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神と愛の祝福、十九

今回はハクとアリエスの恋の行方が決着します!

ではどうぞ!

 結局、また逃げた。

 一体あの戦いから何日寝ていたのかわからないが、自分の部屋で目を覚ました私は、ハクにぃたちに気づかれないようにしながら家を出た。

 理由?そんなの決まっている。

 怖いからだ、ハクにぃの前に立つことが。

 怖くて怖くてたまらない。自分がしでかした過ちが、自分が抱いてしまった感情が。決してハクにぃに向けてはいけないものだったと理解しているからこそ怖い。

 私は何をした?何をしてしまった?

 存在を喰われ、激痛に襲われ、意識すら奪われた。

 でも、それでも、本当にハクにぃを愛しているなら、私はあそこで負けるべきではなかった。心だけは負けるべきではなかったのだ。


 だが、結局私は、あの使徒に負けた。


 確かに使徒と私は似ていたのだろう。色々と要因はあるけど、意識が溶け合ってしまうくらいには共通点があった。

 だから私はあの使徒に喰われ、存在と力を奪われたのだ。

 でも彼女が全て悪かったのか、と聞かれると素直に頷けない部分がある。あの使徒をこんな運命に進ませてしまったのはやはり星神の存在やこの世界そのものだ。それにもし私がもっと強ければ、私から彼女を説得することができたかもしれない。心が繋がってしまっていたがゆえに、私にはそれが可能だったはずなのだ。

 だけどできなかった。最後にはハクにぃにあの使徒を殺させてしまったのだ。


 加えて、こんな状態で、こんなどうしようもない私をまたハクにぃは助けてくれた。

 いつもそうだ。ハクにぃは私が困っている時に、助けてほしい時に駆けつけてくれる。そして何事もなかったかのように手を差し伸べてくれる。

 そんな優しさに私は恋をした。だから今度は私がハクにぃを支えてあげられるように強くならないといけない、そう思っていた。

 だというのに、また私はハクにぃに助けられてしまった。迷惑をかけてしまったのだ。

 強くなったはずなのだ。初めて私がハクにぃと出会った時よりも私は強くなっている。でもダメだった。また私はどこかで間違えたのだ。

 ………いや、こう言うと私に力を与えてくれている魔術やカラバリビアの鍵たちに失礼かもしれない。結局のところ、どんな力を得てもその力を振るう私が情けなかったのだ。


 ゆえに今、私はどんな顔でハクにぃに会えばいいのかまったくわからなかったのだ。

 だから逃げた。

 ハクにぃのことが誰よりも大好きなのに焦って縁談なんか開いて、その縁談にハクにぃがこなかったら一人でやきもちやいて。そして最後は、大好きなハクにぃに剣を向けてしまった。

 それは意識を奪われていたからという言い訳で流されていいものではない。あの一瞬、私は思ってしまったのだ。こんなに私が苦しんでいるのはハクにぃのせいだと。そんなこと絶対にありもしないのに、絶対にあってはいけないことのなのに。

 私は………。


「………馬鹿だ。本当に馬鹿だよね、私。わからない、わからないけど、私は自分の欲求が満たされないことへの怒りをハクにぃにぶつけちゃった。こんなこと許されるはずない。これ以上私がハクにぃのそばにいても迷惑かけるだけ………」


 せっかくユノアに背中を押してもらったのに、それすら私は棒に振った。キラやシルだって私を応援してくれていたのに、それも全て台無しにしてしまった。

 そんな私が何もかもなかったことにして、私は何も悪くないからなんて言い張って、ハクにぃの隣に立つということは絶対にできない。

 どんなに大好きでも、愛していても。いや、愛しているからこそ自分がそばにいることで愛している人が不幸になるのだけは認められない。


 だから。


 もう終わりにしようと私は思った。


 今、私がいるのはこの世界で唯一気配が感じ取れなくなってしまう空間だ。青い空の下、ふわふわした草花が生い茂る草原。心地よい風が吹き抜け、私の髪を優しく揺らしていく。

 そこはかつて、ハクにぃが持っていた白い剣が三年間突き刺さっていた場所だ。見晴らしのいいこの場所の中心にその剣は刺さっていた。その刺し跡は今も消えることなく残っている。

 そんな場所に、私は決まってやってくる時がある。

 辛いことがあった時、悲しくなる時。

 そして泣きたくなる時。

 いずれも暗い感情ばかりひっさげている。でも、この場所は、この場所だけがその感情を優しく受け止めてくれる場所なのだと私は思っていた。何を言っても、風が流してくれる。涙を流しても、地面が受け止めてくれる。

