世界最強クラスの実力をもっていた。

 ではなぜ、今この世界は均衡が取れているのかというと、それは学園王国とSSSランク冒険者に原因がある。

 学園王国はその名の通り多種多様な学園や学校が集っている場所だ。そこでは日々魔術や魔法、はたまた剣術や武術を教えており、基本的に住民の戦闘スペックといいうものは高い。

 またSSSランク冒険者の中の序列二位の女性がとてつもないくらい平和主義者であり、魔物との戦闘はまだしも、国同士の戦いなど容認するはずもなく事あるたびに口を挿んできているのだ。

 これがオナミス帝国の抑止力となっており、帝国はなかなか他の国々に攻め入ることができないというのが現状である。

 とはいえこのまま引き下がる帝国ではない。

 ありとあらゆる方法を調べ、どうにかして攻め入ることが出来ないかと、帝国の参謀は考えていた。

 後一押しが足りない。

 このまま戦っても勝てるとは思うが、それでは多大な犠牲を出してしまう。それではその他の国と連戦するということは叶わないだろう。

 それに帝国と言っても住民や戦士達を蔑ろにするわけではない。彼らは守るべき国の至宝であり、財産なのだ。

 よって軽はずみな行動は出来ない。

 しかしそこに思いもよらぬ言葉がかけられる。


 『勇者を召喚してみないか?』と。


 その声はどこからともなく降ってきて、参謀の脳内に響き渡る。

 それは帝国の人間を限りなく傷つけることなく他の国を打ち滅ぼす最高の手段だった。

 残念なことにこの世界には魔王はいないが、それでもその手段は最良手に思えて仕方がなかった。

 それからその参謀の動きは今までにも増して激しくなる。

 脳内に聞こえる声に従い召喚陣を作成し魔力を充填させる。さすがに人間を何人も召喚させる術式ともなればそれ相応の魔力が必要になるが、それは何日も何日も回復するたびに注ぎ込み完成させた。

 それを皇帝へ献上し、全ての準備は整う。


 そこからまもなくしてその儀式は実行された。

 淡い光共に十人ほどの少年少女たちがその場に姿を現す。

 その異世界からの来訪者に皇帝の娘である皇女は優しく微笑みながらこう告げたのだった。


「ようこそ、勇者様方。どうか我々の国をお救いいただけないでしょうか?」







 空糸拓馬はその日、いつもと同じように自分が通う高校の教室で授業を受けていた。それはなにも変わらない日常。なんの変哲もない生活。

 窓から吹き込む暖かい風はその少し長めの髪を揺らし眠気を誘い出す。みれば校庭の樹木は既に新緑と言わんばかりに青々とした葉を実らせ、緑色の光を反射している。

 すると拓馬の隣の席から不意に声がかかった。


「あれ、拓馬。またラブレターもらったの?いやーイケメンは辛いですねー」


 その拓馬の机に置いてある一通の便箋を見て、その黒髪の少女は口に手を当てながら微笑む。

 彼女の名前は白川結衣。

 この高校の中でも有数の美人で、男子の中でもかなり人気が高い。

 拓馬はそんな結衣を横目で見ながらその言葉に返答する。


「はあ………。僕はこういうのには興味がないんだけどなあ………。しかもそれをわかっててからかってるだろ、結衣?」


「ええ、もちろん。これ以上ないくらい弄りやすそうなネタが目の前に転がってるんですもの。これを使わない手はないわ」


 そう、拓馬は言ってしまえばかなりのイケメンだ。それこそ一日に何度もラブレターを貰うくらいに。最近ではメールや無料通信アプリなどでも告白を受けている。

 しかし当の拓馬にはそんなものは一切興味がなかった。

 拓馬はイケメンで運動もでき、勉強もつつがなくこなす。それは全高校生の憧れのような存在で、聞くところによればファンクラブなるものも出来ているのだとか。

 だが拓馬はそんなものまったく気にせず自由に高校生活を謳歌していた。

 いや、これを謳歌と言えるのかはわからないが、強いて言えば何不自由なく生活していた。

 趣味は一般高校生と同じで、スマートフォンのソーシャルゲームやコンシューマーゲーム等をプレイすることである。また最近ではライトノベルにはまっており、異世界という独特な世界観に今さら引き込まれつつあった。

 しかしそんなことはなかなか口に出来ることではなく、学校ではひた隠しにしているのが現状だ。


「で、いきなりどうしたんだ?一応休み時間とはいえ、結衣はいつも友達といるだろう?」


 拓馬はそう結衣に切り返す。

 結衣はその美貌を携えているだけあって友達が多い。このような休み時間はいつもその女友達と一緒にいるはずなのだが、今日はなぜか一人で机に座っていた。


「なーに?私はいつも友達と一緒にいないといけないなんてルールはないでしょ?それに私の中では拓馬も立派な友達なんだから見方を変えれば、今だって友達といることになるわよ」


