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第九話 思惑が向かう先

今回は妃愛が目を覚まします!

では第九話です!

「え、えっと………。一つ聞いておきたいんだけどその『お兄ちゃん』っていうのはなんなの………?自分で言うのも何なんだけど、俺って勝手に人の家に侵入してきた不審者同然の輩じゃん………?ふ、普通『きゃあああああ!?』とか、『この変態っ!』みたいな反応するものじゃないの………?」


 俺は少女の言葉に対して頬を掻きながらそう呟いていく。シリアスな空気から発せられたとは思えないほど軽い会話になってしまうが、この話題を後々放置する方が事態が悪化することを俺は知っている。

 あのアリエスでさえ、ノックもなしに部屋に入ると枕を全力で投げつけてくるのだ。「き、着替えてる時に入ってこないでよ!」とか、「は、ハクにぃにだってみられたくないことはあるのっ!」とか。

 男同士なら別に何も思わないようなところで女性は気にしてしまうことがある。まあ、俺が女であればそういうことはないのかもしれないが、生憎と俺は男だ。リアの力を引き継いでリアの顔立ちに似てしまっていたとしても正真正銘男だ。ゆえに緊急事態だったとはいえ、中学生そこらの少女にしてみればいきなり部屋に入ってきた男の俺はどう見ても不審者に映るはずなのだ。

 だというのに。

 この金髪の少女はまるで俺を求めるかのような表情をしている。触れば折れてしまうそうなほど寂しげに、でも強い意志は滲ませているそんな顔で、俺を「お兄ちゃん」と呼んだのだ。

 とはいえ、俺が彼女からお兄ちゃんと呼ばれる理由はない。ないはずだ。だからこそ一応確認するようにそう問いかけた。一歩間違えれば不審者、変質者と思われてもおかしくない言葉をぶつけていく。

 だが、そんな俺の反応よりも彼女が俺に向けているそのまなざしの方が奇妙なのだから仕方がない。


「………?」


 そんな俺の言葉を聞いた少女は何かおかしなことでもあるのか、と言いたげな雰囲気を発するとあたりを見渡しながらパタパタと自分の体を確かめていく。

 と、次の瞬間。


「ッ!?!?」


 いきなり顔が赤くなったかと思うと、体の上に乗っていた布団を抱え込みながらそれを体に巻きつけていった。そして視線を俺から外し、怒りに満ちたような表情で俺にこう呟いてくる。


「み、見たの………?さ、触ったの………?」


「は、はい………?」


「だ、だから、勝手に私の体触ったのって聞いてるのっ!!!」


「ひ、ひぃ!?」


 その瞬間、少女の怒りが爆発した。いつぞかのアリエスと同じようにベッドにあった枕を思いっきり俺に投げつけてきて、またしても布団の中に埋まってしまう。しかしその少女の目は当初俺が予想していた年相応の女の子のものに変わっていた。

 ゆえにとりあえず安心する俺だったが………。

 って、安心できるかああああああ!?

 今の俺はただの変態なんだぞ!?変態に思われてるんだぞ!?疚しい考えを持ってる野郎なら、倒れて無防備な女の子を前にしたら理性が吹っ飛んでいてもおかしくない。そんな変態野郎に俺は間違われてるんだぞ!?

 この状況で何が安心だあああああああ!?

 もちろん、というか絶対、それこそ神に誓って言っておくが、俺はこの少女が寝ている間にやましいことは何もしていない。そっとベッドまで運んで布団をかけてあげたくらい。強いて言えば傷跡が残りそうな足の傷を癒した程度だ。あとはこの家の修復や自らの思考をまとめることに精一杯だった。

 のだが、目が覚めた少女からすればそんな状況は一切知らないわけで、話したことも見たこともない男が急にベッドの隣に座っていれば、本能的に怯えてしまうのもわからなくないだろう。

 とはいえ、その後会は解いておかないといけない。でなければ、少なくとも俺はアリエスに殺される。絶離剣で四肢を切り落とされた後、カラバリビアの鍵で地獄に落とされてもなんら不思議ではない。