 そんな場所だから私は今日、ここにやってきた。

 ここから家に戻れば私はハクにぃと二度と会うことはないだろう。あってしまえばまた迷惑をかけてしまう。だからここで終わり。この場所にいる間だけ、自分の気持ちを言葉にする。

 そして私の恋は、初恋は終わりを迎えるのだ。

 それがきっと誰も悲しまない結末なのだから。

 そう考えた瞬間、私は急に走ってきた胸の痛みを堪えるように蹲ると、ボロボロと瞳から涙を流して心にためていた思いを口に出していく。これが最後、これで最後だから、と自分に言い聞かせながら地面に向かって心の声を漏らしていった。


「………うぅぅ、あぁぁ。い、嫌だよ、離れたく、ない、よぉ!ハクにぃの、ことが、大好き、大好きなの………!ずっと、ずっと、一緒に、いたい!一緒に、笑って、一緒に、暮らして、一緒に歳をとりたい。そんな人生を歩きたい!………それくらい大好きなの、ハクにぃのことが。大好きなのに………!ううう、ああぁあぁ、うわあああああああああああああああああああ!!!」


 泣いた。

 泣いて、泣いて、泣き続けた。

 涙は頬を伝って服を濡らし、喉の奥からでる叫び声は嗚咽へと変化していく。声にならない言葉をひたすら叫び散らした私は枯れることのない涙を流しながら、その場に座り込んでしまった。

 暖かい日差しが体に当たってくるが、どういうわけか今はそれがどうしようもなく寒く感じられた。この場所にいる間だけ、私はハクにぃのことを考えていられる。だけどここから出たらもう終わり、そう考えると、いやそれがわかっているからこそ、この場所にいる時間がどうしようもなく惜しくなっていたのだ。

 でも、いつまでもここにいるわけにはいかない。勝手に家を抜け出して失踪してしまった私をきっと今頃たくさんの人が探してる。

 そう考えた私はできるだけ心を切り替えながら涙を拭うと、力の入らない足を使って立ち上がっていった。そしては国ついた涙とぬ地を軽く払うと大きく息を吸って吐き出していく。

 すーっと体の中に入ってきた心地よい空気が体の温度を奪って外に逃げていく。そしてその空気が体の外に出切った瞬間、私は全ての諦めをつけて体をルモス村がある方向に傾けていった。

 のだが。


「え………。う、うそ………。な、なんで、ここに………」


 いつの間にかそこに立っていたその人を見た私は固まってしまう。

 金色の髪に、赤い瞳。その瞳に入れた人を優しく包み込んでくれるような柔らかな笑顔。それを持っている私にとってこの世で一番大切な人がそこに立っていた。

 そしてその人は私に向かってこう言ってくる。

 その言葉に諦めをつけたはずの私の心はまた揺らいでしまう。




「………やっと見つけた。あんまり心配かけさせるなよ。俺だって一番大切な人と離れたくないんだから」




 それを聞いた瞬間、私の目には再び大粒の涙が浮かんでいくのだった。













 全部聞いていた。

 アリエスが俺に対する思いを地面にぶつけていたその全てを。

 そして後悔した。俺がアリエスの答えを渋っていたがゆえに、アリエスをここまで追い詰めてしまっていたという事実を。

 だけどもういいだろう。全部、全部準備は整った。ここで思いを伝えなければ男じゃない。愛する人を泣かせて、悲しませて、傷つけて、これ以上失態を晒すわけにはいかない。

 どこですれ違ってこうなってしまったのか、それは俺にもわからない。でもまだ俺たちはやり直せる。俺がここで一歩踏み出すだけで全てを元に戻すことができるのだ。

 いや、さらに先へ。今までよりももっと幸せな人生をアリエスに歩ませてあげられる、そのはずだ。

 だから俺は前に踏み出した。そしてこう呟く。


「………やっと見つけた。あんまり心配かけさせるなよ。俺だって一番大切な人と離れたくないんだから」


 その言葉を聞いていたアリエスは目を見開きながら後ずさってしまう。まるで俺を避けているようなその動作は、俺の心を少しだけえぐってしまうが、アリエスは決して俺を嫌っているわけでないのだと俺は理解していた。

 随分と烏滸がましい考え方だが、ここまできてひよっていては何も始まらない。俺が今すべきなのは自分の気持ちを真っ直ぐ伝えることなのだ。

 そう結論づけた俺はアリエスの下へゆっくり近づいていく、するとアリエスは声を震わせながら大きな声でこう吐き出してきた。


「こ、こないで!お、お願いだから近づかないでっ!わ、私には、もう、ハクにぃのそばにいる資格なんて、ないの!だ、だから、もう私の決意を、壊さないで………」


「………資格なんて必要ないよ。俺はただアリエスにこれから先もずっと隣にいて欲しいだけ。何があっても、何が起きても一緒に生きていきたい。心のそこからそう思ってるんだ」