 …………はあ。

 拓馬は心の中で大きくため機をつく。

 なぜかはわからないがこの白川結衣という人物は事あるごとに拓馬に引っ付いてくるのだ。そのせいで学内ではベストカップルというあらぬ噂が立てられてしまうほどに。

 拓馬はその結衣の態度に心底あきれつつ、無言で次の授業の準備をする。


「あれー?無視なの?それは傷ついちゃうなー。へー、拓馬ってそういう人だったんだー。これはいいからかいネタが手にはい……た……。ってええ!?な、なにこれ!?」


 その瞬間、結衣が普段は絶対に上げないであろう驚きの声をあげて椅子から立ち上がる。

どうした?と問いかけようとしたそのとき、拓馬もその異変に気がつく。

 教室を青白い魔方陣のようなものが埋め尽くし、教室内にいる生徒を照らし出す。それは次第に拓馬たちの視界を奪い、意識を刈り取ったのだった。




 それから幾分かの時間が流れ目を覚ますと、そこは見たこともない王城のような空間と、自分達を見つめるたくさんの大人達だった。

 そしてその中央に立つ煌びやかなドレスを着た女性は拓馬たちに向かってこう言ったのだった。


「ようこそ、勇者様方。どうかわれわれの国をお救いいただけないでしょうか?」










 その後拓馬たちは今の現状を確認した。

 自分の格好は先程まで来ていた学生服のブレザーで、どこも変わっているところはない。

 また隣を見れば同じく状況確認をしている結衣が目に入った。さらに辺りを見渡してみると、そこには十人ほどの生徒達がその場に佇んでおり、見たところ拓馬たちと同じ時間帯にあの教室にいたメンバーのようだ。

 拓馬はできるだけ冷静を装いながらその現状を考え、一つの結論をはじき出した。

 こ、これは異世界召喚なのでは?

 今言葉を口にした女性はなにやら自分達のことを勇者と呼び、拓馬たちは見知らぬ空間にいる。ライトノベルに毒された拓馬の頭からはその答えしかでてくることはなかった。

 そして奇しくもその予想は的中する。


「いきなり呼び出してしまって申しわけございません。このたびは我々の危機を貰いたく勇者様方を身勝手ながら召喚させていただきました」


 やっぱりだ!

 拓馬はその声を聞いた瞬間体が浮かび上がるほどの衝撃を受けた。

 ゲームやライトノベルで体験した世界が今目の前にある。それだけで拓馬の心はわくわくが留まらなかった。


「ね、ねえ、拓馬………。これってどういうこと………?」


 結衣が拓馬の隣にやってきてそう呟く。


「多分僕達は異世界に召喚されたみたいだ」


「ええ!?異世界ってあのアニメとか漫画にあるやつ!?」


 その結衣の言葉と同時に目の前の女性はさらに言葉を紡ぐ。


「おそらくですが、皆様はこの世界に召喚されたことによって強力な力を得ていると思います。それを今確認してみてください、ステータスと唱えればそれが可視化できるそうなので」


 その知識は魔法陣の構築を手伝った「とある人物」から言われたものだった。

 曰く、召喚されたものには何かしらの強大な力が宿っている。さらにそれは「ステータス」と唱えれば見ることが出来る用になる。また成長すれば他人の能力値も見ることが出来る用になる、と。

 皇女はその教えに従いただ単純に言葉を重ねる。そこに召喚された拓馬たちへの慈悲はなく、あるのはその勇者という力を欲する欲望のみ。

 そうして拓馬たちはその言葉に従いその文言を唱える。


「「ステータス」」


 そこに現れたのは自分の能力値であろう数値となにやら見たこともない文字だが何故か読めてしまう自分の能力の様なものが記載されていた。


「今表示されているのは勇者様方の性能や能力を表しています。魔物や戦闘を重ねることによりその数値は上昇するそうなので試してみるといいのではないかと思います」


 するとなにやら一緒に召喚されたうるさい男子達がそのステータスを見てなにやら騒いでいる。よほどいい能力でも貰ったのだろうか?

 拓馬はそう考えながら一旦自分のステータスは後にして、女性の話を聞く。


「皆様はいきなりこの世界につれてこられて不安だと思います。しかしそれに関してはわれわれで考えがございますので心配はいりません。またこれから勇者様方には訓練をしていただきます。少しでも早く実力を付けていただくためですね。ああ、それと、皆様の最初の目標を言わなければいけないのでした」

 するとその女性は目元に今まで見たことがないくらいの笑顔を浮かべてこう呟いたのだった。







「この国から遥か南にエルヴィニア秘境と呼ばれる場所があります。そこにいるエルフを全てこの国に連れてきてください」


 その皇女は拓馬たちに向かってそう告げた。

 それは後に大々的な問題を引き起こすトリガーになることは今の拓馬たちは知る由もない。





 ここまでは普通の異世界召喚となんら変わらない。

 しかし唯一つイレギュラーがあるとすれば、それは拓馬たちがいた世界で一年前、一人の二妃を巡って神々の戦いがあったこと。

 そしてその勝者である青年が時を同じくしてこの異世界に来ていたこと。

 その一点に尽きるだろう。


次回は再びハクサイドに戻ります!

次はついにダンジョン潜入です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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