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第十五話 夕食と来客

今回はハクの視点でお送りします!

では第十五話です!

「お!帰ってきたな」


「う、うん。ただいま」


 ガチャリと玄関の扉が開いた音を聞いた俺はすぐさまリビングを出て音の主の下へ向かう。するとそこには何事もなかったかのように佇む妃愛が立っていた。見た感じいじめを受けたような痕跡もないし、あの化け物に襲われた様子も感じられない。

 俺はそんな妃愛を見てホッと胸をなでおろすと、軽く手を振ってこう呟いていった。


「リビングにお菓子用意してあるから食べていいぞ。夕飯はもう少しでできるからそれまでお菓子食べながら待っててくれ」


「う、うん………。って、夕飯!?ま、まさかまたお兄ちゃんが作ってるの!?」


「ああ。さすがにこのまま何もせずにこの家に居座るのはちょっと気がひけるからな。掃除と買い出し。まあ、洗濯は流石にどうかと思うからやってないけど、家事って呼べる家事はそれなりにやっておいた」


「お、お金は!?私、お兄ちゃんにお金渡してなかったよね!?」


「あー、そ、それはだな………。所持品を売っぱらって色々と………」


「え?なんて言ってるの、お兄ちゃん………?」


「ああ!いい、いいんだ。気にしなくていい。ちゃんと正規の方法で稼いだから大丈夫!ほ、ほら、早く着替えてリビングに降りてこい。手もしっかり洗えよ」


 俺は日中に起きた出来事を極力隠すようにそう返すと、そそくさとリビングの中に入っていってしまった。

 あ、危ない………。子供とは言ってももう中学生。鋭いところを突いてくるな………。

 というのも。

 日中、俺は商店街にて今日の夕飯に使用する食材を買い込んでいた。だが、いかんせんお金がない。異世界の通過が使えるわけもないもなく、お金を稼ぐ手段もない。さて、これは本格的に困ったなと思った矢先。

 俺はとあることを思いついた。

 異世界であろうが、世界の裏側だろうが、どこに居たって価値を放つもの。要はそれを用意してしまえば換金してお金を入手することができる。そう考えたのだ。

 であればそれは一体なんなのか。

 簡単だ。貴金属や宝石の類だ。

 あれらはそこにあるだけで価値を放ってくれる優れもの。世界における存在量は決まっているものの、そこは異世界人。そんな常識には囚われない。膨大な量を一気に監禁するとその相場が崩れてしまう可能性があるが、俺が求めているのはあくまで今日の食材費だ。そんな大金を手にしたいわけじゃない。

 ゆえに俺は蔵の中を漁り、適当に転がっている菌や宝石流を取り出していった。ちなみにこれらの品はリアがどういうわけか蔵の中に入れていた代物で、どうしてこの中にあるのかは不明だ。もしかしたらいつか使う予定でいたのかもしれないが、こちらは今日の晩飯がかかっている緊急事態だ。対象は目を瞑っていただこう。

 というわけでほんの少しの貴金属を手に持っていざ換金屋へ。換金するにも当然身分証明などがいるのだが、そこは能力によって誤魔化しておいた。そんなことをするんだったら初めから能力で大金を作ってしまえばいいじゃないかと思うかもしれないが、俺は今更だが私生活ではできるだけ能力を使わないようにしている。世界のバランスを崩しかねないという理由もあるのだが、それ以上になんだかインチキしているような感覚に陥るのだ。

 つまり端的にいえば罪悪感を覚えてしまうということ。

 ゆえに今のような緊急事態なおかつ、軽度の問題でない限り能力は使いたくないのだ。

 ってなわけで無事に換金に成功した俺はすぐに近くの八百屋や精肉店に入り、食材を調達した。そして色々と調べたあと、妃愛の家に戻ってきたというわけである。

 なのだが。

 それをそのまま妃愛に語るのは何か違うなーっと思ったのだ。いや、別にやましいことはしていないのだが、それにしても換金屋で金属をお金に変えてきたというのはちょっと後味が悪い。これが始中世界のような場所ならなんら問題ないのだが、普段換金という機械に出会うことが少ないこの世界において、その行為はあまり高らかに言い張れるものではないと俺は考えていたのだ。

 ゆえに妃愛にそれを話すことはしない。その代わりと言ってはなんだが、家にあらかじめ置かれていたお菓子と同じものをさらに買い込んでおいた。三食の代わりにそれを食べることは容認できないが、間食やおやつとして食べる分には何も言わない。むしろ食べたい時に食べればいいと思っている。

