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神と愛の祝福、二十

今回でこの番外編は終了します!

ではどうぞ!

「すう、すう、すう………」


 ………というのが、俺とアリエスが結婚するまでの物語だ。お互いの指には銀色に光る指輪がはめられており、俺たちが真に一緒になったことを示してきた。語ってみると色々とあったなと思ってしまうが、結局今はこうしてお互いに幸せなのだから言うことはない。

 俺はそんなことを考えながら腕の中でまどろんでいるアリエスの髪を撫でていく。アリエスの屋敷の庭。その中でも特に大きな木の間に設けられたハンモックの上。そこで俺たちは体をくっつけあってゆっくりと昼寝を楽しんでいた。

 アリエスがアナといたティカルティアという世界から帰ってきて一ヶ月が経過している。今に至るまで色々とアリエスは不安定だったのだが、時間の経過が少しずつその傷を癒しているようだった。

 多分、今のアリエスには本当にたくさんの葛藤と悩みがあるのだろう。それはいくら夫である俺でも簡単には踏み込めない。俺とは違って十六年という長い時間を別の世界で生きたアリエスが抱く感情は俺などでは到底推し量れないのだ。

 だから俺はそんなアリエスの隣に居続けることしかできない。今のように一緒に寝て、一緒にご飯を食べて、一緒に冒険をする。戦うことしか能がない俺にはその程度が限界だ。

 でもアリエスはそんな俺に「それでいい」と言う。それは俺にしかできないことだから、俺だけができることだからとアリエスは俺の瞳をまっすぐ見つめながら言ってきた。

 だから。

 俺はいつも通りにアリエスと接する。俺たちが結婚したときのように、いつまでだって初々しく、この長い時間の中で生きていく。そう俺は決めていた。

 と、そこに。


「………う、うぅん?」


「悪い、起こしちゃったか?」


「ううん、大丈夫。急に目が覚めちゃっただけだから。それに、今はハクにぃのそばにいれるだけで満足だから」


 眠りから覚めたアリエスは俺にそう呟くと、背中を俺の胸に押し当てるように体を預けると、何かを思い出すような目を携えてこんなことを口にしていった。


「………今ね、夢の中で私とハクにぃが結婚した時の景色がずっと流れてたの。もう随分前のことになるのに、あの時のことだけは今も鮮明に覚えてる」


「俺も今、アリエスと同じこと考えてた。本当に色々あったけど、今こうしてアリエスと一緒に居られるっていうのはあの時のことがあったからなんだって、そう思える」


「うん、そうだね」


 アリエスはそう呟くと、それ以上は何も言わずに太陽が煌めいている空に視線を流していった。その水色の瞳は空の青を写し取ってさらに美しく輝いていく。

 だけど、こう見るとアリエスはすごく変わったなと思わされてしまう。俺が初めて出会ったアリエスはまだあどけなさを残した小さな女の子だった。俺が守ってあげなきゃいけない、いつだって追いかけてきてくれる子のこの期待に応えないといけない。現実世界からきたばかりの高校三年生が何をいきっているのだと思われるかもしれないが、あの頃のアリエスにはまだ俺にそう思わせてしまうだけの何かがあった。

 恋愛感情ではなく、もはや親や兄妹が抱くような愛情。見ただけで守りたくなってしまうようなそんな気持ち。

 でも、今のアリエスは………。


「………変わったよな」


「え?何か言った、ハクにぃ?」


「へ?あ、ああ、悪い。心の声が漏れてた。気にしないでくれ」


「むう………。そういうこと言われると気になっちゃうんだけど!」


「あ、あはは、そ、そうだよな………。え、えっとなんていうか、アリエスは本当に変わったなって、今思っちゃったんだ」


「変わった?え、えっと、そりゃ私も大きくなるし、ハクにぃと出会ったころの私はまだ十一歳だったんだからそれなりに変わってると思うけど………」


「いや、そう言う意味じゃなくて。俺が初めて出会ったアリエスはまだ俺の中で『女の子』っていう印象が強かったんだ。それこそ俺が守ってあげなきゃっていつも思ってた。でも今のアリエスは俺の隣に立ってくれる。いつだってそばにいてくれる。今までだって大切な女の子だと思ってきたけど、今はずっとずっと一緒に生きていきたいって思える、そんな女性に変わったなって思ったんだ。まあ、俺の心の変化なんだけど」

 俺がそう言うとアリエスは優しく微笑みながらそっと俺の体に腕を回してきた。それは多分、アリエスも俺と同じことを考えていた、と表しているのだろう。

 結局のところ、俺たちはある意味似た者同士だった。自分の気持ちをなかなか伝えることができなくて、いつも相手を探ってばかりで、肝心な時に踏み出せない臆病者。

 でも今は前へ踏み出す勇気を得た。だから俺たちは今もこうして一緒にいる。そして俺たちはまたこの世界で生きていくのだ。

 二人でどこまでも一緒に。


「………あのね、ハクにぃ」


「うん?」


 するとここで突然アリエスが消えそうなくらい小さな声で声を上げてきた。そしてアリエスは何かに戸惑っているような表情を俺に向けながらこんなことを呟いてくる。


「………私まだ、アナのことが忘れられないの。あの世界でアナとお別れしてきたはずなのに、まだアナの顔が頭に浮かんじゃう。私とアナは姉妹だったのか、母親だったのか、その答えがまだ出てないの」


「………」


「だから、もう少しだけ待ってほしい。私にはまだ母親ってどんなものなのか、掴みきれてないから………。赤ちゃんの体を抱いてあげる勇気がまだ持てないの」


「………いいよ、焦らなくて。それはアリエスが決めればいい。アリエスがその気になったら俺はいつだって協力するし、待てと言われればいつだって待つ。だから今はゆっくり自分の気持ちを整えればいい。俺はいつだってそばにいるから」


「うん。ありがとう、ハクにぃ」


 その言葉を最後に、アリエスはまたまどろみの中に落ちていった。そして俺もゆっくりと目を閉じていく。

 もしかしたら世の中の夫婦は結婚したらすぐに子供をもうけたがるのかもしれない。それが愛の結晶だと言うのかもしれない。

 でも俺たちは。


 ゆっくり、ゆっくり歩いていけばいい。

 多分それが俺とアリエスに一番合ってると思うから。


 ゆえに。

 俺とアリエスの間に子供ができるのはまだ先の話だ。

 それこそ全ての戦いが終わり、この世界に完全なる安寧が訪れた先にその景色は待っている。


 だからそれまでこの手の話はお預けだ。

 この時をもってこの真話の一ページは終わりを迎える。




 そして、次なる冒険が。




 始まるのだ。


次回は軽いあとがきを載せます!

実際のところハクとアリエスは登場回数が多いわりにあまり外見的な描写が少なかったので、二人の成長を振り返りながら具体的な設定を明らかにします!(3サイズとかもあるよ)

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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