「な、なんで、そんなこと………。わ、私はハクにぃにひどいことしたんだよ!?縁談なんか勝手に開いて、勝手に焦って、最後はハクにぃを殺そうとした!使徒に操られてたからなんてのは言い訳なの!わ、私はこの手でハクにぃに剣を………」


「もういいんだ。あんまり自分を責めるな」


 俺はそういうと一気にアリエスとの距離を詰めてその体を抱きしめた。いきなり抱きつかれたアリエスは腕と足を動かして俺から逃げようとするが、それも無理だと判断するとすっと力を抜いていく。だがその代わりに青い瞳から大粒の涙が流れ落ちていった。


「な、なんで、どうして、ハクにぃは、こんな私を………」


「アリエスだからいいんだ。それにそんなこと言ったら俺のほうこそアリエスを傷つけた。いつまで経ってもアリエスに気持ちに答えなくて、隙があったら色々な事件に首突っ込んで、アリエスのことあまり見てこなかった。それがアリエスの負担になっていたはずなのに、俺は何もしてこなかったんだ。だから責められるならアリエスより俺なんだよ」


「うううう、っぁぁああ………!で、でも、私がハクにぃのそばにいたら、またハクにぃに、迷惑、かけちゃう………!そ、それは絶対に、嫌なの!」


「いいんだよ、迷惑なんて。多分夫婦っていうのはお互いに迷惑を掛け合って、それでも支え合って生きていくものだから。俺はアリエスのために生きていたい。どんな迷惑だって受け止めて、また笑って前に進みたいんだ」


 俺はそう呟くと優しくアリエスの体を離して、蔵の中から「とあるもの」を取り出していく。それは手のひらサイズの小さな箱で、高級感のある輝きを放っていた。

 そしてそれを俺はアリエスの前で開けていく。


「実はちょっと前からリアに頼んで作ってもらってたんだ。婚約指輪っていうのはダイヤモンドをはめるのが一般的だって聞いたから、リアに一番綺麗なダイヤを見繕ってもらった。んで、何度も何度も考えて悩みながらこれを作り上げた」


「こ、これって、ま、まさか………!」


「うん。そのまさか」


 俺はそのまま箱から取り出した指輪をアリエスの左手の薬指にはめていく。ぴったりとはまったその指輪は太陽の光を反射しながら綺麗に輝いていた。

 そして俺はそのまま一世一代、最初で最後の勝負に打って出る。自分がこの世界にやってきて、ずっとずっと考えて抱いてきた感情。その全てを込めて、アリエスに気持ちを伝えていった。




「俺はアリエスのことが大好きだ。この世で一番愛してる。だからこんなどうしようもない俺だけど、一緒になってください」




 その瞬間、アリエスの顔が変わった。とても嬉しそうで、でも涙は流れていて、すごく複雑そうなそんな表情。でも、俺は待ち続けた。アリエスが俺の気持ちに答えてくれるのを。

 するとアリエスは自分の手で涙で濡れた服を握りしめながらこんなことを呟いてくる。


「………わ、私は、我儘、だよ?は、ハクにぃ、が他の女の人と喋ってたら、多分それだけで、嫉妬しちゃう。すごい重い女なの。そ、それでもいいの?」


「ああ。だったら俺はアリエス以上に重くなるだけだ。アリエスに見放されないように」


「………私は、馬鹿で、いつだってハクにぃに迷惑かけちゃう。もしかしたら今回みたいに襲いかかっちゃうことだって、あるかも、しれないんだよ………?そ、それでも私を、愛してくれるの………?」


「ああ。何が起きても俺はずっとアリエスを愛してる。そしていつだって助ける。俺はアリエスのためだけに生きるから。これからもずっと」


 と、次の瞬間。

 アリエスの足が地面を離れた。

 そして今度はアリエスが俺に抱きついてくる。涙が空中に舞い、アリエスの柔らかな体と体温が俺に伝わってきた。

 そして。

 そして。

 そして。

 ついに俺たちは………。




「私も、私もハクにぃのことが大好きっ!世界で一番愛してるっ!だから、だから、だからっ!!!」


「うん。だから………」




 そして最後の言葉が重なる。

 俺は一生、この瞬間を忘れないだろう。

 俺とアリエスが。


 夫婦になったこの瞬間を。







『結婚しよう』






 そして俺たちの唇は重なる。

 これが後に「真の真話」に至る神妃と神姫の恋。その行方。

 この物語はこの世界にある全ての人と神と愛が祝福していた。


 そして真話はまた、続いていく………。


実は後一話だけ続くんです(笑)

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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