 というわけで必死に弁解する。


「ちょ、ちょっと待てって!俺は何もしてない!君をベッドに運んで足の傷を癒しただけだ!失禁して汚れた下着とかには一切触れてない!断じて、やましいことはしてないんだ!」


「ッんうぅっぁんッ!?!?」


 あ。

 やってしまった。

 その確信が脳に突き刺さる。どう考えても下着の話は余計だった。このタイミングでそんな話を持ち出してしまえばどうなるかなど自明の理。どんどん俺の立場が怪しくなっていくだけである。


「だ、だから、やっぱり見たんじゃないっ!!!最低っ!」


「だあああああ!?違う、違うんだ!と、とにかく、俺は何もしてない!君の壊れた家を直してただけだ!」


「家を直してた!?そんなこと普通の人にできるはずが………!」


 と、そこで少女の動きが止まった。

 顔を真っ赤に染めて俺に対する怒りをぶつけていた少女の首がゆっくりとあたりを見渡していく。すると少女の顔はどんどん変わっていき、目が大きく見開かれていく。

 それもそうだろう。

 あおの化け物が荒らし、半壊寸前だった家が元どおりになっているのだ。割れた窓ガラスは綺麗に戻り、砕かれたドアは何もなかったかのように元に位置に戻っている。地に濡れた床にその跡はなく、鉄臭い臭いも消えている。

 この状況はおかしいことであるが、間違いなく俺が何かしたであろう証拠にるものだった。

 だが次の瞬間。

 少女の顔が赤から青に変わった。何かを思い出したような表情。それでいて体は小刻みに震え、額から大量の汗が噴き出してくる。両手は勝手に体を抱き、口の間からヒューヒュー空気が漏れ出してきた。

 まずい、と思った俺だったが、時すでに遅し。


「あぁ、ああ、うあっ!?」


「大丈夫か!?」


 俺が駆け寄った時にはもう少女は軽いパニック状態だった。

 わからなくはない。普通の人間にとってあれだけの殺気を放つ生物は恐怖以外の何ものでもない。普通に生活していれば絶対に味わうことのない死の恐怖をその身に浴びてしまったのだ。

 ある意味こうなるのは必然だろう。

 ゆえに俺は少々ためらいながらも少女の背中をさすって必死に落ち着かせようとする。水を持ってくることも考えたが、今の彼女から目を話すことは非常に危険だと考え、そうすることはなかった。

 すると、その少女は瞳に涙を浮かべながら俺の服にしがみつきこんなことを言い放ってくる。だけどそこに少女の意思はなかった。おそらく少女の思考は今でも俺を嫌悪している。誤解が解けていない以上、そう思われるのは当然だろう。

 でも、体が勝手に動き出した。まるでかつて俺に助けられたことのあるような、そのセリフを震えながら口にしていったのだ。


「こ、怖い、怖い、よ………。助けて、お、お兄ちゃん………!」


「………」


 もう何も言えなくなった。

 俺の服を掴む少女の手には万力かと思わせるような強い力が込められており、血の流れが滞っているのか、赤く染まってしまっている。でもそれでも離れられなかったのだろう。少女の体は少女の意思とは裏腹に、死の恐怖を拭えるものを求めていたのだ。

 俺はその事実を理解すると、息を吐き出しながら少女が落ち着くのをひたすら待った。その少女の腕が俺から離れたのは、時計の長針がちょうど一メモリ分動いた後。


 そして。

 それから俺と少女の時間は動き出していく。

 だが俺はそこで、少女が抱えている悲惨な人生を知ってしまうのだった。












「あら、もう帰ってきたのですか?」


「………肯首します」


「その様子ですと、首尾はよくなかったようですね」


「………肯首します」


 場所は変わって、とある場所。

 大量の本に囲まれながら、明かりがほとんどない一室。

 その中に瓜二つの容姿を持った女性と少女が顔を突き合わせていた。しかし流れている空気は重い。少女の顔には感情がなくただ俯いているだけ。対する女性は微笑みながらも、その裏に奇妙な不気味さを携えている。普通の人間ならこの場にいるだけで精神ややられてしまうといった状況がこの場に出来上がっていたのだ。