 そんなこんなで、ある意味ご機嫌とりのような形でお菓子を用意した俺だったが、俺は俺でキッチンの前に立ち大きな鍋の中に突っ込まれているお玉をぐるぐると回していた。その中には比較的甘口なカレーがグツグツと煮立っており、スパイシーな香りを周囲に放っている。

 妃愛の好きな料理が何かわからなかったことと、俺の料理レベルが低かったこともあり、今日の夕食はカレーにすることにした。カレーであれば作るのも簡単だし、嫌いな人はなかなかいない。まあ、もし嫌いだった時のために他にも色々と用意してあるし、起きうるかもしれない問題への対処はできるだろう。

 と考えていると、私服に着替えた妃愛がリビングに入ってきた。妃愛の服は赤色のパーカーに自ら半ズボンといった格好で、いかにも部屋着と言える服装だった。

 とはいえ。元がアリスに似ているだけあって着こなしかたが尋常じゃない。何を着ても似合うとはまさにこのことで、今の妃愛はどれだけラフな格好をしていてもサマになっていた。


「な、なに、お兄ちゃん………?ジロジロみて………」


「え!?あ、ああ、いや、別に大したことないんだけど、その………。妃愛の部屋着姿は新鮮だなーっと………」


「………。お兄ちゃん。あんまりそういうこと言わないほうがいいよ?色々と誤解されちゃうから」


「ど、どういう意味だ、それ?」


「普通に受け取れば褒め言葉なんだろうけど、今の世の中じゃそんな言葉さえもセクハラだ、って訴えられてもおかしくないってこと。捉え方によっては女子中学生の私服をを見て欲情しているなんて思われる可能性だってある」


「お、おおぅ………。べ、別にそんな意味はなかったんだけど………」


「うん。それはわかってる。でも誰彼構わずそういうこと言うと誤解されるよ、って忠告しただけ」


「な、なんだか、普段の妃愛って大人なんだな………。少し関心してしまった」


「そうかな?自分ではあんまり自覚ないけど。………それより、お菓子、どこ?用意してあるんでしょ?」


「ああ。そこのテーブルの上に置いてある。お茶も置いてあるから足りなくなったらまた言ってくれ。でもあんまり食べすぎると夕食食べられなくなるから注意な」


「はーい」


 妃愛はそう俺に返すとスタスタと床を歩きながらテーブルの近くに置かれている椅子に腰掛けていった。そしてお菓子の袋を手にとって中に入っているそれを口に中に投げ込んでいく。その食いっぷりはなかなかに豪快で、正直言って少しだけ言葉を失ってしまった。

 ………な、なんというか、アリエスとか赤紀と生活してるからある程度女の子の生活っていうのは知ってたつもりだったけど、これはまた見たことのないタイプの女の子だな。一見サバサバしてるのけど、ダレる時は猫みたいにふにゃふにゃになって、お菓子をつまむ小動物。

 可愛くないといえば間違いなく嘘になってしまうようなその生態は、俺が知っている女の子のものではなかった。

 とはいえ、ある意味それは可愛げがあると言える。親がいなくても家族がいなくても、今は妃愛が妃愛でいるための時間なのだ。それを確立できているということは非常に喜ばしいことだ。

 いじめもあって一人暮らしという環境は決していいものではないが、それでもこうして自分を自分として成り立たせていることができているというのは、非常に大きな一歩だと俺は思った。


 そんな妃愛を眺めながら俺は調理の最終工程に入っていく。最終工程と言っても所詮はサラダを盛り付けるという程度なのだが、それでも気を遣わずにはいられない。ここでしくじってしまえば養子しているカレーにまで影響が出てしまう。どんなに味が美味しくても、見た目が損なわれていては食欲も失せるというもの。

 ゆえに俺は神経を研ぎ澄ませながらその作業に取り掛かっていった。

 そして数分後。


「よし、できたぞ!」


 そんな声とともに机の上には丁寧に盛り付けられたサラダと、いい香りが漂うカレーライスが並べられた。それは自分で言うのもなんだがそこそこいい出来で、少しだけドヤッとした表情を浮かべてしまう。

 うん、これはなかなかいいんじゃないか?アリエスの料理を見ながら多少勉強してたけど、ここまで形にできたのは初めてだ。隠し味の蜂蜜とりんごもいなり効いてるし、女の子でも十分に食べられる味付けに仕上がったと思う。

 まあ、所詮はカレーなんですけどね。でもされどカレー。カレーを制せなければ他の料理なんて夢のまた夢。今日はここまでできた自分を褒めることにしよう!

