プロローグ
今回より第二幕、第三部が始まります!
予定では百二十話ほどを想定しています!また一緒について来ていただけると幸いです!
ではプロローグです!
「か、こ、こはがっ!?」
その青年は勢いよく口から血の塊を吐き出した。そして同時に、青年の体はゆっくりと地面に倒れていく。血だまりが徐々に大きくなり、辺りに鉄臭い臭いが充満していった。
だがそんな状態になっていながらも青年の目から光は消えていない。それどころかその赤い瞳には鋭い光が宿り続けていた。
その理由は一つだけ。
まだ彼は諦めていなかったからだ。この「全て」を変えられる本気で思っていたのだ。
しかし、そう思う反面、青年は自らの死を悟ってしまう。このまま何もすることができなければ自分はあと数分でこの世から消える。その自覚が青年の頭にはちらついていた。
とはいえ、青年のやらなければいけないことはすでに終わっている。目の前に蠢く「黒い何か」には水色の鎖が大量に巻き付けられていて、その凶悪な力とともにその存在を地下に沈め始めていた。
と、そこに。
そんな鎖に拘束されている「黒い何か」からこんな声が発せられた。その声はまるで自らの勝利を確信したような声で、妙に明るい。しかし青年はその声に顔を思いっきりしかめていった。
「お前の最後の策がまさか俺を封印することだったとはな。お前ともあろう存在が無様なものだ。まあ、その傷では当然だがな。残っている力を全て使ったところで俺は倒せない。ゆえに封じることにした。まさに苦肉の策だな」
「………い、言ってろ。お、俺の、役目は、もう終わった………。あ、あとは、『次』に、託す………。そ、それがきっとお前を崩壊、へと、導く、はずだ………」
「断言しておこう。それだけは絶対にありえない。お前が勝てなかった俺が、お前以外の誰かに殺される可能性ないあるはがないだろう?その程度にはお前を評価しているつもりだ。それともなんだ?まさかお前は俺よりも強い存在を知っているとでも言うつもりか?」
その言葉に青年は押し黙った。それは傷の痛みを堪えているからなのか、ただ単純に答えたくないだけなのか。青年以外にそれを知ることのできるものはいない。
だがそれもすぐに青年の口から明らかになっていく。なぜなら隠す必要がないからだ。むしろここで言っておかなければ、死んでも死に切れない。そう青年は考えていた。
ゆえに言い放つ。
自分でさえも勝てなかったこの「黒い何か」を脅すようにはっきりと。
「し、知ってる………。お、俺は、気づいたんだ………。全ての、世界に、おいて、一体誰が最強なのか。そしてそれが誰なのか………。だから、言ってやる」
「何をだ?」
「お前は死ぬ。殺される、倒される。他でもないこの『俺』に。お前は完膚なきまでに敗北するんだ」
「………」
その言葉には妙な力があった。
だがおかしな話である。今にも死にそうな青年が、自分がこの「黒い何か」を倒すと宣言しているのだ。現実との矛盾も甚だしい。
しかし、「黒い何か」は悟った。この青年は決して嘘は言っていないと。そしてその言葉を聞いた瞬間、走馬灯のように「何か」のイメージが頭にちらついてしまう。
それは今倒れている青年と同じ色の髪と目を持った青年だった。そしてその顔は笑っている。まるで自分を圧倒的な高みから見下ろすように。
ゆえに青年の言葉をそのまま否定することはできなかった。否定してしまえばそれこそ自分が死んでしまうのではないかという錯覚すら起こしてしまう。
それほどまでにこの青年が言った言葉には色々な意味が込められてた。
「ふ、ふはは、あはは………。き、気がついた、な………?だ、だが、もう遅い………。手遅れだ。お前にあと何年、何十年、何百年あろうが関係ない。『俺』はそんな時間すら凌駕する。そ、それに、お前は、もう身動き、取れないんだからな………」
「………ちっ」
その言葉に小さく舌を鳴らしたその「黒い何か」は己がおかれている状況を改めて理解すると、心の中に湧いてきた苛立ちをそのまま声にしていく。
「お前………。全て、この時のために動いていたのか?」
「ば、馬鹿言え………。ちゃんと、勝とうと思って。戦ったさ………。ただ、それでも、お前には勝てなかった。だからこうした、それだけだ………」
「………やはりお前は侮れんな」
「お互い様だ………。ごふっ!?」
その瞬間、またしても青年の口から大きな血の塊が吐き出された。そしてそれが地面にしみこむと同時に、「黒い何か」の体もほぼ全て地面に飲み込まれてしまう。だがその最後に二人はこんな会話を交わしていた。
「三百年だ。お前の封印がどれだけ強くかろうが、俺はその月日の中で絶対に復活する。それだけの力を蓄える算段がある。その間にお前はどうする?死にゆく命を前に何ができるというのだ?」
「………だ、だから、言った、だろう。もう全て、終わっていると………。あとは『俺』がなんとか、する、はずだ………」
「くだらんな………」
「せ、精々そう思っていると、いいさ………。だがこれだけは言っておこう」
そして二人の視線が離れる刹那、青年は今までとは違って勝ち誇ったような笑みを浮かべてこう呟いた。そしてそれは全ての世界の理を明かす重要な手がかりとなっていくのだった。
「お前は『真の神妃』に負ける。これだけは決定事項だ」
その直後、大きなクレーターの中心に居座っていた「黒い何か」は水色の鎖に絡まれながら消失した。そこには気配も魔力も何もかもがなくなっており、不気味なくらい静かな空間が広がってしまう。
だがもう限界だった。
ただでさえ傷を負っている身なのだ。輪をかけて喋ろうとすれば残された寿命も一気に減ってしまうというもの。今の青年は内臓の半分がなく、また右腕が付け根から消失してしまっている。この状況でまだ意識がある方が不思議なのだ。
だが青年は全てが終わったことを確認すると、そのままくらい空を見つめて最後にこう呟いていく。
それは青年が愛している人への言葉。
もう二度と会えないとわかってしまったからこそ、最期の言葉としてそれを漏らしていく。
だがそれは奇しくも「あの少女」と同じ名前だった。
「ご、ごめん、『アリエス』………。お、俺、もうそっちには、戻れそうに、ない、や………」
その言葉が最後になった、声が響いた直後、青年の体は光へと変わり、跡形もなく消滅してしまう。
これがとある二人の戦い、その結末だ。
そしてこの物語はこの後から始まっていく。
アリエスがティカルティアという世界に行っている間、ハクが別の世界に行って一時を過ごしたお話。
それがこの物語だ。
最強へ至るハクの新たな物語が今、幕をあける。
ハクが目にした中で、最も血に濡れたお話の始まりだ。
次回はハクの視点でお送りします!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