 だというのに、この二人はそれでも会話を続けていく。声が発せられるだけで本棚に入っている本たちは軋み出し、恐怖という感情が支配する空間が出来上がっていった。


「ではどのようなことがあったのか、それを説明してください。私が確認しているのは四体の皇獣の後始末にあなたが向かったことだけ。それ以降のことを話してください」


「………途中で気配が消失しました」


「というと?」


「ご存知の通り、いきている皇獣であれ、帝人が殺した皇獣であれ、その体には気配が残っています。それを辿りながら私は皇獣を追いかけていました。ですが、その気配が………」


「消えてしまった、と………」


「肯首します。一応、血溜まりのような現場は確認できたのですが、それ以外に手がかりはなく、ここに戻ることしかできませんでした」


「なるほど。ではその血溜まりは適切に処理してきたのですか?」


「肯首します。警察、その他地域住民の方々への配慮、隠蔽、ともに問題ありません。………ただ、どのようにして気配が消えたのかは」


「わからない、ということですね」


 女性は少女の言葉にそう返すと、自分の座っていた椅子から立ち上がって部屋の中に唯一存在する窓に向かって手を伸ばしていった。窓ガラスに触れたその白い手はガラスを湿らせていく。だが同時に、その手は「とある人物の名前」をガラスに書いていった。


「………『彼女』の仕業。ということは考えられませんか?」


「あり得ません。『彼女』は帝人の中でも要注意人物です。常に注意は払っています。性悪な位置まで掴むことはできていませんが、それでもある程度の状況は把握しています。『彼女』に今日、変化は見られませんでした」


「そうですか。ではなかなか奇妙な話ですね。人数に制限はないとはいえ今回の帝人は五人。私が管理している神器も全部で五つ。純然たる魔人(ホワイトデーモン)のようなケースもないとは言い切れませんが、このようなタイミングで出てくるとは考えられませんからね」


「肯首します。『あれら』はそもそも表世界に出てくることを拒む種族です。科学が芽生えたこの世界は、『あれら』にとってとても狭い世界だと私は考えています。ですからやはり別の可能性を考える方が………」


 と、次の瞬間。

 女性はいつの間にか移動していた椅子の上から本をパタリと閉じ、少女の声を切った。そして柔らかな声とともにこう呟いていく。


「いいでしょう。この件については私が引き受けます。あなたはもう寝なさい。これから「対戦」が激化していけば寝る暇さえなくなってしまいますから。今のうちに体を休めておくといいでしょう」


「………わかりました。では、今日はこれにて」


 少女はそれ以上何も突っ込まなかった。ここで首を挟めば、自分が危ういと感じていたからだ。女性が浮かべたあの微笑みは決して自分に向けられているものではない、その自覚が少女にはあったのだ。

 ゆえに少女は従順にもこの場から立ち去った。

 そしてその姿がドアの奥に消えていった後、女性は何かを喜ぶように頬を歪ませて、また新たな本を開いていく。


「………なるほど、ついに『神の意志』が動き出したのですか。確かにちょうど三百年。約束の日付ではありますが、それにしても随分と急いでいるようですね。まあ、当然と言えば当然ですが」


 女性の目は自分の発した言葉と同時に細くなっていく。長く伸びた髪が月明かりを反射し、一際輝くその瞬間、女性の黒い瞳が黒から赤へと変わった。


「………楽しみですね、此度の真話対戦は。なにせ今回は神器の質が違います。よって生み出される『白包』もレベルが桁違い。『万有』の力を持ったそれは、それこそ世界を変えてしまえるだけの力を持っているでしょう」


 そこで女性は言葉を切った。その瞬間瞳の色は元に戻り、何ごともなかったかのように女性はまた本を手に取っていく。だがその本には「他人には絶対に見せることのできない」何かが記載されていた。

 それを眺めた女性は少しだけ嬉しそうにこう呟いていく。




「さてさてこれは迷いますね。『黒』につくか、『白』につくか。まだ時間があるとはいえ、私もそろそろ判断しないといけない頃なのかもしれません」




 その言葉の真意は誰にもわからない。

 もちろんハクにだってわからないだろう。


 だがその言葉の真意が理解できてしまったその時。




 世界は本当の姿を現わすことになる。


次回はハクのこれからを描きます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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