 俺は心の中で自信満々にそう呟くと、いつの間にかリビングの床で転がっていた妃愛に声をかけてテーブルの方へと招き寄せる。


「ほら、夕食できたぞ?お菓子片付けろよ」


「はーい」


 妃愛はそう言うと、そそくさとお菓子が入っていた袋を片付けだし、数秒後には用意された料理の前に腰を下ろしていった。その動作はもの凄く自然で、なんというか何年も同じ動きを続けていたのかとさえ錯覚してしまうほどだった。

 ………うーん。よくわからないけど、どういうわけか妃愛はこの環境に馴染んでるよな………。俺としてよそよそしくされるよりよっぽどマシなんだけど、それにしても自然すぎるというか、なんというか………。


「どうしたの、お兄ちゃん?早く食べないと冷めちゃうよ?」


「あ、ああ、うん。そうだな」


「?」


「え、えっと、それじゃあ、いただきます!」


「いただきます」


 俺は心の中を見透かすような妃愛の言葉に同様しながらも、手を合わせて食事の合図を口にしていく。それに続けて妃愛も同じように手を合わせて料理に手をつけていった。

 のだが。


「………甘いね、このカレー」


「ん?あ、あれ?もっと辛い方がよかったか………?」


「うーん、そういうわけじゃないけど、たまーにカレーを食べるときはもっと辛くしてたから」


 ………わあぉ。

 まさかのカレーとは違って辛口な意見。い、いや、別に妃愛も俺の作ったカレーが嫌いといっているわけではない。ただいつもはもっと辛いカレーを食べているというだけだ。

 だというのに、どうしてだろうか。

 妙な胸騒ぎがする。

 妃愛の後ろにゆらゆらと虹色の髪を持った女性の影がちらついているのは気のせいだと願いたい。もし彼女に似た舌をお持ちなのだとしたら、次に作るカレーはおそらく俺が死ぬ。そんな未来が今の妃愛を見ていたら見えてしまった。

 と、そのとき。

 何かを思い出したように妃愛が俺に向かって言葉を投げつけてきた。


「そういえばお兄ちゃんは今日何してたの?」


「ん?何って言われてもなあ………。とりあえずカレーの材料の買い出しと、散歩。それと軽い調査くらいだな」


「調査?なんの?」


「………あんまり食事時にこんな話したくないんだけど、昨日の化け物のことだよ。あいつらがまたいつ妃愛を襲ってくるかわからないだろ?だからそれに関する手がかりを探してたんだ」


 その言葉に偽りはない。

 でも、「ビルの上で出会ったあの男」に関しては口にしなかった。

 妃愛はあの化け物に襲われたとはいえ一般人だ。こんな血生臭い世界に首を突っ込む必要はない。あの男は俺と同じ空気を纏っていた。ということは誰かと戦うことを経験している。文字通り命のやり取りを経験しているのだ。

 そんな男の話を妃愛に振るわけにはいかない。ゆえに俺はその情報は意図的に話さなかったのだ。

 すると妃愛はその言葉に対して少しだけ表情を暗くすると、こんなことを呟いてくる。


「………その調査は大丈夫なの?そ、その危険なこととか、ないの………?」


「大丈夫大丈夫。妃愛は何も心配しなくていい。この家にお世話になる以上、それくらいは俺が引き受けないいけないからな」


「そ、そいうのが一番心配なんだけど………」


 と、妃愛が眉にしわを寄せた瞬間。

 ピンポーンと甲高い音が部屋になり響き、来訪者の訪れを俺たちに知らせてくる。それにより慌てて顔をあげた妃愛は椅子から立ち上がって声をあげながら玄関へと駆け出していった。


「誰だろう?こんな時間にお客さんなんて珍しい………」


 だが。

 そんな妃愛の動きを俺は腕を掴んで遮ってしまった。


「お、お兄ちゃん………?ど、どうしたの?」


「………嫌な気配がする。俺から離れないでくれ」


 これが普通の来客なら俺もこんなことは言わない。一生懸命作ったカレーをみすみす冷ますような真似は絶対にしないだろう。

 でも、この来客は普通じゃない。そう、俺の気配探知が告げていた。

 ゆえに俺は妃愛を下がらせて警戒しながら玄関の扉を開けていく。いつでも能力を発動できるように神経を研ぎ澄ませながら俺はその来客と対峙していった。


 するとそこにいたのは。




「お初にお目にかかります。こちらは鏡妃愛様のお宅で間違いないでしょうか?」




 妃愛よりも頭一つ以上小さな黒髪の少女だった。

 そしてこの出会いによって。

 俺たちは新たな戦いに巻き込まれていく。


次回は物語が動きだします!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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